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うろこ道

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第六章 地上調査

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「おそらく日本住血吸虫症……寄生虫です」
 寛人は駅構内に戻ると、意を決したように告げた。
 日本住血吸虫、と渥美は鸚鵡返しをした。
「……聞いたことねえな」
「渥美は寄生虫は専門外だから。でも地上から戻ってきた調査隊がこれに寄生されているのは珍しいことじゃないんだ」
 寛人は河野と乾に交互に目を向けた。
「かゆみを伴う赤い斑点から始まって、水便、喉の渇き、そして発熱――症状も一致しています。時間がたつと突然かぶれが引くのも、症状に当てはまっています」
「でも……どうして河野さんと乾さんだけ? 俺たちずっと一緒に行動してただろ」
「日本住血吸虫は水辺で感染するんだよ。たぶん、あの蜻蛉の湖に浸かったときに寄生されたんだと思う」
「日本住血吸虫は日本では撲滅したんじゃなかったかな」
 ふいに斎藤が言った。
 寛人は驚いたように顔を上げた。
「斎藤さん、知ってるんですか」
甲斐国かいのくにの風土病でしょう。私、父方の祖父母が山梨県出身なんです。地元では有名な話らしいですよ。片田舎の村の風土病のために米軍まで出動し、火器まで使ってやっと撲滅させたとか」
 そんな大事おおごとなのかよ――渥美は目を見開いた。
「なんでまた地上で蔓延してるんだ? 撲滅させたんだろ?」
 自然界ではね、と寛人は言った。
「でも日本国内の複数の大学や研究施設などで、中間宿主のミヤイリガイや日本住血吸虫の本体は累代飼育されてたんです。万一の再流行に備え、必要な抗原を製造するために不可欠だから。……先の大戦でそれら保管施設が被爆し、ミヤリガイと共に日本住血吸虫が放たれたのかもしれません」
 黙って話を聞いていた乾が――なあ、と顔を上げた。
「進行したらどうなるんだ?」
 寛人は逡巡し、言葉を詰まらせた。
 そこに斎藤が口を挟んだ。
「祖父は、手足が痩せて肌が黄色く変色し、腹水が溜まり太鼓腹になったら最後、回復せず確実に死ぬって言ってましたねえ。水腫脹満茶碗のかけら――この病にかかると割れた茶碗のように二度と元には戻らないという、甲府盆地で古くからうたわれていることわざです」
「やめろよ!!」
 渥美が声を荒げた。
「かまわない。柚木、教えてくれ」
 河野が言った。寛人はごくりと唾を飲み込む。
「重症化の原因は――血管内部で次々に産卵される虫卵です。単純に、血中に増え過ぎた虫卵が体中にあふれ、次々と臓器を破壊していくんです」
「……内側から食われてくようなもんか……」
 乾が呟いた。
「――あの湖に入ったのは俺自身の決断だ。自分が招いたことだ」
 堪えるように言った河野を見やり――乾は足元に視線を落とした。
「……河野さん、すげえな。俺は、そんな風に思えねえ……」
 乾は両手で顔を覆った。
「――死にません」
 きっぱりと言った寛人に、乾と河野は顔を上げた。
「治療法は確立されてます。プラジカンテルという住血吸虫症に大きな効果のある薬が古くからあるんです。六か月プラジカンテルを服用することで、住血吸虫によって損傷した器官が九十パーセント治癒したって報告もあります」
「……治るのか?」
 呆然と呟いた乾に、絶対に治りますと寛人は言い切った。
「寄生生物は僕の専門分野ですから。河野さんも大丈夫ですからね。僕がついてますから」
 生きて帰りましょう――寛人は微笑んだ。
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