緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

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第三章 旅立ちと試練

第十四話 街道はハレの日

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 アストラフォラ門外に出ると、街道沿に即席の市が広がっていた。
 街の中での商売許可を得られない若い商人が、こうして旅人に向けた屋台を設営しているのだ。色とりどりの天幕の下に、がらくたも交じった様々な品物が並んでいる。他にも食べ物の屋台、楽師の演奏など、これから大きな商いにしてやろうと野心を燃やす人々で活気に溢れていた。
「うわぁ……賑やか!」
 アルヴィナは白い髪を揺らし目を輝かせる。その笑顔に向かって行商人が声を張った。
「今日だけだよ! 南方の果実入り焼きパンさ!」
 エリスは工具を両手に抱えよろよろと走る。
「この材料、〈ビーちゃん〉の小型化に使えるかも……」
 ふらふらと行ってしまう二人をユスティナは呼び止めようとした。しかしそこにレティシアがマントで両手を広げて言った。
「せっかくの冒険なんだから、楽しまなきゃ損っしょ」
「…依頼者本人が楽しんでいるからな。ま、たまには羽を伸ばすのも悪くない。ついでに補給もしておこう」
 ユスティナは苦笑しつつも、地図をしまい背筋を伸ばした。

 昼下がり、道端の切り株をテーブル代わりにして四人分購入した果実パンとおべんとうを仲良く頬張る。   
 初夏の鮮やかな緑や、リュートやタンバリンの楽しい音色が、少女達の会話を弾ませた。エリスはパン屑をぽろぽろと服にこぼしながら、胸の内を明かした。
「ウチは、こ、このとおり……人前でしゃべるのが、すごく、苦手で……」
 ひと言ひと言詰まりながら、それでも彼女は三人を見て思い切って続けた。
「だから、顔を合わせずに、離れた場所からでもお話ができる魔法器まほうきを作るのが、夢なんです」  
「素敵な夢!」
 アルヴィナがルビー色の目を輝かす。
「エリス、絶対それを叶えようよ。何でも協力するね」  
「あたしは新しい炎の舞を作るわ。派手で安全で、誰でも扱える魔法舞踏!」
 笑顔で夢を語る二人を、ユスティナはまぶしそうに見る。
「私にはお前たちのような夢は無いが……みなが安心して目標に向かって取り組める世界であって欲しいと思う」
 アルヴィナも続く。
「わたしは――」  
「ドラゴンでしょ?」「ドラゴンだろ?」
 レティシアとユスティナが同時に口を挟む。
「そう! ドラゴンを探して証明する! それと、大切な人を守れるくらい強くなる!」
 楽しい語り合いの時間。その近くを通り過ぎる旅商がひそひそ囁く。
「白髪の爆裂少女?」  
「アンティクアの令嬢を打ち負かしたという……」
 知らない人々にも自分のことが知れ渡っていることに、アルヴィナの背がこわばる。その様子を見てレティシアは肩を組み豪快に笑い飛ばす。
「その令嬢が隣にいるってのに失礼しちゃうわ。アルは勝ったんだから胸張りなよ。爆裂でも何でも、首席様が保証するから堂々としなさーい!」

 * * *

 ベルガ鉱銅は、アストラフォラから約一日ほど移動し、さらに森の奥に入った場所にある。人口密集地からさほど遠くないものの、洞窟内でどこからともなく魔物が発生することと採掘中に事故が頻発するので放棄されたのだ。かつて鉱銅を所有していた者は、貴重な魔法遣いを常駐させることのコストと、そういった場所に進んでやってくるような魔法遣いは警備より自分も資源採取に夢中になってしまうことに頭を抱え、開発を諦めてしまったのだ。
 探検一行は日暮れ前になった時点で、針葉樹の森へ入る手前で立ち止まった。
「ここから鉱洞まではまだ半日かかる。今夜はここで野営しよう」
 ユスティナがそう提案すると、四人はすぐに火を起こして湯を沸かしはじめた。
 レッチが豪華なマントを敷布にし、寝床を用意する。  
 エリスは例の試作機を出して何か操作し始めた。装置の上面にある窓から〈猫眼石ねこめいし〉がきらりと反射した。
「この機械、〈ビーちゃん〉……同じのをたくさん作って〈猫眼石ねこめいし〉を並列化させれば、こんな信号が何千キロも飛ぶの」
 アルヴィナは揺れる火を見つめ、
「そしたら遠い村でも、声がすぐ届くね」
 アルヴィナは故郷のある森の方角の空を眺めた。

 夜。遠くで狼の遠吠えが重なる。
 焚き火がパチ、と爆ぜ、四人は背中合わせで周囲に視線を配った。稀にではあるが、獲物を探し求めて《凶狼サベージ・ルーパス》が森から出ることがあり、運の悪い街道の旅人が襲われる事故があるのだ。まだ未熟とはいえ、魔法遣い四人が見通しの良い場所で野営すればまず危険は無いが――。
 アストラフォラから離れ、人とすれ違うことも殆どない。それなのにも関わらず、視界の隅に動くものがあった。森との境界の木立の陰に、黒服の大人が二人立っている。顔は見えないが、手にはあの黒エナメルの計測器。〈蛇を締め上げる杖〉の徽章が一瞬だけきらめく。
 レティシアが腰を浮かせながら低く呟く。
「観客? それとも……監視?」
 ユスティナが計測レンズを向けて、闖入者を確認する。
「距離二百八十メートル、こちらを向いている」
 こちらが察知したことに気がついたのか、黒服は森の奥へと消えた。風が冷え、狼の声が近くなる。
 アルヴィナとレティシアは、念の為に夜営場所を中心に、等間隔で六つ火を灯した。火を嫌う魔物を寄せ付けないためのセオリー。明るさで眠りにくいが、体を休められるだけましだった。
 灯火の点いた棒を地面に挿していく途中で、地面に点々と黄色く淡い光をアルヴィナが見つけた。猫の足跡のような可愛らしいシルエット、それが暗くなった森の奥へ向かって続いている。
「明日のルート、決まったみたいね」
「猫の道標、信じてみよう」
 焚き火を囲んで四人は肩を寄せる。夜闇に潜む気配と、新しい冒険の高揚が交錯する中、月のない空にちらりと流星が尾を引いた

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