落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

文字の大きさ
16 / 326
一章

授業開始!

しおりを挟む
「リュカ様…大丈夫ですか……?」

つまみ食いがばれてドミニクに叱られたうえ、お菓子禁止令まで出された僕は、朝からずっと落ち込んでいた。すると、今日も授業のため、何時もより遅れて僕の部屋にやって来たフェリコ先生が、眉を下げながら僕に話しかけてきた。

「うん…。しばらく……お菓子がなくなった……だけだから……」

フェリコ先生には“だけ”と言ってみたけれど、僕にとってはかなりの大事件だったため、自分で言いながらも、声がしょんぼりしているのがわかった。

「そ、そうですか……。今日は、算術とマナーの日となっていますが……本当に大丈夫ですか?昨日倒れられたとも聞きましたし、お休みにしても構わないんですよ…?」

まるで割れ物を扱うみたいに慎重な声で問いかけてくる。でも、勉強すると宣言してから、まだ一日も経っていないのに止めるわけにはいかない。それに、わざわざ来てもらったフェリコ先生にも、なんだか申し訳ない。

「だ、大丈夫! 授業はちゃんとやるよ。ほら、算術の本も……持ってきたし!」

慌てて机の上の本を抱えて見せながら気合いを入れて言えば、フェリコ先生は少しだけ目を丸くして、それから穏やかに微笑んだ。

「……分かりました。ですが、無理だけはしないでくださいね?」

先生の声はいつもより柔らかくて、まるで落ち込んでいる僕を包むみたいに優しかった。でも、そんな僕をよそに、フェリコ先生は言葉を続ける。

「なので、途中で具合が悪くなることがあったら、その場でちゃんと言ってくださいね?」

「分かりました!」

元気よく返事をしたつもりだったけれど、フェリコ先生は目を細めて、さらに一言つけ加えてきた。

「……隠そうとしても、わかりますからね」

「!!?」

もし途中で少しくらい気分が悪くなっても、こっそり我慢して授業を続ければいい、そう思っていただけに図星を刺されて、思わず肩が跳ねる。

(僕って、そんなにわかりやすいのかな…?)

お菓子のこともそうだけど、どうして毎回、僕が心の中で考えていることがすぐにばれてしまうんだろう……。そんな疑問が頭をよぎった瞬間、それを証明するようにかのように、フェリコ先生が口を開いた。

「リュカ様の場合、何を考えているのか、すぐ顔に出るので分かります。それに、私は教育係としていつも側にいますから、顔に出さなくても態度で分かるんですよ」

本当に全部お見通しなようで、ちょっと困ったような、でもどこか優しい目で僕を見つめていた。だけど、次の言葉で、背筋がぴんっと伸びた。

「もし、体調を崩したことを隠そうとしたら……それも含めてアルノルド様に報告させていただきますよ?」

「……分かりました」

僕が返事をすると、フェリコ先生は満足したように一度だけ頷き、机の上に道具や教本を広げ始めた。

本当は納得はしていない。でも、もし両親に知られたら、ただでさえ少ない授業時間が、もっと減らされるに決まっている。それだけは嫌だった僕は、小さく息を吐いて、従うしかなかったけど、それすらも気付かれていそうだった。

予定していた午前中の算術の授業は、何の問題もなく終えることができた。

以前の僕は、一桁の足し算でさえ間違えることがあったのに、今は前世の記憶のおかげか、するすると解けてしまう。途中、フェリコ先生から強い視線を感じたけれど、僕はそれに気づかないふりをしていた。だけど、足し算だけではあまりに簡単すぎて、正直、物足りない。思い切って引き算にも挑戦したいと言ってみたが、「初日から無理をしないように」とあっさり却下されてしまったため、足し算だけをひたすら繰り返すことになった……。

午前中の授業を終え、お昼の休憩を兼ねて母様と食事を食べた時、不慣れな使い方をする僕と違って、優美に食べる母様の所作がふと目に入った。僕としては、そんな目で見ていたわけではなかったけれど、自然と朝の話になっていた事や、僕にデザートがなかったため、僕がまだ落ち込んでいると思った母様が、そっと自分の分を僕に譲ろうとしてくれた。けれど、つまみ食いをしたのは、他でもない僕自身だ。ここで甘えて受け取ってしまったら、余計にだめな気がして、僕は不意に訪れたぐっと我慢して、丁寧に首を振って断った。

そんな事もあり、午後からは食事マナーの授業に変更してもらった。もともとは別の授業の予定だったけど、礼節なら問題なくできると思い、フェリコ先生にお願いしたのだ。でも…。

「リュカ様。怪我だけはしないよう、気を付けてくださいね…」

カチャン、と食器が触れ合う乾いた音が響いた瞬間、フェリコ先生が不安そうにこちらへ身を乗り出しながら声を掛けてきた。大人用のナイフは、僕の手にはまだ重くて長い。しかも刃物だ。先生が必要以上に心配してしまうのも無理はなかった。静かな声に、心配と緊張が混ざっているのが分かる。

「……はい」

返事をしながら、僕はそっとナイフを握り直したけど、大人用の食器は、やっぱり子供の手には大きくて重い。うまく持つことさえ難しく、音を立てないように慎重に動かせば、今度はうまく口へ運べず、ぽろりとこぼれてしまう……。

普段の食事では、僕の手に合わせて特注で作ってもらった小さめの食器を使っていた。でも、それがずっと不満でもあった。それに、学院に入れば、周りの子達とだけじゃなく、大人達と一緒に食事をする機会も増える。その度に、自分だけ小さい食器を使っていては、情けないし恥ずかしい。……けれど、結果は散々だった。

「はぁ……」

僕が怪我をしないかと、先生が気が気じゃない様子で今も隣から覗き込んでいるけれど、気づけば口からため息が漏れていた。家族に恥をかかせないようにしようと思っても始めたけど、それさえも上手く出来ない不出来さに、情けなくて、胸の奥がじんと痛む。

「リュカ様。マナーそのものは普段からきちんと出来ていますよ。だから、そんなに落ち込まないでください…」

慰めるようにフェリコ先生が声をかけてくれる。だけど、今の僕には、それがどこか白々しく聞こえてしまう。そんな僕の心が透けて見えたのか、先生は困ったように眉を寄せた。

「えっと……病み上がりですし、今日の授業はここまでにしましょうか…?」

「……はい」

こうして、初日の授業は予定よりも早くお開きになってしまった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

処理中です...