1 / 7
1
しおりを挟む
とある都市の、春先の昼下がり。
私は、とうとう寝たままで呼吸も荒くなった祖母ハルエのいよいよを悟り、家族や近所の主治医に連絡をしていた。
「お母さん。お祖母ちゃん、もうダメみたい。帰ってこれる?」
そう、連絡を入れるも母はこの地域の大きな総合病院の看護師。
上手く連絡がついただけでも、奇跡なのは分かっていた。
「ごめんね、佳菜恵。母さん、仕事上がりまで今日は難しそう。父さんに連絡してみた?」
「お父さんは会議中で繋がらなかった……」
落胆の色を隠せないまま告げる私に、母は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、佳菜恵。なるべく急いで帰るから。お祖母ちゃん頼むわ」
無情に切れる電話の音に、私は悲しくても今はまだ動かなきゃいけなくて、目に浮かんだ涙を拭って祖母ちゃんの寝室へと戻った。
親に電話する前に、近所のかかりつけの医師を呼んでいた。
現在、寝室の介護用ベッドで横たわる祖母を診てもらっている。
「先生、祖母は……」
そう声をかけた私に、昔からお世話になってる平沢先生は厳しい顔をして頷いた。
「もう、そんなに持たないね。ハルエさんは、延命を望んでいなかったし……」
こうして寝込むようになる前は、まだまだ動いて庭仕事をしたりする元気な人だった。
85歳を目前にした頃、急にあれこれ忘れるようになった。
とうとう、ある日祖母は鍋を焦がしてぼや騒ぎになった。
おかしいとその件から確信して、祖母を連れて平沢先生に相談した。
そうして診察してもらった結果。
祖母はアルツハイマー型認知症と診断された。
ゆっくりゆっくりと、祖母は出来ることが少なくなり、それと共に身体も弱っていった。
そうして、段々と眠る時間が増えてきた冬から春を迎え、今日がやってきた。
生前、まだ元気だった頃の祖母の口癖があった。
「いよいよダメだとなったなら、自然と逝かせてちょうだいね。人間、自然に逝けるのが一番幸せなの。その時は、誰にでもやってくるのよ」
平沢先生も、そんな祖母の口癖をよく知っている。
そして、私も父も母もそんな祖母の意思を一番に考え、無理な延命治療は行わないと決めていた。
それでも、苦しそうな呼吸を聞けばなにかをしてあげたくなる。
見守っていたそんな時、フッと呼吸音が落ち着いた祖母を見れば目を開けている。
「佳菜恵。ありがとうね」
ニコッと微笑んだ祖母は、やつれて、細くなって、小さくなってしまった。
でも、最後の笑顔は昔のまんまだった。
奇跡のような一言を残して、その後十五分もせずに、祖母は私と先生が見守る中で旅立った。
私は、とうとう寝たままで呼吸も荒くなった祖母ハルエのいよいよを悟り、家族や近所の主治医に連絡をしていた。
「お母さん。お祖母ちゃん、もうダメみたい。帰ってこれる?」
そう、連絡を入れるも母はこの地域の大きな総合病院の看護師。
上手く連絡がついただけでも、奇跡なのは分かっていた。
「ごめんね、佳菜恵。母さん、仕事上がりまで今日は難しそう。父さんに連絡してみた?」
「お父さんは会議中で繋がらなかった……」
落胆の色を隠せないまま告げる私に、母は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、佳菜恵。なるべく急いで帰るから。お祖母ちゃん頼むわ」
無情に切れる電話の音に、私は悲しくても今はまだ動かなきゃいけなくて、目に浮かんだ涙を拭って祖母ちゃんの寝室へと戻った。
親に電話する前に、近所のかかりつけの医師を呼んでいた。
現在、寝室の介護用ベッドで横たわる祖母を診てもらっている。
「先生、祖母は……」
そう声をかけた私に、昔からお世話になってる平沢先生は厳しい顔をして頷いた。
「もう、そんなに持たないね。ハルエさんは、延命を望んでいなかったし……」
こうして寝込むようになる前は、まだまだ動いて庭仕事をしたりする元気な人だった。
85歳を目前にした頃、急にあれこれ忘れるようになった。
とうとう、ある日祖母は鍋を焦がしてぼや騒ぎになった。
おかしいとその件から確信して、祖母を連れて平沢先生に相談した。
そうして診察してもらった結果。
祖母はアルツハイマー型認知症と診断された。
ゆっくりゆっくりと、祖母は出来ることが少なくなり、それと共に身体も弱っていった。
そうして、段々と眠る時間が増えてきた冬から春を迎え、今日がやってきた。
生前、まだ元気だった頃の祖母の口癖があった。
「いよいよダメだとなったなら、自然と逝かせてちょうだいね。人間、自然に逝けるのが一番幸せなの。その時は、誰にでもやってくるのよ」
平沢先生も、そんな祖母の口癖をよく知っている。
そして、私も父も母もそんな祖母の意思を一番に考え、無理な延命治療は行わないと決めていた。
それでも、苦しそうな呼吸を聞けばなにかをしてあげたくなる。
見守っていたそんな時、フッと呼吸音が落ち着いた祖母を見れば目を開けている。
「佳菜恵。ありがとうね」
ニコッと微笑んだ祖母は、やつれて、細くなって、小さくなってしまった。
でも、最後の笑顔は昔のまんまだった。
奇跡のような一言を残して、その後十五分もせずに、祖母は私と先生が見守る中で旅立った。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の守護霊さん『ラクロス編』
Masa&G
キャラ文芸
本作は、本編『私の守護霊さん』の番外編です。
本編では描ききれなかった「ラクロス編」を、単独でも読める形でお届けします。番外編だけでも内容はわかりますが、本編を先に読んでいただくと、より物語に入り込みやすくなると思います。
「絶対にレギュラーを取って、東京代表に行きたい――」
そんな想いを胸に、宮司彩音は日々ラクロスの練習に明け暮れている。
同じポジションには、絶対的エースアタッカー・梶原真夏。埋まらない実力差に折れそうになる彩音のそばには、今日も無言の相棒・守護霊さんがいた。
守護霊さんの全力バックアップのもと、彩音の“レギュラー奪取&東京代表への挑戦”が始まる──。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
付喪神狩
やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。
容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。
自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる