緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

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第四章 星綾祭

第二十話 星綾祭

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 アストラフォラ魔法学園は一年に一度、夏に「星綾祭せいりょうさい」というお祭りが開催される。学生や研究者の日頃の活動を発表する文化祭のような催し。一般の人にも自由に開放され、普段はあまり見ることのない魔法遣いの見せる最新の技術やパフォーマンスで盛り上がるイベントだ。
 展示の案内が描かれた看板を掲げて歩き回る生徒、活動費を稼ぐチャンスと食べ物の屋台を出す生徒、単純に祭りを楽しむ生徒。活気と笑い声が交差する朝、アルヴィナはチラシの束を抱えて、友人やクラスメイトに声をかけた。
「エリスの発表は午後二時からだよ。みんな見に来てねー!」
 配られたチラシには、大きく「ネコノメ通信実演。研究棟三階実験室 一四時~」と記されていた。〈猫眼石ねこめいし〉だから「ネコノメ」。猫と猫が向き合って、見つめ合う視線が魔法の糸で繋がっているようなイラストは、アルヴィナの考案だ。  
 受け取った生徒の反応は三者三様だが、の仲間が何かやろうとしている点については、皆興味を持ったようだった。
「やっほーアル。ははぁ、なるほどねえ。アンタ達がなにかしてたのはコレだったんだ」  
 ルシアとシルビアのコンビがやってきた。アルヴィナの手からチラシをひょいと掴み、「何このネコ」とけらけらと笑う。
「そうなの。ごめんね、今日まで絶対に秘密だったから話せなかったの」  
「わかってるって。絶対見に行くね!」
 二人はそう約束すると、またねと去っていった。
 それからも「あれ、爆裂じゃん!」と何かと不名誉な呼びかけをされるたびに、しょんぼりとしつつも、アルヴィナはチラシをせっせと配るのだった。

 その同時刻。研究棟の裏口では、エリスとユスティナの二人が実験装置を組み立てていた。
「ボトルネック解析回路はここに」「こっちに波形測定ユニット」
 ユスティナは二人で完成させた指示書を手順通り読み上げ、エリスがひとつひとつ確認する。緊張した手つきでケーブルつないでいく。
「これで……多少のゆらぎがあっても通信が安定するはず、です」
 ユスティナは、ケーブルの接点に計測レンズを当てて、スペクトラムの抵抗をチェックする。
「よし、ノイズなし。……絶対成功させるぞエリス」
 二人は共に頷いた。

 一方で、学園北棟の屋上。真紅の儀礼ローブを纏ったレティシアは、校舎でもっとも高い場所に設置した通信中継機を覆うカバーを開け、光を取り込ませていた。小さな波紋が空気を伝い、アンテナが立ち上がったように中継機から緑の光が垂直に灯る。
「感度もアゲアゲにしとこう」
 短杖を軽く振ると、アンテナの周囲に通常肉眼ではまず見ることのないスペクトルが虹のように浮かびあがる。劇場で演舞を行う際に、空間の魔法の流れを整え〝渦〟の発生を美しく見せるための秘術だ。  
(エリスなら「スペクトラムを正規化する」とでも表現するだろう)
「これでお膳立ても完璧……エリス、しっかりやるのよ」

 学会発表まで三十分。  
 これまで散々テストはしてきたが、いよいよだと思うと手が震えてしまう。
 エリスは〈ビーちゃん〉を起動し、通信が確立するのを待つ。何事もなく緑色が点灯。今この端末は、北棟の屋上ステージで演舞を披露しているレティシアと繋がっているはずだ。
「レ……レッチ? 聞こえる? エリスだよ」
 数秒後に、レティシアの端末からの応答であろう、観客との声援と拍手の音が返ってくる。ほっと安心したのもつかの間、機材が一瞬ザザッとノイズを拾った。どきりと心臓が跳ねる。
「大丈夫、ここまできたら腹を括るだけだ。うまくいくに決まってる」
 ユスティナがエリスの目線の高さまでかがみ、両肩を叩く。  
〈ビーちゃん〉と中継機たちの起動は成功した。プレゼンだってがんばって練習した。やれることは全部やった。
 残り時間、ただ待っているだけでは不安で気が参ってしまいそうなエリスは、ユスティナにギリギリまで発表内容の確認を手伝ってもらう。ユスティナも緊張しているのか、どことなしか普段より声が上ずっていた。
「時間だ。いくぞ、エリス」
 エリスは小さく頷き、二回、三回と深呼吸をした。

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