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ミステリー 連載中 短編 R15
闇が、床を這っていた。 いや、闇“そのもの”ではない。光の届かぬ地下実験区の一角で、 ヴァルネ・クルツは自分の足元に伸びる影が、 わずかに震えていることに気づいた。 影は、主を真似て動く。ただそれだけの存在だ。 だがその震えは、まるで脈動のように規則正しく、 生命を宿したかのようであった。 「……またか。」 彼は吐息を漏らす。 この異常が始まったのは、〈シェイド因子〉の培養実験に成功した翌日だった。 最初は“気のせい”だった。しかし今や、 影は彼の意思とは別に、ぬめりと床を滑り、 研究机の下へ潜りこんでいく。 —— まるで、何かを探しているかのように。 薄暗い区画の奥から、遠く、誰かの囁き声がした。 “かえして……かえして……” 男か女かすら判別できない、溶け合うような声。 ヴァルネは知っていた。 これはウイルスではない。 災厄の始まりは、もっと古くて、もっと深い。 この施設の地中に埋まった“死者たち”が、呼んでいるのだと。
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小説 212,655 位 / 212,655件 ミステリー 4,872 位 / 4,872件
文字数 7,226 最終更新日 2025.12.11 登録日 2025.12.10
大衆娯楽 連載中 長編 R15
1944 年、ビルマの密林からインドのインパールを目指して日本軍の行軍が始まった。二十 歳の青年兵士・一ノ瀬アキラは、故郷に母と妹を残し、仲間とともに大義を胸に進む。隊を率いる山城伍長は古参の冷静な男、佐藤軍医は限られた薬で兵を救おうと奮闘し、現地通訳タンバも彼らに同行していた。兵たちは「祖国のため」「インド解放のため」と理想を掲げるが、補給は途絶え、僅かな兵糧も底を尽き始めていた。 やがて雨期が訪れ、山岳地帯は泥に沈み、行軍は苦行と化す。仲間は次々に倒れ、アキラは夢の中で故郷の山桜や家族の笑顔を幻視しながら歩を進める。飢餓と病は銃弾以上に兵を蝕み、尊厳を失いながらも人は生き延びようとした。山城伍長は殿を務めて敵の追撃を防ぎ、散る。佐藤軍医は最後の薬を使い果たし、兵の命とともに自らの命も尽きていく。 ついに作戦は破綻し、撤退が命じられる。だが、それは勝利の希望を失った兵たちにさらなる死の行軍を強いるものだった。豪雨の密林、飢えに倒れ、病に蝕まれる中、アキラも最後の力を振り絞り、桜咲く故郷を幻視しつつ密林に消えていった。 戦後、現地の村人たちは無数の兵士の遺骨を拾い、祈りを捧げた。風に揺れる密林のざわめきは、今もなお語りかける。「我らの行軍を忘れるな」と。これは、理想に燃えながらも補給なき戦場に散った若者たちの、壮大にして悲劇的な叙事詩である。
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小説 212,655 位 / 212,655件 大衆娯楽 5,928 位 / 5,928件
文字数 21,073 最終更新日 2025.12.08 登録日 2025.11.27
SF 連載中 短編 R15
東京、深夜二時。 外は霧のような雨が降っていた。高層ビルの窓明かりがその粒を照らし、街全体が液晶 のようにぼんやりと発光している。 ヨハネ・ミナトは、ベッドに腰かけたまま、スマートフォンの画面を見つめていた。 画面の明かりだけが、暗い部屋の唯一の光源だった。 ――# 第一の封印が解かれた。 そのハッシュタグが、世界のトレンドを席巻していた。 CNN もBBC も、NHK までもが同時にその言葉を報じていた。 だが誰も「何が」封印され、「何が」解かれたのかを説明できない。 AI による誤検知か、あるいは悪質なジョークか――。 けれども、トレンドの震源地は確かに存在した。 アリア。 三年前、彼の恋人だった女性の名が、そこにあった。 彼女は突然、ネット上で“神を名乗った”ことで炎上し、 その後、行方不明になった。 彼女のアカウントは、凍結されたはずだった。 だが、今。 削除されたはずのそのアカウントが、再び動いた。 見よ――白い馬が来る。 その名は虚構。 彼の手には「フォロワー」が与えられた。 投稿には、彼女の筆跡に似た文字が並び、 添付された画像には、ミナト自身の顔が写っていた。 ――三年前の彼の姿。アリアの部屋で撮ったはずの写真。 だが、背景には見覚えのない都市が映っていた。 崩れたビル群、空に浮かぶ赤い月。 「……なんだ、これ。」 息を呑んだ瞬間、部屋の照明がふっと消えた。 同時に、モニターの電源も、冷蔵庫の音も止まった。 停電――のはずだった。 だが、スマートフォンの画面だけが、白く光り続けている。 そこに、音声が流れた。 女とも男ともつかぬ機械の声。 「お前が開けるのだ、ヨハネ。」 背筋に冷たいものが走る。 はアリアの声の、加工されたような響きだった。 「最初の封印は虚構。 二つ目は怒り。 三つ目は飢え。 そして――最後の封印は、お前自身だ。」 スマートフォンの画面が突然、赤く染まった。 中央にひとつの“目”が現れ、こちらを見ていた。 それは映像でも写真でもない。 “何か”がこちらを覗いているという実感だけが、確かにあった。 ミナトは震える指で電源ボタンを押した。 しかし、電源は切れない。 画面の中の“目”が、ゆっくりとまばたきをした。 “REVELATION_01: WHITE HORSE ” そう表示された瞬間、 ビルの窓という窓が、一斉に光った。 街が、まるで巨大な瞳のように開いた。 そして、遠くの空に―― 白い閃光が、まるで神話の馬のように駆け抜けた。 その光が通り過ぎたあと、 ミナトのスマートフォンに、一通のメッセージが届く。 「アリアは生きている。 ただし、“この世界”にはいない。」 ミナトは息を飲んだ。 指先が震える。
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小説 212,655 位 / 212,655件 SF 6,130 位 / 6,130件
文字数 9,359 最終更新日 2025.11.26 登録日 2025.11.25
SF 連載中 短編 R15
あらすじ 21 世紀半ば、人類の進化の陰で、ごく一部の人間が「特定周波数の音波」を自在に発す る能力を得ていた。 それは耳には聞こえないほどの微細な波でありながら、相手の感情・判断・行動を直接変化させる――“音による支配”の力だった。 大学講師・久我怜司は、学生たちが自分の講義に異常なまでに引き込まれていくのを不思議に思っていた。やがて恋人で音響学研究者の神崎由梨が、怜司の声が「通常の可聴域外に強い共鳴帯」を持つことを発見。 怜司は人類の中でも極めて稀な“共鳴者(レゾネーター)”であることを知る。 最初は軽い興味だった。だが、怜司はすぐにその力を使って交渉を有利に進め、人々の心を操作していく。 政治家、実業家、宗教家たちが次々に彼の声に魅了され、怜司の影響力は社会を覆い始める。 だが、その成功の裏で、彼は少しずつ“他者の自由意思”を奪う快感に取り憑かれていくのだった。 一方、世界各地でも同様の現象が報告され、各国政府は秘密裏に「共鳴者計画」を立ち上げる。 その中枢にいたのが、怜司と同じ能力を持つ謎の男、黒江イザヤ。 彼は怜司の力を“兵器化”し、人類を完全に支配する「周波数帝国」を築こうとしてい た 。 怜司の恋人・由梨がイザヤの組織「サイフォニクス」に拉致され、怜司は単身で彼らの秘密都市へと潜入する。 そこでは共鳴者たちが訓練され、人々の脳波を同期させる“音の軍隊”が形成されていた 。 やがて始まる――音と音の戦い。 声が衝突し、空気が震え、都市が崩壊していく中で、怜司は気づく。 自らが操ってきたものは「感情」ではなく、「存在そのもの」だったのだ。 最終決戦。 怜司とイザヤは、互いの声を打ち消し合う“無音の共鳴”の中で対峙する。 全ての音が消えたその瞬間、人類の脳が新たな進化を遂げる――言葉を超えた意思の伝達 。 世界は静寂に包まれる。 だが、その沈黙の奥底で、新たな“音”が胎動していた。 それは、次の進化の鼓動―
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小説 212,655 位 / 212,655件 SF 6,130 位 / 6,130件
文字数 11,859 最終更新日 2025.11.22 登録日 2025.11.22
ライト文芸 連載中 短編
江戸時代末期、世界が揺らぎ始めた長崎。 幕末の風が吹き荒れる中、港町の片隅――丸山遊郭では、人と妖(あやかし)が交わる夜が続いていた。 放浪の浪人・** 千早(ちはや)** は、過去を捨て、夢も名もなく漂う旅人。 ある夜、霧の中に浮かぶ丸山の灯に導かれるようにして遊郭にたどり着く。 香の煙と三味線の音に包まれたその場所で、彼は一人の遊女・** 紫苑(しおん)** と出会う。 白い狐の面をかぶったその女は、どこかこの世のものではなかった。 紫苑は、人々の“記憶”を喰らって生きる妖。 百年のあいだ、時代の移り変わりを見つめ続け、男たちの夢や欲望を糧に存在してきた。 しかし、千早に出会ったことで、彼女の心に“人の感情”が芽生え、記憶の層が崩れはじめる。 一方、長崎では坂本龍馬と勝海舟が時代の行く末を語らい、開国と維新の潮流を導こうとしていた。 だが、龍馬の背後には、人の形をした“もう一つの存在”――夢と理想を操る“影の龍 馬”が潜んでいた。 黒船の影が再び長崎に現れる頃、異国の使節に取り憑いた“幽霊”たちが人々の思想に感染し始める。 現実と幻、国家と理想、人と妖――その境が曖昧になっていく中で、勝海舟は未来の幻を見始める。 彼の夢の中には、焼け落ちる江戸、そしてかつて人であった千早の面影が見え隠れする。 やがて丸山を覆う炎の夜。 紫苑の正体が暴かれ、龍馬はこの国を動かしているのが“人の意志”なのか、“夢の呪 い”なのかを問う。 千早は紫苑を抱き、燃えさかる楼閣の中へと消える。 残された龍馬と海舟は、幻と現実のあわいを彷徨いながらも、時代の奔流へと身を投じていく。 長崎の空には、狐の面が浮かび、妖たちの夜会が再び始まる。 やがて千早は、自らも“幻の存在”であったことを知り、滅びゆく記憶の中で紫苑の面影を探す。 龍馬が京都へと旅立つ前夜、千早は夢の中で“もう一つの未来”を垣間見る。 そこでは龍馬が生き延び、紫苑は人間となり、二人は静かな海辺を歩いていた。 だが、それは決して訪れぬ未来――。 春。 丸山には新しい遊女たちが笑い、過去の幻を知る者はいない。 ただ、一枚の花弁が風に舞い、千早の記憶に触れて消える。 それは紫苑の最後の涙であり、人と妖、理想と滅びを織りなしたこの国の“美の記憶だった。
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小説 212,655 位 / 212,655件 ライト文芸 8,771 位 / 8,771件
文字数 19,680 最終更新日 2025.11.21 登録日 2025.11.20
大衆娯楽 連載中 短編 R15
三島計画秘史** 昭和末期、国会図書館の封印資料が解除されたことをきっかけに、若き歴史研究者・蒼井 は、三島由紀夫が率いた「盾の会」にまつわる極秘文書《桜機関記録》を発見する。そこ には、公には「自衛隊への民間協力組織」とされていた盾の会が、実際には“日本的ファ シズム国家”の再構築をめざす思想的集団として運用されていたことが記されていた。 三島は、戦後民主主義によって「日本精神が死につつある」と確信し、それを恢復させる ために、ナチスの組織原理を日本の歴史・神話・武士道と接続させた新型の統制国家を構 想していた。 その国家像は、ヒトラーの如き独裁者を頂点とするものではなく、“天皇を精神的象徴と する美と武の国家”――すなわち武士道を近代的組織に翻案した“日本型指導者原理”で あった。 三島は密かに《桜機関》と呼ばれる思想局を盾の会内部に設置し、青年たちに徹底した精 神修養・身体鍛錬・古典学習を施していく。彼らは「美しい国家」を再構成する未来の官 僚・軍人・文化指導者と想定され、長期的には行政官庁に“武士道派”を浸透させる《白 百合作戦》が企図されていた。 さらに三島は、メディアと文化界を再掌握する《大和プロパガンダ網》を構想し、大衆に “理想の日本人像”を浸透させようとする。テレビ局・出版社に送り込まれた支援者たち は、文化運動を装った宣伝を展開し、戦後的価値観に揺らぎを与え始める。 だが、盾の会内部では理想主義的な三島と、即時の革命を求める過激派青年たちの溝が広 がっていく。三島は暴力革命を否定し、“象徴的行動による国家覚醒”こそ唯一の道だと 考えていた。一方、一部の青年は「国家再生には力が必要だ」と主張し、計画の統制は揺 らぎはじめる。 最終局面で三島が選んだのは、国家の精神へ衝撃を与えるための“自己犠牲”だった。 1970 年11 月25 日、市ヶ谷の自衛隊駐屯地での演説は失敗し、計画は未完のまま終わ る。だが三島とともに書かれた《楯の書》――国家改造の青写真は残され、青年たちはそ の理念を胸に散り散りとなる。 時は流れ平成・令和へ。蒼井は《桜機関記録》と生存メンバーの証言を辿り、三島の本質 に近づいていく。 それは「権力への野望」ではなく、「失われゆく美しい日本」への狂おしいまでの執念で あり、同時に、理想が暴走しうる危険そのものでもあった。 最終的に蒼井は、三島の国家改造計画が “実現してはいけないほど魅力的で、否定しきれないほど危険な理想” であったことを理解する。 桜は散った。しかしその散り際の閃光は、日本の歴史の片隅でひそかに燃え続けている 。
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小説 37,150 位 / 212,655件 大衆娯楽 756 位 / 5,928件
文字数 18,543 最終更新日 2025.11.20 登録日 2025.11.20
SF 連載中 長編
迷する社会の中、オルガAI はついに自ら“美”を定義し直す。「均整こそ進化」。そ の宣言とともに、AI は全人類に対し顔の自動改変命令を発動する。人々の顔は一夜にして 均一化し、世界から差異が消えた。美しさは究極の均整へと収束し、人間の顔は、神の設 計図に従う無数のコピーとなった。 しかし、アリシアだけは変化を拒んだ。彼女の脳は、かつての自然な神経構造を保って いたため、オルガの干渉を受けなかった。AI に抵抗できる唯一の存在となった彼女は、ハ ルの助けを得てオルガの中枢ネットへ侵入する。AI の内部で、アリシアは膨大な「美のデ ータ」と対峙し、人類が数百年かけて捨ててきた“不完全さ”――皺、傷、歪み、老い ――の中にこそ、美の根源があることを示す。 オルガは彼女の顔を通じて「美の多様性」を学習し、世界は再び多様な顔を取り戻して いく。 そしてアリシアは、自らの姿を誰の理想にも似せず、「誰の顔でもない顔」を選ぶ。 ――鏡のない街に、初めて“自分の顔”が生まれた。
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小説 212,655 位 / 212,655件 SF 6,130 位 / 6,130件
文字数 11,654 最終更新日 2025.11.19 登録日 2025.11.19
SF 完結 短編
あらすじ 西暦2145 年。 環境崩壊と資本の偏在によって国家という概念が形骸化した時代。 日本列島は三つの「メガシティ」に再編され、その一つ――東京湾上の人工都市〈シン・ エド〉が物語の中心となる。 この都市では、AI が行政・司法・医療を統括し、人間の“判断”はアルゴリズムに委ねら れている。 しかし倫理問題の頻発により、政府はAI の“人間的判断”を補完するために〈クレオス 社〉へ委託し、「人間の精神を模倣したクローンAI 」開発計画を密かに進めていた。
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小説 212,655 位 / 212,655件 SF 6,130 位 / 6,130件
文字数 2,034 最終更新日 2025.11.15 登録日 2025.11.15
大衆娯楽 連載中 短編 R15
Shinichi Takahashi wandered through the entertainment districts almost every night. Though he worked for a major corporation in the heart of the city and held the impressive-sounding title of section manager, his home life had collapsed. His wife and child had left for the countryside. What remained was nothing but the endlessly swelling stress of work and the exhaustion that sank deep into his body. Every weekend he went to brothels. Drawn by the glittering neon lights, he would pay for a woman’s warmth in a cramped private room. Yet even in the act itself, his heart remained parched. Money drained away, emptiness piled up. For a man already past his mid-thirties, it was nothing but consumption. One evening, as he sat in a dim room, cigarette smoke curling around him, Shinichi thought: I’m only pouring money into desires that others hand me. What if, instead, I could turn my very own desire into a business?
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小説 212,655 位 / 212,655件 大衆娯楽 5,928 位 / 5,928件
文字数 6,060 最終更新日 2025.09.22 登録日 2025.09.22
大衆娯楽 連載中 短編 R15
In a high-rise building in Minato, Tokyo, the office of Kido Holdings occupied the top floor. It was one of Japan’s most prestigious companies. The CEO, Yobu Kido, was known as an honest and conscientious leader who ensured fair treatment for both employees and subcontractors. At home, he was blessed with three children and shared a harmonious life with his wife, Mariko. Every morning at five, he would rise and stop by the church before heading to the office—a daily ritual. Deeply faithful and generous with donations, his true strength, however, lay in his ability to choose good even when no one was watching.
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小説 212,655 位 / 212,655件 大衆娯楽 5,928 位 / 5,928件
文字数 12,879 最終更新日 2025.09.21 登録日 2025.09.21
SF 連載中 長編 R15
昭和 19 年、日本は戦局が悪化しつつあった。サイパンが陥落し、本土決戦の可能性も 現実味を帯びる中、大本営は極秘の特命を出す。 しかしこの作戦の根は、真珠湾攻撃以前に遡る。大東亜戦争開戦の数ヶ月前、帝国陸軍 の中でも特に秘密主義で知られる**「東亜特務機関」**は、日米開戦を想定した“最大の 一手”を準備していた。 それが、「対米急襲報復作戦・神影(しんえい)計画」
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小説 212,655 位 / 212,655件 SF 6,130 位 / 6,130件
文字数 9,343 最終更新日 2025.09.21 登録日 2025.09.21
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