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陽だまりの中で
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「俺、ちょっと麓のコンビニまで煙草買いに行ってくるから、オヤジに言っといてくれよ」
玄関先の敷石の上で日向ぼっこをしている茜は「サボりでしょ?」と顔を上げた。
「違う。ヤニ切れだ」
まん丸の目を細めて疑う茜に、クロは煙草を吹かす仕草をして弁解した。
今日はシロから、荒れ放題になっている中庭の草刈りを言いつけられていて、しぶといススキと格闘し続けた疲労を回復しようと、パンツのポケットから取り出した煙草の箱は空だった。
買い置きもすでに吸い切ってしまっていたし、茜に頼んで馴染みの雑貨屋に発注してもらい、着荷するまで禁煙する気も毛頭ない。
「吸えねぇと、あん時みてぇに荒れるぞ?」
クロは茜が寝そべっている敷石のそばに座った。
この研究所にたどり着いたクロは、最初の数日、一言もしゃべろうとしなかった。
あれこれ世話を焼いてくれる白貂が人語を話すことは驚く様子はなかったが、何かに腹を立てているように、常に乱暴で荒っぽく、態度が落ち着くことはなかった。かえって、日増しに苛立ちが募っていくようにも見える。
面倒見のいい茜もさすがに困って、シロにその状況を相談した。
シロは少し考えた後、「煙草を与えてみては?」と、先任の助手が置いていった煙草を差し出した。それを手慣れた仕草で一服したクロは、ようやくリラックスできたようだった。
「アンタがヘビースモーカーで、ニコチンの禁断症状で機嫌が悪いだなんて、喫煙経験のないアタシが判るわけないじゃない。禁煙のイライラした状態は思い出せないのに、吸い方だけは体が覚えているだなんてね」
「あれは悪かったと思ってるよ、マジで」
そう言って、ツンっと鼻を反らせている白貂の頭を撫でた。
「記憶がなくなっても、禁煙はできないものなのね」
彼女の嫌味に「まったくだ」と苦笑いした。
シロに拾われる前の自分はどんな暮らしをしていたのか、想像もできない。けれど、愛煙家だったことは確かだ。
煙草を吸い続けていれば、何かの拍子に記憶が戻るかもしれない。だから、ニコチンを欲する衝動には素直に応じたい。
「吸い始めたきっかけは分からないけど、なんとなく安らぐんだよ。あぁ~好きだな、この味、この匂い。懐かしいなってかんじで・・・上手く言えねぇけどさ。変かな?」
「何よ、懐かしい感じって。そんなの、ただのニコチンを吸収した身体の反応じゃないの」
「ははっ。間違っちゃいねぇよ、それも」
クロは参ったというふうに頭を掻くと「30分くらいで戻ってくる」と言いながら、キィキィ軋む錆びた自転車に乗って手を振った。
「そのまま日が落ちるまで帰って来なかったりして」
木々の間の砂利道を走り、小さくなっていくクロの背中を見送った茜は、白い毛を日差しに輝かせ小さく伸びをした後、昼寝を続けた。
しおりを挟む 玄関先の敷石の上で日向ぼっこをしている茜は「サボりでしょ?」と顔を上げた。
「違う。ヤニ切れだ」
まん丸の目を細めて疑う茜に、クロは煙草を吹かす仕草をして弁解した。
今日はシロから、荒れ放題になっている中庭の草刈りを言いつけられていて、しぶといススキと格闘し続けた疲労を回復しようと、パンツのポケットから取り出した煙草の箱は空だった。
買い置きもすでに吸い切ってしまっていたし、茜に頼んで馴染みの雑貨屋に発注してもらい、着荷するまで禁煙する気も毛頭ない。
「吸えねぇと、あん時みてぇに荒れるぞ?」
クロは茜が寝そべっている敷石のそばに座った。
この研究所にたどり着いたクロは、最初の数日、一言もしゃべろうとしなかった。
あれこれ世話を焼いてくれる白貂が人語を話すことは驚く様子はなかったが、何かに腹を立てているように、常に乱暴で荒っぽく、態度が落ち着くことはなかった。かえって、日増しに苛立ちが募っていくようにも見える。
面倒見のいい茜もさすがに困って、シロにその状況を相談した。
シロは少し考えた後、「煙草を与えてみては?」と、先任の助手が置いていった煙草を差し出した。それを手慣れた仕草で一服したクロは、ようやくリラックスできたようだった。
「アンタがヘビースモーカーで、ニコチンの禁断症状で機嫌が悪いだなんて、喫煙経験のないアタシが判るわけないじゃない。禁煙のイライラした状態は思い出せないのに、吸い方だけは体が覚えているだなんてね」
「あれは悪かったと思ってるよ、マジで」
そう言って、ツンっと鼻を反らせている白貂の頭を撫でた。
「記憶がなくなっても、禁煙はできないものなのね」
彼女の嫌味に「まったくだ」と苦笑いした。
シロに拾われる前の自分はどんな暮らしをしていたのか、想像もできない。けれど、愛煙家だったことは確かだ。
煙草を吸い続けていれば、何かの拍子に記憶が戻るかもしれない。だから、ニコチンを欲する衝動には素直に応じたい。
「吸い始めたきっかけは分からないけど、なんとなく安らぐんだよ。あぁ~好きだな、この味、この匂い。懐かしいなってかんじで・・・上手く言えねぇけどさ。変かな?」
「何よ、懐かしい感じって。そんなの、ただのニコチンを吸収した身体の反応じゃないの」
「ははっ。間違っちゃいねぇよ、それも」
クロは参ったというふうに頭を掻くと「30分くらいで戻ってくる」と言いながら、キィキィ軋む錆びた自転車に乗って手を振った。
「そのまま日が落ちるまで帰って来なかったりして」
木々の間の砂利道を走り、小さくなっていくクロの背中を見送った茜は、白い毛を日差しに輝かせ小さく伸びをした後、昼寝を続けた。
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