デイサービス ふくふく ~あやかし招き猫付き~

織原深雪

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とある都市の、春先の昼下がり。
私は、とうとう寝たままで呼吸も荒くなった祖母ハルエのいよいよを悟り、家族や近所の主治医に連絡をしていた。

「お母さん。お祖母ちゃん、もうダメみたい。帰ってこれる?」

そう、連絡を入れるも母はこの地域の大きな総合病院の看護師。
上手く連絡がついただけでも、奇跡なのは分かっていた。

「ごめんね、佳菜恵。母さん、仕事上がりまで今日は難しそう。父さんに連絡してみた?」
「お父さんは会議中で繋がらなかった……」

落胆の色を隠せないまま告げる私に、母は申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、佳菜恵。なるべく急いで帰るから。お祖母ちゃん頼むわ」

無情に切れる電話の音に、私は悲しくても今はまだ動かなきゃいけなくて、目に浮かんだ涙を拭って祖母ちゃんの寝室へと戻った。

親に電話する前に、近所のかかりつけの医師を呼んでいた。
現在、寝室の介護用ベッドで横たわる祖母を診てもらっている。

「先生、祖母は……」

そう声をかけた私に、昔からお世話になってる平沢先生は厳しい顔をして頷いた。

「もう、そんなに持たないね。ハルエさんは、延命を望んでいなかったし……」

こうして寝込むようになる前は、まだまだ動いて庭仕事をしたりする元気な人だった。
85歳を目前にした頃、急にあれこれ忘れるようになった。
とうとう、ある日祖母は鍋を焦がしてぼや騒ぎになった。
おかしいとその件から確信して、祖母を連れて平沢先生に相談した。
そうして診察してもらった結果。
祖母はアルツハイマー型認知症と診断された。

ゆっくりゆっくりと、祖母は出来ることが少なくなり、それと共に身体も弱っていった。

そうして、段々と眠る時間が増えてきた冬から春を迎え、今日がやってきた。

生前、まだ元気だった頃の祖母の口癖があった。

「いよいよダメだとなったなら、自然と逝かせてちょうだいね。人間、自然に逝けるのが一番幸せなの。その時は、誰にでもやってくるのよ」

平沢先生も、そんな祖母の口癖をよく知っている。
そして、私も父も母もそんな祖母の意思を一番に考え、無理な延命治療は行わないと決めていた。

それでも、苦しそうな呼吸を聞けばなにかをしてあげたくなる。

見守っていたそんな時、フッと呼吸音が落ち着いた祖母を見れば目を開けている。

「佳菜恵。ありがとうね」

ニコッと微笑んだ祖母は、やつれて、細くなって、小さくなってしまった。
でも、最後の笑顔は昔のまんまだった。

奇跡のような一言を残して、その後十五分もせずに、祖母は私と先生が見守る中で旅立った。

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