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番外編③それぞれのクリスマス。

【65】異国のクリスマス。

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「……」
吸血鬼の城の敷地内にひっそりと佇む聖堂で祈りを捧げる。その側には、かつてその命を助けるために、縛ってしまった彼。

ゆっくりと祈りのポーズを解き、立ち上がれば彼を振り返る。

「ぼくのことを、怨んでいる?」
「何故……あなたはかつて自我を失い、暴走してしまった俺のために、吸血鬼の王にその身を捧げてくれた」
かつてルームメートだった彼は、鮮やかだった髪は色褪せ、ロードである王のような色のない髪に近く、そして瞳もより青く染まっている。

様変わりしてしまった彼の外見。顔だけは……当時のまま。

「あなたがいなければ、俺は今ここにいなかった。俺は俺に……戻れなかった」
「……シモン」
それが、ぼくが王の従僕にしてしまった、吸血鬼の名。

「あなたが、あの恐ろしい王の、妃に……」
「ぼくにとっては……ナルはかわいいばぶちゃんだよ」

「そのように言えるのは、世界中を探したところで、あなただけでしょう」

「だってぼくは、ナルのままんであると誓ったから」
ナルが背負った罪でさえ、一緒に背負っていく。

「……スバル」
静かにぼくを呼ぶ、声がする。カツン、カツンと靴音を響かせながらこちらにくる王に、シモンは跪く。自身の主である吸血鬼の王には、彼の血が従わざるを得ない。それでもシモンはぼくをすぐ側で守れるのならと受け入れてくれた。

あなたは……とても優しい。
こんな選択しか選べなかった。結果的にあなたを縛ってしまった。けれど、彼はぼくの側でぼくを守れることを、何よりの幸せだと言ってくれる。

「誰のことを考えている」
すると、ぼくの考えを読んだかのようにナルが不満げな声を漏らす。その際、周りの吸血鬼たちはとても恐ろしいと感じるようだが。

「嫉妬しないの。ちゅっちゅしてあげるから」
親友から教えてもらった、ばぶちゃんへのかわいいご褒美。これは祖国の言葉だけれど、ばぶは優秀だから何ヵ国語も話せるし、ぼくが教えたらすぐに覚えてくれた。

そして、ふぅっと頬を緩めて、ぼくに口付けをくれるナル。

ぼくはナルを……ナルを幸せにしてあげたい。例えナルが今までにどんな罪を犯したとしても。ひとも、吸血鬼も、優しさの中で、溢れる愛の中で、きっと救われると信じている。

――――――その晩は、クリスマスの夜。
ナルとふたりでワインとご馳走を囲む、穏やかな夜。
ナルには、庶子の子孫がたくさんいる。かつての罪の延長線上に生まれ、子孫を繋ぎながらナルを怨むひとびと。人間にも吸血鬼にもなれない彼らは、狩人によって武器として使われる。

ナルは実験材料の確保とか言ってるけど……本当は知ってる。ままんのぼくを喜ばせるために、血清の研究をさせて、彼らに血清を投与してくれていること。彼らにとっては屈辱だろうか。それでも血清なら、彼らを吸血鬼にしないで済むから。この選択が間違っているかどうかは、まだ分からない。

だけど……祖国の親友から届いた、クリスマスパーティーの様子をナルに見せれば、ナルはリクヤ王に年始の挨拶をする話をしていたが……。

いつか……彼らのように笑いあえるのなら……。ぼくはその希望を捨てたくないんだよ。そんな思いを読み取ったのだろうか。

今夜は……子孫たちにもご馳走のお裾分けを頼んでくれた。優しい、優しいぼくのばぶちゃん。
周りには恐がられることが多いけど。だけど……最近は、こうして優しい笑みも見せてくれるのだ。



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