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山の日
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「オルフェ!一緒に、魔物討伐に行かないか!?」
「行かない」
約束もなく、執務室に乱入して来た侵入者を、私は斬って捨てる。
「最近、執務仕事ばっかりで、ストレスが貯まってるんだ!だから、息抜きに付き合ってくれ!」
「勝手に行け」
断っているというのに、それでも諦め悪く、レオンは言葉を続ける。
「護衛をぞろぞろ連れて行くのは嫌なんだよ!その点、オルフェとなら、最低限で済むんだ!」
「知るか」
城から迎えが来るまで、騒ぎながら居座っていたが、この時期に、討伐など行くわけがないだろう。
「兄様!ピクニックに行きましょう!!」
その日の仕事を終えた私に、リュカが楽しそうに話しかけて来た。
「何処に行くんだ?」
「丘まで!」
「すまない。私は、欠席させて貰う」
リュカから誘われるのは嬉しいが、どうにも場所が悪い。
リュカが言う丘は、森を抜けた先にある。冬の時期に、私もその場所には偶然に立ち寄った事はあった。見晴らしが良く、王都を一望出来るとあって、眺めは良かったとは記憶している。
私は知らなかったが、冒険者の間では、人気の場所になっていたらしい。その話が、徐々に街の人や、騎士団連中にも広がり始め、リュカの耳にまでも届いた。
「兄様…行かないの…?」
「……」
少し前に、行ってみたいと夕食の席で言っていた。そして、父上が、リュカの頼みを断る事がないため、予想は出来た。だから、誘われたとしても、断ろうと覚悟を決めていた。
「兄様と一緒に行きたかったな…」
「……行く」
「本当!やったー!!」
寂しそうにするリュカの顔を見ていたら、覚悟など簡単に消え失せ、断るという選択肢がなくなっていた…。
「今日は、晴れて良かったね!」
「そうだな…」
忌々しいほどの晴天に、何故、雨が降らなかったんだと、理不尽な苛立ちが募る。だが、リュカの楽しそうな様子を見ると、晴天で良かったような気もする…。
「森に入ったら、涼しいね!」
「そ、そうだな…」
どうやらバレてはいない様子に、心の中でほっと息を付く。この日のために、恥を忍んで父上にお願いをしてはいても、油断する事は出来ない。奴らは、こちらが油断した隙を狙ったかのようにやって来る。常に、魔法で防御していたいが、リュカの目もあってそれが出来ない。
「どうしたの?ピクニックに行くの、楽しくない?」
「そんな事はない。ピクニックは、楽しみにしていた」
出かけるのは問題ない。問題なのは、森を通るという事だけだ。
街道ではないため、整備はされていない。そのため、道は悪く、危ない場所も多々ある。
「リュカ。途中に、急な斜面などもある。危ない場所には、近付かないようにしろ」
「はい!」
忠告の言葉に、元気な返事が返って来たが、本当に分かっているのか?私の胸に、不安が過る。
「僕、森の中に入るのは初めてです!見た事ない花とかがいっぱいです!」
「そうだな」
森には、薬草やら屋敷には植えないような花もたくさんある。馬車でしか移動した事がないリュカには、目新しい物ばかりだろう。
「兄様!あれは、何ですか!?」
「リュカ!そっちは!」
何か見つけるたびに、動き回っていたリュカは、私の忠告を忘れてしまったようだった。
「うわぁ!」
「リュカ!」
私は、滑り落ちたリュカを追ってその手を取ると、もう片方の手で斜面にあった岩を掴む。
「危ないから、近付くなと言っただろう」
「ごめんなさい…」
リュカが無事な事に安堵しつつ、説教は上に上がってからと思い、覗き込んでいる父上の方へと、リュカを押し上げる。私も上に登ろうと、近場にあった枝に手を掛けながら登れば、途中にあった木の根元の部分が視界全体に広がった。
「!!?!」
木の根本にあった大量の虫の死骸に驚いて、掴んでいた手を離した私は、そのまま斜面の下へと滑り落ちて行った。
〈アルノルド視点〉
オルフェから、相談を受けた時は、一も二もなく了承した。
昔から、甘える事をしないオルフェからの頼みとならば、私もやる気が湧くという物だ。
全てを殺す事は出来なくても、私達を起点に周囲を全て凍らせてしまえば、私達の前に現れる事はないだろう。
念のため、ギルドに依頼して、この辺一帯は立ち入り禁止にして貰っている。もし、それを無視して侵入した結果死ぬのなら、そいつの自業自得というものだ。だが、楽しい行事に水を指されたらたまらないので、カルロに進行方向を見張らせてはいる。
氷も夏の暑さですぐに溶けてしまうので、証拠は何も残らない。副産物として、気温が下がって過ごしやすくなったのは、喜ばしい事だ。
はしゃいだリュカが、滑り落ちそうになった時は肝を冷やしたが、オルフェが問題なく対処をしていた。リュカを受け取った後、オルフェは声にならない悲鳴を上げて、斜面を滑り落ちて行った。私は、慌てて助けに向かおうとすれば、こちらが助けに行く前に、自力で這い上がって来ているのが見えた。
急な斜面の下に落ちながらも、持ち前の身のこなしで受け身を取ったおかげか、大した怪我もなく無事だった。心配したリュカから治療を受けている間、私の事を凄く怒ったような目で見ていた。オルフェ、流石の私も、虫の死骸までは消す事は出来ないよ…。
屋敷に帰ってからも、私と目すら合わせようとはしなかった。リュカの長期休みが終わった辺りから、少しずつ口を聞いてくれるようにはなってきた。
オルフェ、私が全て悪かった。だから、そろそろ普通に口を聞いてくれないかな?そんな願いを持ちながら、今日も、何度目かの謝罪をするのだった。
「行かない」
約束もなく、執務室に乱入して来た侵入者を、私は斬って捨てる。
「最近、執務仕事ばっかりで、ストレスが貯まってるんだ!だから、息抜きに付き合ってくれ!」
「勝手に行け」
断っているというのに、それでも諦め悪く、レオンは言葉を続ける。
「護衛をぞろぞろ連れて行くのは嫌なんだよ!その点、オルフェとなら、最低限で済むんだ!」
「知るか」
城から迎えが来るまで、騒ぎながら居座っていたが、この時期に、討伐など行くわけがないだろう。
「兄様!ピクニックに行きましょう!!」
その日の仕事を終えた私に、リュカが楽しそうに話しかけて来た。
「何処に行くんだ?」
「丘まで!」
「すまない。私は、欠席させて貰う」
リュカから誘われるのは嬉しいが、どうにも場所が悪い。
リュカが言う丘は、森を抜けた先にある。冬の時期に、私もその場所には偶然に立ち寄った事はあった。見晴らしが良く、王都を一望出来るとあって、眺めは良かったとは記憶している。
私は知らなかったが、冒険者の間では、人気の場所になっていたらしい。その話が、徐々に街の人や、騎士団連中にも広がり始め、リュカの耳にまでも届いた。
「兄様…行かないの…?」
「……」
少し前に、行ってみたいと夕食の席で言っていた。そして、父上が、リュカの頼みを断る事がないため、予想は出来た。だから、誘われたとしても、断ろうと覚悟を決めていた。
「兄様と一緒に行きたかったな…」
「……行く」
「本当!やったー!!」
寂しそうにするリュカの顔を見ていたら、覚悟など簡単に消え失せ、断るという選択肢がなくなっていた…。
「今日は、晴れて良かったね!」
「そうだな…」
忌々しいほどの晴天に、何故、雨が降らなかったんだと、理不尽な苛立ちが募る。だが、リュカの楽しそうな様子を見ると、晴天で良かったような気もする…。
「森に入ったら、涼しいね!」
「そ、そうだな…」
どうやらバレてはいない様子に、心の中でほっと息を付く。この日のために、恥を忍んで父上にお願いをしてはいても、油断する事は出来ない。奴らは、こちらが油断した隙を狙ったかのようにやって来る。常に、魔法で防御していたいが、リュカの目もあってそれが出来ない。
「どうしたの?ピクニックに行くの、楽しくない?」
「そんな事はない。ピクニックは、楽しみにしていた」
出かけるのは問題ない。問題なのは、森を通るという事だけだ。
街道ではないため、整備はされていない。そのため、道は悪く、危ない場所も多々ある。
「リュカ。途中に、急な斜面などもある。危ない場所には、近付かないようにしろ」
「はい!」
忠告の言葉に、元気な返事が返って来たが、本当に分かっているのか?私の胸に、不安が過る。
「僕、森の中に入るのは初めてです!見た事ない花とかがいっぱいです!」
「そうだな」
森には、薬草やら屋敷には植えないような花もたくさんある。馬車でしか移動した事がないリュカには、目新しい物ばかりだろう。
「兄様!あれは、何ですか!?」
「リュカ!そっちは!」
何か見つけるたびに、動き回っていたリュカは、私の忠告を忘れてしまったようだった。
「うわぁ!」
「リュカ!」
私は、滑り落ちたリュカを追ってその手を取ると、もう片方の手で斜面にあった岩を掴む。
「危ないから、近付くなと言っただろう」
「ごめんなさい…」
リュカが無事な事に安堵しつつ、説教は上に上がってからと思い、覗き込んでいる父上の方へと、リュカを押し上げる。私も上に登ろうと、近場にあった枝に手を掛けながら登れば、途中にあった木の根元の部分が視界全体に広がった。
「!!?!」
木の根本にあった大量の虫の死骸に驚いて、掴んでいた手を離した私は、そのまま斜面の下へと滑り落ちて行った。
〈アルノルド視点〉
オルフェから、相談を受けた時は、一も二もなく了承した。
昔から、甘える事をしないオルフェからの頼みとならば、私もやる気が湧くという物だ。
全てを殺す事は出来なくても、私達を起点に周囲を全て凍らせてしまえば、私達の前に現れる事はないだろう。
念のため、ギルドに依頼して、この辺一帯は立ち入り禁止にして貰っている。もし、それを無視して侵入した結果死ぬのなら、そいつの自業自得というものだ。だが、楽しい行事に水を指されたらたまらないので、カルロに進行方向を見張らせてはいる。
氷も夏の暑さですぐに溶けてしまうので、証拠は何も残らない。副産物として、気温が下がって過ごしやすくなったのは、喜ばしい事だ。
はしゃいだリュカが、滑り落ちそうになった時は肝を冷やしたが、オルフェが問題なく対処をしていた。リュカを受け取った後、オルフェは声にならない悲鳴を上げて、斜面を滑り落ちて行った。私は、慌てて助けに向かおうとすれば、こちらが助けに行く前に、自力で這い上がって来ているのが見えた。
急な斜面の下に落ちながらも、持ち前の身のこなしで受け身を取ったおかげか、大した怪我もなく無事だった。心配したリュカから治療を受けている間、私の事を凄く怒ったような目で見ていた。オルフェ、流石の私も、虫の死骸までは消す事は出来ないよ…。
屋敷に帰ってからも、私と目すら合わせようとはしなかった。リュカの長期休みが終わった辺りから、少しずつ口を聞いてくれるようにはなってきた。
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