彼の愛に堕ちて溺れて

螢日ユタ

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episode1

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軋むベッドの上、下着だけを身に纏った私と上半身裸になった彼は熱い抱擁を交わす。


何度となく繰り返される、彼からの強引なキスと執拗な愛撫。


私の口から時折漏れる吐息混じりの嬌声は、彼の行為を助長させる。


「……ッあ、……もう、これ以上は、……ダメッ」

「“ダメ”じゃなくて、“イイ”だろ?」

「――ッんん」


彼のその行為から逃れたくて微かに抵抗を試みるけれど、拒みきれない私はただただ流されるだけ。


「ダメ」と口にしながらも身体は反応を見せてしまい、彼は私を離そうとしない。


それどころか、私の身体を反転させて強引に後ろを向かせると今度は後ろから抱き締めてきて、耳朶や首筋に舌を這わせながら背中へと下がっていき、ブラジャーのホックを外してスルリと私の身体から外すとそれをベッドの上に放り投げ、彼の骨張った大きい手が露わになった私の胸を覆い、


「……っあ、……やんっ」


優しく揉みしだきながら、時折胸の頂きを指で刺激してくる。


「駄目とか言ってる割に、身体は素直だよな?」

「――っ、そんなこと、……言ったって……ッ」

「いいよ、その嘘つきな口は塞いどく。今からは身体に聞くからさ――」

「――ッんん」


再び前を向かされ、ベッドに押し倒された私の顎をクイッと持ち上げながら口角を上げて意地の悪い笑みを浮かべた彼は再び私の唇を塞ぐと抵抗出来ないよう私の片腕を押さえつけながら、息つく隙も与えられないくらいの激しい口づけをひたすら繰り返してきた。



こんな行為をしているけれど、


私たちは決して、


恋人同士では無い。


一言で言ってしまえば付き合っていない。


あくまでも身体だけの関係。


――要は、『セフレ』だ。


出逢いは二ヶ月前。


私は誕生日の当日に三年付き合っていた彼氏に振られ、一人ヤケ酒を飲む為にバーを訪れた。


そこでカクテルを数杯飲んでいると、常連客なのか、マスターと軽口を交わして「いつもの」と注文をしながら私の隣の椅子に座ったのが彼。


「一人?」


そう声を掛けてきて、初めは鬱陶しいからシカトしていたけれど、彼はめげずに話し掛けて来る。


「見かけない顔だよね、ここは初めて?」とか「一人なら俺と飲まない?」なんて矢継ぎ早に聞いてくる彼に、


「あのさ、鬱陶しいから話し掛けないでくれない? ナンパとか、迷惑だから」


キッと冷たく鋭い視線を向けながら素っ気ない態度で放っておいて欲しいと告げたのに、


「ごめんごめん――けどさ、君、すごく寂しそうな瞳をしてるから、気になっちゃって。放っておけなかったんだよね。俺で良ければ話聞くよ?」


優しい瞳で私を見つめながらそんな風に言ってくるもんだから、私はついつい彼に気を許してしまった。


だって、


本当は凄く、淋しかったから。


そこから、私たちは互いの自己紹介をした。


「俺は城戸きど 夏輝なつき。君は?」

「私は、舘野たての 未來みく


互いの名前を知り、夏輝が新たに頼んでくれたカクテルを手に乾杯をして、二人で色々な話をしながら時間を過ごしていく。


お酒は強い方で、普段なら多少強いお酒でも無理な飲み方をしても酔い潰れるまではいかないけど、この日はいつもと違ってた。


「未來ちゃん?」

「ん~?」

「大丈夫? 結構酔ってるよね?」

「そんなことないよぉ~?」

「いや、絶対酔ってるって。そろそろ止めた方がいいよ、マスター未來ちゃんに水持って来て」


夏輝は私からグラスを取り上げると、マスターに水を持って来るよう言う。


「酔ってないってばぁ。まだまだ飲めるもん! 水なんて飲まない」


私的には酔ってるつもりは無くて、まだまだ飲めるのに水なんて飲みたくないと駄々をこねて夏輝を困らせる。


「十分酔ってるよ。それじゃあ俺ももう終わりにするから、店出よっか」


私がまだ飲むと言って聞かないからか、夏輝は自分も飲むのを止めると、マスターに二人分の会計を支払い、手を引かれた私は彼と共に店の外へ出た。


「涼しい~!」


身体が火照っていたこともあって夜風が凄く気持ち良くて風を感じながら伸びをする。


「未來ちゃん、ふらついてるよ? っていうか、そんなんで帰れるの?」

「だからぁ、大丈夫だって言ってるでしょ? ねぇねぇ、時間あるならもう一軒行こうよぉ~」


夜風で少しだけクールダウン出来た私はまだまだ大丈夫と笑って見せて、もう一軒行こうと夏輝を誘う。


思い返して冷静になってみると我ながら大胆なことをしていたなと思う。


そんな私の誘いに夏輝は、


「――それなら、俺の家で飲み直さない? ここから10分も掛からない距離だからさ」


お店じゃなくて、自分の家で飲み直そうと誘ってきたのだ。


これには、流石の私も警戒する。


「……い、家は、ちょっとなぁ……」


だって、そうでしょ?


つい数時間前に出逢ったばかりの男の家だよ?


流石に安全なんて、言い切れないでしょ?


そんな判断が出来る私は、まだまだ酔っていないと断言出来た。


「そっか、やっぱり流石に家は無理か。ってか、未來ちゃん酔ってる割には正常な判断が出来るんだね?」

「だからぁ、私はまだまだ大丈夫って言ったでしょ? お店でなら、飲み直してもいいよ?」

「うん、それじゃあ――二人きりになれるところに行こっか」

「二人きり? そ、それって――」


個室のあるお店ってことなのか、それともホテルとかそういう意味なのかを問い掛けようとした私の言葉は遮られた。


「――ッんん、……」


夏輝の唇によって。


「……っ、な、に……するの」

「ごめんね、我慢出来なかった。未來ちゃんが可愛過ぎて」

「なっ……」

「俺さ、店で未來ちゃん見掛けた瞬間、この子可愛いなぁって思ったんだよね」

「…………」

「未來ちゃんみたいな可愛い子を振るなんて、君の元カレって馬鹿だよな」

「そ、……そんなこと……」

「未來ちゃん、今日が誕生日なのに一人は淋しいって言ってたでしょ? まあ、もうすぐ今日は終わっちゃうけどさ……一晩、俺が傍に居てあげたいなって思ってるんだ。勿論、未來ちゃんが嫌がることはしないよ?」


ニコニコと優しげな笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく夏輝。


『嫌がることはしない』なんて、今さっき同意も無しにいきなりキスをして来た人の言うことを信じるのは難しい気がする。


けどまあ、キスに関しては驚きはしたけど、不思議と嫌では無かったってのが正直な感想だった。


「……未來ちゃん、駄目かな?」

「…………」


普通なら、こんな見え透いた言葉には引っ掛からない。


でも、どうしてだろう。


夏輝の言葉には、自然と頷いてしまっていた。


「…………一晩……一緒に、居て」


きっと、誕生日に一人っていうシチュエーションが淋しかったから、誰かに傍にいて欲しかったのかもしれない。


もしかしたら、夏輝以外の人に同じことを言われても頷いていたのかもしれない。


私の返答を聞いた夏輝は優しく手を取ると『それじゃあ行こっか』と言って少し歩いた先にあった建物へ導かれるように入って行く。


そこは言わなくても分かるかも知れないけど、二人きりになれる密室の空間。


夏輝は慣れた手つきでタッチパネルを操作して部屋を選び、エレベーターで指定されている部屋へ向かう。


そして、


部屋へ入り、ドアを閉めた瞬間――


「――未來」

「……っ、あ……」


ドアが閉まり、私の身体はそのドアへと押し付けられながら強引に口を塞がれる。


「……っん、……はぁ、……んんッ」


何度も角度を変えながら唇を塞がれ、夏輝の指が、私の頬や耳朶、首筋を這うように移動していく。


その行為が擽ったくて、身体がゾクリと震えだす。


強引なキスのせいか、それともお酒のせいなのか、頭の中がフワフワする。


こんな場所で、こんなこと。


こういうところのドアだからって、特別厚いわけでもないだろうし、もし今ドアの外に人が居たら声が聞こえてしまうかもしれない。


「……なつ、き……ッ、ここじゃ、……やだ……」

「――そういう顔、男の前でするのって良くないよ? わかった、ベッドに行こう」


私の訴えを聞いてくれた夏輝によって手を引かれた私はベッドの前に着くや否やすぐに押し倒され、私の上に夏輝が跨がって、再び唇を塞いできた。
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