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第三章 旅立ちと試練
第十九話 猫眼石の灯
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東の空が群青から朝日の黄金に染まる。アストラフォラ魔法学園前は、まだ登校する学生の姿はない。アルヴィナはエリスを背負い、息を切らしつつ走った。
「ただいまっ!」
四人とも粉塵まみれ、体のあちこちに傷だらけの様相に、門衛が驚きしながらも医務室へ急報する。すぐに担架を担いだ看護師が駆けつけた。
「足首の骨折と裂傷。だけど命に別状なし。良かった……!」
白布のベッド。エリスは鎮痛薬で朦朧としながらも〈ビーちゃん〉を手放さない。
「採取したサンプル……絶対、役に立てるから……」
ユスティナが点滴を調整しつつ微笑む。
「まずは休め。〈猫眼石〉は逃げない」
レティシアは見舞いの蜂蜜パンを差し出した。
「復活祝いはこれでしょ」
「あんたらも軽症で済んでるのが奇跡なんだからね! もう無茶するんじゃないよ!」
エリスの容態を見に来た看護師のお説教が飛ぶ。その声は今のアルヴィナには馬耳東風で、やりきった満足感に胸がいっぱいで青空を見上げていた。
翌朝、松葉杖をつくエリスを介助しつつ四人は教務棟へ出向いた。事前にユスティナから報告を受けていた、パトロナと学園長がエリスを待っていた。
「ええっと……〝猫眼石共鳴層による量子近似通信の提案〟……舌を噛みそうだが、《星綾祭》で実演するそうだな。――学園長、内容がわかりますか?」
「わしは子どもの挑戦には支援を惜しまぬ主義でね」
パトロナが優しい笑顔で、承認印の入った申請書をエリスに返す。
「いいでしょう。エリス、学園は君の申請を受理するよ……よくがんばったね」
「やった…」
震える指で書類を受け取り、印影を撫でる。涙ぐむエリスを、アルヴィナ(腕に手を絡める)、レティシア(背中をポンと叩く)、ユスティナ(頭を撫でる)は、それぞれ思い思いのやり方で労った。
それから二月ほど経ち、夏も真っ盛りになった頃。実験棟で教員達を集めて、学会発表前の批評が行われた。
研究棟の暗室。エリスは、命がけで採取したサンプルの結晶行列、と〈ビーちゃん〉とを接続した。〈猫眼石〉の虹彩が輝き、中庭を挟んで向かい側の棟にある教室に設置された受信機の石が同調。接続が確立され〈ビーちゃん〉に緑のランプが点く。別の教室で、装置の起動を待っているアルヴィナとレティシアが手を降って知らせた。教員たちがどよめく。
「今ので……本当に届いたのか?」
「ふむ、成程! 成程?」
エリスは笑顔で頷くが、ポケットの中にある塊の感触を確かめた。巾着袋に入れられた掌大の赤黒い結晶――《千脚の穿者》の体内から出てきた結晶――いうなれば〈穿晶核〉か。
緊張した時に心を落ち着かせるため、すっかり癖になってしまった動作。
(ここからはウチの戦い。絶対に成功させるんだ)
エリスは思い出の結晶をぎゅっと握り、気を抜けばこわくて萎えそうになる気持ちを奮い立たせた。
深夜、実験室を閉じる準備。手伝うアルヴィナがふとサンプルの方から視線を感じた。虹彩の奥にある目の紋様が、一瞬ぎょろりと動いたような気がしたが、その後何度見返しても変わらない結晶だった。
「気のせいかな……?」
いつの間にか窓辺にいた黒猫の金の瞳が瞬きを繰り返した。
「ただいまっ!」
四人とも粉塵まみれ、体のあちこちに傷だらけの様相に、門衛が驚きしながらも医務室へ急報する。すぐに担架を担いだ看護師が駆けつけた。
「足首の骨折と裂傷。だけど命に別状なし。良かった……!」
白布のベッド。エリスは鎮痛薬で朦朧としながらも〈ビーちゃん〉を手放さない。
「採取したサンプル……絶対、役に立てるから……」
ユスティナが点滴を調整しつつ微笑む。
「まずは休め。〈猫眼石〉は逃げない」
レティシアは見舞いの蜂蜜パンを差し出した。
「復活祝いはこれでしょ」
「あんたらも軽症で済んでるのが奇跡なんだからね! もう無茶するんじゃないよ!」
エリスの容態を見に来た看護師のお説教が飛ぶ。その声は今のアルヴィナには馬耳東風で、やりきった満足感に胸がいっぱいで青空を見上げていた。
翌朝、松葉杖をつくエリスを介助しつつ四人は教務棟へ出向いた。事前にユスティナから報告を受けていた、パトロナと学園長がエリスを待っていた。
「ええっと……〝猫眼石共鳴層による量子近似通信の提案〟……舌を噛みそうだが、《星綾祭》で実演するそうだな。――学園長、内容がわかりますか?」
「わしは子どもの挑戦には支援を惜しまぬ主義でね」
パトロナが優しい笑顔で、承認印の入った申請書をエリスに返す。
「いいでしょう。エリス、学園は君の申請を受理するよ……よくがんばったね」
「やった…」
震える指で書類を受け取り、印影を撫でる。涙ぐむエリスを、アルヴィナ(腕に手を絡める)、レティシア(背中をポンと叩く)、ユスティナ(頭を撫でる)は、それぞれ思い思いのやり方で労った。
それから二月ほど経ち、夏も真っ盛りになった頃。実験棟で教員達を集めて、学会発表前の批評が行われた。
研究棟の暗室。エリスは、命がけで採取したサンプルの結晶行列、と〈ビーちゃん〉とを接続した。〈猫眼石〉の虹彩が輝き、中庭を挟んで向かい側の棟にある教室に設置された受信機の石が同調。接続が確立され〈ビーちゃん〉に緑のランプが点く。別の教室で、装置の起動を待っているアルヴィナとレティシアが手を降って知らせた。教員たちがどよめく。
「今ので……本当に届いたのか?」
「ふむ、成程! 成程?」
エリスは笑顔で頷くが、ポケットの中にある塊の感触を確かめた。巾着袋に入れられた掌大の赤黒い結晶――《千脚の穿者》の体内から出てきた結晶――いうなれば〈穿晶核〉か。
緊張した時に心を落ち着かせるため、すっかり癖になってしまった動作。
(ここからはウチの戦い。絶対に成功させるんだ)
エリスは思い出の結晶をぎゅっと握り、気を抜けばこわくて萎えそうになる気持ちを奮い立たせた。
深夜、実験室を閉じる準備。手伝うアルヴィナがふとサンプルの方から視線を感じた。虹彩の奥にある目の紋様が、一瞬ぎょろりと動いたような気がしたが、その後何度見返しても変わらない結晶だった。
「気のせいかな……?」
いつの間にか窓辺にいた黒猫の金の瞳が瞬きを繰り返した。
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