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第四章 星綾祭
第二十四話 祝福と孤独
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研究棟に戻ったアルヴィナは、廊下に響く賑やかな声を聞いた。エリスの発表会場では、まだ祝賀会が続いているようだった。
「アル! どこにいたの?」
レティシアがアルヴィナを見つけて駆け寄ってきた。
「探したのよ。エリスの成功を皆でお祝いしようって」
「ごめん、ちょっと気分が悪くなって。チラシ配り張り切りすぎちゃったのかな、あはは」
アルヴィナは研究ノートを制服の内側に隠しながら答えた。
「大変! まだ顔色が悪いけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
レティシアは心配そうに見つめる。アルヴィナは作り笑いを浮かべた。
二人は会場に入ると、エリスがユスティナや他の学生たちに囲まれて、嬉しそうに話している光景が目に入った。温かな灯りの下で、仲間たちの笑顔が輝いている。
「エリス! やったじゃない!」
「レッチ! ありがとう!」
レティシアが手を広げると、エリスは満面の笑みで抱きついた。その純粋な喜びが、周囲の人々をも温かく包み込む。
「あたしも誇らしいわ。あなたの研究が世界を変えるのね」
レティシアは優しくエリスの背中を撫でた。アルヴィナはその光景を見ながら、胸の奥で暗いいやなものが膨らんでいくのを感じた。
エリスの成功を心から祝福したい——その気持ちに偽りはない。でも同時に、カシウスから聞いた言葉が重い鎖となって心に絡みつく。秘密の重さが、輝く仲間たちとの間に見えない壁を作り出していた。
〝気持ちを強く保つんだ〟
「アル、どうしたの?」
ユスティナがアルヴィナの変調に気づいた。
「さっきから元気がないみたいだけど」
「え? そんなことないよ」
アルヴィナは慌てて首を振った。
「エリス、本当にすごいね! おめでとう!」
大きな声で祝福の言葉を口にしたが、どこかわざとらしかった。
そんな事に気にもとめず、エリスは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、アル。みんなのおかげだよ」
「これで学園の歴史に名前が刻まれるわね」
レティシアは誇らしげに言った。
「そうなのかな。でも一番嬉しいのは、皆がエリスのことを信じて助けてくれたことだよ」
エリスは仲間たちを見回しながら微笑んだ。
アルヴィナは友人たちの輝いている姿を見て、胸が締め付けられるような思いを感じた。
みんなそれぞれに輝いている。エリスは天才的な発明家として。レティシアは社交的で知識豊富な令嬢として。冷静なユスティナは四人の頼れる参謀として。
でも自分は? 理性ある《狂い火》? 人の皮を被ったドラゴン?
「わたし…これからどうなってしまうの…」
アルヴィナは、今まで安心して歩いていた道が急に真っ暗になった気分だった。助けを求めようにも誰に何と吐露すればいいのかもわからない。
「何か言った?」
「ううん、何でもない」
アルヴィナは再び作り笑顔を浮かべた。
パトロナが会場にやってきて、エリスに話しかけた。
「エリス、素晴らしい発表だったわ。学園長もお喜びになっている」
「あ、ありがとうございます。えっと…パタローナ先生……?」
エリスは丁寧にお辞儀をしたが、名前を間違っていた。
「明日から通信端末の量産について検討が始まる。君の発明が世界を変えるぞ」
嬉しそうに話すパトロナの顔を見ながら、アルヴィナはカシウスの言葉を思い出した。
『君たちの学園長も、パトロナ教師も、みな《OA》の関係者だろう』
カシウスから教わった秘密は、とても仲間たちに話せるものではない。それよりも、本心で生徒と喜びを分かち合っているようにしか見えないパトロナのことを、疑った目で見てしまう自分が、ほんとうに嫌な気持ちになった。
祝賀会は深夜まで続いた。その帰り道のこと。
「アル、本当に大丈夫?」
アルヴィナがよほど暗い顔色をしていたのか、レティシアは帰り道で再び尋ねた。
「うん……お祝いの日なのにごめんね。皆に心配かけてばっかり」
「何か悩みがあるなら、私たちに相談しなさいよ」
「そうだ、一人で抱え込むより誰かに頼ったほうが効率がいい」
ユスティナらしい励まし方に、思わず吹き出す。
「ありがとう。でも本当になんでもないんだ」
アルヴィナは微笑んだが、その笑顔はどこか寂しげだった。
寮に戻る途中、アルヴィナは夜空を見上げた。無数の星が煌めいている。あの一つ一つの星にも《RSS》のような存在が暗躍しているのだろうか。制服の内側に隠した研究ノートの存在が、しこりがあるように嫌でも意識を向けさせられる。
友人たちの楽しそうな会話が、アルヴィナには遠くに聞こえた。まるで自分だけが違う世界にいるような、奇妙な疎外感があった。
寮に着くと、アルヴィナはすぐ自分の部屋に向かう。
「お疲れさま。わたし、先に休むね」
「あら、もう寝るの?」
レティシアが驚いたように振り返る。
「うん、やっぱり調子が悪いみたい。今日は早めに寝るね。おやすみ」
アルヴィナは手を振って部屋に入った。
一人になると、アルヴィナは研究ノートを取り出して見つめた。分厚い資料には、きっと先程の話より詳細に書かれているのだろう。
しかし今夜は、読む気になれなかった。あまりにも重すぎる現実を、一度に受け入れることができない。
「エリスの成功を一緒に喜べないなんて……だめだな、わたし」
アルヴィナはベッドに座り込んだ。
「みんなが輝いて見える。でもわたしは…」
アルヴィナは膝を抱えて窓の外を見つめ続けた。友人たちの笑い声が廊下から聞こえてくる。星綾祭という華やかな舞台の陰で、アルヴィナの心に初めて孤独の影が宿った夜だった。
「アル! どこにいたの?」
レティシアがアルヴィナを見つけて駆け寄ってきた。
「探したのよ。エリスの成功を皆でお祝いしようって」
「ごめん、ちょっと気分が悪くなって。チラシ配り張り切りすぎちゃったのかな、あはは」
アルヴィナは研究ノートを制服の内側に隠しながら答えた。
「大変! まだ顔色が悪いけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
レティシアは心配そうに見つめる。アルヴィナは作り笑いを浮かべた。
二人は会場に入ると、エリスがユスティナや他の学生たちに囲まれて、嬉しそうに話している光景が目に入った。温かな灯りの下で、仲間たちの笑顔が輝いている。
「エリス! やったじゃない!」
「レッチ! ありがとう!」
レティシアが手を広げると、エリスは満面の笑みで抱きついた。その純粋な喜びが、周囲の人々をも温かく包み込む。
「あたしも誇らしいわ。あなたの研究が世界を変えるのね」
レティシアは優しくエリスの背中を撫でた。アルヴィナはその光景を見ながら、胸の奥で暗いいやなものが膨らんでいくのを感じた。
エリスの成功を心から祝福したい——その気持ちに偽りはない。でも同時に、カシウスから聞いた言葉が重い鎖となって心に絡みつく。秘密の重さが、輝く仲間たちとの間に見えない壁を作り出していた。
〝気持ちを強く保つんだ〟
「アル、どうしたの?」
ユスティナがアルヴィナの変調に気づいた。
「さっきから元気がないみたいだけど」
「え? そんなことないよ」
アルヴィナは慌てて首を振った。
「エリス、本当にすごいね! おめでとう!」
大きな声で祝福の言葉を口にしたが、どこかわざとらしかった。
そんな事に気にもとめず、エリスは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、アル。みんなのおかげだよ」
「これで学園の歴史に名前が刻まれるわね」
レティシアは誇らしげに言った。
「そうなのかな。でも一番嬉しいのは、皆がエリスのことを信じて助けてくれたことだよ」
エリスは仲間たちを見回しながら微笑んだ。
アルヴィナは友人たちの輝いている姿を見て、胸が締め付けられるような思いを感じた。
みんなそれぞれに輝いている。エリスは天才的な発明家として。レティシアは社交的で知識豊富な令嬢として。冷静なユスティナは四人の頼れる参謀として。
でも自分は? 理性ある《狂い火》? 人の皮を被ったドラゴン?
「わたし…これからどうなってしまうの…」
アルヴィナは、今まで安心して歩いていた道が急に真っ暗になった気分だった。助けを求めようにも誰に何と吐露すればいいのかもわからない。
「何か言った?」
「ううん、何でもない」
アルヴィナは再び作り笑顔を浮かべた。
パトロナが会場にやってきて、エリスに話しかけた。
「エリス、素晴らしい発表だったわ。学園長もお喜びになっている」
「あ、ありがとうございます。えっと…パタローナ先生……?」
エリスは丁寧にお辞儀をしたが、名前を間違っていた。
「明日から通信端末の量産について検討が始まる。君の発明が世界を変えるぞ」
嬉しそうに話すパトロナの顔を見ながら、アルヴィナはカシウスの言葉を思い出した。
『君たちの学園長も、パトロナ教師も、みな《OA》の関係者だろう』
カシウスから教わった秘密は、とても仲間たちに話せるものではない。それよりも、本心で生徒と喜びを分かち合っているようにしか見えないパトロナのことを、疑った目で見てしまう自分が、ほんとうに嫌な気持ちになった。
祝賀会は深夜まで続いた。その帰り道のこと。
「アル、本当に大丈夫?」
アルヴィナがよほど暗い顔色をしていたのか、レティシアは帰り道で再び尋ねた。
「うん……お祝いの日なのにごめんね。皆に心配かけてばっかり」
「何か悩みがあるなら、私たちに相談しなさいよ」
「そうだ、一人で抱え込むより誰かに頼ったほうが効率がいい」
ユスティナらしい励まし方に、思わず吹き出す。
「ありがとう。でも本当になんでもないんだ」
アルヴィナは微笑んだが、その笑顔はどこか寂しげだった。
寮に戻る途中、アルヴィナは夜空を見上げた。無数の星が煌めいている。あの一つ一つの星にも《RSS》のような存在が暗躍しているのだろうか。制服の内側に隠した研究ノートの存在が、しこりがあるように嫌でも意識を向けさせられる。
友人たちの楽しそうな会話が、アルヴィナには遠くに聞こえた。まるで自分だけが違う世界にいるような、奇妙な疎外感があった。
寮に着くと、アルヴィナはすぐ自分の部屋に向かう。
「お疲れさま。わたし、先に休むね」
「あら、もう寝るの?」
レティシアが驚いたように振り返る。
「うん、やっぱり調子が悪いみたい。今日は早めに寝るね。おやすみ」
アルヴィナは手を振って部屋に入った。
一人になると、アルヴィナは研究ノートを取り出して見つめた。分厚い資料には、きっと先程の話より詳細に書かれているのだろう。
しかし今夜は、読む気になれなかった。あまりにも重すぎる現実を、一度に受け入れることができない。
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