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刃持つ男・三
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雲が流れてきて、陽が陰る。
ヒューっと北風が吹きぬけて行った。
「おら~!!」
振り下ろされた金属バットを無抵抗で受け止めた。
堅は歯を食いしばり、身じろぎもせず堪えている。多勢に無勢、このまま反撃せずにいれば命を落としてもおかしくない。
あぁ、それもいいだろう。その方が、皆の安全のためには・・・
「てめぇら、汚ぇぞ!」
騒ぎに気付いたクロが駆けつけた。
「大谷!しっかりしろ。お前らも落ち着けって!」
堅と男たちとを仲裁しようとするが、男たちは一向に暴行の手を緩めようとしない。むしろ、飛び込んできたクロを堅の仲間だと認識し、同様に攻撃を始めたのだった。
対象者・大谷堅は、傷害事件を起こし実刑の判決を受け服役していた。再審の請求もせず、素直に判決を受け入れた堅の出所を、この男たちは待ち構えていたのだ。
事件は堅だけが一方的な加害者となっているが、発端は、この男たちが幼児に暴行したことだった。
数年前、男たちは自分たちのバイクを不注意でひっくり返してしまった男児に絡み、面白半分でいたぶり始めた。男児の保護者は付近におらず、周囲に止める者もいない。大人の男たちに囲まれ、逃げることもできず泣き叫んでいた。
その声に男たちは興奮し、さらに虐待はエスカレートしていった。
腕を引き上げ、逆さ吊りにされ、腹を叩かれ、頭を揺さぶられた。
身もだえる男児は恐怖と痛みで嘔吐してしまい、それが靴にかかったと一人が激昂し、本気で男児を蹴り上げようとした。
その時だ。
長身の男の拳が、男児を蹴り上げようとした男の鼻っ面を吹き飛ばした。
男たちは一瞬たじろいだが、突然現れ仲間を殴りつけた部外者へ怒りが一気に集中した。助けに入った堅は、向かってくる男たちを次々となぎ倒し、ぶん投げ、立ち上がれないほどに負傷させた。
「このやろう!」
アーミーナイフを構えて突進する男に気づき、堅は自身の拳だけで応戦した。
男は殺意を持って堅の腹にナイフを突き立てた。しかし、肉体に食い込む感覚がない。おそるおそる手を引くと、その切っ先は欠けていた。堅の破れた服の下の皮膚に血痕はない。
頼みの綱だった凶器が役に立たないと分かった男は、半泣きになりながら逃げだした。
「化け物!」
その言葉、何度言われたことか。
堅は逃げ出した男を捕まえ、さらに激しく拳を打ち続けた。失神した後も、その制裁は終わらない。救った男児が彼に怯えて逃げていった後も、硬く熱い血潮を納めることができなかった。
〈山嵐〉と例えられた堅の能力は、どういものなのか詳細は不明だが、シロの仮説では、自らの肉体を硬質な武器に変えて戦うものではないかという。その証拠に、彼は無傷だった。
堅にナイフを向けた男が負傷の度合いが一番深刻で、脊椎を損傷してしまっていた。治療の甲斐なく、一生起き上がれない身体となってしまったそうだ。
その事実を知り衝撃を受けた堅は、事件の詳細を語ることも弁解することなく、刑に服した。
こんな危険な自分など、一生、閉じ込められていればいいと。
バリ!
乾いた破裂音と共に、堅を殴っていた金属バットが吹っ飛んだ。
それに続き、ゴルフクラブや角材など、凶器が切り裂かれる音が響いた。
「き、君・・・?」
顔を上げた堅の目の前に、両腕を刀のように振るい、生み出された疾風を飛ばして相手に立ち向かっていくクロの姿があった。
小さな体のどこにそんな力があったのか、俊敏かつ無駄のない身のこなしで、的確に武器だけを破壊していく。丸腰になってもなお反撃してくる相手にも、目にも止まらぬ速さで、急所を突き、最小限のダメージで失神させてた。
その行動はまるで、訓練を受けた戦士のようだった。
「こっちへ、早く!」
茜に促され、路地へ身を隠した。
そのわずかな間に、クロは一人また一人と、堅を襲った男たちを倒していった。
「アナタは自分が怖いのでしょう?能力に飲まれてしまう自分が。でも、アナタだけじゃないのよ。自分の能力を怖れ、悩み、傷つく人は」
「自分だけじゃない・・・」
堅の肩に乗って息を潜めて話す茜の言葉に、思わず涙が溢れた。
幼い頃からの胸のつかえがとれたようだ。化け物と呼ばれ、死別した両親以外、誰も自分のことを理解してくれないと諦めていた心に、小さな火が灯った。
ひとりではなかった。
この世界には、自分を受け入れてくれる人もいるのだと知り、心が震えた・・・
「ありがとう・・・ございます」
雲に隠れていた太陽から眩しい光が差してきた。その日差しに照らされながら、息も乱さず凛とした眼差しで風の刃を操る小さな男を、濡れた瞳でいつまでも見つめていた。
しおりを挟む ヒューっと北風が吹きぬけて行った。
「おら~!!」
振り下ろされた金属バットを無抵抗で受け止めた。
堅は歯を食いしばり、身じろぎもせず堪えている。多勢に無勢、このまま反撃せずにいれば命を落としてもおかしくない。
あぁ、それもいいだろう。その方が、皆の安全のためには・・・
「てめぇら、汚ぇぞ!」
騒ぎに気付いたクロが駆けつけた。
「大谷!しっかりしろ。お前らも落ち着けって!」
堅と男たちとを仲裁しようとするが、男たちは一向に暴行の手を緩めようとしない。むしろ、飛び込んできたクロを堅の仲間だと認識し、同様に攻撃を始めたのだった。
対象者・大谷堅は、傷害事件を起こし実刑の判決を受け服役していた。再審の請求もせず、素直に判決を受け入れた堅の出所を、この男たちは待ち構えていたのだ。
事件は堅だけが一方的な加害者となっているが、発端は、この男たちが幼児に暴行したことだった。
数年前、男たちは自分たちのバイクを不注意でひっくり返してしまった男児に絡み、面白半分でいたぶり始めた。男児の保護者は付近におらず、周囲に止める者もいない。大人の男たちに囲まれ、逃げることもできず泣き叫んでいた。
その声に男たちは興奮し、さらに虐待はエスカレートしていった。
腕を引き上げ、逆さ吊りにされ、腹を叩かれ、頭を揺さぶられた。
身もだえる男児は恐怖と痛みで嘔吐してしまい、それが靴にかかったと一人が激昂し、本気で男児を蹴り上げようとした。
その時だ。
長身の男の拳が、男児を蹴り上げようとした男の鼻っ面を吹き飛ばした。
男たちは一瞬たじろいだが、突然現れ仲間を殴りつけた部外者へ怒りが一気に集中した。助けに入った堅は、向かってくる男たちを次々となぎ倒し、ぶん投げ、立ち上がれないほどに負傷させた。
「このやろう!」
アーミーナイフを構えて突進する男に気づき、堅は自身の拳だけで応戦した。
男は殺意を持って堅の腹にナイフを突き立てた。しかし、肉体に食い込む感覚がない。おそるおそる手を引くと、その切っ先は欠けていた。堅の破れた服の下の皮膚に血痕はない。
頼みの綱だった凶器が役に立たないと分かった男は、半泣きになりながら逃げだした。
「化け物!」
その言葉、何度言われたことか。
堅は逃げ出した男を捕まえ、さらに激しく拳を打ち続けた。失神した後も、その制裁は終わらない。救った男児が彼に怯えて逃げていった後も、硬く熱い血潮を納めることができなかった。
〈山嵐〉と例えられた堅の能力は、どういものなのか詳細は不明だが、シロの仮説では、自らの肉体を硬質な武器に変えて戦うものではないかという。その証拠に、彼は無傷だった。
堅にナイフを向けた男が負傷の度合いが一番深刻で、脊椎を損傷してしまっていた。治療の甲斐なく、一生起き上がれない身体となってしまったそうだ。
その事実を知り衝撃を受けた堅は、事件の詳細を語ることも弁解することなく、刑に服した。
こんな危険な自分など、一生、閉じ込められていればいいと。
バリ!
乾いた破裂音と共に、堅を殴っていた金属バットが吹っ飛んだ。
それに続き、ゴルフクラブや角材など、凶器が切り裂かれる音が響いた。
「き、君・・・?」
顔を上げた堅の目の前に、両腕を刀のように振るい、生み出された疾風を飛ばして相手に立ち向かっていくクロの姿があった。
小さな体のどこにそんな力があったのか、俊敏かつ無駄のない身のこなしで、的確に武器だけを破壊していく。丸腰になってもなお反撃してくる相手にも、目にも止まらぬ速さで、急所を突き、最小限のダメージで失神させてた。
その行動はまるで、訓練を受けた戦士のようだった。
「こっちへ、早く!」
茜に促され、路地へ身を隠した。
そのわずかな間に、クロは一人また一人と、堅を襲った男たちを倒していった。
「アナタは自分が怖いのでしょう?能力に飲まれてしまう自分が。でも、アナタだけじゃないのよ。自分の能力を怖れ、悩み、傷つく人は」
「自分だけじゃない・・・」
堅の肩に乗って息を潜めて話す茜の言葉に、思わず涙が溢れた。
幼い頃からの胸のつかえがとれたようだ。化け物と呼ばれ、死別した両親以外、誰も自分のことを理解してくれないと諦めていた心に、小さな火が灯った。
ひとりではなかった。
この世界には、自分を受け入れてくれる人もいるのだと知り、心が震えた・・・
「ありがとう・・・ございます」
雲に隠れていた太陽から眩しい光が差してきた。その日差しに照らされながら、息も乱さず凛とした眼差しで風の刃を操る小さな男を、濡れた瞳でいつまでも見つめていた。
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