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一章
子供の頃(オルフェ視点)
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「お前、また眉間にシワが寄ってるぞ」
学院の教室で思考を巡らせていると、隣からいつも通りの騒がしい声が飛んできた。そいつが現れたせいで、思考を乱され私は、若干の苛立ちを感じながら目を向ける。
「レオン……煩いぞ」
「眉間にシワが寄ってたから教えてやったんだろ?考え混む時に、眉間にシワを寄せるその癖、直した方がいいと思うそ?朝から機嫌が悪そうだって、周囲が怯えてる」
屋敷からここまでくる間も、考え事をしていたこともあってか、自分の眉間を伸ばしながら、それを指摘してくる。悪い癖なのは分かっているが、そんな簡単に直せるものでもない。
「……余計なお世話だ」
「何か悩みがあるなら聞くぞ」
こいつ自身が悩みの種になることの方が多いというのに、前の席に座りながら振り向いてくるレオンは、いつもの調子で明るい。こんな奴に相談するのは、少々しゃくではあるが、レオンに言われた言葉が役に立った事もあり、試しに相談してみることにした。
「……リュカとの距離感が、未だに掴めない」
「距離感?」
「先日、一緒に書庫で過ごしたのだが、傍にいても嫌がる様子もなかったため、少しは懐いてくれたのかと思ったんだ。だが……次の日には、また以前のように避けられた…」
「え、何?仲悪かったのか?お前、弟は可愛いって俺にいつも言ってただろ?」
「昔……泣かれた事があってな。それ以来、怖がらせないよう私から近づかないようにしていた。だから、挨拶以外は、ほとんど話すこともない」
「いや、それ距離感とかの問題じゃなくないか……。よくそれで“可愛い”って言えたな」
「リュカは可愛い」
「はいはい。で、何があったんだ?」
私が躊躇いなく弟のことを褒めれば、軽く流された。その事に若干苛立ちながらも、私は話を続ける。
「最近、リュカの方から歩み寄ってくれるようになったんだ。土産を買ってきてくれたりな」
「前に言ってたな」
「だから私も努力しようと思い、リュカの話を聞いたり、声をかけたりしていた」
「それで?」
「私が学院から帰れば、書庫でリュカが寝ていた。起こすのも気の毒だと思って本を読んで待っていたが……目を覚ましたリュカは、怯えているように見えた。だらか、これ以上近くにいると嫌われたと思い、書庫から出ようとしたんだ…」
「それ、相手が言ったわけじゃないんだよな?」
「いや、リュカは、またここに来ても良いかと聞いてきたため、好きにしろと答えた」
「じゃあ、嫌われてないんじゃないのか?」
「だが、あの目は……」
「眉間のシワのせいじゃないのか?」
相槌を打ちながらも、真剣に話している私の話を真面目に聞いていると思っていただけに、その軽い一言に殺意を覚え、そのまま奴の事を睨みつければ、少し焦ったような声をあげる。
「じゃ、じゃあ、その目つき……じゃなくて!その事で悩んでるのか!?」
「いや…悩んでいるのは、その後の事だ…。その次の日も、リュカは書庫に来て、私の後ろを可愛らしくついて歩いてきてくれもしたのだが、さらにその次の日。私が用事で外出して戻ると……夕食の席ではまた元通りの態度に戻っていたんだ…」
「でも、お前が何かしたわけじゃないんだろ?」
「その間、会ってすらいない」
「うーん……さすがにそれだけじゃ俺も原因は分からんな……」
感の鋭いコイツなら、何か分かるかと思ったが、お手上げのように言葉を濁す。だが、続けて提案してきた。
「相手が悩んでる時に相談にのったりすれば、兄として頼りになるって思われるかもしれないぞ?そうしたら、また向こうから近寄ってきてくれるんじゃないか?」
「例えば?」
「俺みたいに、勉強教えてもらうとか!」
それを聞いて、ふと此処に来る前の事を思い出す。
「お前、提出課題をまだ出していないそうだな?今朝、また教員に呼び止められた」
「あ……そ、そういえば……」
私の言葉に、レオンは気まずそうに視線をそらすが、提出物の遅れはいつもの事だ。毎度私が尻拭いをしているせいで、教員が私にしか頼ってこない。
「毎度も注意されていて、何故学習しない?」
「でも…苦手なんだよ…。最初は教えるの下手だったけど、今じゃオルフェに教えてもらった方が分かりやすいし、はかどるんだよな」
「はぁ……。私を頼るな。だが、話を聞いた礼として、今回も手伝ってやる…」
「本当か!?今持ってくる!!」
課題を取りに戻るその背を見送りながら、私は独り呟く。
「……相談、か」
誰ともなしに独り事を呟く。そして、昔の自分を思い出しながら、リュカが生まれた頃の時を思い出していた。
昔から、周囲にいる大人達と同じ事は出来たが、なぜ、そんな当然な事で褒めるのかが分からなかった。そのため、表情も変えずにいたのだが、愛想がないと言われていた。感情を表に出す意味も分からず、表情を変える事など殆どなかったが、それでも両親は、私の感情を理解していたため、困ったことはない。
ただ、父上からは「子供らしく遊んでいい」と何度も言われていた。だが、その頃の私は、同年代の子供を見た事がなかったため、それを理解する事ができなかった。
儀式後からは、同年代の者達との顔合わせて、何度か茶会に呼ばれるようになったが、そこで初めて“普通の子供”というものを知った。だが、自分には真似できないと判断し、その者達とは距離を置いたのだが、それを乱す存在が現れた。
「また一人で本読んでんのか!暇なら、俺と模擬戦しようぜ!」
「興味ない。他を当たれ」
「俺より弱い奴とやってもつまんないだろ!だから、一緒にやるぞ!」
何が「だから」なのか分からない。そもそも、了承もしていない。
以前、模擬戦を挑まれた際、手加減するなという要望だったため、全力で叩き潰したのだが、こうも付きまとわれるとは思っていなかった。
王族だから無下にはできない。
父上からは”無視して良い”と言われているが、宰相という職を継ぐ事を考えれば、容易には拒絶はできない。その頃の私は、まだ大人しく従っていた。
「ほら、行くぞ!!」
ため息を付きたいのを我慢しながら本を閉じ、仕方なく奴の後を付いて行く。だが、それと同時に、こんな奴に好かれるより、小動物達に好かれたいと思っていた。
私は、昔から小動物などの可愛い生き物が好きだったが、父上譲りの魔力量のせいか、逃げられてばかりいた。そのため、父上が私のためと放った裏庭の小動物とも、未だに近付けないままだった。だから、弟が私に見せる反応も当然だったのだろう。
「ウワーン!」
「リュカ。お兄ちゃんよ。泣かないで」
母上があやしていたが、私が初めてリュカに近づいた時、盛大に泣かれた。同じ魔力量を持つ父上に抱かれている時も笑っていたのに、私が近づくだけで泣く。
当時、魔力制御も出来ないほど未熟であるだと思った私、弟から、これ以上嫌われないよう、起きている間は近づかないようにした。だから、私が泣かせずに近寄れるのは、寝ている間だけだった。
寝ているリュカは、心の底から可愛く、頭を撫でている際、一度、寝ぼけて私に笑いかけてくれた事があった。その時は、私でさえ思わず表情が崩れてしまった。
動き回るようになれば、そこかしこで悪戯をしては走り回っていたが、その“子供らしさ”に、他の子供に対しては感じない温かさを、両親と共に感じていた。
だからこそ、顔を合わせる度に怯えられるのは辛かった。
私は魔力をより細かく制御できるように努力し、兄としての威厳が保てるよう、部屋が半壊してからは、小物も置かなくなった。自身でやれる事はやってきたつもりだが、それでもリュカは私を避け続けた。
理由が分からず、近づくほど泣かせてしまい、また距離を置いての繰り返し。
そして今。少し近づけたと思った途端、また元に戻った。
(……どうすればいい)
自問しても、答えは出なかった。思考の迷路をさまよっていると、レオンが課題を抱えて戻ってくるのが目に入り、仕方なく考え事を中断する。
「じゃあ、今回も頼むな!」
屈託なく笑うその顔に、思わずため息をつきたくなる。それでも課題を手伝ってやるけれど、頭に浮かぶのは、結局、リュカのことばかりだった。
学院の教室で思考を巡らせていると、隣からいつも通りの騒がしい声が飛んできた。そいつが現れたせいで、思考を乱され私は、若干の苛立ちを感じながら目を向ける。
「レオン……煩いぞ」
「眉間にシワが寄ってたから教えてやったんだろ?考え混む時に、眉間にシワを寄せるその癖、直した方がいいと思うそ?朝から機嫌が悪そうだって、周囲が怯えてる」
屋敷からここまでくる間も、考え事をしていたこともあってか、自分の眉間を伸ばしながら、それを指摘してくる。悪い癖なのは分かっているが、そんな簡単に直せるものでもない。
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こいつ自身が悩みの種になることの方が多いというのに、前の席に座りながら振り向いてくるレオンは、いつもの調子で明るい。こんな奴に相談するのは、少々しゃくではあるが、レオンに言われた言葉が役に立った事もあり、試しに相談してみることにした。
「……リュカとの距離感が、未だに掴めない」
「距離感?」
「先日、一緒に書庫で過ごしたのだが、傍にいても嫌がる様子もなかったため、少しは懐いてくれたのかと思ったんだ。だが……次の日には、また以前のように避けられた…」
「え、何?仲悪かったのか?お前、弟は可愛いって俺にいつも言ってただろ?」
「昔……泣かれた事があってな。それ以来、怖がらせないよう私から近づかないようにしていた。だから、挨拶以外は、ほとんど話すこともない」
「いや、それ距離感とかの問題じゃなくないか……。よくそれで“可愛い”って言えたな」
「リュカは可愛い」
「はいはい。で、何があったんだ?」
私が躊躇いなく弟のことを褒めれば、軽く流された。その事に若干苛立ちながらも、私は話を続ける。
「最近、リュカの方から歩み寄ってくれるようになったんだ。土産を買ってきてくれたりな」
「前に言ってたな」
「だから私も努力しようと思い、リュカの話を聞いたり、声をかけたりしていた」
「それで?」
「私が学院から帰れば、書庫でリュカが寝ていた。起こすのも気の毒だと思って本を読んで待っていたが……目を覚ましたリュカは、怯えているように見えた。だらか、これ以上近くにいると嫌われたと思い、書庫から出ようとしたんだ…」
「それ、相手が言ったわけじゃないんだよな?」
「いや、リュカは、またここに来ても良いかと聞いてきたため、好きにしろと答えた」
「じゃあ、嫌われてないんじゃないのか?」
「だが、あの目は……」
「眉間のシワのせいじゃないのか?」
相槌を打ちながらも、真剣に話している私の話を真面目に聞いていると思っていただけに、その軽い一言に殺意を覚え、そのまま奴の事を睨みつければ、少し焦ったような声をあげる。
「じゃ、じゃあ、その目つき……じゃなくて!その事で悩んでるのか!?」
「いや…悩んでいるのは、その後の事だ…。その次の日も、リュカは書庫に来て、私の後ろを可愛らしくついて歩いてきてくれもしたのだが、さらにその次の日。私が用事で外出して戻ると……夕食の席ではまた元通りの態度に戻っていたんだ…」
「でも、お前が何かしたわけじゃないんだろ?」
「その間、会ってすらいない」
「うーん……さすがにそれだけじゃ俺も原因は分からんな……」
感の鋭いコイツなら、何か分かるかと思ったが、お手上げのように言葉を濁す。だが、続けて提案してきた。
「相手が悩んでる時に相談にのったりすれば、兄として頼りになるって思われるかもしれないぞ?そうしたら、また向こうから近寄ってきてくれるんじゃないか?」
「例えば?」
「俺みたいに、勉強教えてもらうとか!」
それを聞いて、ふと此処に来る前の事を思い出す。
「お前、提出課題をまだ出していないそうだな?今朝、また教員に呼び止められた」
「あ……そ、そういえば……」
私の言葉に、レオンは気まずそうに視線をそらすが、提出物の遅れはいつもの事だ。毎度私が尻拭いをしているせいで、教員が私にしか頼ってこない。
「毎度も注意されていて、何故学習しない?」
「でも…苦手なんだよ…。最初は教えるの下手だったけど、今じゃオルフェに教えてもらった方が分かりやすいし、はかどるんだよな」
「はぁ……。私を頼るな。だが、話を聞いた礼として、今回も手伝ってやる…」
「本当か!?今持ってくる!!」
課題を取りに戻るその背を見送りながら、私は独り呟く。
「……相談、か」
誰ともなしに独り事を呟く。そして、昔の自分を思い出しながら、リュカが生まれた頃の時を思い出していた。
昔から、周囲にいる大人達と同じ事は出来たが、なぜ、そんな当然な事で褒めるのかが分からなかった。そのため、表情も変えずにいたのだが、愛想がないと言われていた。感情を表に出す意味も分からず、表情を変える事など殆どなかったが、それでも両親は、私の感情を理解していたため、困ったことはない。
ただ、父上からは「子供らしく遊んでいい」と何度も言われていた。だが、その頃の私は、同年代の子供を見た事がなかったため、それを理解する事ができなかった。
儀式後からは、同年代の者達との顔合わせて、何度か茶会に呼ばれるようになったが、そこで初めて“普通の子供”というものを知った。だが、自分には真似できないと判断し、その者達とは距離を置いたのだが、それを乱す存在が現れた。
「また一人で本読んでんのか!暇なら、俺と模擬戦しようぜ!」
「興味ない。他を当たれ」
「俺より弱い奴とやってもつまんないだろ!だから、一緒にやるぞ!」
何が「だから」なのか分からない。そもそも、了承もしていない。
以前、模擬戦を挑まれた際、手加減するなという要望だったため、全力で叩き潰したのだが、こうも付きまとわれるとは思っていなかった。
王族だから無下にはできない。
父上からは”無視して良い”と言われているが、宰相という職を継ぐ事を考えれば、容易には拒絶はできない。その頃の私は、まだ大人しく従っていた。
「ほら、行くぞ!!」
ため息を付きたいのを我慢しながら本を閉じ、仕方なく奴の後を付いて行く。だが、それと同時に、こんな奴に好かれるより、小動物達に好かれたいと思っていた。
私は、昔から小動物などの可愛い生き物が好きだったが、父上譲りの魔力量のせいか、逃げられてばかりいた。そのため、父上が私のためと放った裏庭の小動物とも、未だに近付けないままだった。だから、弟が私に見せる反応も当然だったのだろう。
「ウワーン!」
「リュカ。お兄ちゃんよ。泣かないで」
母上があやしていたが、私が初めてリュカに近づいた時、盛大に泣かれた。同じ魔力量を持つ父上に抱かれている時も笑っていたのに、私が近づくだけで泣く。
当時、魔力制御も出来ないほど未熟であるだと思った私、弟から、これ以上嫌われないよう、起きている間は近づかないようにした。だから、私が泣かせずに近寄れるのは、寝ている間だけだった。
寝ているリュカは、心の底から可愛く、頭を撫でている際、一度、寝ぼけて私に笑いかけてくれた事があった。その時は、私でさえ思わず表情が崩れてしまった。
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だからこそ、顔を合わせる度に怯えられるのは辛かった。
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理由が分からず、近づくほど泣かせてしまい、また距離を置いての繰り返し。
そして今。少し近づけたと思った途端、また元に戻った。
(……どうすればいい)
自問しても、答えは出なかった。思考の迷路をさまよっていると、レオンが課題を抱えて戻ってくるのが目に入り、仕方なく考え事を中断する。
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