季節番外編置き場

ユーリ

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クリスマス (レクス視点)

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「それで、上手くは行ったのか?」

私は湯気の立つカップを指先で弄びながら、向かいの男へ水を向けた。束の間の休憩のはずなのに、相手が相手なだけに、油断という言葉は成立しない。

「あぁ、問題ない」

そして、返ってきたのは、まるで報告書の結語のような簡潔な一言だった。

「しかし、あの時は本当に急な事だったから、さすがの私でも驚かずにはいられなかったよ」

「あれしきの事で驚くとは、お前もまだまだだな」

「君ね……普通の人間は驚くから……」

「そうなのか?」

「はぁ……」

まるで他人事のように問いかけてくるコイツに、普通の人間の反応を求めた私が愚かだったのだろうと。思わずため息が漏れる。あの時も、今と同じ調子で平然と言い放ったことを思い出し、自然と頭痛が込み上げてくるのを感じた。

その日も、私は執務室で、奴が持ってきた報告書を確認している時だった。

「これが来年度の天候不順による損失見込みと、それに対応する対策の原案だ。それと、国庫から魔道具を幾つか借りていくぞ」

「……ついでの報告みたいに、とんでもない事を言わないでくれないかな?」

毎年、コイツにはその年の収穫量や情勢を基に、来年度の天候などを事前に計算してもらっていた。本人に言わせれば「誰にでも出来ること」らしいが、こんなことを誰もが出来ると思っている時点で、すでに普通ではない。しかし、そのおかげで余裕を持った国家予算を組むことができ、損失も最小限に抑えられていたのは事実。

そのため、そんな重要な報告の最中に飛び出した、まさかの提案に、私は一瞬、自分の耳を疑ったほどだった。

「どうせ、使う予定のない物ばかりだろう?」

まるで、こちらが理不尽なことでも言ったかのように、奴は不機嫌そうに顔を歪めた。

「使う予定がなくても、国で保管している物を個人にそう簡単に貸せるわけがないだろう?ただでさえ、ベルからは不穏な報告を受けていると言うのに……」

「不穏?今回は何もした覚えはないが?」

『今回は』と言っている時点で、それ以外では何かしていると無駄に勘ぐってしまいそうになる。だが、他意はないのだろうと信じたい。

「最近、君が気配を殺してベルの背後に立とうとするらしいじゃないか?」

「あぁ、その件か」

私が口にすると、合点がいったというように、相手は声を上げた。

「最近ベルがその件でやたらピリピリしているせいで、今では騎士団の連中からも苦情が上がっているんだぞ?まさかとは思うが、暗殺でもする気じゃないだろうね?」

冗談めかしに私が問い掛ければ、まるで下らない事でも聞かれたような冷めた視線を向けてくる。

「そんな事をする程、私は暇じゃない」

「まぁ、そうだろうな」

奴の言葉通り、そんなことをする暇がないのは、私が一番よく分かっている。そもそも最初から本気で言った言葉ではなかった。だから、私は奴の言葉をさらりと流して、本題へと話を戻した。

「それで、ある程度までなら私の権限で貸し出せると思うが、どんな性能を持つ物が必要なんだ?」

下手に拒めば、職務放棄さえしかねない相手だ。それなら最初から、こちらが多少折れておいた方が被害は少ない。そうして私が言うと、奴は少し考える素振りを見せてから、口を開いた。

「そうだな。手始めに、魔力や気配を遮断する効果の物。それ以外に、解錠、隠蔽、妨害……」

「本気で誰か暗殺でもする気か!?」

犯罪でも犯しそうな不穏の羅列に私が声を荒らげれば、奴は呆れた者でも見るような顔で答えた。

「何を言っている?国庫からそんな物借りなくても、大衆の面前でも気付かれず暗殺するくらい簡単に出来る」

「それは…なんの慰めにもなっていないな…」

”何を言っているんだ、コイツ”そんな表情を浮かべながら、平然と恐ろしいことを口にする友人を前に、私は何と声を掛ければいいのか分からなくなった。ただの冗談として聞き流せないのは、それを実行出来ると知っているからだ。それだけに、その言葉は私にとって、余計にたちが悪く聞こえた。

「では、どこで何に使うつもりなんだ?」

そんな物騒なものを一体どこで使う気なのか。決死の覚悟で問いかけると、奴は驚く様子もなく、淡々と答えた。

「屋敷内で使う予定だ」

「……屋敷内?」

まるで私の心情を嘲笑うかのように、予想だにしなかった単語が奴の口から飛び出し、私の口からは間の抜けた声が漏れた。その後、詳しい内容を聞き出した私は、空いた口が塞がらなくなるような答えを返されることになる。

「そんな事のために、国庫から魔道具を借りようとしていたのか……?」

国庫で管理すべき品を私的に使うだけでも十分に呆れるというのに、その理由が、巷の子供達の間で流行っている絵本をなぞるためだという。犯罪に使うつもりがなかったことには安堵したが、その理由があまりにも下らなすぎて、コイツは、本当は馬鹿だったのではないか、と真剣に思ってしまった。

そんな気配を察したのか、奴は少し機嫌を損ねたような態度で、臆することなく大胆不敵な発言を放った。

「私にとっては大事なことだ。それに、たとえお前が許可を出さなくとも、予行練習を兼ねて宝物庫から勝手に借りていくつもりだった」

「おい!城への侵入を予告する宰相がどこにいる!少しはその責任を取らされる警備の騎士の事も考えろ!!」

再び声を荒げる私に対し、奴は相変わらず平然とした顔で答えた。

「安心しろ。その者の退職金は弾む予定だ。それに、働きたいと言うならば我が家で職を斡旋し、働きたくないと言うのであれば、毎月保証金でも渡して生活の保証もするつもりだ」

傲慢さが滲み出るような態度で平然と言い放つ奴に、憎らしさしか込み上げてこない。無駄に金と権力だけはあるのだから、なおさら質が悪い。私も似たようなことをした覚えがないわけではないが、ひとまず自分のことは棚に上げ、奴を止めるために声を掛けた。

「幾ら君とはいえ、見つかれば重罪で裁かれる事になるんだぞ!そうなれば周りの者達の目もある手前、私とて庇いきれない!」

「そんなヘマを私が犯すとでも?」

「君は……しないだろうね……」

何とか奴の暴走を止めようと、歯止めになりそうな言葉を並べてみるものの、当の本人はまるで意に介した様子もない。事実だけを淡々と告げるその言い草に、私は黙って頭を抱えるしかなかった。

何事にも抜かりなく、すべてをそつなくこなすコイツが、普通の人間がするようなヘマを犯すなど、とてもではないが想像できない。だからこそ、宝物庫から目当ての品を確実に“拝借”し、悠々と逃げおおせる未来しか見えてこなかった。それに、城の構造はおろか、隠し通路に至るまで把握し、警備体制さえ知り尽くしている。そもそも、一般の兵がコイツに勝てるはずがないのだ。

私は、頭の中であらゆる最悪を検討し、最終的に一つの結論へ落ちる。

「……はぁ。貸出を許可する……」

諦めが通り過ぎ、ある意味では達観したような心境で言葉を紡ぐと、奴はその言葉が出てくるのを予測していたかのように、一枚の紙を差し出してきた。

「許可書の書類だ」

(……最初から、こうなると分かっていた顔をしている)

既に申請書類は完璧に準備されており、あとは私のサインさえあれば済む状態だった。そんな書類を差し出してくる男を前に、私はもはや、何も言う気力が残っていなかった。だが、そんな私を追撃するかのように、さらに言葉を重ねてきた。

「それと、先程上げた物の他に催眠や洗脳……」

「それは、息子相手に使う物か!?」

「失礼な事を言うな。周りにいる騎士共にしか使う予定はない」

「そういう問題ではない!!」

その後、何とか後者の物の貸出を阻止する事に成功はしたが、ある程度この件に加担してしまった手前、本当に被害がなかったか気になり、今も奴から上がってくる報告を聞いていた。

「多少未熟な部分もあったが、兵の采配などがしっかりとされてな。私でさえも少し手こずってしまった。子供成長とは速いと聞いたが、どうやら本当だったようだ」

「楽しそうな所悪いが、私が聞きたいのは感想ではなく、どうなったのかという結果だ。だいぶ屋敷内が壊れたらと漏れ聞いたが?」

奴の屋敷では、ある程度の口止めはされているようだが、そういった情報というものは、どこからでも漏れるものだ。当然、奴もそれを理解しているのだろうが、特に動じた様子はない。それどころか、まるで息子の自慢話でもするかのように、得意気な顔で答えた。

「あぁ、今まであんな派手な変装で侵入した事がなかったからな。少しばかり興が乗ってしまって、多少屋敷が壊れてしまったが、こっそりとプレゼントは置いて来るのには成功したのだがら、些細な問題だと言えるな」

久しぶりに子供と遊んだ親のような顔をしているが、その規模が他と異なり過ぎている。そもそも、私が聞いた話では、騎士の中には少なくない数の怪我人が出たうえ、平民の家が1軒建つ程の損害が出たと聞いた。そんな屋敷中の者を巻き込むような大騒動を起こした張本人は全く悪びれておらず、こっそりと言う言葉の意味すら疑いたくなる。

「自分の屋敷を壊しておいて、それをこっそりと言えないと思うが、サンタへの解釈が間違っているぞ…」

「何処がだ?寝ている者の枕元に、気付かれずにプレゼントを置いて来れば良いのではないのか?」

解釈でも間違えてしまったかのような言い草で言うが、お前が間違えているのは常識だと言ってやりたい。昔から、人とは常識や考え方が少しズレていると思っていたが、今日は切に思う。

「子供に夢を与える日であるのに、そんな方法では夢も希望もないだろう」

「そうだな。それは盲点だった」

(盲点どころか、完全に目が曇っているだろう……)

コイツが家族に向ける感情や行動を知っているだけに、そんな言葉が喉元まで込み上げてくる。だが、それをあえて飲み込み、私はもう一人の当事者について話題を振った。

「最近、彼の姿を城ではその姿を見かけないが、お前に負けて引き篭もっているわけではないだろうな?」

「いや、去年からの失態も含めて、騎士を一から鍛え直すと言っていた。今頃は、オルフェ自身で騎士達に訓練を付けている頃だろう」

「本当に、お前の所の騎士達は大変だな……」

巻き込まれた者達へ、私は哀れみと同情を禁じ得ない。私だって巻き込まれている側だが、権限がある分、多少は逃げ場はある。

そして奴が、当然のように次の言葉を続けた。

「それで、来年なのだが……」

「来年は貸さんぞ」

今から来年の話をする男に、私は断固とした意思で拒絶の言葉で即座に切り捨てた。
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