駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話

一ノ瀬ジェニファー

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危ない男は帰らない

マルチなアイドルは焼きそばだって作れる!

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 なんでもできるマルチなアイドルは焼きそばだって作れる!
 そう自分に言い聞かせ、私は自作衣装から汚れてもいいジャージに着替え、エプロンをつける。
 このジャージは中学の時の学校指定のダサジャージだけど、これもおばあちゃんにフリルやリボンをつけてもらって魔改造しているし、エプロンだって道の駅の名前が書いてあるけど私専用にピンクのものを用意してもらった。
 道の駅の売り場に立てないとなると、外で焼きそばでも売ってほしいと言われてしまったので私はお安い御用だと準備をする。
 ちなみに週末にはよく、外の屋台のような場所でソフトクリームやこうして焼きそばなどを売っている。
 最初は客寄せパンダのごとく屋台の前に立って、呼び込みをしていたがある時から「もはやあかりちゃんに調理もしてもらえばよくない?」と人件費削減のため調理もお任せされてしまった。
 これもアイドルの下積みには必要なことなんだ! と、自分に言い聞かせ、私は鉄板に油をひき、まずお肉を炒めていく。
 正直焼きそばの作り方なんか適当なので、具材をこれまた適当に入れてソースを投入すれば不思議とどんな調理工程でも美味しくなるのが焼きそばのいいところだ。
 
「待って? あかりちゃんがお料理してる……!」
 
 聞いたことある声に顔をあげれば、そこに居たのはもちろん幸村さんで、幸村さんは私がさっき渡した巾着服を胸に抱え、もう片方の手では口元を押さえ、はわわという顔をしてこちらに近づいてくる。
 東京の人はイケメンさんでもそんな乙女のような顔することあるんだね!
 
「もうすぐ出来上がりますよ~焼きそばいかがですかぁ~?」
「これ最前で地蔵していいの? ヤバすぎる……」
 
 相変わらず意味不明なことを言いながら、はわわという感じで出店の前に立ち尽くす幸村さん。
 もしかしてすっごいお腹すいていたのかな?
 私は出来上がりを確認し、プラスチックの入れ物に焼きそばをこんもり詰めて、心なしかお肉も足してあげる。
 
「一個五百円です!」
「は? 安すぎ。嘘でしょ?」
「え……? 本当に五百円ですよ? あ! お会計は現金のみです!」
「あかりちゃんの手作りやきそばなんてプレミアものでしょ? もっと高く売らなきゃダメだよ?」
「そんな事言われましても……五百円って決まっているので……」
「金額は変えられないの? ……じゃあとりあえず百個もらおうかな」
「百個⁉」
「うん百個。五万円分」
「えっと、そんなにはないかもです……すみません……」
「そうなの? じゃあ何人前ならできそう? あるだけちょうだい? 他の奴らにあかりちゃんの手作り食べさせたくないよ」
「その、えっと、本当に幸村さんが食べてくれるんですか? さすがにそんな何個も食べられるものじゃないと思うので……せっかく作ったのに食べ物を無駄にするのはちょっと……もちろん買ってくれるのは嬉しいですが……」
 
 目の前の幸村さんを刺激しないように一生懸命に言葉を選んで告げる。
 焼きそばを百個も買おうとするなんて絶対に正気じゃないし、もしかして私に売り上げノルマとかあると思っているのかな?
 優しいのか怖いのか分からない目の前の大人の人に私はプルプルと震えながらも
 
「幸村さんにもあんまり無理はしてほしくないので……」
 とも苦し紛れに付け加えておく。
 
「……あかりちゃん優しい……大丈夫ちゃんと食べるよ♡ 今日は俺の弟も連れて来てるから弟にも分けるられるし。あと俺、お昼過ぎには東京に帰らないとだから、その道中でも食べられるし帰ったら冷凍もして永遠に保存もするし♡」
 
 ただの屋台で買った一個五百円の焼きそばを冷凍するなんて聞いたことがない。
 あとそんな三食のように食べるものでもないし?
 
 でも幸村さんは、
 
「……それとも俺には売れないってこと?」
 
 と笑っているのに怖い目をしながら言うので、私は、
 
「わかりました……作れるだけ作ります……」

 と、半泣きになりながらひたすらパックに焼きそばを詰め込むのであった。


 ーーーーーーーーーーー――――

 【推しの手料理 SIDE:静】
 
 推しがお料理してる⁉
 しかも衣装チェンジ⁉
 あまりの尊い光景に「嘘でしょ⁉」と思いながら近づくと、出会った時と変わらないようなニコニコしながらも一生懸命な顔で天使が焼きそばを焼いていた。
 しかも1つ五百円とかいう破格で販売するとかいうので何とか説得しようとしたが、さっきみたいに警戒されないように言葉を選んでいると、だったら俺があかりちゃんの焼きそば全部買い取ればよくよくない? と閃いた。
 しかしそんな俺に、
「本当に食べてくれるの? 無理してないですか?」
 と問う本当に天使のようなあかりちゃんに俺は思わずウッ……っと胸を押さえる。
 俺の心配までしてくれるとか優しすない? マジでなんなのこの子。俺をどうしたいの?
 そこをなんとかと粘り、焼きそばの買い占めに成功した俺は、あかりちゃんにお礼を言い、「これはチップだから♡」と会計とはまた別に金を置き、大量の焼きそばを抱え、駆が居る車に戻る。
 
「駆見て~これあの子の手作り」
「…………」
「オイ起きろカス。俺が話かけてやってんだから聞け」
「……んあ? 兄貴、なに? もうちょっと寝かせてよ……」
「寝んな聞け。これ見てよあかりちゃん手作りの焼きそば。推しの手料理とかヤバくない?」
「……は?」
「あの子の手料理を他の奴が食べるのが許せなさすぎて買い占めてきちゃった。でも『ちゃんと残さず全部たべてね♡』って言われちゃったから駆にもあげる」
「……何言ってんのか全然分かんねぇんだけど……ソイツが焼きそば売ってんのも意味分かんねぇし。一応アイドルなんだよな?」
「俺もまさか手料理を食べられるなんて夢かと思ったよ」
「……車ん中焼きそばクサッ! もぉ~!」
 
 グダグダ言う駆を無視して推しの手作り焼きそばを1つ開封する。
 推しであるあかりちゃん手作りの焼きそばってだけで黄金に輝いて見えるそれを、俺は念のため何枚か写真に収め、様々な角度から観察したあとに、やっと口に運ぶ。
 
「……美味い。可愛いし料理もできるとかあの子天才かな?」
「……普通の焼きそばじゃん」
「あ? もっかい言ってみ?」
「……うまい。店出せる」
「だよね♡ 俺、幸せ♡」
 
 よく見ると色んな大きさや形に切られた具材は芸術点も高いし、硬い肉も顎が鍛えられて良い。
 何より愛情が感じられるその味に俺の口角も自然と上がる。
 そのまま三つほど焼きそばを平らげ、残りは帰りながら食う用と、家に帰ったら冷凍して永遠に保存しようと考えながら時計を見ると時刻はもう昼の一時を過ぎており、あかりちゃんとのお別れの時間が近づいていることに絶望する。
 
「もう駆一人で帰れば? 俺ここ住もうかな」
「我儘言わないでよ! それに兄貴に田舎暮らしなんて絶対無理だよ。東京生まれ東京育ちのくせに」
「推し活できないとか辛いんだけどな……」
「いやそれ昨日始めたばっかじゃん。そんなに離れたくなかったら東京連れてけば?」
「やっぱりそれしかないよね。でもあの子『ご当地アイドル』ってものに誇りもってやってるんだよね。あかりちゃんの夢は応援してあげたいし。無理やりは趣味じゃないしね?」
「いっつも女だろうが男だろうが兄貴はけっこう無理やりだよ……」
「俺って本命には慎重派だったみたい」
「あっそ……」
「とりあえず東京に帰ったらあかりちゃん呼ぶための準備しようかな」
 
 車のルームミラーで歯の隙間に何も挟まっていないかしっかり確認しつつまた身なりを整える。
 
「あかりちゃんから離れたくないな……俺から推し活を取ったら何が残るっていうの?」
「いやだからソレ、今まで推し活やってた奴が言うセリフだから。兄貴は昨日始めたばっかだから推し活がなくなっても今まで通りの生活が待ってるだけだよ」
「あぁ?」
「ごめん……睨まないで……」
 
 あと少しの時間しかあの子と居られないなんてかなり辛い。
 俺は帰ったらやることを整理しつつ、再び彼女を探しに車から降りることにしたのだった。
 
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