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正体があっさりバレた。

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 エーリオが私の前に跪き、私の手の甲に優しく口づけた。
 私は胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、それを受け入れていた。

 すると――。

 突然エーリオが立ち上がると、私の手をグイッと引き寄せた。そして私の二の腕を彼の左手でガッシリ掴んで、もう片方の手で私の顎を乱暴に掴み持ち上げる。そして、私の瞳を覗き込んだ。
 私は突然のことに驚いてしまい、体が硬直してそれを振りほどくこともできなかった。目を見開くばかりで、声もうまく出てこない。

 私を覗き込む彼の瞳は深いブルーで、それはまるで深海の底のような、とても残酷で冷ややかな瞳だった。

 上品で礼儀正しいエーリオが急にそのような粗野で乱暴な行動に出たので、私はまだ状況が受け入れられず、頭は真っ白になっていた。

「ど……うし、て?」

 しかし、口をパクパクと魚のように動かすうちに、僅かな声がようやっと喉の奥の方から出てきてくれた。エーリオは鼻を鳴らして、冷たく笑う。

「どうして、だと? 俺を騙しておいて、それでもなお分からない振りをするとはね。とんだ悪女じゃないか」

 エーリオはそう言って、左手に力を込め、私の二の腕を握り締める。

「痛っ――」

 痛くて振りほどこうとするも、エーリオの力は強くて、逃げられなかった。私は助けを求めようと、エーリオのすぐ脇にいるチェルヒェに視線を投げるが、チェルヒェは私の視線に気が付いても、ニヤニヤとするばかりである。そして、

「あーあー。喋らなくても、人魚じゃないことバレちゃうんだね~」なんて、呑気に笑っている。

 しかしチェルヒェのその言葉から、エーリオの態度が急変した理由が推測できた。エーリオは人魚が献上されたと思っていたのに、尋ねてきたのは私――普通の人間だったんだものね。そりゃ怒るか……。

 ――ってなるかい! 私は自分から人魚と言ったこともないし、この国の住人達が勝手に勘違いして話を進めていたんじゃないか。なのに、怒りの鉾先が私に向けられるのはあんまりじゃないの?

 なんだか胸の内に排気ガスのようなモヤモヤが充満してくる。これは、仕事で不真面目な後輩のミスが私のせいにされてしまったときのモヤモヤと似ているな、と思った。

 私の腕を掴むエーリオは怒りっぽいガミガミ屋の上司と重なったし、その隣でニヤニヤしているチェルヒェは不真面目な後輩に重なって見えてくる。

 ずっと物語の世界に憧れていた私はここへ来て、豪華な部屋のふかふかなベッドで目が覚めて……不思議な住人達と出会って……、何の変哲もなかったつまらない現実から離れられたことに、正直ワクワクしていた。けれど、結局この世界も似たようなものなのかと思った途端に、

「やめてよ!」と、私はそう叫んで、エーリオの手を力の限り振り払っていた。

 そして、その辛気臭い部屋を飛び出し、薄暗い廊下から豪華な廊下、階段を上って降りて、めちゃくちゃに逃げ出した――。
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