転生流動機関 アストラルレギュレーター

ruka-no

文字の大きさ
5 / 7
第五章

創造主たちの派閥争い

しおりを挟む
アストラル庁の最深部。
そこにある“光の階段”を降りきったとき、凌は思わず息を呑んだ。 ――目の前に広がっていたのは、宇宙の内部構造そのものだった。
巨大な球状空間に、網目のように張り巡らされた光の回路。
その一つひとつが、銀河を、恒星を、惑星を、そして魂の動きを制御している。
「ここは……?」
「“基層界(ベースレイヤー)”。
宇宙の設計図そのものが走っている層よ」
眞名は淡々と告げた。
だが、その静謐さとは裏腹に、空間の中心部では複数の光がぶつかり合っていた。
稲妻にも似た白い閃光と、柔らかく揺らめく金色の光。
そして、それらの間を割くようにして螺旋状の濃い青が伸び、火花を散らしている。
凌は目を瞬いた。
その光のうねりには“意志”があった。
「まさか……あれが……?」
「ええ。“創造主”たちよ」
「創造主って……一人じゃないのか?」
「むしろ逆よ。宇宙は“一つの思想”で作られていない。
何十、何百という“設計思想の衝突の結果”として存在している」
「でも、そんな……」
「普通の文明はそう教わるわ。
“神は一人”“創造主は唯一”。
でも、それは魂が混乱しないように簡略化された設定にすぎない」
眞名は続けた。
「本当は、この宇宙も、他の宇宙も、複数の高次存在が同時に設計し、同時に管理してい



れぞれが違う“宇宙の理想”を持っているから、衝突するの」
凌は目の前の光の群れを見る。
白い光はとにかく直線的で鋭い。
金色は海のように穏やかで、膨大な知恵を感じさせる。
青いspirals は気まぐれで、時に暴風のように変化する。
「……性格があるみたいだな」
「あるわよ。彼らは“思想そのもの”だから」
眞名は、白く鋭い光の塊を指差した。
「あれが“管理派”

よ」
白光は規則正しく明滅し、そのたびに微細な波紋が宇宙全域に広がっていく。
「管理派はこう考えるの。“魂は劣化する。だから早く回し、無駄なく使い続けなければ
ならない”。
魂の回転率が生命の価値。長く停滞させることを最悪とする」
「だから大量死イベントを?」
「ええ。滞留する魂を強制的に“排出”し、劣化した魂を再利用し、宇宙の稼働効率を最
大化させようとしているの」
「効率のために……?」
「彼らにとって魂は“パーツ”でしかない。
必要なら宇宙ごと焼き直すことすら厭わない」
凌は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
眞名が次に示したのは、ゆらゆらと柔らかく輝く金色の光。
「あれが“自由派”。
魂一つひとつの成長と体験を重んじる思想よ」
金色の光は、どこか人間的な温かさを持っていた。
「彼らにとって、魂は“唯一無二の存在”。
一生の重みは計算できるものではなく、個の歩みこそが宇宙の進化だと考えている」
「じゃあ、戦争や災害は嫌う?」
「もちろん。彼らは“死なせすぎだ”と管理派に何度も抗議してきた。
でも、宇宙の構造を決める権限は管理派のほうが強いの」
凌は呟いた。
「……魂を尊重する神と、効率だけ見る神がいるってことか」
「そう。宇宙の本質は“価値観の衝突”で成り立っているの」
螺旋状の青い光。
それが不規則に跳ね、時に混線を生み出し、宇宙の一部に奇妙なゆがみを発生させてい
た。
「……あれは?」
眞名は一瞬、言葉を選ぶように黙った。
「“実験派”。
宇宙を“実験場”と考える創造主たち」
「実験場?」
「魂がどう変化するか、文明がどう育つか。
予測不能なカオスこそが最も面白い――彼らはそう主張しているの」
「つまり……?」
「戦争も、天変地異も、予測不能の“素材”

にとっては“遊び”に近い。
自由派よりさらに厄介よ」
凌の拳が震える。
「そんな奴らが俺たちの生死を弄んでいるのか……!」
「“管理派よりはるかに扱いづらい”のが実験派。
いくつもの文明が、彼らの好奇心一つで滅んだわ」
眞名は、白い光が特に強く反応している一点を示した。
そこには、青白い球――地球が浮かんでいた。
「管理派は、地球を“回転率モデル惑星”に指定している」
「モデル……?」
「“魂の循環効率を確認するための実験場”よ」
凌の表情が曇る。
「……それで、大量死が……?」
「地球の歴史を見れば明らかよ。
人口がある一定ラインを超えると、必ず戦争、疫病、災害が起きてきた。
それは偶然じゃない」
眞名は短く息をついた。
「地球は“管理派の主導ワールド”。
魂が増えれば“調整”される。
あなたの世界の悲劇の多くは、管理派の設計思想に従った“宇宙の運用”なの」
凌の心に、重い痛みが広がった。
「……俺たちの苦しみは、“効率化”のため……?」
「管理派には罪悪感も慈悲もない。
善悪ではなく、ただ“正しい稼働”を行っているだけ。
彼らは“機能”であり“思想”なの」
「……でも、なんで俺なんだ?」
眞名はゆっくりと凌を見つめた。
「あなたの魂だけが、“複数の創造主のコード”を持っていた」
「コード……?」
「通常の魂は、どれか一つの創造主の思想に属して生まれる。
でもあなたは違う。
管理派と自由派――そして実験派のコードすら含んでいる」
「そんなことがあり得るのか?」
「あり得ない。
本来絶対に起きない。
宇宙の構造上、発生してはならない“例外”」

続ける。
「でも……あなたは存在している。
その矛盾こそが、派閥争いを揺るがし、宇宙に穴を開けるトリガーになる」
中央では、三つの光がさらに激しく衝突を始めていた。
白光の閃光が金光を押し返し、青光がその隙間を裂いて侵入する。
宇宙の構造式が乱れ、銀河の軌道が一瞬だけ揺らぐ。
「……宇宙が壊れていく……」
「創造主の戦争よ。
価値観の違いが限界を超えれば、宇宙は“設計者自身の手で”滅ぶ」
眞名ははっきり告げた。
「その危機を止められるのは、派閥の境界に属さない“あなたのような魂”だけなの」
凌は拳を握った。
「俺に……宇宙を止められるのか?」
「止められる。
そして――創り替えることもできる」
光の衝突がさらに激しさを増す。
宇宙そのものが悲鳴を上げるように。
凌は一歩前へ。
その姿は、三つの光の中心へ向かう“ただ一つの影”となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最愛が……腕の中に……あるのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と結ばれたかった…… この国を最愛と導きたかった…… その願いも……叶わないのか……

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お疲れOLあかりの、今日のごほうびスイーツ

鈴樹
キャラ文芸
ルート営業OL・あかり(表示名:お疲れOL)が開設したピンスタグラムのアカウント。 ローカルコンビニ「39ストア」のスイーツ情報を中心に投稿。 頑張った自分へのごほうび✨日々の小さな幸せスイーツをお届け! ――と、見せかけて、実は甘い匂わせ満載⋯⋯!? ※本作は「お疲れOLと無愛想店員」シリーズの、あかりの架空SNS風スピンオフです。 ※登場するコンビニやスイーツ情報はすべて架空です。実在するコンビニや商品とは一切関係ありません。 ※本編の作中時間と連動して、随時投稿。 ※未読でも、本編ストーリーの理解に支障はありませんが、読むと二度美味しい仕掛けです ※横書き表示推奨 【シリーズ作品リスト】 ●本編1作目《短編集・3作品収録/完結》 『お疲れOLと無愛想店員〜雪の夜の、コンビニで』(本編/哲朗編/余話) ※あかりと哲朗、始まりの物語&黒歴史の秘密 ●本編2作目《短編・全8話/完結》 『お疲れOLと無愛想店員〜春の嵐と、まわり道』 ※上京とドライブデート(?)のロードムービー風のお話 ●本編3作目《短編・4月上旬より作中時間と連動して公開予定》 『お疲れOLと無愛想店員〜初夏のきらめき、風のざわめき』 ※全7話執筆済み。慶介メインのライトな謎解き風のお話 ●本編4作目《現在構想中》 シリーズ作品タグ: #お疲れOLと無愛想店員

処理中です...