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獣の主
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日時不明・2
「だいじょうぶ、こわくない、こわくない・・・こわいこと、しない。やくそく、する」
毛皮を纏った大柄な何者かが、あやすように僕の頭を撫でている。
声の雰囲気では若い男らしい。仮面のせいで表情は分からないけど、低くおっとりした声色からは敵意を持っているようには思えなかった。
大猿も彼に従うように背後に控えておとなしくしている。
「貴方は、この山の物の怪なの?」
僕の問いかけに、仮面の頭がゆっくり頷いた。
「しょうじょう、もののけ。やまの、けものたちの、ぬし」
獣たちの主・・・しょうじょうって、もしかして妖怪の『猩々』のことかな?
「あれって、実在する妖怪だったんだ」
どんな姿の妖怪かは知らないけど、小さい頃、夜遅くまで出歩いていたら父さんに「猩々に攫われるぞ」って脅かされた思い出がある。あの頃は、ホラ吹き父さんの冗談だと思ってて本気にしてなかったけど、本当に存在する妖怪のことだったんだ。
全然怖い妖怪なんかじゃないじゃん。
猩々はおもむろに、大きな手で僕を抱え上げて自分の膝に乗せた。
「ち、ちょっと!僕、赤ちゃんじゃないんだから。やめてよ!」
「じめん、かたい。かたいは、いたい」
「でも、これはさすがに・・・」
大事に抱っこされていることが恥ずかしくて、毛皮の胸に腕を突っ張って抵抗した。その時、ふわっと獣の臭いが漂った。
あれ、この臭いって・・・
「ねぇ、もしかして、椚の森でバランス崩して谷川に落ちそうになった時、助けてくれたのって猩々?」
僕の腕力なんて屁でもないという感じで抱っこし続ける猩々は、こくりと頷いた。
「だいき、だいじ。しょうじょう、だいき、まもる。・・・あかちゃん、ちがっても、においで、わかる。しょうじょう、かわいいだいき、まもる」
やっぱりそうなんだ。この妖怪も僕を守ってくれたんだ。みんな、マジで過保護すぎ・・・
「って、え!?赤ちゃんって言った?」
「いった」
「猩々は赤ちゃんの僕を知ってるの?」
「しってる」
大きな体を揺らして「かわいい、かわいい、した」と楽しげな声で答えた。
僕の赤ちゃんの頃の話は誰もしてくれない。何か騒動に巻き込まれたことは分かっているけど、そのことについて教えてくれることはなかった。
もしかしたら、猩々なら何か話してくれるかもしれない。僕は毛皮に埋もれた仮面を見上げ、騒動について訊こうとした。
その瞬間。
「でも、しょうじょう、おこられた。みんな、だいき、ちかづくな、いった。・・・しょうじょうを、みんな、だいきらい、いった」
「え?」
しょんぼりと仮面を伏せて背を丸めた大きな妖怪は、膝に抱いた僕を床に敷かれた毛皮の上に下ろして、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「みんなと、やくそくした、けど、もういっかい、だいき、あいたかった。とおくから、みるだけ、それで、いいから」
「ちょっと、何それ?どういうことなの?なんで謝るの?」
「しょうじょう、だいき、すき。ひさし、すき。あきお、すき。でも、みんな、しょうじょう、きらい。だいきらい。だいきらい・・・」
「??」
地面に丸まった毛皮の塊は、泣いているようにふるふる震えている。
祖父ちゃんや父さんが、この土地の妖怪を嫌う?嘘でしょ?祖父ちゃんはともかく、子供の頃から妖怪が遊び相手だった父さんが、そんなひどいこと言うとは思えない。
「猩々、泣かないで」
ふかふかの毛皮に腕を回して、今度は僕が彼が落ち着くまで撫で続けた。
「だいじょうぶ、こわくない、こわくない・・・こわいこと、しない。やくそく、する」
毛皮を纏った大柄な何者かが、あやすように僕の頭を撫でている。
声の雰囲気では若い男らしい。仮面のせいで表情は分からないけど、低くおっとりした声色からは敵意を持っているようには思えなかった。
大猿も彼に従うように背後に控えておとなしくしている。
「貴方は、この山の物の怪なの?」
僕の問いかけに、仮面の頭がゆっくり頷いた。
「しょうじょう、もののけ。やまの、けものたちの、ぬし」
獣たちの主・・・しょうじょうって、もしかして妖怪の『猩々』のことかな?
「あれって、実在する妖怪だったんだ」
どんな姿の妖怪かは知らないけど、小さい頃、夜遅くまで出歩いていたら父さんに「猩々に攫われるぞ」って脅かされた思い出がある。あの頃は、ホラ吹き父さんの冗談だと思ってて本気にしてなかったけど、本当に存在する妖怪のことだったんだ。
全然怖い妖怪なんかじゃないじゃん。
猩々はおもむろに、大きな手で僕を抱え上げて自分の膝に乗せた。
「ち、ちょっと!僕、赤ちゃんじゃないんだから。やめてよ!」
「じめん、かたい。かたいは、いたい」
「でも、これはさすがに・・・」
大事に抱っこされていることが恥ずかしくて、毛皮の胸に腕を突っ張って抵抗した。その時、ふわっと獣の臭いが漂った。
あれ、この臭いって・・・
「ねぇ、もしかして、椚の森でバランス崩して谷川に落ちそうになった時、助けてくれたのって猩々?」
僕の腕力なんて屁でもないという感じで抱っこし続ける猩々は、こくりと頷いた。
「だいき、だいじ。しょうじょう、だいき、まもる。・・・あかちゃん、ちがっても、においで、わかる。しょうじょう、かわいいだいき、まもる」
やっぱりそうなんだ。この妖怪も僕を守ってくれたんだ。みんな、マジで過保護すぎ・・・
「って、え!?赤ちゃんって言った?」
「いった」
「猩々は赤ちゃんの僕を知ってるの?」
「しってる」
大きな体を揺らして「かわいい、かわいい、した」と楽しげな声で答えた。
僕の赤ちゃんの頃の話は誰もしてくれない。何か騒動に巻き込まれたことは分かっているけど、そのことについて教えてくれることはなかった。
もしかしたら、猩々なら何か話してくれるかもしれない。僕は毛皮に埋もれた仮面を見上げ、騒動について訊こうとした。
その瞬間。
「でも、しょうじょう、おこられた。みんな、だいき、ちかづくな、いった。・・・しょうじょうを、みんな、だいきらい、いった」
「え?」
しょんぼりと仮面を伏せて背を丸めた大きな妖怪は、膝に抱いた僕を床に敷かれた毛皮の上に下ろして、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「みんなと、やくそくした、けど、もういっかい、だいき、あいたかった。とおくから、みるだけ、それで、いいから」
「ちょっと、何それ?どういうことなの?なんで謝るの?」
「しょうじょう、だいき、すき。ひさし、すき。あきお、すき。でも、みんな、しょうじょう、きらい。だいきらい。だいきらい・・・」
「??」
地面に丸まった毛皮の塊は、泣いているようにふるふる震えている。
祖父ちゃんや父さんが、この土地の妖怪を嫌う?嘘でしょ?祖父ちゃんはともかく、子供の頃から妖怪が遊び相手だった父さんが、そんなひどいこと言うとは思えない。
「猩々、泣かないで」
ふかふかの毛皮に腕を回して、今度は僕が彼が落ち着くまで撫で続けた。
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