緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

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第二章 双焔

第十二話 紅蓮、燃え残る勝者

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 クロノメーターは残り一分五〇秒。レティシアはローブを翻して中央へ踏み出す。真紅の裾から立ち上る火花の渦が、空気を震わす。
 アルヴィナは対角線上。低い姿勢をとって赤髪をたなびかせる。左眼の輝きが臨界に達し、炎が吹き出し始めた。
「おいおい、眼が燃えているぞ」
「あんな魔法……見たことがない」
 観客席からどよめきが溢れる。試合場と客席を隔てる結界柱が、悲鳴のような高音を鳴らして軋んだ。
 〈レティシア視点――〉

 技振りと同時に〈運命流うんめいりゅう〉を起動、青白い線が再び視界を埋め尽くす。
(読んだって無駄! この一撃で決める)
 レティシアは〈弧炎こえん〉――ありったけの触媒を使った炎の鞭で何重にも炎の輪を空高く描く。そのまま叩きつけるように振り下ろす、落下エネルギーを加えた最大火力技。
 騙し討ちで得た勝利になど意味はない。アンティクア家の矜持、兄のように正面から受けて勝つのが彼女の誇り。何よりそうでないと、自分を赦すことができないのだから。

 〈アルヴィナ視点――〉

 頭の中で未来線が赤い閃光に反転。降ってくる幾重もの輪で、視界いっぱいに真紅が広がる。
(全部は避けられない。なら……貫く!)
 地を蹴り、超近接まで踏み込む。短杖を逆手に構え、肺の奥で炎を圧縮。自分がドラゴンと信じる存在に似せ、どこまでも貫いていく火槍をイメージする。
 観客席から見える光景は、まるで夜空に浮かぶ巨大な盾と、深紅の槍とが向き合っている構図だ。お互いが視ている〈運命流うんめいりゅう〉はひとつに収束している。二人が紡ぎ出すエネルギーに芝が燃え上がり、焦げた臭いが模擬戦場を満たした。
 結界柱の色がとうとう赤色へ。パトロナが結界強化を加えるが、抑えきれずに熱風となって観客席を襲った。観客が一斉に身を屈める。
 ゴォォォォオオ!!
「限界だ!試合中し――」
 パトロナの静止より先に、落下してきた火輪に火槍が突き刺さる。金属同士がぶつかって擦れ合うような音が響き、目を開けられないほどの白熱が広がる。
 そして、時間が止まったような静寂。
 光が収まり、お互いの炎が霧散したその時。レティシアの胸で、最後の御守りが砕け散った。その僅かに遅れてアルヴィナの左腕に残る御守りも割れたが、判定は既に下っていた。

『勝者――アルヴィナァァッ!!』

 凍った空気が跳ね返り、轟く喝采が夜空を震わせた。
 ユスティナは大穴配当の札を掲げ、講堂修理費の試算表を握り締めた。
 火煙の中心で、膝をつくレティシアにアルヴィナが元気いっぱいに駆け寄り手を伸ばす。
「ありがとう、楽しかった!」
 レティシアは悔し涙と笑みを混ぜ、手を取り立ち上がる。
「くやしい! 次はぜっったいあたしが詰ませるわ。……それまでにあなたももっと炎を上手く使えるようになりなさいよ」
 二人は笑い合い、観客席から割れんばかりの拍手に手を上げて応える。
「そうだ、いつの間にか口調が変わってるけど、レティシアさんって性格変わる人?」  
「……元々こういう喋り方なの。それから、あたしのことは〝レッチ〟って呼んでね」  
「うん、よろしくねレッチ。わたしはアルでいいよ」

 模擬戦場の中心で今も熱が冷めぬ中、スタンドの影で黒服監査官が計測器の数字を記録する。
「対象A・臨界超過23%、制御可能。しかし安全域外。引き続き監視」

 スタンドの最後尾、もっとも高い位置に黒猫が座っている。金色の視線の先は少女たちの姿を視ているのか、それとも黒服なのか。満足げに尾を振ると夜の闇へと消えていった。
 結界が解除され、広場上空に〈〉が輝く。大穴の賭けに勝って、機嫌を良くした生徒が次々と花火を打ち上げた。
 色とりどりの光の下、二人の少女は焦げた芝に立ち、まだ熱を帯びた手を固く握り合っていた。



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▶︎次章『第三章 旅立ちと試練』につづく。
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