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六章
案内役
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「ねぇ?何処に繋げば良いの?」
「お前、分かってて繋げてたんじゃなかったのか!?」
てっきり分かったうえで道を作ってるのかと思ったのに、その場の勢いだけで行動していたようで、今さら気付いたかのように僕達へと行き先を聞いていたティに驚きの声を上げる。だけど、それを言った本人は当然だとばかりに言い返す。
「大まかな場所しか言われてないのに、繋げられるわけないでしょう!!」
「そういえば…そうだな…?」
「ルークスに行くという話にはなりましたが、何処に行くかまでは話していませんでしたからね」
行き先の国しか決めていなかった事に気付き、こちらが非を認めるような事を言えば、自分は間違ってなかったとでもいうような態度を見せた。
「ぼら!やっぱり私は悪くないじゃない!!私が連れて行ってあげるんだから、そこんとこもっとしっかりしてよね!!」
「ぐっ…!!」
この中で一番しっかりしていないのはおそらくティなのに、そのティにそれを言われたため、バルドは物凄く言い返したそうな顔をするけれど、ここでティに拗ねて帰られると、父様達に見つかってうっかり今回の事を話してしまいそうな事もあり、必死で言い返すのを我慢しているようだった。既にお菓子という賄賂を渡して、森にしばらく帰っていてもらうようにみんなで頼んでいたのもあり、それが無駄になるのも避けたかった。だから、僕達が言い返さずに黙っていると、その様子に気を良くしたティが、少し上から目線で言ってきた。
「それで、何処らへんに行くのよ?」
「……そうだな。その国って有名な観光地とかってあるのか…?」
少し悔しそうな顔をしながらも、今回の案内役を引き受けてくれたグレイ達に視線を向ければ、昔の記憶を辿るように考え込む表情をした後、何かを思い出したかのように声を上げた。
「確か、セイクリッドという町が観光地として有名だと言っていたような?」
「それって何処の町?」
「この前の騒ぎがあった街から少し離れた場所にある町だな」
「おぉ、前はよく行っておったが、段々と騒がしくなって行かなくなった場所じゃな」
「何が有名なんだ?」
「さぁ?人間達が絶対に一度は行くべき場所だと話していた会話をすれ違い様に聞いただけだったので」
「だったら、まずはそこを行き先にして、気に入らなければ他の場所に行けば良い」
「行けば良いって!誰が連れて行くのよ!?」
「無理なら代わるが?」
「無理じゃないわよ!!だから、アンタの出番はないわよ!!」
「そうか」
自分が言った言葉にムキになって反論し、グレイに町の場所を聞いているティの様子をニヒルな笑みを浮かべながら見ていたけど、その姿に違和感を感じてしまう。
「それにしても、何でキールはそんなに行く気になってるんだ?」
そこまで人となりを知っているわけじゃないけれど、こういった事を嫌ってネアと一緒で反対しそうなのに、ティを焚きつけながらうまく誘導しているように見える。だから、そんな肯定的な態度を取っている事を不思議そうに聞けば、そんな事かとでもいうような顔で答えた。
「あの方もそうだが、一度決めたらグレイは絶対に意見を変えないからな。それならば、さっさと終わらせた方が良い」
「キールは厳しい性格なようで、直ぐに楽な方に流れて行きますからね」
「お前等と一緒にいればそうなる」
「そうですか?まぁ、私としては風の相手を代わりにしてもらえるなら、多少は考えるくらいはしますよ」
「お前は考えるだけで、普段からも俺を風よけにしているだろう…」
「私も彼の壁役になってあげてるのですから、それはお互い様ですよね?」
「まぁ…そうは…そうなんだが…」
苦にならないというのもあるけれど、お互いにメリットもあるから一緒にいるのだと口で言われるのは、どうにも納得できないようだった。だけど、そこに嘘はないからか、特に言い返す事もなく受け入れていたので、見かけによらず意外と受け身な性格なんだなと思っていると、静かに頑張っていた者から元気な声が上がる。
「出来たわよ!」
「もう出来たのか?さっきよりも速いな?」
「魔力は先に集めてたから、後は開くだけだったからこんなものよ!」
何気なく言った言葉だったけど、褒められていると勘違いしたティが胸を張れば、その様子を微笑ましく見ながらも、お爺さんが一歩踏み出す。
「どれ、行くかのう」
「何言っての?そんな大きさで通れるわけないでしょ。アンタ等は自力で来なさいよ」
僕達が通れるくらいの大きさでしか作ってないようで、当然のように使おうとしていたお爺さんに、何を甘えているのかとでもいうような態度で切り捨てていた。さっきまで負けん気を発揮していただけに、見栄を張って大きく作るかと思っていたのに、意外とティもしっかりしていたようだ。その後、多少不満はこぼしていたけれど、自分達でも簡単に行けるせいか直ぐに矛を引いてくれて、目的地には別々に行くことになった。
「思ったより違和感ないな?」
町の入口で待ち合わせをしていたけれど、後からやって来た彼等の変化にバルドが驚きを滲ませながら迎え入れる。精霊王であるお爺さんやグレイも人ではない何かを感じさせる雰囲気があったが、常に近寄り難い雰囲気を出しているキールでさえも、少し話しかけにくいくらいまでに表情を軟化させており、自然と街の中にも溶け込めるくらいの気配になっていた。知らない人が見たら、もう人間にしか見えない。
僕達と同じように町に行くための服に変えているとはいっても、それ以外は特に変えていないから、その整った容姿だけは全く隠せておらず、優しげな美形と厳し目の美形が2人揃って並んでいると、別の意味で目立っていた。でも、そんな周囲からの視線にも気付かないようで、バルドの疑問の声にさも当然だろうというような反応を返していた。
「街に物を買いに来た事があると言っただろう」
「さも自分が行っていたように言ってますが、キールが行っていたのは最初だけだったでしょう」
「そうなの?」
「えぇ、この性格でしたからね。街で売られた喧嘩を買って騒動を起こす事も珍しくなかったので、最近では私が買いに行っていたんですよ」
「じゃあ、誰が案内してくれるんだ?」
「とりあえず、キールは街の案内なんて出来ません」
「ふんっ、多少年月が経っていようが、どれもさして変わらない人間の町の案内くらいは出来る」
「ちなみに、それってどれくらい前なんだ?」
「100年と少し前だな」
「いや…それはなぁ…」
出来ないと言われたのが面白くなかったようで、不機嫌そうに反論していたけれど、それだけの時間があったら、街の中なんて様変わりしている可能性も高いだろうから当てにならなそうだ。だけど、あまりに堂々としているその姿には、物怖じしないバルドでさえも、それを口にする事ができないようだった。
「ま、まぁ、案内なんてなくても、適当に見て回っても楽しいだろうしな!」
最初に言っていた発言を取り消すような事を言いながら、その場を誤魔化そうとするように周囲を見渡すように視線を向けていると、下の方から幼い声が聞こえた。
「お前達、この街には観光で来たのか?」
その声で僅かに視線を下にずらすと、僕達よりも少し年下らしき男の子が、まるで僕達の事を値踏みするかのような笑みを浮かべて立っていた。
「そうだけど?俺達に何か用か?」
「観光できたんだったら、街を案内してやろうかと思ってよ!」
自分が住んでいる街が自慢なのか、僕達が貴族だと気付いていないその子は問い掛けに得意げな顔で答え、僕達にそう提案してきた。
「いや、自分達で見て回るから、別にそういうのは…」
「観光地の街とかでは、こうした案内で生計を立てている奴等がいて、良い小遣い稼ぎになってたりもするんだよ」
自分より小さな子に案内させるのは悪いだろうと断ろうとしていた所へ、僕達よりも色んな場所に行ったことがあり、そういう事にも詳しいらしいネアが説明すると、感心したような声を上げる。
「へぇー。でも、そういう事だったら案内よろしくな!」
「おぅ!ばっちり案内してやるよ!じゃあ、順番に案内して行くな!」
バルドがその子に話しかければ、張り切ったような威勢の良い声を返しながら右手で胸を軽く叩き、街の中へ向けて意気揚々と歩き出した。
「なぁ?この街って観光客とかが多いのか?」
「当然だろう!この街は精霊王様が降り立った場所とされてるんだぞ!」
「はて?そうじゃったかのう?」
人の多さの他に、僕達以外にも観光客らしき人達や、それを案内している人達がいる姿が見えたから尋ねれば、この街の自慢を誇るように胸を張りながら答えた。だけど、当の本人だけは疑問符を浮かべていた。
「こんな常識を忘れるなんて爺さんはもうろくしてんのか?」
「なんじゃと!?ワシはもうろくなんぞしとらんぞい!」
子供らしい無慈悲な物言いに少しムキになったように反論すれば、それを擁護するはずのグレイ達は隠す気もない様子で笑っており、否定するどころか庇う様子もない。そんな冷たい態度に、お爺さんは少し叱責するような声を出す。
「お主等も笑っとらんで少しは否定せんか!」
「子供相手に大人げないですよ」
「そうだ。子供は正直に言っただけだ」
「キール…。お主とは、やはり一度話さなければならんようじゃのう…」
「?」
グレイの言葉は許せても、キールの言葉は許せなかったようで、自然と怒りの矛先が別の方向へと向いたけれど、僕よりも小さいからか、自分の発言が原因で揉めていると分からない男の子は、その様子に不思議そうに首を傾げるだけだった。
「それにしても、何で俺達に声を掛けたんだ?」
お爺さん達の話が長くなりそうな事もあり、全く外見が似通っておらず、色んな意味で悪目立ちもしている僕達に話しかけた理由を目的地に付くまでの間の雑談として問い掛ければ、そちらへの興味を失ったように僕達の方を振り向きながら答えた。
「ここいらじゃ見かけない服装だったし、何よりも金を持ってそうな服だったからな!」
「お前、しっかり見てるんだな」
「当然だろう!大事な金づるだからな!」
「お、おぅ、そうか…」
街に行くとあって質素な服にしていたのに、それでもそれに気付いた小さな子の目利きの良さにネアが感嘆したような声を上げれば得意げな顔で答えた。だけど、本人達を前にして言う事ではなく、言われた方が気後れしていた。
「じゃあ、まずはここからだな!」
そんな本音を隠さない男の子に案内されながら最初にやって来たのは資料館のような場所で、中に入ってみれば授業で軽く習っていたような、少女と精霊王との出会いとその後の内容を宗教画が飾られていた。そして、その建物の最後に置かれていたのは、精霊王が残したとされる聖遺物の模造品だったけど、石を黒く塗っただけのような品に、本人もそれが何か分かっていないようで首を傾げていて、特に気になるようなものなんかは置いていなかった。
その後も、時おり、ご飯が美味しい店や、お土産を売っている場所なんかも案内してもらいながら名所を回っていたけれど、信者じゃないから興味を惹かれるような物はなく、ちょっと退屈になってきた頃、ようやく見応えがありそうな大きな噴水がある広場までやって来た。だけど、そこには誰かの人物像が鎮座していた。
「これが精霊王様の像だぞ!」
大きな像の前にやって来たと思ったら、僕も知っている人物像のようだったけど、目や口元がキリリとしていて、先導者のような貫禄がある。だから、像を前にしても、本人が此処にいる事に誰も気付いていなかった。
「いや、全然似てないぞ?本物はもっと普通の爺さんだぞ?」
「まぁ、こういうのは美化されるものだからな」
像を指さしながら言うバルドの呟きに、ネアが興味なさげに返せば、直ぐに男の子が怒りの声を上げた。
「失礼だぞ!そんな事を言っていると、精霊王様からの罰が当たるからな!」
「ワシ、そんな事で罰したりせんのじゃが?」
「爺さんには言ってないだろ!それに、何でそんな事が分かるんだよ!?」
「本人じゃからのう」
「へっ、本人…?」
「すみません!悪ふざけをするこの人達には、私の方から注意しておきますので!」
呆然とした様子で固まってしまった男の子を前にして、すかさずコンラットが仲裁するように間に入れば、我を思い出したように動き出した。
「いい歳して悪ふざけが過ぎるぞ!!俺じゃなく他の奴等だったら、怒られるくらいじゃすまないんだからな!」
そう言って踵を返して再び歩き出すも、未だに怒った様子の男の子の背にコンラットは小さくため息を付いていた。
「お前、分かってて繋げてたんじゃなかったのか!?」
てっきり分かったうえで道を作ってるのかと思ったのに、その場の勢いだけで行動していたようで、今さら気付いたかのように僕達へと行き先を聞いていたティに驚きの声を上げる。だけど、それを言った本人は当然だとばかりに言い返す。
「大まかな場所しか言われてないのに、繋げられるわけないでしょう!!」
「そういえば…そうだな…?」
「ルークスに行くという話にはなりましたが、何処に行くかまでは話していませんでしたからね」
行き先の国しか決めていなかった事に気付き、こちらが非を認めるような事を言えば、自分は間違ってなかったとでもいうような態度を見せた。
「ぼら!やっぱり私は悪くないじゃない!!私が連れて行ってあげるんだから、そこんとこもっとしっかりしてよね!!」
「ぐっ…!!」
この中で一番しっかりしていないのはおそらくティなのに、そのティにそれを言われたため、バルドは物凄く言い返したそうな顔をするけれど、ここでティに拗ねて帰られると、父様達に見つかってうっかり今回の事を話してしまいそうな事もあり、必死で言い返すのを我慢しているようだった。既にお菓子という賄賂を渡して、森にしばらく帰っていてもらうようにみんなで頼んでいたのもあり、それが無駄になるのも避けたかった。だから、僕達が言い返さずに黙っていると、その様子に気を良くしたティが、少し上から目線で言ってきた。
「それで、何処らへんに行くのよ?」
「……そうだな。その国って有名な観光地とかってあるのか…?」
少し悔しそうな顔をしながらも、今回の案内役を引き受けてくれたグレイ達に視線を向ければ、昔の記憶を辿るように考え込む表情をした後、何かを思い出したかのように声を上げた。
「確か、セイクリッドという町が観光地として有名だと言っていたような?」
「それって何処の町?」
「この前の騒ぎがあった街から少し離れた場所にある町だな」
「おぉ、前はよく行っておったが、段々と騒がしくなって行かなくなった場所じゃな」
「何が有名なんだ?」
「さぁ?人間達が絶対に一度は行くべき場所だと話していた会話をすれ違い様に聞いただけだったので」
「だったら、まずはそこを行き先にして、気に入らなければ他の場所に行けば良い」
「行けば良いって!誰が連れて行くのよ!?」
「無理なら代わるが?」
「無理じゃないわよ!!だから、アンタの出番はないわよ!!」
「そうか」
自分が言った言葉にムキになって反論し、グレイに町の場所を聞いているティの様子をニヒルな笑みを浮かべながら見ていたけど、その姿に違和感を感じてしまう。
「それにしても、何でキールはそんなに行く気になってるんだ?」
そこまで人となりを知っているわけじゃないけれど、こういった事を嫌ってネアと一緒で反対しそうなのに、ティを焚きつけながらうまく誘導しているように見える。だから、そんな肯定的な態度を取っている事を不思議そうに聞けば、そんな事かとでもいうような顔で答えた。
「あの方もそうだが、一度決めたらグレイは絶対に意見を変えないからな。それならば、さっさと終わらせた方が良い」
「キールは厳しい性格なようで、直ぐに楽な方に流れて行きますからね」
「お前等と一緒にいればそうなる」
「そうですか?まぁ、私としては風の相手を代わりにしてもらえるなら、多少は考えるくらいはしますよ」
「お前は考えるだけで、普段からも俺を風よけにしているだろう…」
「私も彼の壁役になってあげてるのですから、それはお互い様ですよね?」
「まぁ…そうは…そうなんだが…」
苦にならないというのもあるけれど、お互いにメリットもあるから一緒にいるのだと口で言われるのは、どうにも納得できないようだった。だけど、そこに嘘はないからか、特に言い返す事もなく受け入れていたので、見かけによらず意外と受け身な性格なんだなと思っていると、静かに頑張っていた者から元気な声が上がる。
「出来たわよ!」
「もう出来たのか?さっきよりも速いな?」
「魔力は先に集めてたから、後は開くだけだったからこんなものよ!」
何気なく言った言葉だったけど、褒められていると勘違いしたティが胸を張れば、その様子を微笑ましく見ながらも、お爺さんが一歩踏み出す。
「どれ、行くかのう」
「何言っての?そんな大きさで通れるわけないでしょ。アンタ等は自力で来なさいよ」
僕達が通れるくらいの大きさでしか作ってないようで、当然のように使おうとしていたお爺さんに、何を甘えているのかとでもいうような態度で切り捨てていた。さっきまで負けん気を発揮していただけに、見栄を張って大きく作るかと思っていたのに、意外とティもしっかりしていたようだ。その後、多少不満はこぼしていたけれど、自分達でも簡単に行けるせいか直ぐに矛を引いてくれて、目的地には別々に行くことになった。
「思ったより違和感ないな?」
町の入口で待ち合わせをしていたけれど、後からやって来た彼等の変化にバルドが驚きを滲ませながら迎え入れる。精霊王であるお爺さんやグレイも人ではない何かを感じさせる雰囲気があったが、常に近寄り難い雰囲気を出しているキールでさえも、少し話しかけにくいくらいまでに表情を軟化させており、自然と街の中にも溶け込めるくらいの気配になっていた。知らない人が見たら、もう人間にしか見えない。
僕達と同じように町に行くための服に変えているとはいっても、それ以外は特に変えていないから、その整った容姿だけは全く隠せておらず、優しげな美形と厳し目の美形が2人揃って並んでいると、別の意味で目立っていた。でも、そんな周囲からの視線にも気付かないようで、バルドの疑問の声にさも当然だろうというような反応を返していた。
「街に物を買いに来た事があると言っただろう」
「さも自分が行っていたように言ってますが、キールが行っていたのは最初だけだったでしょう」
「そうなの?」
「えぇ、この性格でしたからね。街で売られた喧嘩を買って騒動を起こす事も珍しくなかったので、最近では私が買いに行っていたんですよ」
「じゃあ、誰が案内してくれるんだ?」
「とりあえず、キールは街の案内なんて出来ません」
「ふんっ、多少年月が経っていようが、どれもさして変わらない人間の町の案内くらいは出来る」
「ちなみに、それってどれくらい前なんだ?」
「100年と少し前だな」
「いや…それはなぁ…」
出来ないと言われたのが面白くなかったようで、不機嫌そうに反論していたけれど、それだけの時間があったら、街の中なんて様変わりしている可能性も高いだろうから当てにならなそうだ。だけど、あまりに堂々としているその姿には、物怖じしないバルドでさえも、それを口にする事ができないようだった。
「ま、まぁ、案内なんてなくても、適当に見て回っても楽しいだろうしな!」
最初に言っていた発言を取り消すような事を言いながら、その場を誤魔化そうとするように周囲を見渡すように視線を向けていると、下の方から幼い声が聞こえた。
「お前達、この街には観光で来たのか?」
その声で僅かに視線を下にずらすと、僕達よりも少し年下らしき男の子が、まるで僕達の事を値踏みするかのような笑みを浮かべて立っていた。
「そうだけど?俺達に何か用か?」
「観光できたんだったら、街を案内してやろうかと思ってよ!」
自分が住んでいる街が自慢なのか、僕達が貴族だと気付いていないその子は問い掛けに得意げな顔で答え、僕達にそう提案してきた。
「いや、自分達で見て回るから、別にそういうのは…」
「観光地の街とかでは、こうした案内で生計を立てている奴等がいて、良い小遣い稼ぎになってたりもするんだよ」
自分より小さな子に案内させるのは悪いだろうと断ろうとしていた所へ、僕達よりも色んな場所に行ったことがあり、そういう事にも詳しいらしいネアが説明すると、感心したような声を上げる。
「へぇー。でも、そういう事だったら案内よろしくな!」
「おぅ!ばっちり案内してやるよ!じゃあ、順番に案内して行くな!」
バルドがその子に話しかければ、張り切ったような威勢の良い声を返しながら右手で胸を軽く叩き、街の中へ向けて意気揚々と歩き出した。
「なぁ?この街って観光客とかが多いのか?」
「当然だろう!この街は精霊王様が降り立った場所とされてるんだぞ!」
「はて?そうじゃったかのう?」
人の多さの他に、僕達以外にも観光客らしき人達や、それを案内している人達がいる姿が見えたから尋ねれば、この街の自慢を誇るように胸を張りながら答えた。だけど、当の本人だけは疑問符を浮かべていた。
「こんな常識を忘れるなんて爺さんはもうろくしてんのか?」
「なんじゃと!?ワシはもうろくなんぞしとらんぞい!」
子供らしい無慈悲な物言いに少しムキになったように反論すれば、それを擁護するはずのグレイ達は隠す気もない様子で笑っており、否定するどころか庇う様子もない。そんな冷たい態度に、お爺さんは少し叱責するような声を出す。
「お主等も笑っとらんで少しは否定せんか!」
「子供相手に大人げないですよ」
「そうだ。子供は正直に言っただけだ」
「キール…。お主とは、やはり一度話さなければならんようじゃのう…」
「?」
グレイの言葉は許せても、キールの言葉は許せなかったようで、自然と怒りの矛先が別の方向へと向いたけれど、僕よりも小さいからか、自分の発言が原因で揉めていると分からない男の子は、その様子に不思議そうに首を傾げるだけだった。
「それにしても、何で俺達に声を掛けたんだ?」
お爺さん達の話が長くなりそうな事もあり、全く外見が似通っておらず、色んな意味で悪目立ちもしている僕達に話しかけた理由を目的地に付くまでの間の雑談として問い掛ければ、そちらへの興味を失ったように僕達の方を振り向きながら答えた。
「ここいらじゃ見かけない服装だったし、何よりも金を持ってそうな服だったからな!」
「お前、しっかり見てるんだな」
「当然だろう!大事な金づるだからな!」
「お、おぅ、そうか…」
街に行くとあって質素な服にしていたのに、それでもそれに気付いた小さな子の目利きの良さにネアが感嘆したような声を上げれば得意げな顔で答えた。だけど、本人達を前にして言う事ではなく、言われた方が気後れしていた。
「じゃあ、まずはここからだな!」
そんな本音を隠さない男の子に案内されながら最初にやって来たのは資料館のような場所で、中に入ってみれば授業で軽く習っていたような、少女と精霊王との出会いとその後の内容を宗教画が飾られていた。そして、その建物の最後に置かれていたのは、精霊王が残したとされる聖遺物の模造品だったけど、石を黒く塗っただけのような品に、本人もそれが何か分かっていないようで首を傾げていて、特に気になるようなものなんかは置いていなかった。
その後も、時おり、ご飯が美味しい店や、お土産を売っている場所なんかも案内してもらいながら名所を回っていたけれど、信者じゃないから興味を惹かれるような物はなく、ちょっと退屈になってきた頃、ようやく見応えがありそうな大きな噴水がある広場までやって来た。だけど、そこには誰かの人物像が鎮座していた。
「これが精霊王様の像だぞ!」
大きな像の前にやって来たと思ったら、僕も知っている人物像のようだったけど、目や口元がキリリとしていて、先導者のような貫禄がある。だから、像を前にしても、本人が此処にいる事に誰も気付いていなかった。
「いや、全然似てないぞ?本物はもっと普通の爺さんだぞ?」
「まぁ、こういうのは美化されるものだからな」
像を指さしながら言うバルドの呟きに、ネアが興味なさげに返せば、直ぐに男の子が怒りの声を上げた。
「失礼だぞ!そんな事を言っていると、精霊王様からの罰が当たるからな!」
「ワシ、そんな事で罰したりせんのじゃが?」
「爺さんには言ってないだろ!それに、何でそんな事が分かるんだよ!?」
「本人じゃからのう」
「へっ、本人…?」
「すみません!悪ふざけをするこの人達には、私の方から注意しておきますので!」
呆然とした様子で固まってしまった男の子を前にして、すかさずコンラットが仲裁するように間に入れば、我を思い出したように動き出した。
「いい歳して悪ふざけが過ぎるぞ!!俺じゃなく他の奴等だったら、怒られるくらいじゃすまないんだからな!」
そう言って踵を返して再び歩き出すも、未だに怒った様子の男の子の背にコンラットは小さくため息を付いていた。
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桂崇
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小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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