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第三章 旅立ちと試練
第十五話 崩れる鉱洞
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翌朝、夜明けとともに一行は森へと入った。昔は鉱夫が行き交うことで道が作られていたであろうが、今ではすっかり森に埋もれてしまっていた。さらに白い霧が出ており、日が高くなるまでは一〇メートルも先が見えない。視界の悪い探索になったが、猫の道標は日が昇っても光り続けており、迷うことなくアルヴィナ達は順調に歩を進めていた。
そして陽が真上に来た頃。森の中にぽっかりと空間が現れ、岩肌が露出した丘へ出た。開坑当時の人の手で切り開かれたのだろう、周囲が伐採された斜面に坑道の小さな入口があった。封鎖された扉は半ば壊れ「危険!立入禁止」の札が朽ちて打ち捨てられている。
エリスが胸に抱く〈ビーちゃん〉をそっと撫でた。
「ここで昔に、高純度が採れた記録があるんです……」
レティシアが短杖の先で戸を突くと、ぼろぼろと木の扉に穴が空く。
「危険な匂いがぷんぷん」
ユスティナが計測レンズを入口周辺の地面にかざす。
「残留スペクトルは希薄……発掘に使う魔法器が残っていたとしても、風化しているだろう。最近人が入った様子もないな」
「じゃあ行きましょう」
アルヴィナが先頭で、一行は坑口へ踏み込んだ。
石壁の湿気が肌にまとわりつく。ほの暗い通路でユスティナが計測レンズのリングを回し、空気の揺らぎを確かめた。
「酸素濃度は地上より七%低い。燃焼型の魔法を乱発したら、自分たちが窒息する」
「わかってる。ここじゃ〈弧炎〉は出さない」
「え? じゃあレッチはどうやって戦うの?」
「――〈雷螺〉。螺旋状の電撃の刃よ。空気を食わないからダンジョン向け」
「ら、らいら……? か、カワイイ」
「なるほど電撃なら熱は局所、酸素消費は無視できる」
「任せといて。アルは思いっきり暴れていいわ。あたしが縫い止めるから」
「うん、背中は頼んだ!」
四人が頷き、再び前進しはじめたところで、本来あるべき床がずぶずぶと沈む――足裏にわずかな違和感。
アルヴィナは咄嗟に〈運命流〉を発動させた。時間がゆっくり進む感覚、違和感のあった足から赤い波紋が広がり、崩落の未来像が見える。
「崩れる!」
同時に足元の地面が抜け、四人はぽっかりと開いた裂け目から落下した。
一緒に転がり落ちてきた岩の塊がエリスめがけて降ってくる。ユスティナが咄嗟にポーチから〈結界幕〉を引き抜いた。半透明の半球が発生し、落石の直撃を逸らす。
「あ、ありがとう!」
エリスは震える手で〈ビーちゃん〉 を庇う。ユスティナは間髪入れずに叫ぶ。
「幕は三十秒しか保たない。下がれ!」
レティシアの〈雷螺〉が螺旋を描きながら落石を打ち砕いていく。撃ちもらした大きな岩は、赤く輝く髪のアルヴィナが大きな岩を炎を纏った蹴りで払っていく。赤と青二つ輪が重なり、砂埃が舞い上がった。
崩落の衝撃が静まる頃、視界が晴れて四人が一箇所に集まる。傷ひとつなく無事しのぎきったことをお互い確認し、落ちてきた穴を見上げた。携帯用の小型〈ライト〉の光量では、上の坑道まで届かない。よじ登るにも、道具も無しでの登攀は危険だ。
改めて落ちてきた底を、四人は照らしながら探索した。すると、壁一面に刻まれた壁画が浮かび上がった。
巨大な蛇。まわり配置されたいくつもの山や森と対比して描かれ、そのどれよりも高い背中から伸びている尾は壁の端まで届いている。両目が異様に大きく、ぽっかりと開けられた暗い空洞に吸い込まれそうだった。
「……蛇? いつの時代の壁画かしら」
「歴史上にも巨大な蛇が登場する記録は、読んだことが無いが……」
レティシア達が呟く。
(なんだがすごく禍々しい)
アルヴィナは思わず身震いをして目を逸らした。見た目の恐ろしさならばドラゴンも劣らないが、この蛇からアルヴィナは崇高さや畏怖よりも、ただただ邪悪な印象を受けた。
なるべく見ないようにしていると、壁の一角で黄色の淡く光る小さな肉球跡が点々と続いているのが見えた。
エリスが〈ビーちゃん〉 を壁際に設置し、試験用の緑の光を当てる。〈ビーちゃん〉 が〝ピ〟と音を返した。緑ランプが瞬き――エリスの顔が輝く。
「基準波、良好。すごいきれい! この奥にぜったいある!」
「さっきみたいな崩落がまた無いとも限らない。一旦退路を確保するもの手だぞ」
ユスティナは慎重策を勧める。だが、レティシアはローブの埃を払い、光る目印の方へ立った。
「行かなきゃ〈猫眼石〉は手に入らない。リスクを取ってでも進むべきだわ」
アルヴィナも短杖を握り直す。
「大丈夫。何が来ても一緒なら」
四人は不吉な大蛇に背を向け、さらに暗い深部へと踏み出す。背後で黒猫が壁画を一瞥し、再び闇に溶ける姿に四人は気が付かない
そして陽が真上に来た頃。森の中にぽっかりと空間が現れ、岩肌が露出した丘へ出た。開坑当時の人の手で切り開かれたのだろう、周囲が伐採された斜面に坑道の小さな入口があった。封鎖された扉は半ば壊れ「危険!立入禁止」の札が朽ちて打ち捨てられている。
エリスが胸に抱く〈ビーちゃん〉をそっと撫でた。
「ここで昔に、高純度が採れた記録があるんです……」
レティシアが短杖の先で戸を突くと、ぼろぼろと木の扉に穴が空く。
「危険な匂いがぷんぷん」
ユスティナが計測レンズを入口周辺の地面にかざす。
「残留スペクトルは希薄……発掘に使う魔法器が残っていたとしても、風化しているだろう。最近人が入った様子もないな」
「じゃあ行きましょう」
アルヴィナが先頭で、一行は坑口へ踏み込んだ。
石壁の湿気が肌にまとわりつく。ほの暗い通路でユスティナが計測レンズのリングを回し、空気の揺らぎを確かめた。
「酸素濃度は地上より七%低い。燃焼型の魔法を乱発したら、自分たちが窒息する」
「わかってる。ここじゃ〈弧炎〉は出さない」
「え? じゃあレッチはどうやって戦うの?」
「――〈雷螺〉。螺旋状の電撃の刃よ。空気を食わないからダンジョン向け」
「ら、らいら……? か、カワイイ」
「なるほど電撃なら熱は局所、酸素消費は無視できる」
「任せといて。アルは思いっきり暴れていいわ。あたしが縫い止めるから」
「うん、背中は頼んだ!」
四人が頷き、再び前進しはじめたところで、本来あるべき床がずぶずぶと沈む――足裏にわずかな違和感。
アルヴィナは咄嗟に〈運命流〉を発動させた。時間がゆっくり進む感覚、違和感のあった足から赤い波紋が広がり、崩落の未来像が見える。
「崩れる!」
同時に足元の地面が抜け、四人はぽっかりと開いた裂け目から落下した。
一緒に転がり落ちてきた岩の塊がエリスめがけて降ってくる。ユスティナが咄嗟にポーチから〈結界幕〉を引き抜いた。半透明の半球が発生し、落石の直撃を逸らす。
「あ、ありがとう!」
エリスは震える手で〈ビーちゃん〉 を庇う。ユスティナは間髪入れずに叫ぶ。
「幕は三十秒しか保たない。下がれ!」
レティシアの〈雷螺〉が螺旋を描きながら落石を打ち砕いていく。撃ちもらした大きな岩は、赤く輝く髪のアルヴィナが大きな岩を炎を纏った蹴りで払っていく。赤と青二つ輪が重なり、砂埃が舞い上がった。
崩落の衝撃が静まる頃、視界が晴れて四人が一箇所に集まる。傷ひとつなく無事しのぎきったことをお互い確認し、落ちてきた穴を見上げた。携帯用の小型〈ライト〉の光量では、上の坑道まで届かない。よじ登るにも、道具も無しでの登攀は危険だ。
改めて落ちてきた底を、四人は照らしながら探索した。すると、壁一面に刻まれた壁画が浮かび上がった。
巨大な蛇。まわり配置されたいくつもの山や森と対比して描かれ、そのどれよりも高い背中から伸びている尾は壁の端まで届いている。両目が異様に大きく、ぽっかりと開けられた暗い空洞に吸い込まれそうだった。
「……蛇? いつの時代の壁画かしら」
「歴史上にも巨大な蛇が登場する記録は、読んだことが無いが……」
レティシア達が呟く。
(なんだがすごく禍々しい)
アルヴィナは思わず身震いをして目を逸らした。見た目の恐ろしさならばドラゴンも劣らないが、この蛇からアルヴィナは崇高さや畏怖よりも、ただただ邪悪な印象を受けた。
なるべく見ないようにしていると、壁の一角で黄色の淡く光る小さな肉球跡が点々と続いているのが見えた。
エリスが〈ビーちゃん〉 を壁際に設置し、試験用の緑の光を当てる。〈ビーちゃん〉 が〝ピ〟と音を返した。緑ランプが瞬き――エリスの顔が輝く。
「基準波、良好。すごいきれい! この奥にぜったいある!」
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ユスティナは慎重策を勧める。だが、レティシアはローブの埃を払い、光る目印の方へ立った。
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