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第三章 旅立ちと試練
第十三話 はじめてのクエスト
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決闘騒動からひと月。お祭り騒ぎもようやく落ち着き、春から夏に移る季節。あの一件以来、アルヴィナとレティシア、そしてユスティナの三人は校内で行動を共にするようになっていた。
レティシアは入学当初のいかにも貴族ぜんとした振る舞いが和らぎ、親しい友人には家族と接する時に近い気楽さを見せるようになった。ユスティナも、これまでは授業時間以外になるとどこかへ姿を消していたのが、二人を挟むことで少しずつ他の生徒とも交流をするようになった。
そして、中心のアルヴィナはというと――
「アルは魔法は凄いんだけど、座学はポンコツねえ」
「ほんと。赤点回避できたのが奇跡だぞ」
学園生活で最初の学力試験に四苦八苦していた。これまで勉強などしたことのない人生において、学力を測られるという事態にどう対処したらいいか何も知らなかったのだ。一定水準以上をクリアできないと、追加の講義を受けなければならないか、最悪は次の年も同じカリキュラムを受けなければならなくなる。そんな事にもなれば、ドラゴン探しなど後回しになってしまうだろう。
「うう……レッチもユスティナさんも、ありがとうね?」
軽快に笑うレティシアと、愛称を呼ばれるレティシアを横目に少し寂しそうな表情のユスティナ。そんな友人の胸中はつゆ知らず、アルヴィナは緊張から開放されてふにゃふにゃな笑顔を返す。何はともあれ、心強い二人に支えられながら少女はなんとか無事に学園生活を過ごしていた。
(入学したての頃は大変だったけど、今は楽しいな)
そんな試験明けの放課後。アルヴィナが思いに耽りながら、廊下を歩いていると、後ろから知らない声が響いた。
「ああああああ、あ、あの!」
裏返った声に驚き、アルヴィナは振り返る。そこには白衣を着た小柄な少女が震えながら立っていた。
「おおお、お願いします! 〈猫眼石〉、高純度で直径三センチ以上、〝虹彩六条〟のものを!」
「えっ、えっ?」
聞き慣れない単語を早口でまくしたてる少女。〈猫眼石〉のことならわかる。魔法の作用を封じ込めて道具として使えるようにした〈魔法器〉の材料となる石のことだ。内部に猫の目のような紋様があるその結晶のことをアルヴィナは頭に思い浮かべた。
「お願いします! 一生のお願いですからぁ~!」
制服の裾をがっしりと掴まれ、動けないアルヴィナは困惑するしかなかった。
もみくちゃになっている二人を見つけ、レティシアとユスティナが助けに来た。二人がかりで小さな身体を引き剥がす。
「目的を説明されないとわからない。君は誰だ?」
冷静に問いただすユスティナに、少女は小動物のようにふるふると震え、潤んだ目で説明を続けた。
「う、ウチはエリスといいます……。〈猫眼石〉はスペクトルの〝揺らぎ〟ごと封じ込める性質があって、それを並列化すれば長距離通信網が――」
専門用語が次々と出てくる返事に、ユスティナは途中で割り込んだ。
「違う……アルヴィナに何をして欲しいのか聞いているのだ」
ユスティナが腕を組み眉を上げる。
「こ、高品質の〈猫眼石〉がとれる〝ベルガ鉱洞〟ってところに、行きたい、です」
「私達に頼む理由は?」
「魔物が、たくさん出る、です。 みなさん、強いって、評判ですし。えへへ」
目を合わせず、たどたどしく喋りながらも、エリスはとんでもない願いを告げたのだった。
翌朝、四人は校外活動の申請をしに教務棟に集まった。一年生担当のパトロナが書類を勢いよく〝バンッ〟と机に置く。
「目的地と行動計画を書いて提出すること。学園外で起きた事故はフォローしきれない。分かっているな?」
「はい!」「はい」「……はい」「ぁぃ」
四人がバラバラの調子で返事し、パトロナはため息をついた。
「帰還期限は五日。御守りを必ず携行しろ……命よりは安い保険料だぞ」
早速ユスティナがせっせと書類を作成している隣で、レティシアがエリスの背を叩く。
「あんたの研究、面白そうじゃん。首席の私に任せときなさい」
「あっ、ありがとうございます。フヒヒ」
エリスは顔を赤くして、目を反らしながらも彼女なりのお礼をした。
無事申請が受理された、同日の午後。イグニス寮の中庭には旅装を整えた四人が並んでいた。
アルヴィナ:革ジャケットに短杖と身軽な装い。食堂で用意してもらった
おべんとうの包を握りしめる。
レティシア:動きやすいレギンスに真紅の短マントをコーデ、予備の魔法触媒
入りのポーチ。
ユスティナ:歩行補助にも魔法にも使える長い杖に、地図と計測レンズ。
肩掛け鞄の中には何枚もの折りたたみ結界幕。
エリス :様々な工具類が固定されたベストと大きなバックパック、それと
試作魔法器を大事そうに抱える。
それに加え、一人ずつ冒険者セット(簡単な寝具、水を入れる革袋、照明に使える小型の〈ライト〉)を、おのおのの鞄に詰め込んでいる。そして四人の胸には、万が一のとき身元の特定ができるよう、アストラフォラのシンボルと同じ星がデザインされた遠征徽章が着いていた。
ユスティナが〈猫眼石〉についての確認をする。
「〝虹彩条数〟とやらで純度が判る。光を当てると六本以上の線が浮く鉱脈が要件だな?」
エリスが頷く。
「い、一般の市場では、出回らない、高純度のもの、が、必要です」
「了解よ。……今更だけど……アルヴィナ、なぜ引き受けたの?」
レティシアが白い髪の方を向く。
「え? だって困ってたから……それと、もうすぐわかると思うよ」
正門を抜けた瞬間、漆黒の猫がひょいと石畳に現れた。四人の前を横切って街道へと歩いていき、金色の瞳が一度だけ振り返る。
それを見て、アルヴィナが小声で囁く。
「やっぱり来た。どうしようかなと迷った時に、あの子が見てるんだよね」
「黒猫……」
「案内人ってわけ? 面白い!」
陽光の下、四人は猫の後を追って舗装の途切れた街道へと踏み出した。時計塔の鐘が三度鳴るのが聞こえる。夏の風が冒険の一ページを捲るように木々を揺らした。旅は始まったばかりだ。
レティシアは入学当初のいかにも貴族ぜんとした振る舞いが和らぎ、親しい友人には家族と接する時に近い気楽さを見せるようになった。ユスティナも、これまでは授業時間以外になるとどこかへ姿を消していたのが、二人を挟むことで少しずつ他の生徒とも交流をするようになった。
そして、中心のアルヴィナはというと――
「アルは魔法は凄いんだけど、座学はポンコツねえ」
「ほんと。赤点回避できたのが奇跡だぞ」
学園生活で最初の学力試験に四苦八苦していた。これまで勉強などしたことのない人生において、学力を測られるという事態にどう対処したらいいか何も知らなかったのだ。一定水準以上をクリアできないと、追加の講義を受けなければならないか、最悪は次の年も同じカリキュラムを受けなければならなくなる。そんな事にもなれば、ドラゴン探しなど後回しになってしまうだろう。
「うう……レッチもユスティナさんも、ありがとうね?」
軽快に笑うレティシアと、愛称を呼ばれるレティシアを横目に少し寂しそうな表情のユスティナ。そんな友人の胸中はつゆ知らず、アルヴィナは緊張から開放されてふにゃふにゃな笑顔を返す。何はともあれ、心強い二人に支えられながら少女はなんとか無事に学園生活を過ごしていた。
(入学したての頃は大変だったけど、今は楽しいな)
そんな試験明けの放課後。アルヴィナが思いに耽りながら、廊下を歩いていると、後ろから知らない声が響いた。
「ああああああ、あ、あの!」
裏返った声に驚き、アルヴィナは振り返る。そこには白衣を着た小柄な少女が震えながら立っていた。
「おおお、お願いします! 〈猫眼石〉、高純度で直径三センチ以上、〝虹彩六条〟のものを!」
「えっ、えっ?」
聞き慣れない単語を早口でまくしたてる少女。〈猫眼石〉のことならわかる。魔法の作用を封じ込めて道具として使えるようにした〈魔法器〉の材料となる石のことだ。内部に猫の目のような紋様があるその結晶のことをアルヴィナは頭に思い浮かべた。
「お願いします! 一生のお願いですからぁ~!」
制服の裾をがっしりと掴まれ、動けないアルヴィナは困惑するしかなかった。
もみくちゃになっている二人を見つけ、レティシアとユスティナが助けに来た。二人がかりで小さな身体を引き剥がす。
「目的を説明されないとわからない。君は誰だ?」
冷静に問いただすユスティナに、少女は小動物のようにふるふると震え、潤んだ目で説明を続けた。
「う、ウチはエリスといいます……。〈猫眼石〉はスペクトルの〝揺らぎ〟ごと封じ込める性質があって、それを並列化すれば長距離通信網が――」
専門用語が次々と出てくる返事に、ユスティナは途中で割り込んだ。
「違う……アルヴィナに何をして欲しいのか聞いているのだ」
ユスティナが腕を組み眉を上げる。
「こ、高品質の〈猫眼石〉がとれる〝ベルガ鉱洞〟ってところに、行きたい、です」
「私達に頼む理由は?」
「魔物が、たくさん出る、です。 みなさん、強いって、評判ですし。えへへ」
目を合わせず、たどたどしく喋りながらも、エリスはとんでもない願いを告げたのだった。
翌朝、四人は校外活動の申請をしに教務棟に集まった。一年生担当のパトロナが書類を勢いよく〝バンッ〟と机に置く。
「目的地と行動計画を書いて提出すること。学園外で起きた事故はフォローしきれない。分かっているな?」
「はい!」「はい」「……はい」「ぁぃ」
四人がバラバラの調子で返事し、パトロナはため息をついた。
「帰還期限は五日。御守りを必ず携行しろ……命よりは安い保険料だぞ」
早速ユスティナがせっせと書類を作成している隣で、レティシアがエリスの背を叩く。
「あんたの研究、面白そうじゃん。首席の私に任せときなさい」
「あっ、ありがとうございます。フヒヒ」
エリスは顔を赤くして、目を反らしながらも彼女なりのお礼をした。
無事申請が受理された、同日の午後。イグニス寮の中庭には旅装を整えた四人が並んでいた。
アルヴィナ:革ジャケットに短杖と身軽な装い。食堂で用意してもらった
おべんとうの包を握りしめる。
レティシア:動きやすいレギンスに真紅の短マントをコーデ、予備の魔法触媒
入りのポーチ。
ユスティナ:歩行補助にも魔法にも使える長い杖に、地図と計測レンズ。
肩掛け鞄の中には何枚もの折りたたみ結界幕。
エリス :様々な工具類が固定されたベストと大きなバックパック、それと
試作魔法器を大事そうに抱える。
それに加え、一人ずつ冒険者セット(簡単な寝具、水を入れる革袋、照明に使える小型の〈ライト〉)を、おのおのの鞄に詰め込んでいる。そして四人の胸には、万が一のとき身元の特定ができるよう、アストラフォラのシンボルと同じ星がデザインされた遠征徽章が着いていた。
ユスティナが〈猫眼石〉についての確認をする。
「〝虹彩条数〟とやらで純度が判る。光を当てると六本以上の線が浮く鉱脈が要件だな?」
エリスが頷く。
「い、一般の市場では、出回らない、高純度のもの、が、必要です」
「了解よ。……今更だけど……アルヴィナ、なぜ引き受けたの?」
レティシアが白い髪の方を向く。
「え? だって困ってたから……それと、もうすぐわかると思うよ」
正門を抜けた瞬間、漆黒の猫がひょいと石畳に現れた。四人の前を横切って街道へと歩いていき、金色の瞳が一度だけ振り返る。
それを見て、アルヴィナが小声で囁く。
「やっぱり来た。どうしようかなと迷った時に、あの子が見てるんだよね」
「黒猫……」
「案内人ってわけ? 面白い!」
陽光の下、四人は猫の後を追って舗装の途切れた街道へと踏み出した。時計塔の鐘が三度鳴るのが聞こえる。夏の風が冒険の一ページを捲るように木々を揺らした。旅は始まったばかりだ。
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