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堕ちたみるく、凶刃に伏すあくまちゃん
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――シュガーリウム城、中庭。
あくまたち、てんしちゃん、なゆ姫、ましゅ姫とみにあくま、みにてんしたちとなゆ国の民が用意された甘味屋台で思い思いに甘味を楽しんでいた。
その真ん中には甘くきらびやかなみるくのための特設ステージ。左右の灯蜜噴水がステージを輝かせ、ハート型の照明床が見るものを魅了するように揺れ動く。
「ステージの調整はばっちり! 万が一にも不備は起こりません! 興奮しすぎてここ数日眠れてませんが、全然眠くなんてありませんよー!」
「今宵の主演は、ミルク・キャラメリゼ・スィーティア! このステージは誰の胸にも永遠に刻まれるに違いない! 彼女という奇跡のアイドルによって、私の設計は完成を迎える! 皆のもの、その瞬間には拍手を――惜しみなくだ!!」
「みるくちゃんがステージ後方から現れた瞬間、甘味花火を盛大に打ち上げる。それで全員のボルテージが最高潮に達するだろう」
「く~っ、待ちきれないな! 俺、涙ちょちょぎれっかもしんねえからハンカチ大量に用意しとくわ!」
「……わ、私は狙撃銃型カメラで写真をたくさん撮ります。この日のために、買ってきたんです」
「僕は……みるくちゃんの衣装を作りました。あのステージで着てもらえたらなと思って……」
「ハッハッハー! 俺の黒蜜血が煮えたぎってるぜ!」
「皆さんが頑張って作り上げたのです。成功は間違いないでしょう。ふふ、楽しみですね」
「もち……とっても楽しみなの。みるくちゃんに会うの久しぶりだから、少し緊張するの」
「あっ、そろそろ来るようですわ。私たちでみるくちゃんを先にお迎えしましょう。てんしちゃんはあくまちゃんを呼んできてくれますか?」
みるくの到着を感じ取ったなゆ姫が民に待つように告げ、あくまたち、ましゅ姫とシュガーリウム城の広間に向かう。てんしちゃんはうなずいてあくまちゃんがオタ芸の訓練をしているスイートデビルノクティス本部の訓練場へとやわらかに翼を羽ばたかせた。
◆◇◆
「あくまちゃん、そろそろみるくちゃんが到着するようですよ。共に行きましょう」
一心不乱に黒蜜サイリウムを振り、躍り続けるあくまちゃんはてんしちゃんの声で動きを止めた。
「ついに……か。俺様の躍りは仕上がってるぜ。これでみるくの背中を押してやれるってもんだ」
「ふふ、サプライズも用意されているようですから期待していてくださいね」
「お、おう……」
あくまちゃんはみるくに会える喜びで黒蜜色の角をぷるぷると揺らしながら、てんしちゃんと飛び立った。
◆◇◆
甘陽の光を溶かしたようなミルクティー色の髪がふわりと揺れ、毛先のキャラメルグラデーションがきらりと跳ねる。
その瞳は、キャラメルゴールドとミルクの二層。
衣装は“スィーティア・ブロッサムドレス”。
幾重にも重なったフリルはホイップクリームのようで、動くたびに光を受けてキラキラと舞い上がる。胸元にはキャラメルハートのブローチ。
「あはっ、みんな久しぶり! わたし、ずっと会いたかったんだよ!」
ミルク・キャラメリゼ・スィーティアのその愛らしい姿と、全てを甘く溶かすような声になゆ姫、ましゅ姫、あくまたちは思わず息を飲んだ。一人一人、握手を交わしていく。
「お久しぶりですわ。みるくちゃん、さっそく準備を――」
「あ、なゆお姉ちゃん。今回のスタートは全部私に任せてほしいの! みんながびっくりするような演出、考えてきたからさ! 覚悟してね?」
「……みるくちゃんがそうおっしゃるのでしたら、構いませんわ! みるくちゃんがやりたいようにやるのが、一番ですもの」
そこに、あくまちゃんとてんしちゃんが合流する。
「あ、あくまちゃん! てんしちゃん!」
みるくは2人とも握手をし、あくまちゃんをまっすぐに見つめた。甘さを極めた声が、あくまちゃんの耳をくすぐる。
「ね、あくまちゃん。伝えたい大事なことがあるの。わたしが呼んだら、ステージに来てくれない?」
いつもと同じ、何回もみてきたみるくの笑顔だったが、あくまちゃんは胸に漠然としたざわめきを覚えた。
「構わねえが……お前、なんかあったんじゃねえのか?」
「んー? ないよ、なんにも! それじゃあまた次はステージで、ね?」
一方的に告げ、去っていくみるくの後ろ姿を見ながらあくまちゃんは、大きくなるざわめきを抑えるように胸に手をやった。
◆◇◆
それから程なくして、ステージにたったみるくは皆の視線の中心で、マイクステッキを片手に茶目っ気たっぷりのウィンクをしてくるりとスカートを揺らしながら回った。
「みんなーっ! 準備はいーい? 甘さ控えめなんてダメダメ! 全力でとろけるみたいに甘くいっくよ――っ!」
みるくは少し前屈みになり、両手でマイクステッキを抱え込むようにして前へと視線を向けた。
灯蜜噴水がそのシルエットを優しく照らし、華奢な肩から胸元へと流れるラインが際立つ。
「あくまちゃん、こっちきてーっ!」
呼ばれたあくまちゃんは言われるがままにステージに上がる。向かい合った二人を、皆が真剣に見守っていた。
「……わたし、ね。この国のぜーんぶを壊したくってしかたがないの」
「……は?」
豹変したみるくの闇に溶けるような声が聞く者の背筋を、冷たい指先でなぞる。みるくにはあり得ない声に、ざわめきが広がり、戸惑い、おそれ、そして信じられないという視線が集まる。
あくまちゃんは手を伸ばすが、踊るように距離を取ったみるくに届くことはなかった。
「――なに、言ってんだよ。みるく……!?」
皮肉めいた表情でみるくは混乱するあくまちゃんにステッキを突きつける。禍々しく、不快な感覚の魔力が肌を撫でる。
「知った風な口を利かないで! そういうのほんとむかむかする! 大勢を苦しめてきたその手で、その顔で誰かに笑いかける資格なんてあくまちゃんたちにはないんだよ!!
わたしの歌、荒く――鋭く!!!」
風がみるくの声に呼応するかのように吹き荒れ、刃となって民に襲い掛かる。客席へと目線を走らせたあくまちゃんは仲間たちが動くと信じていたが、ローブを纏った集団が仲間たちの前に立ちはだかったかのを見て、翼に甘魔力を込めた。
「クソ…ッ! 黒蜜翼刃!」
あくまちゃんの巨大化した翼が、民に迫る風刃を弾く。だが、その前には手に鋭い魔力を帯びたマイクステッキを持ち、身を屈めたみるくがいた。
にやりと、唇を吊り上げて悪辣な笑みを浮かべるみるくとあくまちゃんの目がすれ違う。
「あは、偽善者ぶって民を守ればわたしの心を揺さぶれるとか思っちゃった? そんな汚い考えに惑わされたりなんてしないから!」
「……みる……く……」
マイクステッキが槍のように、あくまちゃんの
腹部を貫いた。黒蜜血が傷口から一気に溢れ、その身体から力が抜け落ちていく。みるくはあくまちゃんからマイクステッキを躊躇なく引き抜いて、その頭を踏みつけにした。涙が、みるくの頬を伝って落ちていく。
「ばいばい、あくまちゃん――」
マイクステッキが、静かにあくまちゃんへと振り下ろされた――。
あくまたち、てんしちゃん、なゆ姫、ましゅ姫とみにあくま、みにてんしたちとなゆ国の民が用意された甘味屋台で思い思いに甘味を楽しんでいた。
その真ん中には甘くきらびやかなみるくのための特設ステージ。左右の灯蜜噴水がステージを輝かせ、ハート型の照明床が見るものを魅了するように揺れ動く。
「ステージの調整はばっちり! 万が一にも不備は起こりません! 興奮しすぎてここ数日眠れてませんが、全然眠くなんてありませんよー!」
「今宵の主演は、ミルク・キャラメリゼ・スィーティア! このステージは誰の胸にも永遠に刻まれるに違いない! 彼女という奇跡のアイドルによって、私の設計は完成を迎える! 皆のもの、その瞬間には拍手を――惜しみなくだ!!」
「みるくちゃんがステージ後方から現れた瞬間、甘味花火を盛大に打ち上げる。それで全員のボルテージが最高潮に達するだろう」
「く~っ、待ちきれないな! 俺、涙ちょちょぎれっかもしんねえからハンカチ大量に用意しとくわ!」
「……わ、私は狙撃銃型カメラで写真をたくさん撮ります。この日のために、買ってきたんです」
「僕は……みるくちゃんの衣装を作りました。あのステージで着てもらえたらなと思って……」
「ハッハッハー! 俺の黒蜜血が煮えたぎってるぜ!」
「皆さんが頑張って作り上げたのです。成功は間違いないでしょう。ふふ、楽しみですね」
「もち……とっても楽しみなの。みるくちゃんに会うの久しぶりだから、少し緊張するの」
「あっ、そろそろ来るようですわ。私たちでみるくちゃんを先にお迎えしましょう。てんしちゃんはあくまちゃんを呼んできてくれますか?」
みるくの到着を感じ取ったなゆ姫が民に待つように告げ、あくまたち、ましゅ姫とシュガーリウム城の広間に向かう。てんしちゃんはうなずいてあくまちゃんがオタ芸の訓練をしているスイートデビルノクティス本部の訓練場へとやわらかに翼を羽ばたかせた。
◆◇◆
「あくまちゃん、そろそろみるくちゃんが到着するようですよ。共に行きましょう」
一心不乱に黒蜜サイリウムを振り、躍り続けるあくまちゃんはてんしちゃんの声で動きを止めた。
「ついに……か。俺様の躍りは仕上がってるぜ。これでみるくの背中を押してやれるってもんだ」
「ふふ、サプライズも用意されているようですから期待していてくださいね」
「お、おう……」
あくまちゃんはみるくに会える喜びで黒蜜色の角をぷるぷると揺らしながら、てんしちゃんと飛び立った。
◆◇◆
甘陽の光を溶かしたようなミルクティー色の髪がふわりと揺れ、毛先のキャラメルグラデーションがきらりと跳ねる。
その瞳は、キャラメルゴールドとミルクの二層。
衣装は“スィーティア・ブロッサムドレス”。
幾重にも重なったフリルはホイップクリームのようで、動くたびに光を受けてキラキラと舞い上がる。胸元にはキャラメルハートのブローチ。
「あはっ、みんな久しぶり! わたし、ずっと会いたかったんだよ!」
ミルク・キャラメリゼ・スィーティアのその愛らしい姿と、全てを甘く溶かすような声になゆ姫、ましゅ姫、あくまたちは思わず息を飲んだ。一人一人、握手を交わしていく。
「お久しぶりですわ。みるくちゃん、さっそく準備を――」
「あ、なゆお姉ちゃん。今回のスタートは全部私に任せてほしいの! みんながびっくりするような演出、考えてきたからさ! 覚悟してね?」
「……みるくちゃんがそうおっしゃるのでしたら、構いませんわ! みるくちゃんがやりたいようにやるのが、一番ですもの」
そこに、あくまちゃんとてんしちゃんが合流する。
「あ、あくまちゃん! てんしちゃん!」
みるくは2人とも握手をし、あくまちゃんをまっすぐに見つめた。甘さを極めた声が、あくまちゃんの耳をくすぐる。
「ね、あくまちゃん。伝えたい大事なことがあるの。わたしが呼んだら、ステージに来てくれない?」
いつもと同じ、何回もみてきたみるくの笑顔だったが、あくまちゃんは胸に漠然としたざわめきを覚えた。
「構わねえが……お前、なんかあったんじゃねえのか?」
「んー? ないよ、なんにも! それじゃあまた次はステージで、ね?」
一方的に告げ、去っていくみるくの後ろ姿を見ながらあくまちゃんは、大きくなるざわめきを抑えるように胸に手をやった。
◆◇◆
それから程なくして、ステージにたったみるくは皆の視線の中心で、マイクステッキを片手に茶目っ気たっぷりのウィンクをしてくるりとスカートを揺らしながら回った。
「みんなーっ! 準備はいーい? 甘さ控えめなんてダメダメ! 全力でとろけるみたいに甘くいっくよ――っ!」
みるくは少し前屈みになり、両手でマイクステッキを抱え込むようにして前へと視線を向けた。
灯蜜噴水がそのシルエットを優しく照らし、華奢な肩から胸元へと流れるラインが際立つ。
「あくまちゃん、こっちきてーっ!」
呼ばれたあくまちゃんは言われるがままにステージに上がる。向かい合った二人を、皆が真剣に見守っていた。
「……わたし、ね。この国のぜーんぶを壊したくってしかたがないの」
「……は?」
豹変したみるくの闇に溶けるような声が聞く者の背筋を、冷たい指先でなぞる。みるくにはあり得ない声に、ざわめきが広がり、戸惑い、おそれ、そして信じられないという視線が集まる。
あくまちゃんは手を伸ばすが、踊るように距離を取ったみるくに届くことはなかった。
「――なに、言ってんだよ。みるく……!?」
皮肉めいた表情でみるくは混乱するあくまちゃんにステッキを突きつける。禍々しく、不快な感覚の魔力が肌を撫でる。
「知った風な口を利かないで! そういうのほんとむかむかする! 大勢を苦しめてきたその手で、その顔で誰かに笑いかける資格なんてあくまちゃんたちにはないんだよ!!
わたしの歌、荒く――鋭く!!!」
風がみるくの声に呼応するかのように吹き荒れ、刃となって民に襲い掛かる。客席へと目線を走らせたあくまちゃんは仲間たちが動くと信じていたが、ローブを纏った集団が仲間たちの前に立ちはだかったかのを見て、翼に甘魔力を込めた。
「クソ…ッ! 黒蜜翼刃!」
あくまちゃんの巨大化した翼が、民に迫る風刃を弾く。だが、その前には手に鋭い魔力を帯びたマイクステッキを持ち、身を屈めたみるくがいた。
にやりと、唇を吊り上げて悪辣な笑みを浮かべるみるくとあくまちゃんの目がすれ違う。
「あは、偽善者ぶって民を守ればわたしの心を揺さぶれるとか思っちゃった? そんな汚い考えに惑わされたりなんてしないから!」
「……みる……く……」
マイクステッキが槍のように、あくまちゃんの
腹部を貫いた。黒蜜血が傷口から一気に溢れ、その身体から力が抜け落ちていく。みるくはあくまちゃんからマイクステッキを躊躇なく引き抜いて、その頭を踏みつけにした。涙が、みるくの頬を伝って落ちていく。
「ばいばい、あくまちゃん――」
マイクステッキが、静かにあくまちゃんへと振り下ろされた――。
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