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たった一人の味方
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日時不明・3
猩々はとても無垢でおとなしい妖怪だった。
大柄で荒々しい姿や仮面のせいで表情は読み取れないけど、傷つけまいと気遣う指や低くゆっくりした声色でその内面が充分伝わってくる。
彼を集落から遠ざけようとする祖父ちゃんや父さんには共感できないよ。こんな暗い洞窟に隠れるように棲んでいるなんてかわいそうだよ。
僕ら家族を好きだというのに、獣相手に一人寂しく・・・
他の神様や妖怪みたいに、自由に遊びに来てくれたらいいのに。
「そっか。僕が仲を取り持ってあげればいいんだ」
そうだよ、僕が祖父ちゃんたちに猩々は危険な妖怪じゃないって納得させられたらいいんだよ。清蟹くんみたいに、しがらみなんて気にしないで思うままにしていいじゃん。
僕があれこれ考えていると、ずっと丸まっていた猩々が「あきお」と祖父ちゃんの名前を口にした。
「あきお、あし、なおった?くるしい、いたい、なくなった?」
猩々は、毛皮に埋もれた仮面をちょっとだけ覗かせて訊いてきた。泣いていたから、少しだけ声が上ずっている。
「祖父ちゃんが怪我したこと知ってるんだ?」
「しってる。でも、あきお、いない」
「今ね、市街の病院に入院してて家にはいないけど、脱走してくるくらい元気だから大丈夫だよ」
「よかった」
そう言って、猩々はまた丸まった。
ん?そう言えば、祖父ちゃんの怪我の原因って、猿を追っかけて土手を滑落したって言ってなかったっけ?猿って、猩々が連れてる猿たち?いつも祖父ちゃんの田畑を荒らして被害を与えてる猿の集団って、まさか猩々が仕向けているんじゃないよね?
「そう言えば、天狗が大猿に・・・」
枝豆畑を荒らしていた猿の集団に「山に帰って主人に伝えろ」って怒鳴っていた。その主人って、猩々のことだよね?自分で獣の主って言ってたし、人違いじゃないよね。
確かあの時、天狗は僕に手を出すなって言っていたっけ。
優しく穏和な猩々と、集落を荒らして厄介者の猩々・・・
どっちが本当なんだろう?
「そんなの、調べようがないじゃん」
僕の側でじっと丸まっている大きな猩々の背中を撫でた。くすぐったいのか、ピクンっと動いて仮面がこっちを向いた。
「せなか、かゆくない。わしわし、いらない」
「あれ?もしかして、くすぐったいんじゃない?どこ?この辺が弱いの?ねぇ」
「だ、だめ!さわらない、やっ、やめて」
「やだ!」
毛皮をバサバサ揺らして、猩々は身をよじって逃げた。
分厚い毛皮を巻き付けた内側の筋肉質な体は、以外にもかなり敏感みたいだ。特に腰と脇腹が。そのギャップが面白くて、逃げ回る彼に馬乗りになってくすぐりまくった。
ほら、怖くないじゃん。
見た目はデカくてヤバそうけど、スゴく可愛い妖怪じゃん。
「だいき、やめて!しょうじょう、か、からだ、きゅって、なる。しょうじょう、へん、だから」
「くすぐられたことないんだね。猿にはこんなことされないでしょ?全然変じゃないよ。力を抜いて笑えばいいんだよ」
さっきまでしょんぼり身を縮めていた猩々は仰向けになって転がって、仮面の向こうから笑い声が漏れてきた。その声は徐々に大きくなっていって、洞窟内にガンガン響いた。
よかった、やっと笑ってくれた。
「だいき、しょうじょう、きらい?うひひっ、わしわし、ひぃ、やめて!」
「嫌いなわけないよ。猩々は何度も僕を助けてくれてるし、大好きだよ」
「すき?」
「うん」
気を許している相手に体を触られるとくすぐったく感じるって、何かで読んだことがある。それがホントなら、猩々は僕が好きだと言うことになるよね。
「決めたよ。僕が味方になってあげる。みんなが猩々をどう思おうと、僕だけは絶対嫌ったりしないよ」
この妖怪が人の嫌がるようなことをするとは思えないよ。もしそうだったとしても、きっと何かワケがあると思う。
笑い疲れてぐったりした大きな背中に抱きついて、ふかふかの毛皮に頬を乗せた。回した腕にぎゅっと力を込めて、今の決意を心の中で誓った。
その時にふわっと漂う獣の臭いと一緒に、日向の香りがして胸が温かくなった。
猩々はとても無垢でおとなしい妖怪だった。
大柄で荒々しい姿や仮面のせいで表情は読み取れないけど、傷つけまいと気遣う指や低くゆっくりした声色でその内面が充分伝わってくる。
彼を集落から遠ざけようとする祖父ちゃんや父さんには共感できないよ。こんな暗い洞窟に隠れるように棲んでいるなんてかわいそうだよ。
僕ら家族を好きだというのに、獣相手に一人寂しく・・・
他の神様や妖怪みたいに、自由に遊びに来てくれたらいいのに。
「そっか。僕が仲を取り持ってあげればいいんだ」
そうだよ、僕が祖父ちゃんたちに猩々は危険な妖怪じゃないって納得させられたらいいんだよ。清蟹くんみたいに、しがらみなんて気にしないで思うままにしていいじゃん。
僕があれこれ考えていると、ずっと丸まっていた猩々が「あきお」と祖父ちゃんの名前を口にした。
「あきお、あし、なおった?くるしい、いたい、なくなった?」
猩々は、毛皮に埋もれた仮面をちょっとだけ覗かせて訊いてきた。泣いていたから、少しだけ声が上ずっている。
「祖父ちゃんが怪我したこと知ってるんだ?」
「しってる。でも、あきお、いない」
「今ね、市街の病院に入院してて家にはいないけど、脱走してくるくらい元気だから大丈夫だよ」
「よかった」
そう言って、猩々はまた丸まった。
ん?そう言えば、祖父ちゃんの怪我の原因って、猿を追っかけて土手を滑落したって言ってなかったっけ?猿って、猩々が連れてる猿たち?いつも祖父ちゃんの田畑を荒らして被害を与えてる猿の集団って、まさか猩々が仕向けているんじゃないよね?
「そう言えば、天狗が大猿に・・・」
枝豆畑を荒らしていた猿の集団に「山に帰って主人に伝えろ」って怒鳴っていた。その主人って、猩々のことだよね?自分で獣の主って言ってたし、人違いじゃないよね。
確かあの時、天狗は僕に手を出すなって言っていたっけ。
優しく穏和な猩々と、集落を荒らして厄介者の猩々・・・
どっちが本当なんだろう?
「そんなの、調べようがないじゃん」
僕の側でじっと丸まっている大きな猩々の背中を撫でた。くすぐったいのか、ピクンっと動いて仮面がこっちを向いた。
「せなか、かゆくない。わしわし、いらない」
「あれ?もしかして、くすぐったいんじゃない?どこ?この辺が弱いの?ねぇ」
「だ、だめ!さわらない、やっ、やめて」
「やだ!」
毛皮をバサバサ揺らして、猩々は身をよじって逃げた。
分厚い毛皮を巻き付けた内側の筋肉質な体は、以外にもかなり敏感みたいだ。特に腰と脇腹が。そのギャップが面白くて、逃げ回る彼に馬乗りになってくすぐりまくった。
ほら、怖くないじゃん。
見た目はデカくてヤバそうけど、スゴく可愛い妖怪じゃん。
「だいき、やめて!しょうじょう、か、からだ、きゅって、なる。しょうじょう、へん、だから」
「くすぐられたことないんだね。猿にはこんなことされないでしょ?全然変じゃないよ。力を抜いて笑えばいいんだよ」
さっきまでしょんぼり身を縮めていた猩々は仰向けになって転がって、仮面の向こうから笑い声が漏れてきた。その声は徐々に大きくなっていって、洞窟内にガンガン響いた。
よかった、やっと笑ってくれた。
「だいき、しょうじょう、きらい?うひひっ、わしわし、ひぃ、やめて!」
「嫌いなわけないよ。猩々は何度も僕を助けてくれてるし、大好きだよ」
「すき?」
「うん」
気を許している相手に体を触られるとくすぐったく感じるって、何かで読んだことがある。それがホントなら、猩々は僕が好きだと言うことになるよね。
「決めたよ。僕が味方になってあげる。みんなが猩々をどう思おうと、僕だけは絶対嫌ったりしないよ」
この妖怪が人の嫌がるようなことをするとは思えないよ。もしそうだったとしても、きっと何かワケがあると思う。
笑い疲れてぐったりした大きな背中に抱きついて、ふかふかの毛皮に頬を乗せた。回した腕にぎゅっと力を込めて、今の決意を心の中で誓った。
その時にふわっと漂う獣の臭いと一緒に、日向の香りがして胸が温かくなった。
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