落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

宿題が先

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「すまない…。今回の件で、近いうちに開かれる式典の準備に遅れが生じてしまっていてな…。今はどうにも手が離せそうにない状況なんだ…」

どんな時も余裕そうな態度を崩さない父様が、今回はやけに仕事の忙しさを強調するかのような物言いをしながら、申し訳なさそうな顔で予想通りの答えを口にした。

昼間にみんなで話していた事もあり、僕も無理だろうなとは思ってはいたけれど、何故か母様の方へと時おり視線を向けては、何かを窺うよう隠れて盗み見ていたのだけが気になった。母様はそんな視線に気付いていないのか、普段通りの笑みを僕に向けながら、僕へと話し掛けてきた。

「でも、せっかくの休みなのに屋敷に籠もりきりでは可哀想でしょうから、アルの代わりに私が何処か連れて行こうと思いますわ」

「ですが、母上も何かと準備でお忙しいでしょう。ですから、その役目は私が担いたいと思います」

母様が口にした提案を聞き、兄様が直ぐさま代役を代わるとするけれど、それに厳しい目で待ったを掛けたのは母様だった。

「私はだいぶ前から準備していたから、多少の遅れがあっても大丈夫よ。それよりも、貴方は貴方で令嬢達と会う約束があるでしょう?行きたくないのは分かるけど、リュカを言い訳に使っては駄目よ」

「いえ…決してそのような意図は…」

「全くないと言い切れる?」

「……」

未だに婚約者さえいない兄様の下には、この前の殿下の結婚報告から、前にも増してそういったお見合いを打診するかのような招待状が届くようになっていた。それもあってか、多少なりとも逃げ出したいと気持があったのか、兄様は声を失ったかのように黙り込んでしまった。

僕の気配にも気付かない時もあるくらい、その対応で悩んでいる兄様を知っているからか、そんな兄様の事を不憫に思っていると、何故か話の矛先が僕の方へと向いた。

「そういえば、リュカはクラスに良いと思う子とかはいないの?」

「えっ?」

「リュカもそういうのに興味が出てくる年頃でしょう?本当ならリュカにも良い縁談のお話が来ても良いはずなのに、アルが読まずに全部捨ててしまうから、お茶会に出席しても未だにそういったお話に混ざれないのよ」

「……」

困ったような様子で嫌味でも言うかのように言う母様からの追及を逃れるかのように、父様は視線を逸らしながら、そっと食後の紅茶へと手を伸ばす。

「オルフェも婚約者どころか結婚の話が出ても良い年頃なのに、未だにその相手すらもいないから、嫁自慢も出来ないうえに、その子を着飾ってあげる事も出来ないのよね」

「……」

ため息でもつきそうな調子で言う母様から話を振られないためなのか、兄様は静かに飲み物に口を付けながら返事する間を誤魔化していているようだった。今日も2人の誤魔化し方が似ているなと見ていると現実逃避のような事を考えるけれど、そんなので母様から逃げられるわけもなく、僕に何か期待するような視線が飛んでくる。

「でも、社交的なリュカなら、もう気になる子の一人くらい既にいるんじゃないかと思って?」

「そんなのいないよ!」

「そうなの?」

「そうだよ!」

コンラットにはそういった話が多数来ているとは聞いているけれど、僕はまだそんなの考えた事もない。それに、僕と同じような条件であるバルドだって、友達と遊ぶ方が楽しいと思っていて、そんなのは全く考えていないと思う。でも、時おり素直にはなれないだけじゃないのかなと思う瞬間もあり、そこはどうなんだろうと考え込んでいたら、その間をどう解釈したのか、母様の顔が楽しげに変わった。

「あら?その様子だと、もしかして気になる子がいるのかしら?」

「「「えっ!?」」」

急な話に僕が声を上げると、何故か父様達からも驚きの声が上がった。そのせいで、そっちの方に気を取られてしまい、さらに母様への反応が遅れてしまった。

「ふふっ、リュカが好きな子ってどんな子なのかしら?」

「そんな子もまだいないのに、そんなの分かんないよ!!」

「そうなの?それなら、今はそういう事にしておくわね?」

「だからいないよ!!

強く否定すればする程、母様は楽しげな笑い声を挙げながら僕を見ていて、どこまで本気で言っているのか分からない。それに、救いを求めようにも、いまだに父様達は驚愕したような様子で固まっていて、どこか自分の世界に閉じこもっているようだった。

「私の学院時代にもそうだったが……世の中ではそれが普通というものなのか…?」

「リュカに思い人がいるならば……私に……妹が出来るという事なのか…」

僕が急に大人にでもなったかのような戸惑った反応をしながら、どこかショックを受けているようで独り言を呟いているけれど、兄様の想像は速すぎる。

「本当にそんな人いないからね!母様の勘違いだからね!!」

「えっ…あ、あぁ…そうなのか…?」

「そ、そうか…」

「本当に分かってる!?」

「えぇ、分かっているわ」

ぎこちない様子で頷く父様達に問いかければ、まるで僕の反応は照れ隠しだとでもいうように、母様がいきいきとした顔へと変わっていく。その後も、僕が否定すればする程に母様の笑みが深まっていき、父様達は打ちひしがれたように無言になってしまった。

そんなお通夜みたいな空気になってきたから、その話はそこで終わったけれど、翌日、本当に母様が分かってくれたのかと不安を残しながら朝食を取れば、母様は普段通りなのに、逆に父様達の方が何か聞きたそうに挙動不審だった。そんな事があったからか、どこか昨日の疲れが取れないまま、僕はバルド達を迎え入れる事になってしまった。

「どうしたんだ?」

「何でもないよ…」

そんな僕の様子に気付いたバルドが心配するような事を言ってくれたけれど、昨日の件に少しだけ関係あるだけに、顔を合わせるのが何となく気まずくなってしまい視線をそらせば、さらに不思議そうな顔をしていた。でも、それをバルドに伝える事は出来ないから、僕は何かを聞かれる前に昨日の返事を返す事にした。

「それでなんだけど、やっぱり父様は今回無理だって…」

「そうか…。まぁ、俺のところも無理だって言ってたから、リュカのところもそうかなとは思ったけどよ」

本当は、母様が連れて行ってくれそうな雰囲気はあったけれど、最後まで聞けずに話が流れてしまった事もあって、僕は下手に期待させないよう厳しいと伝えれば、予想通りの答えだったからか、少し残念そうにしながらも、さして驚く様子もなく納得して隣へと視線を向けた。

「コンラットの方は?」

「父に聞いてみたのでしたが…私のところも案の定でした…」

真っ直ぐにこちらを見る事もなく言ったコンラットは、その時の事でも思い出しているのか、どこか哀れみを含んだような遠い目をしており、そんな表情を見ていたら、何故か青い顔をしながら首を横に振っているスクトール伯の姿が見えた気がした。

「俺としては、こういうのに乗り気の兄貴を誘って保護者役になってもらうのも良いかと思ったんだけどよ。まだ学院も卒業してない身では駄目だって言われてよ。まぁ、課外授業とかの控えているし、コンラットの兄貴も忙しそうにしてたの知ってたから、駄目もとではあったんだけどよ」

「そういえば、今年なんでしたね」

「コンラットの兄貴は今年卒業だっけか?」

「えぇ、なので、旅行どころではないようでしたね」

「じゃあ、邪魔するわけにいかないなよな。やっぱり、暇なのは俺達だけか…」

時間に余裕がある僕達だけど、それに何を思って言ったのか、バルドがしみじみと言ったその言葉はどこか気落ちしたような響きがあった。

「うーん…泊まる言い訳をどうするかだなぁ…」

「保護者役もいないのに俺等だけで泊まる許可なんて出るわけないんだから、そんな事で悩むだけ無駄だろう」

「王都の宿屋に泊まるって言って、お前の親父さんに影で目的の宿をこっそり予約してもらうとかは?」

「あのなぁ、何よりも信用が大事なのに、それをドブに捨てるような事をするわけないだろ。それと、あれは父親じゃない」

「そ、そうか…」

宿泊の予約なんてしたことがない僕達に当然のように伝手もなく、ネアも協力する気が全くないようで、取り付く島もない様子だった。それに、未だに父親とは認めていないのか、不機嫌そうに否定の言葉を口にしていた。でも、本人が話したがらない事に深入りするわけにもいかず、バルドは曖昧な返事を返しながらも静かに考え込むように目を閉じると、しばらくして何かを閃いたような顔で言った。

「そうだ!だったら最初から泊まらなきゃ良いんじゃないか!?ちょっと街まで遊びに行ってくるで感じで屋敷を出て、夕方くらいまでに返ってくれば親父達にも分からねぇだろ!?」

「確かに、日数が掛かる道中の過程がないのなら、日帰りで行けるかもしれませんが…」

「じゃあ、今から行こうぜ!!」

「今からですか…」

「あぁ!善は急げって言うだろ!」

「これが終わってからな」

「そうですね。この宿題を終わらせてからですね」

勢いで行動しそうになっているバルドに、僕の分を含めたみんなの宿題で埋まった机を指させば、コンラットも同意の言葉を返す。だけど、宿題よりも遊びに行きたいバルドは、一生のお願いでもするかのような声を出す。

「な、なぁ…?今日くらい、ちょっとさぼったって別に良いだろう…?」

「一度遊び始めたら、そのまま宿題の事なんて忘れてやらないでしょう?」

「いや…まぁ…そうなんだけどよ…。でも…ちょっとだけ…?」

「駄目だ」

「駄目です」

「……はい」

自分でも後回しにする事が予想できるからか、2人から強い口調できっぱりと断られてしまえば、意気消沈した様子で返事を返していた。僕としてもバルドの提案には心惹かれるけれど、宿題の量が一番多い僕が言えた言葉じゃないから、僕も黙って宿題を進めるのだった。
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