季節番外編置き場

ユーリ

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七夕?

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ある国に、アルノルドという優秀で、実直な宰相がいた。

王の親友であり、側近として国政を一手に担う男。その仕事ぶりは冷静沈着で、隙がなく、誰よりも責任感が強かった。そして、その“誰よりも”は、かつては国に向けられていた。

学院時代。

アルノルドには、密かに心惹かれている女性がいた。彼女は自分より年下であったため、学院を卒業するのは、彼よりも後になる。だからこそ、焦りはない。むしろ、その女性を迎えるための時間とすら考えていた。

仕事に打ち込み、功績を積み、地位を固める。すべては、彼女を安心して妻に迎えるため。

王もまた、学院時代から見てきたからこそ、二人の関係を知っていた。

からかい、背中を押し、時に余計な口出しもしながら、進展を楽しんでいた。だからこそ、結婚が決まった時、王は自分のことのように喜んだ。長い年月をかけて積み上げた幸福が、ようやく形になったのだと。

だが、その喜びは、長くは続かなかった。

「……はぁ……」

執務室で、王は一人、深く頭を抱えていた。

結婚して、最初の二、三年は何も問題はなかった。だが、子供が生まれてから、歯車は静かに、確実に狂い始めた。

初めて寝返りを打った日。捕まり立ちをした瞬間。初めて声にならない声で笑った、その一つ一つが、アルノルドの中で積み重なっていった。そして、いつしか彼は、些細な理由で仕事を休むようになった。

そんなある日、彼は勝手に後釜を指名し、辞表だけを机に残して姿を消した。理由は、「初めての独り歩きに、仕事で立ち会えなかったから」その時、思わず天を仰いだ。

この城で、彼に任せていた仕事は膨大だ。人員配置、交渉、調整、予測、先手の発注。

ましてや、その日は、誰がどこで働いているかをすべて把握したうえで人員を割り振り、揉め事を未然に防いでいた。さらに、報告書だけを頼りに不足物資を予測し、先手を打って発注までこなせる。そのような人物は、そう簡単に代わりが利く存在ではない。

結局、その時は何とか連れ戻したが、終わらせようと思えば、終わらせられる仕事さえも滞り、態度も変わる事はなかった。

「……何か、手を打たないとな……」

王は、思案しながら静かにそう呟いた。

数日後。不機嫌を隠そうともせず、アルノルドが執務室に現れた。

「レクス……エレナに、余計なことを言ったな」

抑えた声だが、確かな怒りが滲んでいる。

「余計なことは言っていない。ただ、仕事を休みがちで、周囲が困っていることを正直に話しただけだ」

「それが余計だと言っている……。そのせいで、私がエレナに叱られたではないか……」

「叱られるようなことをしたのは、君だろう?」

王は肩をすくめながら言ったその言葉に、アルノルドは一瞬だけ黙り込む。そして、口元だけを歪めた。

「……いいだろう。お前の言う通り、仕事をしてやる」

その笑みは、どこか意地が悪く、挑発的だった。

「だが、後悔するなよ……」

王の背に、嫌な予感が走った。だが、仕事をしてくれるのなら、と、そのまま流してしまった。しかし、それが間違いだった。

「何だ、この書類の山は!?」

机に積み上がった紙束を睨みつけ、声を荒げた。

「片付けるよりも増える量の方が多いとは……どういうことだ!!」

「そ、それが……アルノルド様が……」

苛立ちを隠そうともしない王の問いかけに、部下はおずおずと口を開いた。

孤児院の設立。スラム街における就労支援。さらには、街の治安維持を目的とした店舗の設立。

それらを多方面から同時に進めているらしく、その分、仕事が雪だるま式に増えているという。報告を聞き終えた瞬間、王の表情が険しさを増した。

「孤児院やスラム街はいい!だが、店は自分で経営しろ!なぜ国の管理にしているんだ!!」

その結果、店ごとの収益報告書まで王のもとへ提出されるようになり、机の上の書類は減るどころか、今この瞬間も増え続けていた。

「陛下……どうか、アルノルド様を止めてください……」

部下は、すがるような目で王を見つめ、言葉にならない懇願を向けてきた。それを受け止めた王は、深く息を吐く。

(このままでは、執務が回らない)

現状を打破するため、王は決断を下し、男はアルノルドの執務室へと足を向けた。

「陛下から、私に“仕事をせよ”とのご命令だったと思いますが?」

男は、まるで当てつけるかのように王を「陛下」と呼び、終始丁寧な敬語で応じてきた。それは職務上は正しく、非の打ちどころもない態度だった。だが、だからこそ胸の奥に、微かな苛立ちが生まれる。しかし、感情を押し殺し、声を整えたうえで、王は冷静に男へと言葉を掛けた。

「私は仕事をしろとは言ったが、仕事を増やせとは言っていない」

「そうでしたか?てっきり、私に増やしてほしいのかと誤解しておりました」

顎の下で指を組み、不敵に笑う姿は、まるで裏社会の支配者だ。

「陛下の意図を理解出来ない無能は、首にした方がよろしいのでは?」

わざとらしく首を傾ける男に、王は深く溜息をついた。

「……分かった。やるべき仕事をきちんとやるなら、休みはいくら取ってもいい。だが、辞めることだけは認めない」

「妥協成立だな」

根負けしたようにそう呟いた瞬間、男は、まるでそれを待っていたかのような笑みで言葉を受け取る。そして早々に書類をまとめると、表情一つ変えぬまま、淡々と言い放った。

「では、今日は帰る。エレナには、そちらからも説明しておけ」

振り返ることなく去っていく背中を、部屋に残された山のような書類と見送った。だが、王も黙ってやられる性格ではない。

「……この書類にある貴族ですが、陛下が以前、取り潰したがっておられた者ではありませんか?まさか……それを、アルノルド様に……?」

「私は、息子にちょっかいを出そうとしている者がいる、とアルに情報を教えただけだ。その後、どうするかを決めるのは、彼自身だよ」

部下の言葉に、王は穏やかに笑った。だがその一方で、手元では先日に男が立案した仕事の数々を、抜け目なく確認しながら、名義を一つひとつ、男のものへと書き換えていた。

数日後。これまでなかなか表に出てこなかった証拠が、面白いほど次々と王のもとへ届くようになった。

ここ最近、滞りがちだった政務も動き出し、王は優秀な部下の働きぶりに、内心ほくそ笑む。その一方で、男は王からもたらされた情報に感謝しつつも、同時に、自分が良いように使われた事実を苦々しく受け止めていた。だからこそ、腹いせとばかりに外交関係の仕事を増やしてやれば、王もまた負けじと、男へ新たな案件を振ってくる。

それが互いの首を絞め、仕事を増やすだけだと、お互いが気付くまで、その子供じみた応酬はしばらく続いた。

そして男は、その件があって以降は、家族との時間を削らぬよう、黙々と真面目に仕事を片付けるようになったのだった。
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