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クリスマスイヴ
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僕達が見守る中、兄様は深刻な表情を浮かべ、部屋に集まった兵士達へ次々と指示を飛ばしながら、屋敷の見取り図とにらめっこしていた。その指揮の下、僕の屋敷は、これまでにない規模での厳戒態勢が敷かれていた。
(……クリスマス・イブって、こんな日だったっけ?)
本当なら、もっと楽しい夜のはずなのに、今の部屋にあるのは、紅茶の香りと紙の擦れる音、それから、剣帯が微かに鳴る緊張の気配だけだった。
「此処の配置を見直し、兵をこちらへ移動しよう」
「いえ……もうこれ以上、此処の増員は必要ないかと……」
声が低く、迷いがない兄様の言葉に、一人の騎士が反論を口にしようとした。けれど、その言葉が最後まで出る前に、兄様がギロリと睨み付けるような鋭い目を向けた。その瞬間、空気が凍ったみたいに騎士の口が止まる。そして、僕が睨まれたわけじゃないのに、その視線に背中がひやりとした。
「貴様、此処に来ていったい何年経つ?」
「え……っ? 十年程ですが……?」
「此処の騎士をそれだけの期間務めているというのに、お前は此処に保管されている機密情報が他国へと流れる危険性を、まだ理解出来ていないのか?」
「も、申し訳ありません!!」
騎士は怯えたように深々と頭を下げる。でも、その謝罪を聞いても兄様の表情は冷たいままだった。
兄様が本当に優しいのは、僕だって知ってる。でも、こういう時の兄様は、“優しい”とか“怖い”とか、そういう言葉の枠を簡単に飛び越えてくる。
「ふんっ、分かったのならさっさと持ち場へと戻れ」
鼻で笑うように言い捨てられ、騎士は即座に踵を返して部屋を出ていった。その背中を気に入らなさそうに見送った兄様は、すぐに視線を見取り図へ戻し、苦々しく呟く。
「サンタという賊を、今年こそは必ず捉えてみせる…」
「オルフェ。一人の賊を捕らえるにしては、流石に過剰過ぎるのではないか?」
父様が苦言を呈しながらも、どこか面白がっているような雰囲気を漂わせる。こんなに物々しいのに、父様は余裕があって、その“面白がっている”感じが、僕には少し不思議だった。
「そ、そうね……。私の警護とかも、必要ないと思うわ……」
母様は戸惑ったように言いながら、まるで「正直に言った方が良い」と迷っているみたいに、何度も父様の方へ視線を向けていた。
「いえ、この屋敷に侵入しておいて、ただ物を置いて行くだけが目的とは思えません。去年の行動がこちらを油断させるための陽動の可能性がある以上、警戒するに越した事は出来ません。なにより、再び賊の侵入を許せば、公爵家としての威信に関わります!」
「まぁ……そこは……そうだね……」
兄様の言葉に、父様の楽しげな気配はすっと引いた。代わりに、気まずそうな顔で言葉を濁す。
去年のクリスマスは、プレゼントを開けたところまでは本当に嬉しかった。でもその後、「盗まれた物はないか」と兄様を中心に屋敷中を確認して回って、慌ただしい夜になってしまった。喜びの空気が、急に“事件”の色に変わる感じを、僕はまだ覚えている。
「それに、もし賊が自室まで入られた事がレオンに知られれば、いったい何を言われるか……」
兄様は拳を握り締め、わなわなと震えており、目にははっきりと怒りが浮かんでいる。現宰相である父様の屋敷に賊が入り、それを取り逃がしたどころか、侵入にすら気付けなかった。兄様にとっては、それも許せないようだが、多分、一番許せないのは、自分の寝室に入られて、気付けなかったことだ。
正直、レオン殿下に話してしまえば、兄様の中の誤解もすぐに溶けそうな気がする。それに、それが“意地”なのか、“親友への見栄”なのか、僕には分からないけど、兄様にそれをする気はないようだ。母様も口を閉じており、夢を壊していいものか、迷っている顔だ。
「はぁ……一度、頭を冷やさなければな……」
熱くなった自分を押し戻すみたいに、兄様は頭に手を当て、顔を左右に振る。そうした事で、先程よりも少し冷静になれたのか、根本的な疑問を口にする。
「だが、これほどの手練であるならば、多少は私の耳に入ってもおかしくはないと思うのだが? いったいどこの誰だ?」
「そうだね。誰だろうね」
兄様の疑問に、落ち着き払った様子で答えた父様は、しれっと紅茶に手を伸ばす。そんな態度に、集まった兵士達や護衛達は微妙な表情を浮かべ、助けを求めるように父様へ視線を向ける。けれど、父様はそれを見て、まるで「もうどうにもならない」とでも言うみたいに苦笑した。
「リュカ。今日は、母上達と共に寝てくれるか?」
「うん。別に良いけど、どうして?」
警備対策に気を取られている兄様は、父様の様子に気付いていないようだ。だから、提案に聞き返す僕に、兄様は凄く真剣な顔で答えた。
「父上達の側にいれば、どんな者が来ようが安心だ。だから他に警護は必要がないとは思うが、念のため何人か部屋の前には付けておく」
「ある意味、私を監視していた方が目的は達成出来ると思うけれどね」
「父上、それはどういう……」
「それで、オルフェはどう対処するつもりだ?」
父様は兄様の問いを遮るように話題を切り替えた。すると、兄様はすぐ背筋を正し、父様へ向き直る。
「私は賊を捕まえるため、寝ずの番をするつもりです。父上から現場の指揮権を任せて貰った以上、無様な姿は見せられません」
その意気込みは凄かった。でも、付き合わされる人達は大変そうだ。現に、集まった騎士の中には、悟ったみたいな顔の人もいる。
「そうか。なら私は少し席を外させて貰うよ」
父様は、まるで“ここに居続けると何かまずい”みたいな表情で立ち上がった。そんな父様に、兄様が戸惑ったように言う。
「父上? こんな時に、いったいどちらに?」
「これ以上聞くのは、さすがに公平ではないからね」
「?」
家族に過剰なほど過保護な父様が、この会議の最中に席を立つなどあり得ない。そう言わんばかりに、兄様は訝しげな視線を父様へ向け問いかけるが、父様はその疑問には答えず、軽い笑顔だけを残して部屋を出て行った。
「あれは、どういった意味だっただ?」
「さ、さぁ……私共にはなんとも……」
兄様が問い掛けても、わざと知らないふりをしているように、騎士達は皆、兄様から視線を逸らす。そんな様子に、兄様は疑わしげに周りを見るが、気を取り直したように声を上げる。
「まあ良い。今は話し合いを続けるぞ」
こうして“サンタを捕縛する作戦”が、僕の目の前で立てられていった。
その夜。寝る支度を整えて母様達の部屋へ行くと、父様は一人、上着を羽織りながら出掛ける準備をしていた。
「今夜はまだやる事があるから、私は少し出掛けて来るよ。少し屋敷の中が騒がしくなるかも知れないが、二人は気にせず先に寝ていて構わないからね」
「どこに行くの?」
何となく察しはついていたけれど、そう尋ねると、父様は優しげな笑みを浮かべて答えた。
「ちょっと野暮用でね。部屋の外に待機している者達に声を掛けてくれれば、私の元へ伝わるよう手配しておく。何かあれば、すぐに言ってくれ」
「分かったわ」
「父様。行ってらっしゃい」
僕の問いに言葉を濁した父様を、母様がそう言って見送る。その後に続いて、夜遅くに部屋を出て行こうとする父様へ、僕も軽く手を振りながら声を掛けた。すると父様も、微笑みながら僕に手を振り返してくれる。僕と入れ替わるように部屋を出て行った父様の背中を見送った後、僕は母様の待つ布団の中へと潜り込んだ。すると、母様が呟くように、僕へと話しかけてきた。
「全く、アルにも困ったものね」
「何が?」
「オルフェのことよ。小さい頃にオルフェと上手く遊んであげられなかった分、本人は今遊んであげている気になっているようなのよね。やり方が何とも不器用としか言えないわ」
母様は、ほとほと困ったようにそう言ったけれど、僕には、父様が会議の最中に少し楽しそうだった理由が、何となく分かった気がした。僕が何も言わずにいると、僕がサンタの正体に気付いていると思ったのか、母様はふと思い出したように僕へ問いかけてきた。
「そういえば、リュカはサンタのこと、あまり何も言わないわね。リュカは、サンタがいると思う?」
「うーん……分かんない……」
布団の中に潜り込んだまま、僕はほんの少しだけ目を覗かせ、母様へ曖昧な返事を返した。
バルドの家ではクリスマスのプレゼントは直接手渡しで渡されているらしく、サンタの存在は半信半疑に思っているようだけれど、コンラッドはサンタの存在を信じたいようで、証拠となり得る物がないか、それに関連する本を読んで調べているようだった。ネアは、最初から信じていないようだった。
去年までは兄様も、おとぎ話の一つとしてしか思っていなかったけど、“本の通りのことが起きた”。それだけで、兄様が「実在する」と結論を出してしまうのが、少し意外で純粋だと思ってしまう。
「ねぇ? 母様はいると思う?」
信じたい気持ちはあるけれど、それを素直に言葉にする勇気がない僕は、どこか迷いながらも母様へと問い掛ける。すると、母様は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、僕へと優しげな笑みを見せた。
「えぇ、いると思うわ。だって、いないって思うよりも、いるかもしれないって思った方が楽しいでしょう?」
何の迷いなく言い切る母様の言葉を聞き、僕の中にあった”子供扱いされるんじゃないか”という迷いが、少しだけ軽くなる。
「うん!!僕もサンタがいると良いな」
「ふふっ、そうね。じゃあ、サンタが来るように早く寝ましょうか?」
「は~い!」
僕が母様へと元気な返事を返せば、どこか微笑ましいものでも見るような笑顔を見せてくれる。そんな母様に見守られながら、僕は布団の奥へ潜り込んだ。
非番で休みだった人達まで駆り出してしまい、家族と過ごす時間を奪ってしまったことには、申し訳なさを感じている。それでも、ずっと心に巣食っていた悩みが少し薄れ、久しぶりに母様と一緒に眠れるその夜が、僕にはとても嬉しかった。
その後、部屋の外が少し騒がしくなっていた気がするけれど僕は、それが何なのか考えるより先に、静かな眠りに沈んでいた。
次の日。枕元には、プレゼントが無事に置いてあった。でも、なぜか。兄様の中でのサンタの悪名だけが、去年よりずっと高くなっていた。
(……クリスマス・イブって、こんな日だったっけ?)
本当なら、もっと楽しい夜のはずなのに、今の部屋にあるのは、紅茶の香りと紙の擦れる音、それから、剣帯が微かに鳴る緊張の気配だけだった。
「此処の配置を見直し、兵をこちらへ移動しよう」
「いえ……もうこれ以上、此処の増員は必要ないかと……」
声が低く、迷いがない兄様の言葉に、一人の騎士が反論を口にしようとした。けれど、その言葉が最後まで出る前に、兄様がギロリと睨み付けるような鋭い目を向けた。その瞬間、空気が凍ったみたいに騎士の口が止まる。そして、僕が睨まれたわけじゃないのに、その視線に背中がひやりとした。
「貴様、此処に来ていったい何年経つ?」
「え……っ? 十年程ですが……?」
「此処の騎士をそれだけの期間務めているというのに、お前は此処に保管されている機密情報が他国へと流れる危険性を、まだ理解出来ていないのか?」
「も、申し訳ありません!!」
騎士は怯えたように深々と頭を下げる。でも、その謝罪を聞いても兄様の表情は冷たいままだった。
兄様が本当に優しいのは、僕だって知ってる。でも、こういう時の兄様は、“優しい”とか“怖い”とか、そういう言葉の枠を簡単に飛び越えてくる。
「ふんっ、分かったのならさっさと持ち場へと戻れ」
鼻で笑うように言い捨てられ、騎士は即座に踵を返して部屋を出ていった。その背中を気に入らなさそうに見送った兄様は、すぐに視線を見取り図へ戻し、苦々しく呟く。
「サンタという賊を、今年こそは必ず捉えてみせる…」
「オルフェ。一人の賊を捕らえるにしては、流石に過剰過ぎるのではないか?」
父様が苦言を呈しながらも、どこか面白がっているような雰囲気を漂わせる。こんなに物々しいのに、父様は余裕があって、その“面白がっている”感じが、僕には少し不思議だった。
「そ、そうね……。私の警護とかも、必要ないと思うわ……」
母様は戸惑ったように言いながら、まるで「正直に言った方が良い」と迷っているみたいに、何度も父様の方へ視線を向けていた。
「いえ、この屋敷に侵入しておいて、ただ物を置いて行くだけが目的とは思えません。去年の行動がこちらを油断させるための陽動の可能性がある以上、警戒するに越した事は出来ません。なにより、再び賊の侵入を許せば、公爵家としての威信に関わります!」
「まぁ……そこは……そうだね……」
兄様の言葉に、父様の楽しげな気配はすっと引いた。代わりに、気まずそうな顔で言葉を濁す。
去年のクリスマスは、プレゼントを開けたところまでは本当に嬉しかった。でもその後、「盗まれた物はないか」と兄様を中心に屋敷中を確認して回って、慌ただしい夜になってしまった。喜びの空気が、急に“事件”の色に変わる感じを、僕はまだ覚えている。
「それに、もし賊が自室まで入られた事がレオンに知られれば、いったい何を言われるか……」
兄様は拳を握り締め、わなわなと震えており、目にははっきりと怒りが浮かんでいる。現宰相である父様の屋敷に賊が入り、それを取り逃がしたどころか、侵入にすら気付けなかった。兄様にとっては、それも許せないようだが、多分、一番許せないのは、自分の寝室に入られて、気付けなかったことだ。
正直、レオン殿下に話してしまえば、兄様の中の誤解もすぐに溶けそうな気がする。それに、それが“意地”なのか、“親友への見栄”なのか、僕には分からないけど、兄様にそれをする気はないようだ。母様も口を閉じており、夢を壊していいものか、迷っている顔だ。
「はぁ……一度、頭を冷やさなければな……」
熱くなった自分を押し戻すみたいに、兄様は頭に手を当て、顔を左右に振る。そうした事で、先程よりも少し冷静になれたのか、根本的な疑問を口にする。
「だが、これほどの手練であるならば、多少は私の耳に入ってもおかしくはないと思うのだが? いったいどこの誰だ?」
「そうだね。誰だろうね」
兄様の疑問に、落ち着き払った様子で答えた父様は、しれっと紅茶に手を伸ばす。そんな態度に、集まった兵士達や護衛達は微妙な表情を浮かべ、助けを求めるように父様へ視線を向ける。けれど、父様はそれを見て、まるで「もうどうにもならない」とでも言うみたいに苦笑した。
「リュカ。今日は、母上達と共に寝てくれるか?」
「うん。別に良いけど、どうして?」
警備対策に気を取られている兄様は、父様の様子に気付いていないようだ。だから、提案に聞き返す僕に、兄様は凄く真剣な顔で答えた。
「父上達の側にいれば、どんな者が来ようが安心だ。だから他に警護は必要がないとは思うが、念のため何人か部屋の前には付けておく」
「ある意味、私を監視していた方が目的は達成出来ると思うけれどね」
「父上、それはどういう……」
「それで、オルフェはどう対処するつもりだ?」
父様は兄様の問いを遮るように話題を切り替えた。すると、兄様はすぐ背筋を正し、父様へ向き直る。
「私は賊を捕まえるため、寝ずの番をするつもりです。父上から現場の指揮権を任せて貰った以上、無様な姿は見せられません」
その意気込みは凄かった。でも、付き合わされる人達は大変そうだ。現に、集まった騎士の中には、悟ったみたいな顔の人もいる。
「そうか。なら私は少し席を外させて貰うよ」
父様は、まるで“ここに居続けると何かまずい”みたいな表情で立ち上がった。そんな父様に、兄様が戸惑ったように言う。
「父上? こんな時に、いったいどちらに?」
「これ以上聞くのは、さすがに公平ではないからね」
「?」
家族に過剰なほど過保護な父様が、この会議の最中に席を立つなどあり得ない。そう言わんばかりに、兄様は訝しげな視線を父様へ向け問いかけるが、父様はその疑問には答えず、軽い笑顔だけを残して部屋を出て行った。
「あれは、どういった意味だっただ?」
「さ、さぁ……私共にはなんとも……」
兄様が問い掛けても、わざと知らないふりをしているように、騎士達は皆、兄様から視線を逸らす。そんな様子に、兄様は疑わしげに周りを見るが、気を取り直したように声を上げる。
「まあ良い。今は話し合いを続けるぞ」
こうして“サンタを捕縛する作戦”が、僕の目の前で立てられていった。
その夜。寝る支度を整えて母様達の部屋へ行くと、父様は一人、上着を羽織りながら出掛ける準備をしていた。
「今夜はまだやる事があるから、私は少し出掛けて来るよ。少し屋敷の中が騒がしくなるかも知れないが、二人は気にせず先に寝ていて構わないからね」
「どこに行くの?」
何となく察しはついていたけれど、そう尋ねると、父様は優しげな笑みを浮かべて答えた。
「ちょっと野暮用でね。部屋の外に待機している者達に声を掛けてくれれば、私の元へ伝わるよう手配しておく。何かあれば、すぐに言ってくれ」
「分かったわ」
「父様。行ってらっしゃい」
僕の問いに言葉を濁した父様を、母様がそう言って見送る。その後に続いて、夜遅くに部屋を出て行こうとする父様へ、僕も軽く手を振りながら声を掛けた。すると父様も、微笑みながら僕に手を振り返してくれる。僕と入れ替わるように部屋を出て行った父様の背中を見送った後、僕は母様の待つ布団の中へと潜り込んだ。すると、母様が呟くように、僕へと話しかけてきた。
「全く、アルにも困ったものね」
「何が?」
「オルフェのことよ。小さい頃にオルフェと上手く遊んであげられなかった分、本人は今遊んであげている気になっているようなのよね。やり方が何とも不器用としか言えないわ」
母様は、ほとほと困ったようにそう言ったけれど、僕には、父様が会議の最中に少し楽しそうだった理由が、何となく分かった気がした。僕が何も言わずにいると、僕がサンタの正体に気付いていると思ったのか、母様はふと思い出したように僕へ問いかけてきた。
「そういえば、リュカはサンタのこと、あまり何も言わないわね。リュカは、サンタがいると思う?」
「うーん……分かんない……」
布団の中に潜り込んだまま、僕はほんの少しだけ目を覗かせ、母様へ曖昧な返事を返した。
バルドの家ではクリスマスのプレゼントは直接手渡しで渡されているらしく、サンタの存在は半信半疑に思っているようだけれど、コンラッドはサンタの存在を信じたいようで、証拠となり得る物がないか、それに関連する本を読んで調べているようだった。ネアは、最初から信じていないようだった。
去年までは兄様も、おとぎ話の一つとしてしか思っていなかったけど、“本の通りのことが起きた”。それだけで、兄様が「実在する」と結論を出してしまうのが、少し意外で純粋だと思ってしまう。
「ねぇ? 母様はいると思う?」
信じたい気持ちはあるけれど、それを素直に言葉にする勇気がない僕は、どこか迷いながらも母様へと問い掛ける。すると、母様は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、僕へと優しげな笑みを見せた。
「えぇ、いると思うわ。だって、いないって思うよりも、いるかもしれないって思った方が楽しいでしょう?」
何の迷いなく言い切る母様の言葉を聞き、僕の中にあった”子供扱いされるんじゃないか”という迷いが、少しだけ軽くなる。
「うん!!僕もサンタがいると良いな」
「ふふっ、そうね。じゃあ、サンタが来るように早く寝ましょうか?」
「は~い!」
僕が母様へと元気な返事を返せば、どこか微笑ましいものでも見るような笑顔を見せてくれる。そんな母様に見守られながら、僕は布団の奥へ潜り込んだ。
非番で休みだった人達まで駆り出してしまい、家族と過ごす時間を奪ってしまったことには、申し訳なさを感じている。それでも、ずっと心に巣食っていた悩みが少し薄れ、久しぶりに母様と一緒に眠れるその夜が、僕にはとても嬉しかった。
その後、部屋の外が少し騒がしくなっていた気がするけれど僕は、それが何なのか考えるより先に、静かな眠りに沈んでいた。
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