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第四章 星綾祭
第二十一話 通信実演
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研究棟に設営された発表会場。チラシと同じ猫のイラストが描かれた「ネコノメ通信発表会場」の看板が入口に立てられている。
気が気でないユスティナが、最後の最後まで装置横からケーブルのスペクトラム抵抗をチェックする。変わりない、問題ない。そう彼女が頷くと、エリスは装置を乗せた台車をスタッフに押してもらいながら、会場入りした。
「お集まりのみなさん。今日は〝猫眼石共鳴層による量子近似通信の提案〟〈ネコノメ通信〉の発表に集まっていただき、ありがとうございます」
エリスはゆっくりとだが、吃音なく話す。
「すべての猫眼石には個体ごとに固有の共鳴周波数があります……対になる猫眼石同士でスペクトルを同期させ、変調と復調を行えば、石から石へ魔法を転送することができる……というのがこの研究のテーマになります」
そこまで喋り、エリスは一度深呼吸をする。
「簡単に言うと〝魔法を遠隔地へ転送する魔法器〟が実現可能です。それをこれからご覧にいれます。詳細はお配りした資料を見ていていただくとして、早速デモンストレーションに移りたいと思います」
会場の袖で、ユスティナが親指を立て「いいぞ」と口の形をするのが見えた。
「〈ビーちゃん〉――ええと、この送信機と同じものが北棟の屋上にもあります。今からこの部屋から〈離れた場所で声を発声させる魔法〉を送ります」
エリスは小さく息を吐き、〈ビーちゃん〉を起動。あらかじめお互いの送信機には、搭載されている猫眼石の周波数を覚えさせており、すぐに接続されたことを示す表示が点る。
エリスは声を震わせながら、囁くように言った。
「レティシア、聞こえますか?」
一瞬の静寂の後、受信装置につながったスピーカー(〈音を大きくする魔法〉の魔法器)から返事の声が返る。
「はっきり聞こえるわ、おめでとうエリス! みんなー! エリスがついにやったわよー!」
演舞の合間だったらしい、レティシアの声と観客たちの合いの手が遅延なく響き、教員席から驚きの声が上がった。
「今のアンティクア家の令嬢の声か!」
「うそだろ、隣の部屋にいるんじゃねえの?」
「いや、彼女は今はステージ中のスケジュールだ……うわあまじかよ」
生徒がざわめきだす。今度は大きな声で――慣れないことで声を上ずらせながら、はっきりと会場中に響く声でエリスがしゃべる。
「会場のみなさんも、聞こえますかー!?」
先ほどと同じように、すぐに「おおー!」「聞こえるよー」といった大勢の声が返ってくる。
「いまのが音声通話のデモンストレーションです。このまま次に移ります」
続いてエリスは装置のモードを切り替え、〈ビーちゃん〉についたプリズム素子の上に、さらさらと指をなぞらせた。
装置前の受信機の空中に文字がふわりと浮かび上がる。
〝こ ん に ち は〟
「成功です。このように〈文字を空中に描く魔法〉が転送できました」
生徒たちが手を伸ばし、文字を触れる仕草をして驚嘆の声を漏らす。しばらくすると文字は霧散していく。
「いまご覧にいれました〈離れた場所で声を発声させる魔法〉も、〈文字を空中に描く魔法〉も、既存の仕様と変わりません。でもこれらを視界で捉えられない遠隔地で発動させるとなると、魔法遣いのイメージにも限界があります」
そこで言葉を区切ると、エリスはレティシアが設置した中継機とは別の、もう一台の予備機を取り出して見せた。
「この通信技術を利用すれば、中継機を何台も並列化させることで、何十、何百、きっと何千キロだって、遠くへ魔法を伝えられると期待できます」
教員席から拍手が巻き起こる。パトロナが立ち上がり、声を張った。
「これは……社会の常識が覆されるぞ! 情報の伝達が比べ物にならないくらい早くなる。今まで何日もかけて届けていた手紙が、一瞬で相手に届けられるようなものだろう?」
「は、はい……それだけの中継機を設置するコストの問題はありますが……理論上は可能です」
間髪入れず、次々と研究者や起業家から質問の声が上がる。
「虹彩六条の〈猫眼石〉!? なんだそれは?」
「中継機一台の製造コストは? どの程度の範囲のカバーできるんですか?」
「端末と中継機に猫の意匠をデザインして〝機嫌をとる〟と通信経路の最適化を図れる、とはどういう意味だ?」
「嘘だろ、あのわけのわからん論文をこの少女が読み解いたというのか」
「え、えっと……」
練習台本に書かれていない発言は、途端に言えなくなるエリス。
ユスティナが割って入り、大きな声を張り上げる。
「みなさん聞きたいことは山々でしょう。しかしこの場で回答するには時間が足りません。学園に窓口を設けますので、そちらからお問い合わせください」
自己判断でそう告げる。当然だろう、それだけの発明をエリスはやり遂げたのだから。
「えー……この案件に関してましては、エリスの担当教官であるパトロナが責任者となります。……後のことは頼んだよ」
「ふえっ!? 私研究者ですよ!? こんな大事業なんて仕切れませんて」
大興奮の会場の中、今やすっかり怖気付いてしまい、ユスティナの背中に隠れて震えているエリス。
「ふふ……こんな恥ずかしがり屋が立派な発明をしたなんてな。ほんと……がんばったな、エリス」
遠く屋外ステージではレティシアが、仲良し四人組にだけ作った小型端末に受信メッセージを表示させながら観客に手を振っていた。
「これがあれば毎日だって、お父様やお兄様とお話ができる。魔法よりずっとすごいわ」
大切な友人が夢を成し遂げたのだと思うと、レティシアは誇らしい気持ちで胸がいっぱいになった。
気が気でないユスティナが、最後の最後まで装置横からケーブルのスペクトラム抵抗をチェックする。変わりない、問題ない。そう彼女が頷くと、エリスは装置を乗せた台車をスタッフに押してもらいながら、会場入りした。
「お集まりのみなさん。今日は〝猫眼石共鳴層による量子近似通信の提案〟〈ネコノメ通信〉の発表に集まっていただき、ありがとうございます」
エリスはゆっくりとだが、吃音なく話す。
「すべての猫眼石には個体ごとに固有の共鳴周波数があります……対になる猫眼石同士でスペクトルを同期させ、変調と復調を行えば、石から石へ魔法を転送することができる……というのがこの研究のテーマになります」
そこまで喋り、エリスは一度深呼吸をする。
「簡単に言うと〝魔法を遠隔地へ転送する魔法器〟が実現可能です。それをこれからご覧にいれます。詳細はお配りした資料を見ていていただくとして、早速デモンストレーションに移りたいと思います」
会場の袖で、ユスティナが親指を立て「いいぞ」と口の形をするのが見えた。
「〈ビーちゃん〉――ええと、この送信機と同じものが北棟の屋上にもあります。今からこの部屋から〈離れた場所で声を発声させる魔法〉を送ります」
エリスは小さく息を吐き、〈ビーちゃん〉を起動。あらかじめお互いの送信機には、搭載されている猫眼石の周波数を覚えさせており、すぐに接続されたことを示す表示が点る。
エリスは声を震わせながら、囁くように言った。
「レティシア、聞こえますか?」
一瞬の静寂の後、受信装置につながったスピーカー(〈音を大きくする魔法〉の魔法器)から返事の声が返る。
「はっきり聞こえるわ、おめでとうエリス! みんなー! エリスがついにやったわよー!」
演舞の合間だったらしい、レティシアの声と観客たちの合いの手が遅延なく響き、教員席から驚きの声が上がった。
「今のアンティクア家の令嬢の声か!」
「うそだろ、隣の部屋にいるんじゃねえの?」
「いや、彼女は今はステージ中のスケジュールだ……うわあまじかよ」
生徒がざわめきだす。今度は大きな声で――慣れないことで声を上ずらせながら、はっきりと会場中に響く声でエリスがしゃべる。
「会場のみなさんも、聞こえますかー!?」
先ほどと同じように、すぐに「おおー!」「聞こえるよー」といった大勢の声が返ってくる。
「いまのが音声通話のデモンストレーションです。このまま次に移ります」
続いてエリスは装置のモードを切り替え、〈ビーちゃん〉についたプリズム素子の上に、さらさらと指をなぞらせた。
装置前の受信機の空中に文字がふわりと浮かび上がる。
〝こ ん に ち は〟
「成功です。このように〈文字を空中に描く魔法〉が転送できました」
生徒たちが手を伸ばし、文字を触れる仕草をして驚嘆の声を漏らす。しばらくすると文字は霧散していく。
「いまご覧にいれました〈離れた場所で声を発声させる魔法〉も、〈文字を空中に描く魔法〉も、既存の仕様と変わりません。でもこれらを視界で捉えられない遠隔地で発動させるとなると、魔法遣いのイメージにも限界があります」
そこで言葉を区切ると、エリスはレティシアが設置した中継機とは別の、もう一台の予備機を取り出して見せた。
「この通信技術を利用すれば、中継機を何台も並列化させることで、何十、何百、きっと何千キロだって、遠くへ魔法を伝えられると期待できます」
教員席から拍手が巻き起こる。パトロナが立ち上がり、声を張った。
「これは……社会の常識が覆されるぞ! 情報の伝達が比べ物にならないくらい早くなる。今まで何日もかけて届けていた手紙が、一瞬で相手に届けられるようなものだろう?」
「は、はい……それだけの中継機を設置するコストの問題はありますが……理論上は可能です」
間髪入れず、次々と研究者や起業家から質問の声が上がる。
「虹彩六条の〈猫眼石〉!? なんだそれは?」
「中継機一台の製造コストは? どの程度の範囲のカバーできるんですか?」
「端末と中継機に猫の意匠をデザインして〝機嫌をとる〟と通信経路の最適化を図れる、とはどういう意味だ?」
「嘘だろ、あのわけのわからん論文をこの少女が読み解いたというのか」
「え、えっと……」
練習台本に書かれていない発言は、途端に言えなくなるエリス。
ユスティナが割って入り、大きな声を張り上げる。
「みなさん聞きたいことは山々でしょう。しかしこの場で回答するには時間が足りません。学園に窓口を設けますので、そちらからお問い合わせください」
自己判断でそう告げる。当然だろう、それだけの発明をエリスはやり遂げたのだから。
「えー……この案件に関してましては、エリスの担当教官であるパトロナが責任者となります。……後のことは頼んだよ」
「ふえっ!? 私研究者ですよ!? こんな大事業なんて仕切れませんて」
大興奮の会場の中、今やすっかり怖気付いてしまい、ユスティナの背中に隠れて震えているエリス。
「ふふ……こんな恥ずかしがり屋が立派な発明をしたなんてな。ほんと……がんばったな、エリス」
遠く屋外ステージではレティシアが、仲良し四人組にだけ作った小型端末に受信メッセージを表示させながら観客に手を振っていた。
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