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六章
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僕達が乗った馬車は中心部にある路地裏ではなく、王都の郊外へと向かって走り続け、ようやく目的の建物が見えてきた。すると、徐々に速度を落としていた馬車が完全に停車する前に、バルドは待ち切れないとばかりに扉を開けて外へと飛び出した。
「危ないですよ!」
「大丈夫だって、これぐらいじゃ怪我なんてしないからよ!」
バルドの後に続くように外に降りたコンラットが注意すれば、笑いながら軽い返事を返すだけで、反省した様子はない。そんな2人の目の前にある出来てから日の浅い建物は、前の窮屈そうな面影は全く残っておらず、広い敷地内に悠然と立っていた。僕も出来てから数回しか来ていない事もあるけれど、まだ見慣れないその門には、新しくなった看板が取り付けられ、此処が何処だかを周囲へと知らせていた。
「では、私は夕方くらいにお迎えに上がります」
僕達を予定通り店まで送り届けた御者は、軽く僕達に頭を下げてながら迎えに来る時間を告げると、来た時と同じように馬車を走らせてその場を去って行った。此処まで送ってもらう事には嘘はないけれど、少し後ろ暗い気持ちがある僕達は、何となくその姿が視界から見えなくなるまで見送ってから店の扉を開けて中へと入った。
「オスカーさんいるー?」
「あぁ、思ってたより速かったね」
バルドが大きな声で店の中へと問いかければ、留守にしている事が多いオスカーさんが、まるで僕達の事を待っていたかのように出迎えてくれたけど、それを知っていたような物言いをしたことに僕は疑問の声を上げる。
「バルドはオスカーさんがいるの知ってたの?」
「ん?あぁ、事前に今日来るって連絡しておいたからな!」
何時もなら約束もなく訪れるけど、今回は手紙で先に来る事を知らせていたようで、そんなバルドの珍しい行動に驚きを感じながら見つめていたら、僕を見ていた視線が窓の方へと向いた。
「なぁ?なんか、前来た時よりも人が増えたか?」
店の中もそうだけど、窓の外にも見える人影を見て疑問の声を上げれば、オスカーさんはそれに同意するように頷きながら答えた。
「国からの費用で広く建て替えたのもあるけれど、扱う従魔の数もどんどんと増えていっているから、どうにも手が足りなくてね。でも、それがどうかしたかい?」
「い、いや、別に!でも、良かったよな!前は場所や人がいなくて対応できないのが多いって悩んでたのが解決して!」
「そうだね。場所や人が増えたおかげで救える命が増えたよ。それもこれも、君達がご両親に話を持ちかけてくれたおかげだ。ありがとう」
「へぇっ!?お、俺達は何もしてないよな!?なぁ!?」
「う、うん、何もしてないよ!だから、頭なんて下げなくて良いよ!」
「そうだよ!居心地悪いから頭を上げろって!」
思ったよりも人が多かった事で、二の足を踏みそうになった気持ちを誤魔化すために言っただろう言葉に、オスカーさんは僕に感謝を示すように僕達に頭を下げて来たけど、それは父様達が全部やってくれた事であり、僕達がお礼を言われる立場ではない。それに、今回はオスカーさんを騙しているような罪悪感もあって、僕達は慌ててオスカーさんに頭を上げるように言うけれど、そんな僕達の気持ちを知らないオスカーはその言葉に満足してくれなかったようで、申し訳なさそうに目尻を下げる。
「そんなわけには…。それに、本来でしたらもっと早くに感謝の意を伝えるべきでしたのに、このような感謝の言葉も遅れてしまい…」
「いや!それは予定の確認もしないで来てた俺達が悪いから!」
「確かに、それはバルドが悪いです。常日頃から、ちゃんと連絡しろとは言っているんですけれど…」
「おいっ!その話は今は良いだろう!?」
素直に自分の非を認めれば、コンラットから容赦のない小言が始まりそうになり、焦ったような声を上げていた。いつもなら、深刻な話をしている時でも少し空気が緩むのに、オスカーさんは未だに恐縮したような顔をしていた。
「だが、ここまでの資金を出してもらっておいて、何もないというのも…。それに、この件で騎士団の方々に掛けた迷惑を謝罪しようにも、私がおいそれとお会い出来る方ではありませんし…」
「俺の親父はそんな細かい事なんて気にしないって。それに、何事も公平な親父が妥当だって判断したのなら、この待遇だって当然の事なんだろうからさ!」
店の改築費用を援助してもらい、今後は国も関与するとはいっても、従魔である事には変わりがないため、召喚獣を絶対と考える派閥がいる以上は、戦争など差し迫った事情もない限り、試験運用が終わった後も小規模で運用されると思っていたようだ。でも、そんな予想を裏切って新たな店の建設まで決まった事で、軍部の関係者であるバルドのお父さんに一番にしわ寄せが行ったのではないかと気に病んでいるようだった。
だからこそ、移転の話が出た時にでもお礼を言いたかったのだろうけど、書類や必要な物品の確認、人集めなどであちこちを飛び回っていたオスカーさんは店を不在にしている事も多くて、前と同じ感覚でやって来ていた僕達とゆっくり会う機会がなかった。
いくら親しくはしていても、身分という壁がある以上、完全に気にしないという事は出来ないようで、貴族である僕達に平民である自分が迷惑を掛ける事に後ろめたさを感じているようだった。でも、そんな気持ちに気付いていないのか、下を向いているオスカーさんへと、何故かバルドは真面目ぶったような顔を向ける。
「親父は自他共に厳しいから、息子の俺にさえも容赦がないんだ。だから、俺が間違ったことをしたりすると、母さんから散々小言を言われた後に、親父から何が間違ってたのか分かるまで取り調べみたいな感じで叱られるんだ。なのに、今回は母さんから親父に迷惑は掛けるなという軽い注意だけで、親父からは何もなかった……。だから、この件を親父から間違った行動とは思われてない!それに、怒られ慣れてる俺が言うんだから間違いない!」
「カッコつけてる所悪いが、何一つとしてカッコ良い事を言ってないからな…」
「日頃から迷惑をかけ続けているご夫妻が不憫という話ですからね…」
「こんな時だけでも外野は黙ってろよ!」
ビシッと決めた感じで言った後ろから、それに水を差すようなことを言われ、それに対しての不満のような言葉を振り向きながらこぼすけれど、本当のことを言っただけだろうとでも言わんばかりの白い目と視線が合うと、すぐに自分の分が悪いと悟ったようだった。
「と、とにかく!そんなに気になるっていうなら、俺の方から感謝してたって親父達に伝えとけば良いよな!!」
口が上手い2人相手に勝てるわけないと勝負を諦めたようだったけど、どんな時も態度を崩す事もなく、僕と同じように、父様達がする事に間違いはないと信じているようにニカッと笑いながら言われると、オスカーさんもそれ以上は何も言えないのか、苦笑を持って答えていた。
「よし!じゃあ、この話は此処で終わりだな!でも、親父達の決定とはいっても、もう少し前の店から近い場所に建ててくれたなら良かったのにな。そうしたら、前みたいな気軽さでオスカーさんの所に来れたのに…」
改装した前の店もそのまま残ってはいるけれど、今は支店扱いで別の人が管理しているからか、知り合いがいる店が離れてしまったことを残念そうに言う。
「そればかりは仕方がないからね…」
「他の人達も、もう少し理解してくれると良いんだけどな…」
匂いや鳴き声などの問題もあるけれど、此処までの規模になってくると土地が足りなくて、周囲に住む人達から立ち退いてもらう必要があった。だけど、そうなると中心部から遠ざかったりたくない人達からの強い反発が起きて、周囲から悪感情を抱かれてしまう恐れがあった。それに、人馴れする前の従魔はとても繊細で、もし嫌がらせなどでストレスを受け続ければ、人間に敵意を持つ可能性もあるため、移転場所は人が少ない郊外に建てる必要があった。人の心はお金ではどうにもならない事を分かってはいても、2人揃ってため息で付きそうな暗い顔をしていた。
僕の屋敷の庭に動物が多く住んでいたから、小さい頃から身近に生き物がいるのが普通だったけど、契約主の許可なく召喚獣に触るのはマナー違反であり、その殆どが貴族が相手となれば、街の人がそういった生き物と触れ合う機会が少ない事は仕方ない事ではある。それでも、僕がどこかやるせなさを感じていると、オスカーさんの方が気を取り直すように、目の前にいたバルドへと声を掛けた。
「駄目だね。今日はこんな暗い話をするためではなく、遊びに来てくれたというのに」
「そうだった!早くしないと遊ぶ時間が減る!!」
大事な用事を思い出したかのような焦った声を上げると、街にいる子供と変わらないような反応をするバルドの様子に、オスカーさんは思わずという様子で笑みをこぼしていた。
「そんなに笑うことないだろ」
「すまないね。そのお詫びというわけではないけれど、手紙で頼まれた場所は多めに開けておいたから、そこを自由に使ってもらって良いよ。あぁ、そこに行くまでの途中には新しい子がいるから、なるべく刺激しないようにだけ注意してね」
「そんなの分かってるって!それよりも、無理を聞いてくれてありがとな!」
「ちょうど少し前に場所が開いたばかりだったから、無理なんてしてないよ」
笑われたことに不貞腐れているバルドに謝りながらも、言わなくても分かっているだろうとは思っていても、諸注意の一つとして伝えれば、バルドは当然だといった様子で返事を返していた。その後も少し話はしたけれど、まだ仕事が残っているというオスカーさんに僕達は軽く手を降って別れると、バルドに続きながらオスカーさんが準備してくれているという場所を目指しながら、僕はさっき出ていた手紙について聞いてみた。
「オスカーさんにどんな手紙を書いてたの?」
「それはな!たまにはルドを屋敷以外で遊ばせてやりたいから、場所を少し貸してくれって頼んでおいたんだ!でも、てっきり場所だけ貸してくれると思ったから、わざわざ時間作ってくれるとは思ってなかったな」
「普段手紙なんてお出さない奴から手紙が来たら、何事かと思って都合を付けたんだろう。だけど、お前はそういう所だけは悪知恵が働くよな…」
「そこは悪知恵じゃないからな!そもそも、俺がそんなの思いつくわけないだろう!?それに、実際に遊ばせたら嘘じゃない!!」
「まぁ、それもそうか…」
「なんか…そんな簡単に納得されるのも嫌だな…」
末恐ろしいものでも見るような目を向けてくるネアの一言に慌てた様子で反論すれば、そんな計画的な事を出来るとは思っていなかったようで納得され、不満そうな顔をしてはいたけれど、時間を無駄にしたくないうえに、今日は機嫌が良いからか、喧嘩になるような事もなかった。
「オスカーさんが言ってたのはこの辺だな。ティ?場所はここで良いか?」
従魔達の視線を受けながら目的の場所までやってくると、周囲に人がいないかを確認して服の中に隠れていたティへと声を掛けると、顔だけをひょっこりと出した。
「人があまり来ない場所にしてもらったんだが、大丈夫そうか?」
「そうね。人目もないみたいだし、大丈夫じゃない?」
顔を出したティにもう一度問いかけると、ティも周囲を見渡しながら答えた。僕は実際に見てないから実感はないけど、道を使うと周囲からは急に消えたように移るらしくて、その瞬間を誰かに見られでもしたら騒ぎになる事は確実で、それが僕達ともなればもっと大騒ぎになることは簡単に想像できるらしい。だから、人がいない場所を探してここまで来たんだけど、オスカーさんの店の人が前より増えていたから大丈夫かなと不安になっていた。だけど、敷地も一緒に広くなったからか、店の端の方へ行けば途端に人の気配もなくなるようだった。
「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃうわね!」
「そんな簡単に作れるものなの?」
だいぶ渋ってたわりに、僕の服から出てくるなり軽い感じの物言いをするティに僕が不思議そうに尋ねると、両手を前へと出しながら、視線だけをこちらへと向けて答えた。
「まぁ、森から魔力を引き寄せる必要があるから、ちょっと時間は掛かるけど、手間としてはそこまでじゃ…」
「なぁ!?その道っていつできるんだ!?もう出来たか!?」
「今やってる所でしょ!?そんなにすぐ出来るわけないんだから、ちょっと大人しく待ってなさいよ!!」
僕達にはティが空中を飛びながら、ただ手を前に出しているだけのようにしか見えないからか、話の途中で待ちきれないといった様子で尋ねれば、やはりまだ終わってなかったようで、小言のような答えが返ってきた。でも、叱られた方は、それでも楽しそうだった。
「何かワクワクするな!」
「そうだね!」
「私も、少し胸が高鳴ってます」
「はしゃぎすぎて転ぶなよ」
「お前は俺達の保護者かよ!?」
初めて道を使うとあってか、みんな待ちきれないといったようで、それもあって使った事がある僕も釣られるように気持ちが上がっていく。道を作っているティも、期待の目で見られているせいか、満更でもなさそうな顔をしていた。それから今か今かと待ち続けること10分、待ちに待った声が響いた。
「出来たわよ!」
「本当か!?なら、もう入れるのか!?」
「道は開いているから、入れるには入れるわよ」
「よし!行くぞ!!」
「ちょっと!勝手に行かないでよ!迷子になるわよ!!」
実際の時間としてはそれほど経ってはいないけれど、それよりも長く待っていた感覚がするからか、返事を聞いた途端に待ちくたびれたように中へと飛び込んで行った。すると、ティも慌てた様子で追いかけて行ったけど、その姿はパッと消えたように見えた。だから、本当に消えたように見えるんだと僕が思っていたら、普段よりうわずった声が響く。
「さぁ、私達も行きましょうか!?」
「そ、そうだね!」
「……はぁ」
冷静な振りをしているわりにコンラットも浮き足立っているようで、声からは未知の事に対する好奇心が滲んでいた。だけど、そんな僕達の中でやっぱり一人だけはため息を付いていた。
「危ないですよ!」
「大丈夫だって、これぐらいじゃ怪我なんてしないからよ!」
バルドの後に続くように外に降りたコンラットが注意すれば、笑いながら軽い返事を返すだけで、反省した様子はない。そんな2人の目の前にある出来てから日の浅い建物は、前の窮屈そうな面影は全く残っておらず、広い敷地内に悠然と立っていた。僕も出来てから数回しか来ていない事もあるけれど、まだ見慣れないその門には、新しくなった看板が取り付けられ、此処が何処だかを周囲へと知らせていた。
「では、私は夕方くらいにお迎えに上がります」
僕達を予定通り店まで送り届けた御者は、軽く僕達に頭を下げてながら迎えに来る時間を告げると、来た時と同じように馬車を走らせてその場を去って行った。此処まで送ってもらう事には嘘はないけれど、少し後ろ暗い気持ちがある僕達は、何となくその姿が視界から見えなくなるまで見送ってから店の扉を開けて中へと入った。
「オスカーさんいるー?」
「あぁ、思ってたより速かったね」
バルドが大きな声で店の中へと問いかければ、留守にしている事が多いオスカーさんが、まるで僕達の事を待っていたかのように出迎えてくれたけど、それを知っていたような物言いをしたことに僕は疑問の声を上げる。
「バルドはオスカーさんがいるの知ってたの?」
「ん?あぁ、事前に今日来るって連絡しておいたからな!」
何時もなら約束もなく訪れるけど、今回は手紙で先に来る事を知らせていたようで、そんなバルドの珍しい行動に驚きを感じながら見つめていたら、僕を見ていた視線が窓の方へと向いた。
「なぁ?なんか、前来た時よりも人が増えたか?」
店の中もそうだけど、窓の外にも見える人影を見て疑問の声を上げれば、オスカーさんはそれに同意するように頷きながら答えた。
「国からの費用で広く建て替えたのもあるけれど、扱う従魔の数もどんどんと増えていっているから、どうにも手が足りなくてね。でも、それがどうかしたかい?」
「い、いや、別に!でも、良かったよな!前は場所や人がいなくて対応できないのが多いって悩んでたのが解決して!」
「そうだね。場所や人が増えたおかげで救える命が増えたよ。それもこれも、君達がご両親に話を持ちかけてくれたおかげだ。ありがとう」
「へぇっ!?お、俺達は何もしてないよな!?なぁ!?」
「う、うん、何もしてないよ!だから、頭なんて下げなくて良いよ!」
「そうだよ!居心地悪いから頭を上げろって!」
思ったよりも人が多かった事で、二の足を踏みそうになった気持ちを誤魔化すために言っただろう言葉に、オスカーさんは僕に感謝を示すように僕達に頭を下げて来たけど、それは父様達が全部やってくれた事であり、僕達がお礼を言われる立場ではない。それに、今回はオスカーさんを騙しているような罪悪感もあって、僕達は慌ててオスカーさんに頭を上げるように言うけれど、そんな僕達の気持ちを知らないオスカーはその言葉に満足してくれなかったようで、申し訳なさそうに目尻を下げる。
「そんなわけには…。それに、本来でしたらもっと早くに感謝の意を伝えるべきでしたのに、このような感謝の言葉も遅れてしまい…」
「いや!それは予定の確認もしないで来てた俺達が悪いから!」
「確かに、それはバルドが悪いです。常日頃から、ちゃんと連絡しろとは言っているんですけれど…」
「おいっ!その話は今は良いだろう!?」
素直に自分の非を認めれば、コンラットから容赦のない小言が始まりそうになり、焦ったような声を上げていた。いつもなら、深刻な話をしている時でも少し空気が緩むのに、オスカーさんは未だに恐縮したような顔をしていた。
「だが、ここまでの資金を出してもらっておいて、何もないというのも…。それに、この件で騎士団の方々に掛けた迷惑を謝罪しようにも、私がおいそれとお会い出来る方ではありませんし…」
「俺の親父はそんな細かい事なんて気にしないって。それに、何事も公平な親父が妥当だって判断したのなら、この待遇だって当然の事なんだろうからさ!」
店の改築費用を援助してもらい、今後は国も関与するとはいっても、従魔である事には変わりがないため、召喚獣を絶対と考える派閥がいる以上は、戦争など差し迫った事情もない限り、試験運用が終わった後も小規模で運用されると思っていたようだ。でも、そんな予想を裏切って新たな店の建設まで決まった事で、軍部の関係者であるバルドのお父さんに一番にしわ寄せが行ったのではないかと気に病んでいるようだった。
だからこそ、移転の話が出た時にでもお礼を言いたかったのだろうけど、書類や必要な物品の確認、人集めなどであちこちを飛び回っていたオスカーさんは店を不在にしている事も多くて、前と同じ感覚でやって来ていた僕達とゆっくり会う機会がなかった。
いくら親しくはしていても、身分という壁がある以上、完全に気にしないという事は出来ないようで、貴族である僕達に平民である自分が迷惑を掛ける事に後ろめたさを感じているようだった。でも、そんな気持ちに気付いていないのか、下を向いているオスカーさんへと、何故かバルドは真面目ぶったような顔を向ける。
「親父は自他共に厳しいから、息子の俺にさえも容赦がないんだ。だから、俺が間違ったことをしたりすると、母さんから散々小言を言われた後に、親父から何が間違ってたのか分かるまで取り調べみたいな感じで叱られるんだ。なのに、今回は母さんから親父に迷惑は掛けるなという軽い注意だけで、親父からは何もなかった……。だから、この件を親父から間違った行動とは思われてない!それに、怒られ慣れてる俺が言うんだから間違いない!」
「カッコつけてる所悪いが、何一つとしてカッコ良い事を言ってないからな…」
「日頃から迷惑をかけ続けているご夫妻が不憫という話ですからね…」
「こんな時だけでも外野は黙ってろよ!」
ビシッと決めた感じで言った後ろから、それに水を差すようなことを言われ、それに対しての不満のような言葉を振り向きながらこぼすけれど、本当のことを言っただけだろうとでも言わんばかりの白い目と視線が合うと、すぐに自分の分が悪いと悟ったようだった。
「と、とにかく!そんなに気になるっていうなら、俺の方から感謝してたって親父達に伝えとけば良いよな!!」
口が上手い2人相手に勝てるわけないと勝負を諦めたようだったけど、どんな時も態度を崩す事もなく、僕と同じように、父様達がする事に間違いはないと信じているようにニカッと笑いながら言われると、オスカーさんもそれ以上は何も言えないのか、苦笑を持って答えていた。
「よし!じゃあ、この話は此処で終わりだな!でも、親父達の決定とはいっても、もう少し前の店から近い場所に建ててくれたなら良かったのにな。そうしたら、前みたいな気軽さでオスカーさんの所に来れたのに…」
改装した前の店もそのまま残ってはいるけれど、今は支店扱いで別の人が管理しているからか、知り合いがいる店が離れてしまったことを残念そうに言う。
「そればかりは仕方がないからね…」
「他の人達も、もう少し理解してくれると良いんだけどな…」
匂いや鳴き声などの問題もあるけれど、此処までの規模になってくると土地が足りなくて、周囲に住む人達から立ち退いてもらう必要があった。だけど、そうなると中心部から遠ざかったりたくない人達からの強い反発が起きて、周囲から悪感情を抱かれてしまう恐れがあった。それに、人馴れする前の従魔はとても繊細で、もし嫌がらせなどでストレスを受け続ければ、人間に敵意を持つ可能性もあるため、移転場所は人が少ない郊外に建てる必要があった。人の心はお金ではどうにもならない事を分かってはいても、2人揃ってため息で付きそうな暗い顔をしていた。
僕の屋敷の庭に動物が多く住んでいたから、小さい頃から身近に生き物がいるのが普通だったけど、契約主の許可なく召喚獣に触るのはマナー違反であり、その殆どが貴族が相手となれば、街の人がそういった生き物と触れ合う機会が少ない事は仕方ない事ではある。それでも、僕がどこかやるせなさを感じていると、オスカーさんの方が気を取り直すように、目の前にいたバルドへと声を掛けた。
「駄目だね。今日はこんな暗い話をするためではなく、遊びに来てくれたというのに」
「そうだった!早くしないと遊ぶ時間が減る!!」
大事な用事を思い出したかのような焦った声を上げると、街にいる子供と変わらないような反応をするバルドの様子に、オスカーさんは思わずという様子で笑みをこぼしていた。
「そんなに笑うことないだろ」
「すまないね。そのお詫びというわけではないけれど、手紙で頼まれた場所は多めに開けておいたから、そこを自由に使ってもらって良いよ。あぁ、そこに行くまでの途中には新しい子がいるから、なるべく刺激しないようにだけ注意してね」
「そんなの分かってるって!それよりも、無理を聞いてくれてありがとな!」
「ちょうど少し前に場所が開いたばかりだったから、無理なんてしてないよ」
笑われたことに不貞腐れているバルドに謝りながらも、言わなくても分かっているだろうとは思っていても、諸注意の一つとして伝えれば、バルドは当然だといった様子で返事を返していた。その後も少し話はしたけれど、まだ仕事が残っているというオスカーさんに僕達は軽く手を降って別れると、バルドに続きながらオスカーさんが準備してくれているという場所を目指しながら、僕はさっき出ていた手紙について聞いてみた。
「オスカーさんにどんな手紙を書いてたの?」
「それはな!たまにはルドを屋敷以外で遊ばせてやりたいから、場所を少し貸してくれって頼んでおいたんだ!でも、てっきり場所だけ貸してくれると思ったから、わざわざ時間作ってくれるとは思ってなかったな」
「普段手紙なんてお出さない奴から手紙が来たら、何事かと思って都合を付けたんだろう。だけど、お前はそういう所だけは悪知恵が働くよな…」
「そこは悪知恵じゃないからな!そもそも、俺がそんなの思いつくわけないだろう!?それに、実際に遊ばせたら嘘じゃない!!」
「まぁ、それもそうか…」
「なんか…そんな簡単に納得されるのも嫌だな…」
末恐ろしいものでも見るような目を向けてくるネアの一言に慌てた様子で反論すれば、そんな計画的な事を出来るとは思っていなかったようで納得され、不満そうな顔をしてはいたけれど、時間を無駄にしたくないうえに、今日は機嫌が良いからか、喧嘩になるような事もなかった。
「オスカーさんが言ってたのはこの辺だな。ティ?場所はここで良いか?」
従魔達の視線を受けながら目的の場所までやってくると、周囲に人がいないかを確認して服の中に隠れていたティへと声を掛けると、顔だけをひょっこりと出した。
「人があまり来ない場所にしてもらったんだが、大丈夫そうか?」
「そうね。人目もないみたいだし、大丈夫じゃない?」
顔を出したティにもう一度問いかけると、ティも周囲を見渡しながら答えた。僕は実際に見てないから実感はないけど、道を使うと周囲からは急に消えたように移るらしくて、その瞬間を誰かに見られでもしたら騒ぎになる事は確実で、それが僕達ともなればもっと大騒ぎになることは簡単に想像できるらしい。だから、人がいない場所を探してここまで来たんだけど、オスカーさんの店の人が前より増えていたから大丈夫かなと不安になっていた。だけど、敷地も一緒に広くなったからか、店の端の方へ行けば途端に人の気配もなくなるようだった。
「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃうわね!」
「そんな簡単に作れるものなの?」
だいぶ渋ってたわりに、僕の服から出てくるなり軽い感じの物言いをするティに僕が不思議そうに尋ねると、両手を前へと出しながら、視線だけをこちらへと向けて答えた。
「まぁ、森から魔力を引き寄せる必要があるから、ちょっと時間は掛かるけど、手間としてはそこまでじゃ…」
「なぁ!?その道っていつできるんだ!?もう出来たか!?」
「今やってる所でしょ!?そんなにすぐ出来るわけないんだから、ちょっと大人しく待ってなさいよ!!」
僕達にはティが空中を飛びながら、ただ手を前に出しているだけのようにしか見えないからか、話の途中で待ちきれないといった様子で尋ねれば、やはりまだ終わってなかったようで、小言のような答えが返ってきた。でも、叱られた方は、それでも楽しそうだった。
「何かワクワクするな!」
「そうだね!」
「私も、少し胸が高鳴ってます」
「はしゃぎすぎて転ぶなよ」
「お前は俺達の保護者かよ!?」
初めて道を使うとあってか、みんな待ちきれないといったようで、それもあって使った事がある僕も釣られるように気持ちが上がっていく。道を作っているティも、期待の目で見られているせいか、満更でもなさそうな顔をしていた。それから今か今かと待ち続けること10分、待ちに待った声が響いた。
「出来たわよ!」
「本当か!?なら、もう入れるのか!?」
「道は開いているから、入れるには入れるわよ」
「よし!行くぞ!!」
「ちょっと!勝手に行かないでよ!迷子になるわよ!!」
実際の時間としてはそれほど経ってはいないけれど、それよりも長く待っていた感覚がするからか、返事を聞いた途端に待ちくたびれたように中へと飛び込んで行った。すると、ティも慌てた様子で追いかけて行ったけど、その姿はパッと消えたように見えた。だから、本当に消えたように見えるんだと僕が思っていたら、普段よりうわずった声が響く。
「さぁ、私達も行きましょうか!?」
「そ、そうだね!」
「……はぁ」
冷静な振りをしているわりにコンラットも浮き足立っているようで、声からは未知の事に対する好奇心が滲んでいた。だけど、そんな僕達の中でやっぱり一人だけはため息を付いていた。
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彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
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