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五章
月明かりの下 (オルフェ視点)
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より詳細な話しをするため、男にもう一つ別の部屋を用意させたが、やはり部屋同士の壁が薄く、密談をするには適していない。幸いな事に、隣の者は下で酒でも飲んでいるのか不在のようだった。だが、それも何時帰って来るか分からない以上、あまり時間を掛けてはいられない。そのため、前置きもなく父上の指示で来た男に内情を探ってみたが、先程の部屋で聞いた以上の事は知らないようだった。
「父上に詳しい話しは聞かなかったのか?」
「いえ…そういった事柄は常に聞かないようにしています…。深入りしない方が、この世界では長生き出来ますので…」
知り過ぎた結果始末される事も珍しくない世界なだけに、貴族相手となるとそういった面にも慎重になるのだろう。そのため、あえて無知でいることで己の身を守ろうとしているコイツの言い分も理解できる。
「この宿にいたのも父上の指示か?」
「はい。町の門番に低ランク冒険者にオススメの宿を聞いて泊まれとの指示でしたので、その通りにいたしました」
冒険者ギルドのマスターには大きな借りがあるため、短期間で用意が出来て使いやすい物を選ぶと踏んでいたのだろう。そして、町で目立たず行動するために、私が低ランク冒険者に偽装する事も予測していたようだ。やはり、今回の事をある程度予期して色々と準備していた節がある。だからこそ、この男も父上が大人しく連行されたという事実が未だに信じられないようだった。だが、城で身動きが取れないでいるはずなのに、どうにも父上の手のひらで踊らされているような気がする。しかし、その思惑が何かは分からない以上、まずはそれを知る事から始めた方が良いようだ。
「他に調べるように言われた場所はあるか?」
「全ての店を調べるように言われたのですが、何店か内情を探っている振りをしろと言われた店はあります。そのうえ、相手にそれが分かるようにしろとの指示でしたので、何とも奇妙な命令だと思いました」
事実だけを淡々と語っているが、内面では釈然としていないといった様子が見て取れた。普通であれば警戒されないようにするべき事案に、真逆とも言えるような指示を出していたのだから、それは気にはなるだろうと理解出来た。そして、私も気になる。
「その店に何か変わった所などはあったか?」
「いえ、特に見た限りでは不自然な点はありませんでした。詳しく調べれば何か出たかもしれませんが、振りだけとの指示でしたので内情までは…」
「そうか。では、それらの店は、私の方で一度見てみる事にしよう。お前、そのための準備を明日までに出来るか?」
「お任せ下さい」
私が指示を出せば、相手からは快く応じる返事が直ぐに返ってきたため、一通りの細かい指示を出し終えると、自身が泊まる事になっている部屋へと戻るために早々に席を立った。リュカはもう寝ていると思い、扉の前でなるべく気配を消してから入ろうとするが、ドアの建て付けが悪く、行きと同じように軋む音が出てしまった。その音はあまり大きいといえる音ではなかったが、ベットの上で身動ぎする気配がした。
「兄様。おかえりなさい」
「すまない。起こしてしまったか?」
「ううん。兄様が帰って来るの待ってたから」
ベットから身を起こしながら声を掛けてくるリュカからの返事を聞き、知らない場所で急に1人で寝ろと言われても、不安で寝付けるわけがなかった事に気が付く。あの男と話していた時間はあまり長くはなかっただろうが、リュカには先に布団に入って寝るように言っていたため、特に時間を気にしてはいなかった。そのため、疲れているに違いないリュカには、この時間は長く感じただろう。
「後は私も休む。だから、リュカももう寝ろ」
「うん…、だけど…何だか眠れなくて…」
安心させるため、私が傍にいる事を伝えるが、何とも申し訳なさそうな表情を浮かべながら目尻を下げる。だが、その視線の先にある物を考えれば、それは無理もない事かもしれない。部屋を出る前に私も一度触ってみたが、屋敷で使用している物とは雲泥の差がある。
学院時代に野営を経験もあるため、今では寝具と呼べる物があるだけマシだと思えるようになったが、最初の頃は寝るどころか地面に横になる事すら抵抗があった。だが、座ったままの姿勢で寝ても疲れが取れないと、何とか横になりはしたが、起床後の身体の痛みで苦労した記憶が鮮明に今も残っている。だからこそ、そんな経験をした事がないリュカにとっては、この寝具でもさえも辛いものがあるのだろう。
その事にも気付いてしまえば、あの男に明日の支度をさせるなどよりも先に、寝具の手配でもさせるべきだったかと一瞬頭を過るが、宿屋に高級寝具を運び込ませたりなどすれば目立つ事このうえない。かといって、屋敷でも使用するような物がある宿では、ある程度こちらの身分を明かさなければならないため、それが出来ない今は門前払いされるだけだ。
「兄様?どうしたの?」
「いや、なんでもない…」
黙り込んでしまった私を心配し声を掛けて来たリュカに、私は自身の考えを悟られないように素っ気ない返事だけを返しながら、リュカの枕元付近で呑気に1人で眠りこけている役立たずへと視線を移す。リュカを危険にさらしておきながら、全く悪びれていない寝顔には殺意すら湧く。
コレが勝手にリュカを連れ出したと報告を受けても、それはまだ想定の範囲内だったため、そこまでの驚きはなかったが、いざリュカからの呼び出しを受けて駆けつければ、そこは魔物の気配もある森の中だった。指定された場所でなかった時点で、何かを誤魔化しをしているだろうという事は直ぐに分かったが、安全に配慮しろと言った事すらも守れないコレに、あの場で罵声を上げなかった自分を褒めてやりたい。もし、リュカが傍にいなければ、間違いなくその場で罰していた。
「後で話しがあると言ったのにも関わらず、それさえも忘れて此処まで眠りこけるとはな…」
「で、でも、少し前までなら起きてたよ。たぶん、疲れてたんじゃないかな…?」
私が咎めるような事を言えば、直ぐに言葉を発してコレを庇おうとする。リュカは自身よりも他者を優先してしまう所があるが、私は物事を損得勘定でしか見れないため、リュカの優しさに付け込んでいるコレには、もはや掛ける情けなどはない。だが、コイツが口にするような狭量な所を、リュカのを目の前では晒したくはない。
「はぁ……この話しはまた後日にしよう。それよりも今は、明日のために寝た方が良いのだが、やはり眠れそうにないか?」
「うん…あっ…でも、寝られない時とか、父様達にやってもらう事はあるよ…」
「それは何だ?私に出来る事があれば手伝おう」
夜も次第に更けて来たため、少しでも寝られるのであれば協力しようと思い問いかければ、恥ずかしそうに布団で顔を半分隠しながら言った。
「僕が寝付くまで…一緒に寝てくれる…?」
「……」
「だめ…?」
「いや…その程度であれば駄目ではないが…これで良いのか…?」
思いも寄らない言葉に思考が追いつかず黙ってしまえば、途端に申し訳なさそうな声が返ってくる。私はその声に肯定の返事を返し、リュカが開けた場所に躊躇いながら横になるが、自身と同じ寝床に人の気配があるというのがどうにも落ち着かない。
「父様や母様とは寝た事あるけれど、兄様と一緒に寝るのは初めてだね」
「……そうだな」
どこか緊張しているような私を面白がってか、クスクスとした楽しげな笑い声を上げているが、私はその様子を見ながら嫌悪感が湧かない事に密かに安堵していた。
最初、ことある事に媚びたように色目を使って誘ってくる女共と同じような事を言われ戸惑ったが、欲を孕んだ視線ではなかったからか、それともリュカだったからなのかは分からないが、あの時に感じたようなものはない。それどころか、体温とは違う別の温もりを感じる気さえする。心地良いそれに身を委ねながら、私は頬を緩めて経験者へと問い掛ける。
「添い寝という経験がないから分からないのだが、リュカが眠れない時、父上達はどうされているんだ?」
「うーん?本を読んでくれたり、今日あった事とかお話したりしてるよ」
私が教えを請えば、貴族のあり方とはかけ離れた何とも平穏な答えが返ってくる。特にそれが悪いというわけでもないが、皆に恐れられているあの父上がそれを成されている所を思うと、やはり笑えても来るものがある。だが、それは決して馬鹿にしたからの笑みではない。
「そうか。では、今後は私も童話といった物の知識を増やしておく事にしよう。だが、今はそういった話しは出来そうにない。だから、今日あった事を教えてくれ。コレに魔物がいる森に連れて行かれ、怖くはなかったか?」
「うん。ティも一緒だったし、それに兄様が直ぐに来るのが分かってたから!」
「そうか」
何の頼りにもならない者を信用している事に不安はあるが、何の疑いもなく信頼した眼差しを私に向けられれば、コレも囮くらいにはなるかと思える程には気も良くなる。添い寝というのも悪くはないと認識を改めていれば、今度はリュカの方から問い掛けられた。
「そういえば、兄様はどうやってあんなに綺麗に食べてたの?」
「どうやってと言われても、普通に食べていただけだが?」
「でも、僕みたいに屋台のご飯すら殆んど食べた事がない兄様は、何かに齧り付くとかもした事ないでしょう?」
「そんな事はないのだが……」
「えぇ、今日の様子見てても、兄様がそんなの食べ方してる姿なんて想像出来ないもん」
私の事をどう見ているのかは知らないが、本気でそう思っているようで、私が否定の言葉を口にしてもまるで冗談でも言っているかのように信じようとはしない。だが、野営時に携帯食を食べて過ごした事だってある。それに、下町の者達が日持ちしやすい黒パンを食べられている事くらいは知っていた。ただ、実際に眼の前に出された事などなかったため、実物を見て戸惑っただけだ。
しかし、野営時に食べたその1食分の値段が、食事付きの宿代と一緒な事を考えれば、あれは冒険者ギルドの方で用意された貴族用だったのだろう。しかし、それにすら不平不満を言う者がいるのだから、あの冒険者ギルドのマスターも苦労が耐えないだろう。
課外授業は同じ時期に行われるため、前もって用意しておく事は然程難しくはないだろうが、今度会う機会があれば多少くらいは労ってやることにしよう。
その後も、リュカを通じて街の住民の生活などを聞いていたが、話しているうちに眠くなったのか、うつらうつらとし始めた。段々とか細くなる声に相槌を打ちながら様子を見ていれば、徐々にその声は聞こえなくなり、小さな寝息が聞こえてきた。私はその眠りを邪魔しないようにそっと身を起こすと、少しだけ乱れた衣服を整える。
町の中の宿ということもあり安全だとは思うが、何があるかも分からないため、警戒するに越したことはない。私は窓から差し込む月明かりのが部屋の中、寝ずの番をするのは野営の時ぶりだと、リュカの寝顔を見ながら夜が過ぎ去り朝がくるのを待った。
「父上に詳しい話しは聞かなかったのか?」
「いえ…そういった事柄は常に聞かないようにしています…。深入りしない方が、この世界では長生き出来ますので…」
知り過ぎた結果始末される事も珍しくない世界なだけに、貴族相手となるとそういった面にも慎重になるのだろう。そのため、あえて無知でいることで己の身を守ろうとしているコイツの言い分も理解できる。
「この宿にいたのも父上の指示か?」
「はい。町の門番に低ランク冒険者にオススメの宿を聞いて泊まれとの指示でしたので、その通りにいたしました」
冒険者ギルドのマスターには大きな借りがあるため、短期間で用意が出来て使いやすい物を選ぶと踏んでいたのだろう。そして、町で目立たず行動するために、私が低ランク冒険者に偽装する事も予測していたようだ。やはり、今回の事をある程度予期して色々と準備していた節がある。だからこそ、この男も父上が大人しく連行されたという事実が未だに信じられないようだった。だが、城で身動きが取れないでいるはずなのに、どうにも父上の手のひらで踊らされているような気がする。しかし、その思惑が何かは分からない以上、まずはそれを知る事から始めた方が良いようだ。
「他に調べるように言われた場所はあるか?」
「全ての店を調べるように言われたのですが、何店か内情を探っている振りをしろと言われた店はあります。そのうえ、相手にそれが分かるようにしろとの指示でしたので、何とも奇妙な命令だと思いました」
事実だけを淡々と語っているが、内面では釈然としていないといった様子が見て取れた。普通であれば警戒されないようにするべき事案に、真逆とも言えるような指示を出していたのだから、それは気にはなるだろうと理解出来た。そして、私も気になる。
「その店に何か変わった所などはあったか?」
「いえ、特に見た限りでは不自然な点はありませんでした。詳しく調べれば何か出たかもしれませんが、振りだけとの指示でしたので内情までは…」
「そうか。では、それらの店は、私の方で一度見てみる事にしよう。お前、そのための準備を明日までに出来るか?」
「お任せ下さい」
私が指示を出せば、相手からは快く応じる返事が直ぐに返ってきたため、一通りの細かい指示を出し終えると、自身が泊まる事になっている部屋へと戻るために早々に席を立った。リュカはもう寝ていると思い、扉の前でなるべく気配を消してから入ろうとするが、ドアの建て付けが悪く、行きと同じように軋む音が出てしまった。その音はあまり大きいといえる音ではなかったが、ベットの上で身動ぎする気配がした。
「兄様。おかえりなさい」
「すまない。起こしてしまったか?」
「ううん。兄様が帰って来るの待ってたから」
ベットから身を起こしながら声を掛けてくるリュカからの返事を聞き、知らない場所で急に1人で寝ろと言われても、不安で寝付けるわけがなかった事に気が付く。あの男と話していた時間はあまり長くはなかっただろうが、リュカには先に布団に入って寝るように言っていたため、特に時間を気にしてはいなかった。そのため、疲れているに違いないリュカには、この時間は長く感じただろう。
「後は私も休む。だから、リュカももう寝ろ」
「うん…、だけど…何だか眠れなくて…」
安心させるため、私が傍にいる事を伝えるが、何とも申し訳なさそうな表情を浮かべながら目尻を下げる。だが、その視線の先にある物を考えれば、それは無理もない事かもしれない。部屋を出る前に私も一度触ってみたが、屋敷で使用している物とは雲泥の差がある。
学院時代に野営を経験もあるため、今では寝具と呼べる物があるだけマシだと思えるようになったが、最初の頃は寝るどころか地面に横になる事すら抵抗があった。だが、座ったままの姿勢で寝ても疲れが取れないと、何とか横になりはしたが、起床後の身体の痛みで苦労した記憶が鮮明に今も残っている。だからこそ、そんな経験をした事がないリュカにとっては、この寝具でもさえも辛いものがあるのだろう。
その事にも気付いてしまえば、あの男に明日の支度をさせるなどよりも先に、寝具の手配でもさせるべきだったかと一瞬頭を過るが、宿屋に高級寝具を運び込ませたりなどすれば目立つ事このうえない。かといって、屋敷でも使用するような物がある宿では、ある程度こちらの身分を明かさなければならないため、それが出来ない今は門前払いされるだけだ。
「兄様?どうしたの?」
「いや、なんでもない…」
黙り込んでしまった私を心配し声を掛けて来たリュカに、私は自身の考えを悟られないように素っ気ない返事だけを返しながら、リュカの枕元付近で呑気に1人で眠りこけている役立たずへと視線を移す。リュカを危険にさらしておきながら、全く悪びれていない寝顔には殺意すら湧く。
コレが勝手にリュカを連れ出したと報告を受けても、それはまだ想定の範囲内だったため、そこまでの驚きはなかったが、いざリュカからの呼び出しを受けて駆けつければ、そこは魔物の気配もある森の中だった。指定された場所でなかった時点で、何かを誤魔化しをしているだろうという事は直ぐに分かったが、安全に配慮しろと言った事すらも守れないコレに、あの場で罵声を上げなかった自分を褒めてやりたい。もし、リュカが傍にいなければ、間違いなくその場で罰していた。
「後で話しがあると言ったのにも関わらず、それさえも忘れて此処まで眠りこけるとはな…」
「で、でも、少し前までなら起きてたよ。たぶん、疲れてたんじゃないかな…?」
私が咎めるような事を言えば、直ぐに言葉を発してコレを庇おうとする。リュカは自身よりも他者を優先してしまう所があるが、私は物事を損得勘定でしか見れないため、リュカの優しさに付け込んでいるコレには、もはや掛ける情けなどはない。だが、コイツが口にするような狭量な所を、リュカのを目の前では晒したくはない。
「はぁ……この話しはまた後日にしよう。それよりも今は、明日のために寝た方が良いのだが、やはり眠れそうにないか?」
「うん…あっ…でも、寝られない時とか、父様達にやってもらう事はあるよ…」
「それは何だ?私に出来る事があれば手伝おう」
夜も次第に更けて来たため、少しでも寝られるのであれば協力しようと思い問いかければ、恥ずかしそうに布団で顔を半分隠しながら言った。
「僕が寝付くまで…一緒に寝てくれる…?」
「……」
「だめ…?」
「いや…その程度であれば駄目ではないが…これで良いのか…?」
思いも寄らない言葉に思考が追いつかず黙ってしまえば、途端に申し訳なさそうな声が返ってくる。私はその声に肯定の返事を返し、リュカが開けた場所に躊躇いながら横になるが、自身と同じ寝床に人の気配があるというのがどうにも落ち着かない。
「父様や母様とは寝た事あるけれど、兄様と一緒に寝るのは初めてだね」
「……そうだな」
どこか緊張しているような私を面白がってか、クスクスとした楽しげな笑い声を上げているが、私はその様子を見ながら嫌悪感が湧かない事に密かに安堵していた。
最初、ことある事に媚びたように色目を使って誘ってくる女共と同じような事を言われ戸惑ったが、欲を孕んだ視線ではなかったからか、それともリュカだったからなのかは分からないが、あの時に感じたようなものはない。それどころか、体温とは違う別の温もりを感じる気さえする。心地良いそれに身を委ねながら、私は頬を緩めて経験者へと問い掛ける。
「添い寝という経験がないから分からないのだが、リュカが眠れない時、父上達はどうされているんだ?」
「うーん?本を読んでくれたり、今日あった事とかお話したりしてるよ」
私が教えを請えば、貴族のあり方とはかけ離れた何とも平穏な答えが返ってくる。特にそれが悪いというわけでもないが、皆に恐れられているあの父上がそれを成されている所を思うと、やはり笑えても来るものがある。だが、それは決して馬鹿にしたからの笑みではない。
「そうか。では、今後は私も童話といった物の知識を増やしておく事にしよう。だが、今はそういった話しは出来そうにない。だから、今日あった事を教えてくれ。コレに魔物がいる森に連れて行かれ、怖くはなかったか?」
「うん。ティも一緒だったし、それに兄様が直ぐに来るのが分かってたから!」
「そうか」
何の頼りにもならない者を信用している事に不安はあるが、何の疑いもなく信頼した眼差しを私に向けられれば、コレも囮くらいにはなるかと思える程には気も良くなる。添い寝というのも悪くはないと認識を改めていれば、今度はリュカの方から問い掛けられた。
「そういえば、兄様はどうやってあんなに綺麗に食べてたの?」
「どうやってと言われても、普通に食べていただけだが?」
「でも、僕みたいに屋台のご飯すら殆んど食べた事がない兄様は、何かに齧り付くとかもした事ないでしょう?」
「そんな事はないのだが……」
「えぇ、今日の様子見てても、兄様がそんなの食べ方してる姿なんて想像出来ないもん」
私の事をどう見ているのかは知らないが、本気でそう思っているようで、私が否定の言葉を口にしてもまるで冗談でも言っているかのように信じようとはしない。だが、野営時に携帯食を食べて過ごした事だってある。それに、下町の者達が日持ちしやすい黒パンを食べられている事くらいは知っていた。ただ、実際に眼の前に出された事などなかったため、実物を見て戸惑っただけだ。
しかし、野営時に食べたその1食分の値段が、食事付きの宿代と一緒な事を考えれば、あれは冒険者ギルドの方で用意された貴族用だったのだろう。しかし、それにすら不平不満を言う者がいるのだから、あの冒険者ギルドのマスターも苦労が耐えないだろう。
課外授業は同じ時期に行われるため、前もって用意しておく事は然程難しくはないだろうが、今度会う機会があれば多少くらいは労ってやることにしよう。
その後も、リュカを通じて街の住民の生活などを聞いていたが、話しているうちに眠くなったのか、うつらうつらとし始めた。段々とか細くなる声に相槌を打ちながら様子を見ていれば、徐々にその声は聞こえなくなり、小さな寝息が聞こえてきた。私はその眠りを邪魔しないようにそっと身を起こすと、少しだけ乱れた衣服を整える。
町の中の宿ということもあり安全だとは思うが、何があるかも分からないため、警戒するに越したことはない。私は窓から差し込む月明かりのが部屋の中、寝ずの番をするのは野営の時ぶりだと、リュカの寝顔を見ながら夜が過ぎ去り朝がくるのを待った。
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