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⑥
しおりを挟む1週間と少しが経過し、俺は君をデートに誘えるタイミングをうかがっていた。
あれから、君はなにも変わらず俺と接してくれている。
「なあなあ、」
「どうしたん?」
「今週の土曜、先輩と飲みにいかへん?」
ストレートに誘う勇気のない俺は、先輩が飲みに行きたいと言っているということにし、君を誘いだした。
そして土曜日、君に電話を掛ける。
「もしもしー」
「はーい」
「先輩がさー、やっぱ今日いかれへんってよ。」
「そうなん?」
どこかそっけない様子。
俺は恐るおそる、打診をする。
「また、2人でどう?」
動悸が止まらない。
心臓の鼓動があまりに激しく、全身の血管が張り裂けそうだ。
「いいよ。」
この返答に、俺は何かずっと努力していたものがようやく報われたような、そんな気分だった。
「どこいく?」
君が尋ねる。
「焼肉でもどう?」
そう言ったのは、俺がただ焼肉が食べたかったから。
それに、君のことだから、何を言ってもうんと言うだろうなと思って。
「いいね!」
「じゃあ、17時にロビーで。」
こうして、初めて俺は自分から君を誘うことができた。
また君と、2人の時間を過ごすことができる。
楽しみであると同時に、少々プレッシャーでもあった。
前回のことを俺はずっと気にしていた。
セックスしなかったことじゃなくて、君の気持にこたえられなかったこと、男としての弱さ、不甲斐なさである。
近くにはいい感じの焼肉屋はなかったので、車で30分ほどのところにある店を予約した。
つまり、今回は酒の力を借りることができない。
まだ午前11時。
約束の時間まで6時間もある。
まず風呂に入り、全身の毛を剃る。
着ていく服は1時間かけて厳選。
イケてる髪のスタイリング方法をユーチューブで調べ、40分くらいかけてセットする。
かばんには財布とモバイルバッテリー、そしてコンドームを入れた。
この時点で、まだ2時間強時間が余っている。
今日行くところは初めての場所だ。
俺はスムーズに君をエスコートできるよう、下見に出掛ける。
非モテコミットもいいところである。
そうわかっていながらも、俺は君のために努力を惜しみたくなかった。
そして、約束の時間がやってくる。
車はあらかじめ近くの臨時駐車場に停めておき、また、まだ5月だがこの日は少し暑かったので、クーラーをつけておいた。
準備は万端だ。
俺は15分前にはロビーで待っていた。
そして17時。まだ君は来ていない。
俺のためにしっかりと準備してくれているのだろう。
なんて、我ながらポジティブなことを考えていた。
この時点では、さっきまでのナーバスな感情は消えており、ただ君に会える喜びだけが増幅していた。
17時4分、パタパタと足音が聞こえる。
「おまたせーっ!」
君がやってきた。
なんてかわいいんだ。
一瞬、思わず見とれてしまっていたが、すぐに切り替える。
「いやー、めっちゃ待ったわ。」
こんなことも言えるくらい、今の俺は余裕に満ちていた。
君と目を合わせ、2人でほほ笑む。
俺と君との、第2章が始まった。
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