季節番外編置き場

ユーリ

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七夕

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「ネアも来れば良かったのにな」

短冊に願い事を書き終わり、みんなで笹がある庭へと移動している途中、バルドがネアがいない事を残念そうに呟けば、その横を歩いていたコンラットが致し方ないような顔を浮かべながら答える。

「家の用事があって忙しいのなら仕方がないですよ」

「でも、街の奴等もそんなに騒いでなかったから、そこまで忙しくなるとは思わないんだよな?アイツ…ただ来るのが面倒だっただけじゃないよな…?」

自分で言いながら抱いた疑念を小さく呟くバルドだったけれど、意外とちゃっかりしている所があるネアだけに、その可能性もありそうだ。疑いの目をネアへと向け始め、顔が険しくなりそうになっているバルドの気を紛らわすため、コンラットがなだめるように声を掛ける。

「まぁ、今は良いじゃないですか。ところで、バルドは何と書いたんですか?」

「えっ?身長が伸びますように」

「貴方の場合、それは願わなくても叶いそうですけどね…」

願い事を書いた短冊を見せながら言うけど、その願いは意味があるのかといった顔をしながらそれを見ていた。僕も、クラスの中でも比較的身長が大きいバルドには、必要のない願い事だと思う。それに、願い事を書いた本人でさえも、そこまで必死な様子はない。

「いや、俺としてもそこまで欲しいわけじゃないんだけどな」

「それじゃあ、何でそれを書いたんですか?」

「こんな行事があるなら、もっと前に願っておけば良かったって兄貴に仕切りに言うからさ。だから、兄貴の分も含めて書いておこうかと思ってな。まぁ、兄貴は今のままで十分強くて格好良いから、俺はそこまで必要なものでもないと思うんだけど、兄貴は気にしているみたいだったからさ」

あっけらかんとした口調で答えるバルドだったけど、中身は一緒なのに見た目だけは綺麗なお兄さんの事を思い出し、色々と背の事で苦労したのかなと思ったけど、バルドから見えている姿は僕とは少し違うようだった。

「身長を気にされている方は多いでしょうしね…」

「でも、身長なんて高い所の物を取る時に便利ってくらいだろ?」

「女性も見た目を気にされている方が多いですし、男性の方も気にしていると思いますよ」

「確かに、母さんも体重と年齢は無駄に気にしてるな」

「こういったことは、とても繊細な問題ですからね」

コンラットの呟きを聞きながら、本当に分かっているのか分からないバルドがウンウンと頷いていたけど、一通り相槌を打ち終わると、バルドはこっちへと話しを振ってきた。

「それで、お前等は何って書いたんだ?」

「別に…何を書いたって良いじゃないですか…」

「俺ばっかり見せるのは不公平だろ?」

見せるのが恥ずかしいのか、後ろ手に短冊を隠すコンラットだったけど、バルドからせっつかれて渋々といった様子で短冊を差し出すと、バルドはそれを見て不思議そうにしていた。

「成績が上がりますようにって。お前だって、別に願い事する必要なくないか?これ?」

「そんな事ないですよ!未だに成績でネアに勝てた事ないんですから!」

負けず嫌いな所があるからか、コンラットの繊細な部分に触れてしまったようで、それに気付いたバルドは直ぐに僕へと話題を振って誤魔化そうとしてきた。

「そうだ!リュカの方は何って書いたんだ!?」

「えっ!?えっと…僕のは…これ…」

コンラットの後だった事もあり、何とも出しずらくておずおずといった感じで見せれば、僕の願い事を知ったバルドが、あまりにも現実的な願い事にがっかりした様子を見せる。

「記憶力が良くなりますようにって……お前等って意外と夢がないよな?」

「そっちだって特に夢があるような願い事でもないでしょう!?それに、貴方の場合、もう少し成績に関わるような事を書いた方が良いのではないですか?」

「いや、俺はとっくに成績は諦めてるから」

「そういう所は、ある意味羨ましいですよ…」

お互い様なだけに、コンラットが少しだけ怒りが治まっていないような声で反論すれば、バルドからは清々しいまでの返事が返って来た。だけど、そのあまりにも堂々とした姿に、コンラットは呆れを通り越して憧れにも似た感情を抱いたかのようだった。

「願い事って難しいね」

「そうだな。願わずとも手に入る物ばかりで、その必要もないからな。だが、私が叶えられるような願い事をリュカが書いていたならば、叶えようと思っていたのだがな」

仕事から帰って来た父様に、みんなで飾った短冊を見せながらその時の事を話していたら、酷く残念そうな声が返ってきた。父様は出来ない事がないから願う必要はないんだろうけど、僕に願い事が特にないのは、何時も父様達が先回りして色々としてくれるからだと思う。父様の事を見上げながらそう思っていると、180センチくらいありそうな父様の姿に、僕も父様達くらいの身長が欲しいなと不意に思った。

「さっきから私の事を見ているが、顔に何か付いているかな?」

少しおどけながらも、さっきまで楽しげに喋っていた僕が静かになった事を心配するかのように父様が声を掛けてくる。僕は問われるまま、何も考えずに素直に答えた。

「僕はどれくらいまで身長が伸びるのかなと思って?」

その言葉を聞いた途端、父様の身体がピクリと動き止めた。そうして、真顔をのまま静かに僕へと問い掛けてきた。

「どうして、そんな話しになるのかな?」

「えっと…身長は高い方が良いよねって…話しを思い出した…から…?」

笑顔なのに、父様の目はどこか据わっているように見える。そのうえ、何だか身体がヒヤッとする声に歯切れ悪く答えれば、父様はさらに背筋が寒くなるような笑みを浮かべていた。

「いくら身長が高かろうと、その人間が無能であれば何の意味などない。それに、上から見下されるのが不快になったのなら、相手の身長をその分低くしてしまえば良いんだよ」

「どうやって?」

「簡単だよ。その分削いでしまえば良い」

そんな方法があるのかと問い掛ければ、父様は凄く良い笑顔を浮かべながら、片手で何かを軽く切るように仕草をしながら言った。父様が言い放ったその言葉に理解が追いつかなくて、僕が唖然とした様子で言葉を失っていると、父様は何を思ったのか、耳を疑うような事を何とも気軽げな口調で口にした。

「ものは試しで、今からベルンハルトで実践して来ようか?」

「駄目だよ!」

直ぐに否定の言葉を返せば、父様はきょとんとしたような顔をした後、父様は僕を安心させようと穏やかな声を出すけれど、その内容は全く穏やかじゃなかった。

「大丈夫だよ。例え、膝から下がなくなっても、平気そうな顔で動き回ってそうな奴だから」

「それは大丈夫じゃないよ!!」

「そうかな?まぁ、アイツも黙って切られるような奴でもないから、念入りに準備が必要だからな…」

慌てている僕の様子を見ながら仄暗い笑みで言う父様に、僕は恐る恐る問い掛けた。

「ねぇ…?とうさま…?もしかして…身長を気にしてたりするの……?」

「………」

まさかと思いながら問い掛ければ、どうやらそれが当たっていたようで、父様は無言で答えていた。

「でも、普通の人よりは高いよね…?」

「例えそうだとしても、立ったままアイツに見下されるのは不快だ……。昔は私と大した違いなどなかったというのに……」

頭一つ分くらい違うのが心底不愉快なのか、父様にしては珍しく、思い出すのも嫌だとでもいうように不機嫌そうだった。

父様の身長は平均よりも少し高いくらいで、決して低いわけではないけれど、殿下よりも僅かに目線が下なの事もあり、3人並ぶと父様が一番低い。だから、父様はそれを気にしているようだったけど、欠点とも言えないぐらいの事を父様でも気にするのなら、コンラットが言うように意外と繊細な問題なんだなと思う。でも、2人の仲が悪い原因の一つに、身長のせいもあったりするのかなと密かに思った。
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