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猿が逃げたのは、
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7月18日日没後
「あれは、渋を飛ばすのじゃ」
「は?」
松姫ちゃんは苦いモノを噛み潰したみたいな顔で「渋じゃ」ともう一度言った。
今日の昼間、裏の畑で猿の大群が好き放題やっていたこと、僕には何もできなかったこと、秋香さんが助けてくれたとをご主人様に報告していた。
秋香さんを話題にすると機嫌が悪くなる姫様は、三枚重ねの座布団の上でふくれている。やっぱり松姫ちゃんに彼女の霊力について訊かなきゃよかった。
「我が守るはずだったのに、申し訳ないでござる」
「清は悪うない。猿ごときに怯え、女子に助けられる大希が情けないのじゃ!」
ピシャッと言い切られ、清蟹くんも小さく肩を落とした。
清蟹くんモデルの絵本を描くために取材しようかと思っていたけど、諦めた方がいいかな。僕は用意していた筆記用具をそっと座卓の下に隠した。
今夜は一晩中お説教になりそうだし。
猿軍団が撤退した後、僕の口を塞いでいた秋香さんの袖は離れた。目を開けようとすると「二十数えて目を開けてくださいませ」と言われた。
その通りにしていたら、彼女の姿は消えていた。
煙に気づき駆けつけた清蟹くんと天狗に何事かと問い詰められたけど、何も見ていないから答えられなかった。猿を撃退したのは秋香さんだと言うと、天狗に何かを察したように頷いた。
「秋香さんにお礼を言いたいけど、どこか行っちゃってさ」
そう言った僕に天狗は意味深に笑った。
「そっとしておいてあげましょう。霊力を使ったあとは特に・・・女性ですから」
「それ、どういう意味?」
「女心は複雑なのですよ、大希くん」
天狗はキラキラの笑顔で僕の肩をガッチリ掴み、前髪がかかるくらい顔を寄せてきた。
「それより、私を罰してください。お守りすると約束したのに、キミを危険にさらしたことへのお仕置きをしてください。二人きりで、ね?」
「絶対ヤダ!」
「あぁ、もう!そういう素直になれなくて意地悪を言うところが本当に久ちゃんそっくりですね。可愛い」
「ウザい。離れてよ」
天狗がグイグイおでこを押しつけてくる様子を見ていた清蟹くんが、自分もしてほしいと飛び跳ねている。
こういう絡みって、教育上良くないんじゃない?あ、でも清蟹くんは大人か?
とりあえず、ペナルティを欲しがるMっ気のありそうな天狗には、3日間山から下りて来るなという罰を与えた。取り消しは無し。
「大希くんの馬鹿!私が恋しくて泣いても知りませんよ!」
「しつこいとマジで嫌いになるよ?」
ちらちらこっちをふり返りながら飛んでいく天狗を見送って、清蟹くんと残りの作業を片づけた。家に入って横になりウトウトしていると、あっという間に日が落ちていた。
「だから、あの女は渋柿の精霊である故、渋い霧を発して相手を苦しめるのじゃ。えげつないぞ。あの渋をまともに食らえば、喉がひりつき涙が止まらぬそうじゃ」
「うぐっ!」
清蟹くんが想像したようで嘔吐いている。
「そんな不愉快な話はもうよい!それより、その下へ隠したモノは何じゃ?見せてみい」
「あ、気づいてた?」
座卓の下に突っ込んだ筆記用具を取り出した。
「実は、この前聞いた清蟹くんの昔話を絵本にしようかなって思ってね、ちょっと取材を・・・」
「おぉ!清の伝説を草紙にすると申すか。面白きことを考えたな!」
松姫ちゃんの表情がパッと華やいだ。清蟹くんも目を輝かせている。
良かった。二人のいやな気分が消えて。
「では改めて、清蟹権現様。よろしくお願いします」
「な、なんなりと」
僕は座布団にちょこんと座る小さい神様に頭を下げた。
「あれは、渋を飛ばすのじゃ」
「は?」
松姫ちゃんは苦いモノを噛み潰したみたいな顔で「渋じゃ」ともう一度言った。
今日の昼間、裏の畑で猿の大群が好き放題やっていたこと、僕には何もできなかったこと、秋香さんが助けてくれたとをご主人様に報告していた。
秋香さんを話題にすると機嫌が悪くなる姫様は、三枚重ねの座布団の上でふくれている。やっぱり松姫ちゃんに彼女の霊力について訊かなきゃよかった。
「我が守るはずだったのに、申し訳ないでござる」
「清は悪うない。猿ごときに怯え、女子に助けられる大希が情けないのじゃ!」
ピシャッと言い切られ、清蟹くんも小さく肩を落とした。
清蟹くんモデルの絵本を描くために取材しようかと思っていたけど、諦めた方がいいかな。僕は用意していた筆記用具をそっと座卓の下に隠した。
今夜は一晩中お説教になりそうだし。
猿軍団が撤退した後、僕の口を塞いでいた秋香さんの袖は離れた。目を開けようとすると「二十数えて目を開けてくださいませ」と言われた。
その通りにしていたら、彼女の姿は消えていた。
煙に気づき駆けつけた清蟹くんと天狗に何事かと問い詰められたけど、何も見ていないから答えられなかった。猿を撃退したのは秋香さんだと言うと、天狗に何かを察したように頷いた。
「秋香さんにお礼を言いたいけど、どこか行っちゃってさ」
そう言った僕に天狗は意味深に笑った。
「そっとしておいてあげましょう。霊力を使ったあとは特に・・・女性ですから」
「それ、どういう意味?」
「女心は複雑なのですよ、大希くん」
天狗はキラキラの笑顔で僕の肩をガッチリ掴み、前髪がかかるくらい顔を寄せてきた。
「それより、私を罰してください。お守りすると約束したのに、キミを危険にさらしたことへのお仕置きをしてください。二人きりで、ね?」
「絶対ヤダ!」
「あぁ、もう!そういう素直になれなくて意地悪を言うところが本当に久ちゃんそっくりですね。可愛い」
「ウザい。離れてよ」
天狗がグイグイおでこを押しつけてくる様子を見ていた清蟹くんが、自分もしてほしいと飛び跳ねている。
こういう絡みって、教育上良くないんじゃない?あ、でも清蟹くんは大人か?
とりあえず、ペナルティを欲しがるMっ気のありそうな天狗には、3日間山から下りて来るなという罰を与えた。取り消しは無し。
「大希くんの馬鹿!私が恋しくて泣いても知りませんよ!」
「しつこいとマジで嫌いになるよ?」
ちらちらこっちをふり返りながら飛んでいく天狗を見送って、清蟹くんと残りの作業を片づけた。家に入って横になりウトウトしていると、あっという間に日が落ちていた。
「だから、あの女は渋柿の精霊である故、渋い霧を発して相手を苦しめるのじゃ。えげつないぞ。あの渋をまともに食らえば、喉がひりつき涙が止まらぬそうじゃ」
「うぐっ!」
清蟹くんが想像したようで嘔吐いている。
「そんな不愉快な話はもうよい!それより、その下へ隠したモノは何じゃ?見せてみい」
「あ、気づいてた?」
座卓の下に突っ込んだ筆記用具を取り出した。
「実は、この前聞いた清蟹くんの昔話を絵本にしようかなって思ってね、ちょっと取材を・・・」
「おぉ!清の伝説を草紙にすると申すか。面白きことを考えたな!」
松姫ちゃんの表情がパッと華やいだ。清蟹くんも目を輝かせている。
良かった。二人のいやな気分が消えて。
「では改めて、清蟹権現様。よろしくお願いします」
「な、なんなりと」
僕は座布団にちょこんと座る小さい神様に頭を下げた。
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