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事実、一年間も夜の務めを果たせていないアンネロッタに嫌味を言うことはあっても、それを理由にアンネロッタにシルバレットが離縁を突き付けていなかったり、アンネロッタも王城の離宮に篭ってこそいるものの、代々王妃が所有する事を許されている領地の屋敷に逃げ込む様子が見られない。それらの点からちょっとしたすれ違いで喧嘩をしてしまったけどお互いに引っ込みが付かなくて意地を張りあっている状態というのが現在の国王夫妻の状況だろう。それを何となく察している宰相は乾いた笑い声を王城の廊下に響かせているシルバレットに近付くとコソリと小さな声でシルバレットに囁いた。
「……陛下、そろそろ会議の時間ですので王妃様との会話はこの辺で……」
「ハハハッーー……会議の時間?ああ、そうか……もうそんな時間か……ああ、分かった。大事な会議の時間を遅らせるわけには行かないしな。こんな強情な王妃は放ってさっさと会議に行くとしよう」
「ええ、私もこれから貴婦人の方々とお茶会がありますので、意地っ張りな陛下との会話はここまでにして失礼させて頂きたいと思いますわ」
売り言葉に買い言葉。最後の最後まで嫌味の応酬を繰り返した国王夫妻は互いに「フン」と鼻を鳴らすと、そのまま用事を済ませる為に足早に廊下を去って行った。
ーーー
その日の晩。
自室の椅子に腰掛けながら、白檀の小箱に納められた細やかな宝石が施された銀の髪飾りを見つめるシルバレットは大きく溜め息を吐いた。
「はぁ……一体何をやっているんだ僕は……ドレス一つまともに褒めることすら出来ないのか……」
昼間、両親を喪った悲しみと国王という重圧に耐え切れず身も心も荒れに荒れて、周囲から遠巻きにされていた頃からずっと自分を見捨てず支えてくれた最愛の妻のドレスを全く褒めずに嫌味を言ってしまった事をシルバレットは後悔していた。本当はアンネロッタの真珠の様な白い肌によく映えていた美しいドレスをシルバレットは褒めたかった。そして「お前に渡したいものがある」と言って、この髪飾りを渡して一年前の事を謝りたかった。なのになんで素直になれないんだ……と、シルバレットが深い後悔に包まれていた時。ガシャーン!とけたたましい音を立てて突然自室に飾ってあった鷹を模した硝子の彫像が粉々に砕け散った。
「!?」
何もしていないのに、突然砕け散った彫像に吃驚して思わず護身用の剣に手を伸ばしたシルバレットだったが、台座の上に散らばった硝子片の中にキラリと光る何かを見つけて、護身用の剣に伸ばした手を止める。
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