奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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四章

奴隷だった私と恋の行方2

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  「イーラ?どうしたんですか?」

カーラ先生がそう言った。今日は久しぶりにカーラ先生の授業があったのだが、ぼんやりしていたせいで注意された。考えていたのはエミリーとアーロンのことだ。

「す、すいません。ちょっと考え事をしてて……」
「まあ、課題は終わっているのでいいですけど。何かあったのですか?」

少し心配そうにカーラ先生は言った。やっぱりカーラ先生は優しい。イーラは少し悩んだが話し始めた。

「実は……」

イーラはそう言って、エミリーとアーロンの事を話した。
カーラ先生は二人が付き合ったきっかけも知っているし。何か良いアドバイスをもらえるかもしれないと思った。

「まあ……そんな事になったのね……」

話し終わるとカーラ先生は残念そうに言った。

「二人の関係はずっとこのままだと思ってたのに、こんな事になるなんて思ってなくて……二人が結婚する事って、そんなに難しいんですかね」

イーラはしょんぼりしながら言った。
アーロンの悔しそうな表情を見たら、アーロンが本気でエミリーの事を想っていたことはわかった。
だからこそ一緒にいて欲しいと思うが、アーロンの頑なな態度を見ると何も言えなくなる。

「そうね……」

カーラ先生は複雑そうな表情で言った。

「……そう言えば先生は結婚されてたんですよね?」

確か先生が結婚しているのは、何かで聞いた事があった。たしか、数年前。事故で夫を亡くしてしまって今は未亡人なのだそうだ。
しかも夫は実業家で運の悪いことに、大きな事業を始めようとして借金をしていた。残されたカーラ先生は一気にその借金を抱える羽目になったのだ。
そんな時に、ピアーズがその事を知って、助ける意味でもイーラの教師として雇ったらしい。逆に言えば、この事があったからハーフの家庭教師になることを断れなかったのだ。
すると、カーラ先生は苦笑しつつ話し始めた。

「実は、亡くなった私の旦那様は平民出だったのよ」
「え?そうだったんですか?」
「本当に普通の商人だったの。私の家に出入りしている商人の一人で、それで出逢って結婚を誓い合ったのよ」

カーラ先生は懐かしそうに言った。

「そうだったんですね」
「でも、私の家は一応それなりの位のある貴族だったからかなり反対されてしまって、ほとんど駆け落ち同然で一緒になったの」
「そ、そんなことが……」

理知的でクールなカーラ先生に、そんな情熱的な過去があるとは思わなかった。

「だからこそ言うんだけど、エミリーとアーロンが一緒になるのは、私はあんまり賛成は出来ないわね」
「……先生は結婚したこと、後悔してるんですか?」

駆け落ちまでしたのなら二人のことも応援してくれると思ったが、違うのだろうか。
カーラ先生は困った顔をしながらも首を振った。

「後悔はしてないわ。彼は本当に素敵な人だったし、もう一度人生をやり直せてもきっと同じ事をすると思う。でも、苦労しなかったって言ったら嘘になる」

悲しそうな表情でカーラ先生は俯き、手を見た。その手にはシワが刻まれていて苦労のあとが見えるようだ。

「カーラ先生……」
「影では色々言われたし、友達もいなくなった。夫が亡くなってしまった時も親とも縁を切っていたから誰も頼れなかったの」

そう言ったカーラ先生の目には苦労が滲んでいる。

「それは、大変でしたね……」
「だからこそエミリーに同じ思いをさせたくないの。苦労することは目に見えてるし、アーロンに何かあるなんて考えたくないけど、私の旦那様みたいに死んでしまったら、それこそ後戻りできないのよ」

そう言われてイーラは何も言えなくなってしまった。
エミリーには幸せになって欲しい。
その気持ちはイーラも同じだ。

「勿論、決めるのは二人だし。もし二人が結婚すると決めたなら応援するわ。でもそうでないなら、私は応援できない」

カーラ先生の言うことはもっともだ。
先の事は分からないのに、無責任なことは言えない。
それでも、イーラは他の意見も聞きたくて、今度はフィルとジャックに話しを聞きに行くことにした。
二人は、相変わらず仲良く庭師として働いている。
お菓子を手土産に久しぶりに行くと、二人は快く出迎えてくれた。

「今日は聞きたい事があって……」

そう言ってイーラは、エミリーとアーロンの事を話した。

「二人がたまに庭でデートしてるは見かけたけど、そんな事になってたんだね」

フィルがそう言った。フィル達も二人が恋人同士だということは知っていたようだ。

「どうにか二人とも幸せになって欲しいなって思って……二人は駆け落ちしたんでしょ?何がきっかけだったの?」

二人がなんでここに来たのかは聞いたが、なにがきっかけだったのかは知らなかった。

「俺はアーロンの気持はわかるよ。フィルに同じようなことを言ったからな」

ジャックがぼそりとそう言った。

「そうなの?」
「懐かしいね」

フィルがクスクス笑いながらそう言った。するとジャックは呆れた顔になる。

「笑い事じゃないよ。俺は身を引いて離れたのに、無視して相談もなしに身分も家も全部捨てて追っかけて来たんだ」
「え?そうだったの?」

フィルは容姿も優しげで、穏やかな性格だ。そんな思い切ったことをしたとは思わなかった。

「だって、ここで諦めたら一生後悔するって思ったんだ。今も後悔はしてないよ」

あっけらかんとフィルはそう言った。

「俺はもっと考えて欲しかったけどな……」
「まあ、死にそうになったし。ピアーズ様に拾ってもらわなかったら本当に死んでただろうから、エミリー達の事を簡単には応援は出来ないのは確かなんだけどね……」

フィルはそう言って苦笑した。

「やっぱり難しいんだね」
「俺達は本当に運が良かったと思うよ。だからカーラ先生がいう事もわかるんだ。僕も悩んだよ、どちらを選んでも誰かを悲しませてしまうから……」
「それでもフィルはジャックを選んだんだね」
「うん。なにが一番大切かって考えたら、ジャックの顔しか思い出さなかった」
「フィル……」

そう言ってフィルとジャックは見つめ合う。それを見てイーラは今でも二人は愛し合っているんだと思った。
結局、答えはなにも出なかった。それはそうだ、そもそもこれはイーラの問題ではない。悩んで答えが出ても結局エミリーとアーロン二人の問題だ。カーラ先生が言ったように二人が決めるしかない。
それでも、エミリーの無理をして大丈夫と言った顔を思い出してしまう。あんな顔は初めて見た。泣きそうになっているくせに顔は笑っていて、とても痛々しかった。思い出すだけで辛くなる。

「仕事中に何をぼんやりしているんですか?」

ヴィゴがそう言った。
考えてもしょうがないと思ったのに、イーラはうっかりエミリーとアーロンの事を考えていてまたぼんやりしていた。

「すいません、考え事をしていて……」
「珍しいな。何かあっのか?」

ピアーズも聞く。今はピアーズの執務室で秘書のヴィゴと仕事中だった。

「実は……」

そう言ってイーラはエミリーとアーロンの事を話す。

「ああ、エミリーから退職の申し出がありましたね。手続きをしたのを覚えてます」
「ヴィゴはどう思いますか?」

イーラがそう聞くと、ヴィゴは首をかしげ考えた後言った。

「諦めた方がいいでしょうね。アーロンの判断は賢明だと思いますよ」
「ええ?!そんな……」
「下手に引き伸ばせは傷が深くなるだけです。むしろ、優しいと思います」

ヴィゴはきっぱりと言い切った。

「失礼します。書類持ってきました……あれ?なにか取り込み中ですか?」
「あ、カイ」

何か書類を提出しに来たようだ。カイが部屋に入って来た。深刻そうなイーラの顔を見て不思議そうに言った。
丁度いいので、イーラはカイにもエミリーとアーロンの事をどう思うか聞いてみた。

「俺なら絶対諦めないな。好き同士なら攫ってでも一緒にいたいと思うよ」

カイはチラリとイーラを見て言った。
これまたヴィゴとは正反対の意見だ。ヴィゴは半ば呆れた表情になる。

「若いですね。でも、そんなことしてもどうせその先は長く続きませんよ。逃げても生活はしていかないといけないんですからね。仕事や家はどうするんですか?一人なら勝手に野垂れ死ねって感じですけど、相手がいるんですから、きちんと考えないと」
「うぐ……で、でもそれで一生後悔したくないし……」

カイは言葉に詰まりながらもそう言った。

「そういえば、ヴィゴは結婚してないけど、何か理由があるの?」

ヴィゴはたしか年齢も三十代くらいだったはず。この年代なら結婚はしていて当然だ。この屋敷の使用人はある程度の年齢になったら、ほとんどの人が結婚している。
そんな中でヴィゴは浮いた話も聞いたことがない。

「結婚なんて、人生の墓場です。そんな煩わしい事をするなんて正気じゃない」

その言葉に今度はカイが呆れた顔をする。

「極端だな……恋人とか作らないんですか?」
「私の恋人は仕事ですから」

ヴィゴはまたきっぱりと言い切った。ここまではっきりと言われると逆に清々しい。

「結婚する気もないんですか?」
「興味もないですね。結婚なんてしたら仕事の妨げになるのは目に見えてる。時間の無駄です」

その言葉にイーラとカイは顔を見合す。

「そこまで言うことないのに……まあ、ヴィゴらしいけどな」

ピアーズが苦笑しながら言った。

「ピアーズ様はどう思われますか?っていうかどうにか出来ないですかね?」

イーラはそう言った。ピアーズほどの権力があるなら、どうにか出来るんじゃないだろうか。
しかし、ピアーズは渋い顔になる。

「うーん。そうだな……婚約者騒動が原因で別れたみたいだし、俺もどうにかしてやりたいが難しいな……」
「ピアーズ様でも無理なんですか?」
「問題なのは、エミリーの家にも関わるからだ。俺がエミリーの結婚に口を出すという事は、エミリーの家の方針に口を出すということだ。立場的に出来なくはないが、かなりの越権行為になる……他の家との関係もあるから、そう簡単には出来なんだ」
「そうです、それだけは絶対に止めてください」

怒った顔でヴィゴが言った。立場があるからこそ出来ないということだ。

「そうですよね……」
「まあ、抜け道みたいなやり方はあるがな……」

がっかりした顔のイーラにピアーズが言った。

「本当ですか?」
「俺がエミリーを娶ればいい」
「え?」
「実際に手を出したりはしないよ。しかし、何人も妻を取ることはそんなにおかしいことじゃないからな。世間的に俺の妻になったことにしてしまえば、エミリーは家に縛られる事はなくなる」
「そ、それは……」

偽装結婚をするということか。

「エミリーの家には結納金として金を積めば、文句は出ないだろう。あとは自由だ」

正当なやり方ではないが、手段を選ばなけれは一緒にはなれるということだ。

「俺は、反対です……そういうの……」

カイが複雑そうな顔をして言った。

「やっぱり若いですね……」

ヴィゴが苦笑しながら言った。ピアーズも苦笑している。

「だって、そんなやり方しても、誰からも祝福されないし。表では他の男と夫婦ってことになるんだろ?俺がアーロンだったら絶対嫌だ」

確かに、そんな方法で一緒になっても本当に二人が幸せになれるか分からない。イーラも仮にピアーズとエミリーが結婚すことを想像してみたが、なんだか嫌な気持ちになった。

「まあ、どちらにしても本人達のがそうしたいと言わなければ実行は出来ない。外野がいくら言ってもどうにもならないがな」

ピアーズがそう言って、この話は終わった。
色々な人に聞いてみたものの、二人が上手くいく可能性はやはり低いみたいだ。諦めるしかないのだろうか。
イーラは、エミリーがアーロンと楽しそうに踊っていた時の事を思い出す。
あの時のエミリーは本当に綺麗だった。それに、アーロンの話しをして恥ずかしそうにしているエミリーは今まで見たことがないくらい可愛かった。
エミリーとは長い付き合いだからわかる。エミリーは本当にアーロンの好きだった。恋人同士になったらしいと知った時は嬉しかった。

「物語の恋人達はみんな幸せになって終わるのに……」

現実なんだから上手くいかないこともある事は分かっていたがやはり辛い。
その後も、二人は別れたままでなにも変わらなかった。はたから見ると二人は何もなかったように普通に仕事している。
そうしている間に、エミリーが仕事を辞める日はどんどん近づいていくのだった。
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