インシツな指先

カゲマル

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手伝うよ

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 看護師の憎悪に満ちた視線を背中に感じながら上の階に上がると、何とスーツ姿の女がいた。
 膝丈のタイトスカートに包まれた尻の形は、いかにも普通のOLといったところだ。
 ……だがそれがいい。
 たまにはこういう普通のに行っといた方がいいんだよ。あまり美女ばかり行きすぎると贅沢になるからな。
 そう考えてこっそりと顔を確認すると、いかにも普通だった。
 ……よし、行っとくか。
 もう一度よく観察してみると、恐らくは医療機器の営業か何かだろう。あまり患者という雰囲気じゃない。
 すると、女はこちらをじっとこちらを見た。
 目つきからすると男嫌いか、自分より年収が低そうな男が嫌いなのだろう。よくある話だ。
 だがそんなので怯む俺ではない。
 あとは隙があれぱいいんだが……。
 看護師と違い、患者に話しかけられることはないだろうから、はやく病院側のスタッフが声をかけてくれると助かるんだが……。
 すると、そこに一人の老人が現れた。

「ちょいといいかの、お嬢さん」
「はい?」

 一瞬だけ迷惑そうな顔をした女も、お年寄り相手だからか、形だけの笑顔を見せた。本当に形だけの。ていうか「ちょいといいかの」なんて言う爺さんは実在したのか……。
 とりあえずチャンスが来る可能性があるので、窓を点検するふりをして近づいてみると、ただの雑談が聞こえてきた。

「アンタんとこの会社はよく見かけるねえ」
「あ、はい……」

 どうやら用があったわけではなく、ただ話がしたいだけだったようだ。まあ入院生活の間は仕方ないのかもしれない。何にせよ爺さん、グッジョブだ。
 後はわかりやすい隙ができればいけるんだが……。
 そう考えながら女の方に視線をさりげなく向けると、なんと爺さんがこちらに向かってさりげなく手招きしている。女からは死角にあたる位置で、手慣れた感じがした。
 ……よくわからんが乗るしかない。このシークレットウェーブに。
 俺はいつものように手の甲で尻を撫でてから、その場を後にして……しばらく階段の踊り場にいることにした。
 すると、予想どおりに爺さんがやってきた。

「さっきは助かりました」
「いや、何年寄りが若者を助けるのは当然のことだ」

 爽やかなテンションでクズなやりとりをしてから改めて爺さんを見ると、年は結構いってそうだが、背筋はしゃんと伸びていることに気づいた。目つきもまだ好奇心に満ちていて、そのせいか若々しさを感じる。
 爺さんは口元を緩め、落ち着いた声のトーンのまま呟いた。

「手伝うよ」
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