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五章
今さらだけど
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「目が覚めたのか?」
部屋に差し込む朝の日差しで僕が目を覚ますと、兄様はもう起きていて、既に身支度も全部終わらせているようだった。僕よりも遅く寝たはずなのに、それさえも感じさせないの兄様の姿を少しクセ毛が付いたままの頭でぼうっと見ていたら、机の上に置かれていた桶を手に取ると、僕へと一声掛けてから部屋を後にしようとする。
「宿の者に頼んで、新しいお湯を頼んで来よう」
「えっ!い、良いよう!」
「だが、だいぶ冷めてしまった」
「夏場だから、それくらいで大丈夫だよ!!」
兄様に下働きのような真似をさせている事に僕の眠気も一気に覚めて、ベットから飛び起きて傍へと駆け寄ると、中身が溢れないように桶に手を伸ばす。僕へと渡して良いものかと、兄様は少し躊躇うような様子を見せたけれど、僕が手を伸ばしたまま待っていると、僕にそっと手渡してくれた。桶を受けっ取った僕は、元あった机の上にその桶を戻す。少し冷たくなった水で顔を洗っていると、兄様はそんな僕に窺うようような視線を向けてくる。
「痛い所はないか?」
「えっ?何で?」
「いや、慣れない物を使って不調をきたしていないかと思ってな」
「特にないよ」
「そうか。それならば良い」
兄様は僕の身体を心配してくれているようだったけど、僕としては長く慣れ親しんたような感覚すらあって、屋敷でいるのと同じくらいに快適だった。だけど、その感覚をどう説明すれば良いのか分からなかったから、あえてそれを伏せて兄様へと話していると、僕達の部屋をノックの音が聞こえてきた。その音に兄様が扉を開けると、昨日とは違って少し大きめの荷物を持った男が立っていて、兄様に招き入れられるように中へと入って来た。すると、その荷物を置くために僕の側までやって来ながら、ほっと息を付くように言った。
「この部屋だけは、外と違って快適ですね」
「外は暑いの?」
「夏ですからね。それに、こういった安宿では通気性が悪くて、部屋の中が蒸し暑くなるものなんですよ。まぁ、この方達が近くにいるなら、季節関係なく快適に過ごせそうですけどね」
「お前、私がいる前で私を便利な道具扱いするとはなかなか度胸があるな」
「い、いえ!そういったわけでは!!」
何の悪意もなく、ただ事実だけを語ったつもりだった男は、少しだけ低くなった兄様の声に酷く恐縮しきった態度を見せていた。だけど、兄様はそこまで怒っているというわけでもなくて、怒っている振りをしているだけのように見える。でも、それが分かっていない男は、見ているのが可哀想なくらいに縮こまっていたから、少しだけ助け舟を出すことにした。
「兄様が何かしてくれてたの?」
「あぁ、その方が少しでも寝やすい方が良いかと思ってな…」
寝る前にしてくれた事の効果が、朝まで続くのは凄いなと思って兄様に僕が問いかければ、男の存在など忘れたかのように、何故か少し歯切れ悪いながらも肯定の返事が返ってきた。その様子に、どうしたんだろうと僕が首を傾げていると、兄様はそれを何処か誤魔かそうとしながらも、納得いっていないといった様子で、皮肉めいた言葉をベッドの住人へと向けた。
「それにしも、一番どうでもいい者が未だに惰眠をむさぼっているのはどういうわけなんだ…?」
僕よりも先に寝ていたはずのティは、僕達が話している間も起きる様子がなくて、未だに呑気な顔をして夢の世界にいるようだった。その後も、僕達が宿を出るギリギリまで寝ていた事で、兄様の機嫌が少しだけ下がってしまい、アドさんが気まずそうにしていた。
「ねぇ!あっちに行ってみましょう!?」
周りの空気なんて考えないティは、隠れる気があるのか分からない様子で、興味ある物を見つけては頭の上で騒いでいた。そのせいで、その度に被っているフードがずれそうになってしまう。一応、あの男が用意してくれた魔法薬で、今は透き通るような水色の髪に染めているけれど、ティが見えてしまうから脱げてしまうわけにはいかない。
「あっちも目的地じゃないから行かないよ」
「少しくらい良いじゃない!」
「兄様から離れたらまた怒られるよ」
「うっ…、し、仕方ないから、今回はアンタに従って上げるわ!」
兄様に叱られるのは嫌なのか、僕がそう言うと少しだけ静かになった。兄様の方は、そんなティの声など聞こえないとでもいうように、全く相手にしていない様子で歩いていた。そんな様子を前に、ティは少しつまらなそうに僕に聞いてきた。
「ねぇ、あの男と別行動とってるけど、アイツ何処向かってんの?」
「アドさんが例の店を調べている間に、何件か他の店を確認しに行くんだって」
寝ていて朝の話しを聞いていなかったティへと説明するけれど、さほど興味はなさそうだった。
「ふーん、でも、これだけ暇なら、宿で待ってても変わりなかったわね」
僕とティだけを宿に残していけば、何をするか分からないとでも思っているように、兄様達に特にお願いしなくても一緒に連れて行ってくれる事になったけど、僕まで信用されなかった原因は他人事のようだった。その事に、僕が少し不満に思っていると、目の前を歩いていた兄様がその歩みを止めた。
「まずは此処に入るぞ」
「何でここ?」
兄様がやって来たお店は、ネアの所の商会の系列店だった。そのため、僕はまだネアの情報を疑っているのかと、頭にいるティが落ちないよう見上げながら問い掛ければ、兄様はそんな僕にチラリと視線を向けながら言った。
「此処が一番近かっただけで他に他意はない。だから、信じていないというわけではないのだ」
最後は言い訳みたいな事を言いながら、僕の視線から逃げるように店の方に歩き出した兄様は、出て来た店の人へと声を掛けた。
「この店に従魔はいるか?」
「いえ、以前は取り扱ってはいたのですが、諸事情があって今は取り扱っていないんですよ」
「その食餌もないのか?」
「はい。それだけを持っていても仕方がないので、在庫は全て他店に引き取って貰ったのです。ですが、お時間を頂けるのでしたら、今すぐ掛け合ってご希望の量をお持ちいたしますが?」
「いや、良い。だが、少し店の中を見て回っても良いだろうか?」
「はい。何か気になる物がございましたら、お気軽にお声をお掛け下さい」
余計な干渉を嫌っているのを察したのか、兄様に軽く一礼すると、そっと控えるように壁際へと移動する。その様子は、王都の店でも見かけるような、しっかり教育が行き届いた接客といった感じで、言葉に出していなくても、兄様も感心しているようだった。その後、兄様がぐるりと店の中を見回ると、次に裏手へと続く方へと歩いて行ったので、僕もその背を追い掛けるように店の外まで移動する。だけど、そこにはあるのは従魔がいただろう厩舎はあるだけで従魔の姿はなく、ただ殺風景な光景が広がっていた。
「ふむっ…」
兄様は注意深くあたりを観察しながら唸ると、結局は何も買わずにその店を後にしていた。そして、他の店に足を運んでは同じような質問を繰り返していた。だけど、従魔やその食餌があると店主が答えても、それで何か買うという事もなく、まるでお店を冷やかして歩いているようだった。そうやって町にある大体の店を巡り終わった頃に昼頃になっており、すっかり店巡りに飽きてしまったティは僕の頭の上でふて寝をしていた。僕も少しお腹が空いて来たなと思い初めていれば、兄様はようやく宿へ帰るようだった。
「今から宿へと戻るが、疲れているなら此処から抱えて変えるがどうする?」
「まだ大丈夫」
歩けない程ではなかったから、兄様の提案を断って何とか宿へと戻って来ると、朝にやって来ていた男は既に戻って来ていた。それに、僕達が戻って来るの待つ間に食事も終わらせていたようで、男の前には空の皿だけが置かれていた。僕がそれに羨ましげな目を向けていれば、男は少し焦ったような様子で言った。
「お二人方の食事は、宿の方に頼んで別に準備して貰ってありますので、運んで貰うように頼んで来ます」
別料金を払って、宿の人に僕達の分の食事は部屋に運んで貰い、そこで食事を食べながら男の報告を聞くことになった。
「それで、そちらの方はどうだった」
「はい。目当ての荷がある場所とそこまでの見取り図は問題なく。それと、上客の客、もとい、支援者の娘の使いとあってか口が滑ったようで、従魔はいないと言うのにその食餌だけはあるというんです」
「やはり、その店は怪しいな…」
「それの何か怪しいの?」
難しい顔をしながら男の報告を聞いている兄様達に、僕がティと一緒に食べていた食事の手を止めて何気なく尋ねれば、兄様への報告を途中で止めてまで男が僕が説明してくれた。
「従魔というのは意外と食費が掛かるので、それが複数ともなればなおさらです。なので、獣魔を扱い場合は顧客に売る分も含めて安く大量に仕入れることで経費を削減し、古くなった物から順に従魔へと与えた方が店の損失が少ないので、双方は一緒に取り扱われているのが普通なんです。ですので、損失を嫌う商人が片側だけ扱うなんて事はありません。もし、食餌はだけあるというのなら、従魔の方は見せられない違法な品だと言う事です」
僕は王都にあるオスカーさんのお店には行った事はあるけれど、今までその違いを特に気にした事なんてなかった。だけど、深刻そうな顔で言う男を前に、その違いなどを自然と考えさせられた。
「兄様?召喚獣と従魔って、基本的に何が違うの?」
「基本的な部分は同じだが、一つ違うとするならば相手の同意を得ているかどうかだな。召喚獣は双方の同意と信頼の元に結ばれるため対等の関係だが、従魔は強制的に支配する隷属関係にあたる。だから、自身は選ばれた者だという選民意識が強い者がいるが、私としてはアレ等に選ばれたのだと言われても迷惑だとしか思わないのがな」
真剣味を帯びながらも、どこか冷めた様子で言う兄様は本当に迷惑だと思っているようで、信頼関係で成り立っているというわりに、兄様達の関係は残念ながら一方通行のようだった。
「我が国で運用する従魔は基本的に人慣れしやすい魔物や、人の元で産まれた魔物が殆どだが、中には魔物は力ある者に従う習性を利用して、自身の力を示す事で従魔にしている者もいる。だが、召喚獣を持つ者達の姿を見慣れている分、誰しも良好な関係を築く努力をする。だが、そういった事が一般的ではない。だからこそ、精霊信仰を掲げて私達が使用する召喚獣は野蛮で自然の摂理に反していると糾弾しながら、自分達は従魔を積極的に運用して手荒い扱いをしているあの国は、我々等よりも余程野蛮だ」
吐き捨てるように言う兄様の声には軽蔑したような響きがあって、どこか怒っているようでもあった。そんな兄様の様子に、何かを察したかのように男が労りの声を掛ける。
「此処はルーカスから近い分、あちらの人間が営む店やその従魔を見かける頻度が高いですからね。私もあまり見て気持ちのいいものではありません」
「町で見かける分にはあまり目立たないが、知識として知ってはいても裏の状況はあまり見られた物ではなかったな」
従魔がいると言われて案内される際に、過保護な兄様が僕だけを店の中に置いて行くから、何でかなと不思議には思っていたけれど、やっぱり理由があったようだった。僕はのびのびと暮らしている光景しか知らないけど、兄様の苦々しいような声を聞く限り、此処はそれとは全く違うようだ。
「取引が多いハンデルの国では、我が国に配慮して冷遇するような事をする者も少ないがな…」
「そうですね。知性のない獣という認識のうえ、金儲けの道具としか見ていませんからね。だからこそ、そんな国に我が国の召喚獣が連れて行かれるのだけは阻止しなければ成りません」
「そうだな。私にも許せないものがある」
男が強い決意を滲ませながら言えば、自身にも召喚獣がいるだけに、兄様も不当な扱いをされている事が許せないようで、静かに憤っているような声を上げていた。だけど、その怒りを押し込め、気持ちを切り替えるように僕へと声を掛けて来た。
「さて、気分が悪くなるような話しは此処までにしよう。リュカ。この男とは暫く行動する共にすると思う。だから、何か困ったことがこの男に言うと良い」
そう言って兄様は男の方へと視線を向けながら軽く紹介してくれるけれど、一緒に同行するうえで気になることがある。
「その人の事なんて呼べばいいの?」
「「……」」
男の名前を教えてもらってないから聞いただけなのに、そんなの気にしてもいなかったようで、お互い無言のまま顔を見合わせていた。
「……アドです」
深刻な話しの後、何とも言えない沈黙が下りた部屋の中でポツリと呟いた声は、ティが立てる食器の音よりも小さかった。
部屋に差し込む朝の日差しで僕が目を覚ますと、兄様はもう起きていて、既に身支度も全部終わらせているようだった。僕よりも遅く寝たはずなのに、それさえも感じさせないの兄様の姿を少しクセ毛が付いたままの頭でぼうっと見ていたら、机の上に置かれていた桶を手に取ると、僕へと一声掛けてから部屋を後にしようとする。
「宿の者に頼んで、新しいお湯を頼んで来よう」
「えっ!い、良いよう!」
「だが、だいぶ冷めてしまった」
「夏場だから、それくらいで大丈夫だよ!!」
兄様に下働きのような真似をさせている事に僕の眠気も一気に覚めて、ベットから飛び起きて傍へと駆け寄ると、中身が溢れないように桶に手を伸ばす。僕へと渡して良いものかと、兄様は少し躊躇うような様子を見せたけれど、僕が手を伸ばしたまま待っていると、僕にそっと手渡してくれた。桶を受けっ取った僕は、元あった机の上にその桶を戻す。少し冷たくなった水で顔を洗っていると、兄様はそんな僕に窺うようような視線を向けてくる。
「痛い所はないか?」
「えっ?何で?」
「いや、慣れない物を使って不調をきたしていないかと思ってな」
「特にないよ」
「そうか。それならば良い」
兄様は僕の身体を心配してくれているようだったけど、僕としては長く慣れ親しんたような感覚すらあって、屋敷でいるのと同じくらいに快適だった。だけど、その感覚をどう説明すれば良いのか分からなかったから、あえてそれを伏せて兄様へと話していると、僕達の部屋をノックの音が聞こえてきた。その音に兄様が扉を開けると、昨日とは違って少し大きめの荷物を持った男が立っていて、兄様に招き入れられるように中へと入って来た。すると、その荷物を置くために僕の側までやって来ながら、ほっと息を付くように言った。
「この部屋だけは、外と違って快適ですね」
「外は暑いの?」
「夏ですからね。それに、こういった安宿では通気性が悪くて、部屋の中が蒸し暑くなるものなんですよ。まぁ、この方達が近くにいるなら、季節関係なく快適に過ごせそうですけどね」
「お前、私がいる前で私を便利な道具扱いするとはなかなか度胸があるな」
「い、いえ!そういったわけでは!!」
何の悪意もなく、ただ事実だけを語ったつもりだった男は、少しだけ低くなった兄様の声に酷く恐縮しきった態度を見せていた。だけど、兄様はそこまで怒っているというわけでもなくて、怒っている振りをしているだけのように見える。でも、それが分かっていない男は、見ているのが可哀想なくらいに縮こまっていたから、少しだけ助け舟を出すことにした。
「兄様が何かしてくれてたの?」
「あぁ、その方が少しでも寝やすい方が良いかと思ってな…」
寝る前にしてくれた事の効果が、朝まで続くのは凄いなと思って兄様に僕が問いかければ、男の存在など忘れたかのように、何故か少し歯切れ悪いながらも肯定の返事が返ってきた。その様子に、どうしたんだろうと僕が首を傾げていると、兄様はそれを何処か誤魔かそうとしながらも、納得いっていないといった様子で、皮肉めいた言葉をベッドの住人へと向けた。
「それにしも、一番どうでもいい者が未だに惰眠をむさぼっているのはどういうわけなんだ…?」
僕よりも先に寝ていたはずのティは、僕達が話している間も起きる様子がなくて、未だに呑気な顔をして夢の世界にいるようだった。その後も、僕達が宿を出るギリギリまで寝ていた事で、兄様の機嫌が少しだけ下がってしまい、アドさんが気まずそうにしていた。
「ねぇ!あっちに行ってみましょう!?」
周りの空気なんて考えないティは、隠れる気があるのか分からない様子で、興味ある物を見つけては頭の上で騒いでいた。そのせいで、その度に被っているフードがずれそうになってしまう。一応、あの男が用意してくれた魔法薬で、今は透き通るような水色の髪に染めているけれど、ティが見えてしまうから脱げてしまうわけにはいかない。
「あっちも目的地じゃないから行かないよ」
「少しくらい良いじゃない!」
「兄様から離れたらまた怒られるよ」
「うっ…、し、仕方ないから、今回はアンタに従って上げるわ!」
兄様に叱られるのは嫌なのか、僕がそう言うと少しだけ静かになった。兄様の方は、そんなティの声など聞こえないとでもいうように、全く相手にしていない様子で歩いていた。そんな様子を前に、ティは少しつまらなそうに僕に聞いてきた。
「ねぇ、あの男と別行動とってるけど、アイツ何処向かってんの?」
「アドさんが例の店を調べている間に、何件か他の店を確認しに行くんだって」
寝ていて朝の話しを聞いていなかったティへと説明するけれど、さほど興味はなさそうだった。
「ふーん、でも、これだけ暇なら、宿で待ってても変わりなかったわね」
僕とティだけを宿に残していけば、何をするか分からないとでも思っているように、兄様達に特にお願いしなくても一緒に連れて行ってくれる事になったけど、僕まで信用されなかった原因は他人事のようだった。その事に、僕が少し不満に思っていると、目の前を歩いていた兄様がその歩みを止めた。
「まずは此処に入るぞ」
「何でここ?」
兄様がやって来たお店は、ネアの所の商会の系列店だった。そのため、僕はまだネアの情報を疑っているのかと、頭にいるティが落ちないよう見上げながら問い掛ければ、兄様はそんな僕にチラリと視線を向けながら言った。
「此処が一番近かっただけで他に他意はない。だから、信じていないというわけではないのだ」
最後は言い訳みたいな事を言いながら、僕の視線から逃げるように店の方に歩き出した兄様は、出て来た店の人へと声を掛けた。
「この店に従魔はいるか?」
「いえ、以前は取り扱ってはいたのですが、諸事情があって今は取り扱っていないんですよ」
「その食餌もないのか?」
「はい。それだけを持っていても仕方がないので、在庫は全て他店に引き取って貰ったのです。ですが、お時間を頂けるのでしたら、今すぐ掛け合ってご希望の量をお持ちいたしますが?」
「いや、良い。だが、少し店の中を見て回っても良いだろうか?」
「はい。何か気になる物がございましたら、お気軽にお声をお掛け下さい」
余計な干渉を嫌っているのを察したのか、兄様に軽く一礼すると、そっと控えるように壁際へと移動する。その様子は、王都の店でも見かけるような、しっかり教育が行き届いた接客といった感じで、言葉に出していなくても、兄様も感心しているようだった。その後、兄様がぐるりと店の中を見回ると、次に裏手へと続く方へと歩いて行ったので、僕もその背を追い掛けるように店の外まで移動する。だけど、そこにはあるのは従魔がいただろう厩舎はあるだけで従魔の姿はなく、ただ殺風景な光景が広がっていた。
「ふむっ…」
兄様は注意深くあたりを観察しながら唸ると、結局は何も買わずにその店を後にしていた。そして、他の店に足を運んでは同じような質問を繰り返していた。だけど、従魔やその食餌があると店主が答えても、それで何か買うという事もなく、まるでお店を冷やかして歩いているようだった。そうやって町にある大体の店を巡り終わった頃に昼頃になっており、すっかり店巡りに飽きてしまったティは僕の頭の上でふて寝をしていた。僕も少しお腹が空いて来たなと思い初めていれば、兄様はようやく宿へ帰るようだった。
「今から宿へと戻るが、疲れているなら此処から抱えて変えるがどうする?」
「まだ大丈夫」
歩けない程ではなかったから、兄様の提案を断って何とか宿へと戻って来ると、朝にやって来ていた男は既に戻って来ていた。それに、僕達が戻って来るの待つ間に食事も終わらせていたようで、男の前には空の皿だけが置かれていた。僕がそれに羨ましげな目を向けていれば、男は少し焦ったような様子で言った。
「お二人方の食事は、宿の方に頼んで別に準備して貰ってありますので、運んで貰うように頼んで来ます」
別料金を払って、宿の人に僕達の分の食事は部屋に運んで貰い、そこで食事を食べながら男の報告を聞くことになった。
「それで、そちらの方はどうだった」
「はい。目当ての荷がある場所とそこまでの見取り図は問題なく。それと、上客の客、もとい、支援者の娘の使いとあってか口が滑ったようで、従魔はいないと言うのにその食餌だけはあるというんです」
「やはり、その店は怪しいな…」
「それの何か怪しいの?」
難しい顔をしながら男の報告を聞いている兄様達に、僕がティと一緒に食べていた食事の手を止めて何気なく尋ねれば、兄様への報告を途中で止めてまで男が僕が説明してくれた。
「従魔というのは意外と食費が掛かるので、それが複数ともなればなおさらです。なので、獣魔を扱い場合は顧客に売る分も含めて安く大量に仕入れることで経費を削減し、古くなった物から順に従魔へと与えた方が店の損失が少ないので、双方は一緒に取り扱われているのが普通なんです。ですので、損失を嫌う商人が片側だけ扱うなんて事はありません。もし、食餌はだけあるというのなら、従魔の方は見せられない違法な品だと言う事です」
僕は王都にあるオスカーさんのお店には行った事はあるけれど、今までその違いを特に気にした事なんてなかった。だけど、深刻そうな顔で言う男を前に、その違いなどを自然と考えさせられた。
「兄様?召喚獣と従魔って、基本的に何が違うの?」
「基本的な部分は同じだが、一つ違うとするならば相手の同意を得ているかどうかだな。召喚獣は双方の同意と信頼の元に結ばれるため対等の関係だが、従魔は強制的に支配する隷属関係にあたる。だから、自身は選ばれた者だという選民意識が強い者がいるが、私としてはアレ等に選ばれたのだと言われても迷惑だとしか思わないのがな」
真剣味を帯びながらも、どこか冷めた様子で言う兄様は本当に迷惑だと思っているようで、信頼関係で成り立っているというわりに、兄様達の関係は残念ながら一方通行のようだった。
「我が国で運用する従魔は基本的に人慣れしやすい魔物や、人の元で産まれた魔物が殆どだが、中には魔物は力ある者に従う習性を利用して、自身の力を示す事で従魔にしている者もいる。だが、召喚獣を持つ者達の姿を見慣れている分、誰しも良好な関係を築く努力をする。だが、そういった事が一般的ではない。だからこそ、精霊信仰を掲げて私達が使用する召喚獣は野蛮で自然の摂理に反していると糾弾しながら、自分達は従魔を積極的に運用して手荒い扱いをしているあの国は、我々等よりも余程野蛮だ」
吐き捨てるように言う兄様の声には軽蔑したような響きがあって、どこか怒っているようでもあった。そんな兄様の様子に、何かを察したかのように男が労りの声を掛ける。
「此処はルーカスから近い分、あちらの人間が営む店やその従魔を見かける頻度が高いですからね。私もあまり見て気持ちのいいものではありません」
「町で見かける分にはあまり目立たないが、知識として知ってはいても裏の状況はあまり見られた物ではなかったな」
従魔がいると言われて案内される際に、過保護な兄様が僕だけを店の中に置いて行くから、何でかなと不思議には思っていたけれど、やっぱり理由があったようだった。僕はのびのびと暮らしている光景しか知らないけど、兄様の苦々しいような声を聞く限り、此処はそれとは全く違うようだ。
「取引が多いハンデルの国では、我が国に配慮して冷遇するような事をする者も少ないがな…」
「そうですね。知性のない獣という認識のうえ、金儲けの道具としか見ていませんからね。だからこそ、そんな国に我が国の召喚獣が連れて行かれるのだけは阻止しなければ成りません」
「そうだな。私にも許せないものがある」
男が強い決意を滲ませながら言えば、自身にも召喚獣がいるだけに、兄様も不当な扱いをされている事が許せないようで、静かに憤っているような声を上げていた。だけど、その怒りを押し込め、気持ちを切り替えるように僕へと声を掛けて来た。
「さて、気分が悪くなるような話しは此処までにしよう。リュカ。この男とは暫く行動する共にすると思う。だから、何か困ったことがこの男に言うと良い」
そう言って兄様は男の方へと視線を向けながら軽く紹介してくれるけれど、一緒に同行するうえで気になることがある。
「その人の事なんて呼べばいいの?」
「「……」」
男の名前を教えてもらってないから聞いただけなのに、そんなの気にしてもいなかったようで、お互い無言のまま顔を見合わせていた。
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これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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