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第1項 始まりの酒場
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「てめぇら! 今日は俺の奢りだ、どんどん飲めやっ!」
酒場に響き渡る声と共に、歓声がこだまする。
ビールの入った樽ジョッキを派手に打ち鳴らし、晩餐を楽しんでいた。
彼らの腰や、背中には剣や槍を携えている。革や鉄でできた防具を身にまとい、傭兵であることを示唆していた。
「賑やかなのはいいけれど、あんまりうるさくしないでね。他のお客さんの迷惑になるから」
バーカウンターから妖艶なハスキーボイスが聞こえる。
濡羽色の髪で顔の左半分を覆ったその女性はどこかミステリアスな雰囲気を醸し出す。
「ありゃりゃ、姐さんに怒られちゃったっスね、バルガスさん。ついでにそのジョッキを渡すっス」
塔のように積み上げられた食器を絶妙なバランスで両手に持つウエイトレス、キャミィはバルガスに尻尾で指示をした。
彼女の頭には、猫のような耳が生えている。『獣人』と呼ばれる種族だ。
「ケッ、客をこき使うなっての」
ブツブツ言いながら支持されたジョッキを渋々渡すバルカス。
「ま、いいや。……どうだ、あんたら。今日は俺の奢りってことで?」
バルガスはテーブルの上に立ち店内の客全員にそう告げると、歓声があがる。
「ってことでいいすかね、リリィ姉さん」
赤くなった顔をニンマリとご機嫌な様子でカウンターの店主に告げる。
「はあ、勝手にしなさい」
カウンターに片肘をついて傍観するリリィ。
「んぁ……」
喧騒にカウンターでつっぷして寝ていたゼクスは目が覚めた。
「あら、起こしちゃったかしら」
リリィはさりげなく水の入ったグラスを差し出す。
「ああ、ありがとうございます。それで、この騒ぎはなんスか?」
ゼクスは水を一気に飲み干した。
「あそこのバカが今日は奢るってはしゃいでね。それで」
リリィの視線を辿り、ゼクスもその先を見る。
バルガスは気分が良さそうに樽ジョッキを煽っていた。
「へぇ、あいつ見かけによらず金持ちなんだな」
「そんなはずはないんだけどね」
リリィはため息交じりに呟く。
確かに身なりはいっぱしの傭兵といったところだ。他の連中と比べると少し装備はいい……のだが所々くたびれてとても金が有り余っているようには見えない。
リリィの言葉に怪訝な顔をする。
「……あいつの奢りってなら俺もそれにあやからせてもらうかな。
ただほんとに金持ってんのか?
リリィさんも、あいつが金持ってなかったらかなりの損失になるだろ。大丈夫なんスか?」
「大丈夫よ。嘘だったらそれ相応のことをしてもらうわ。
あいつの素性は知ってるし、言った手前しっかりとやってもらうから」
にっこりと笑うその顔はとても美しい。が、なにか恐ろしいものでも内に秘めているかと思わせるものがあった。
店主というよりかは悪徳の金貸しのようなセリフだ。
ゼクスは苦笑する。
背後からガシャンッと大きな音があがる。
同時に店内は水を打ったように静まりかえった。
全身甲冑をまとった騎士がバルガスの顔を覗き込むような姿勢で、テーブルに手をついていた。
どうやら騎士がわざと皿を落としたようだ。
「はあ、厄介ごとだわ。……ため息が止まらないわね」
「片付けが大変っスね。面倒ごとは好きじゃないっス」
「……キャミィ。顔と言ってることがあってないわよ」
キャミィは鼻息を荒くし、祭りが始まるかのような表情で目を輝かせていた。
気分よく飲んでいたバルガスは、テーブルにジョッキを叩きつけ立ち上がる。
一触即発といったムードだ。
他の客たちもその様子を傍目から見つめている。
「やるのなら外でやってほしいわね」
「見物料とるっスか? それとも賭けっスか?」
自分の店なのに、呑気なことを言っている二人。
「おいおい、店主だろ。止めなくていいのか?」
客であるゼクスの方がまだ緊張感がある。
「なら、あなた止めてきなさいよ」
そういわれたゼクスは向き合っている二人に視線を移す。
「何が……気にくわないんだ?」
バルガスは褐色のぶっとい腕を組んで兵士に向き合う。
平静を装ってはいるが、顔がヒクついてる。
いつ爆発するかわからないぞ。
「お前らみたいなのが同じ空間にいるだけで酒がまずくなる。それにうるせえんだよ。ちったあ静かにしろや」
「騎士様よお、別に酒の席なんだから少しくらい多めに見てくれたっていいんじゃねえか?」
対照的に騎士とあろうものが、バルガスを煽り立てて乱闘上等で食ってかかっていた。
(騎士…………か。まあわからないだろう)
店主もこの有様だ。しぶしぶゼクスはカウンターから降り、二人の元へ向かう。
「はいはい、そこまで。
俺もゆっくり酒が飲みたい。
このおっさんが奢ってくれるんってならそれに越したことはないじゃねえか。
みんなで飲もうぜ、な?」
ゼクスは二人の間に割って入る。なだめながら入ってきた見ず知らずの男に機嫌よくは迎えてくれない。
「なんだあんた」
バルガスは見下ろすようにゼクスを見つめる。
ゼクスも人間にしては身長はある方だが、巨体のバルガスと並ぶとゼクスは子供のようにみえる。
「俺はあんたと同じ酒好きの傭兵だよ」
友好的な態度をバルガスに向けた。
その横顔を騎士はじっと見つめ――
「お前、どっかで……」
――どこかであったような感覚に陥る。
ボサボサの髪。長い間切っていない前髪でかくれた眠たそうな眼。細身の身体には筋肉というものが見て取れない。線の薄い青年。
「あっ、こいつ騎士団長の――」
取り巻きの騎士兵がゼクスを指さす。
「ああ、思い出した。3年前忽然と姿を消した騎士団長の息子ゼクスか」
ゼクスは深くため息を吐く。
(知ってやがったか……)「騎士学校のとき、ろくに成績を残せていないのに、卒業後親のコネで中隊長になって、ばっくれた奴がなんでここに」
「今はそれ、関係ないだろ」
騎士の言葉にカチンときたゼクスは眉を寄せ、口調が強くなる。
「だいたいお前らなんだよ。住民と街を守るのが騎士だろ、一般人に喧嘩ふっかけてどうすんだよ」
「なにぃ……」
騎士兵の額に青筋が浮かび上がる。
「てめえ、言わせておけば——」
ゼクスは一瞬の隙をついて騎士の顎を拳で撃ち抜いた。
脳を大きく揺さぶられ昏倒し、そのまま前のめりで倒れる騎士。
「うわぁ……やりやがった」
背後でバルガスが呟き頭を手のひらでおさえた。
取り巻きたちの騎士はどよめく。
「てめえ、まだなにもしてないのに」
「『まだ』ってことはする前提だったってことじゃねえか。正当防衛だ」
その行動にワッと店内は盛り上がる。これから余興がはじまる。そんな興奮に包まれた。
「ゼクスさんよぉ、リリィ姉さんの手前、穏便に済ませようとしたのにやってくれちまったな……」
呆れ半分でため息をつく。
「やるなら外でやってくれないかしら。迷惑よ」
熱狂に包まれた店内に鈴の音がなったような、そんな声。騒音の中でも違った波長を持つ音、それが鮮明に聞こえるように。
いつのまにか懐に立っていたフードの人影。この人物が声を放ったのだろう。
深々と被ったフードからは顔が見えないが、声からして女……。チラリと見えた口元は整った容姿であることがうかがえた。
「喧嘩なら外でやりなさい。リリィさんやほかのお客さんに迷惑がかかるわ」
彼女がそう促す。
ふっかけてきた騎士の一人が舌打ちをして外に出ていくと、ゼクスと彼女もぞろぞろと店の外にでる。
「余興は終わりだ、とりあえず、みんな飲んでてくれ」
店内の客にバルガスは告げると「なんだよ、面白くなると思ったのによ」などと不満を口にする客がいた。
まぁまぁ、となだめるとバルガスも後を追って外に出た。
酒場に響き渡る声と共に、歓声がこだまする。
ビールの入った樽ジョッキを派手に打ち鳴らし、晩餐を楽しんでいた。
彼らの腰や、背中には剣や槍を携えている。革や鉄でできた防具を身にまとい、傭兵であることを示唆していた。
「賑やかなのはいいけれど、あんまりうるさくしないでね。他のお客さんの迷惑になるから」
バーカウンターから妖艶なハスキーボイスが聞こえる。
濡羽色の髪で顔の左半分を覆ったその女性はどこかミステリアスな雰囲気を醸し出す。
「ありゃりゃ、姐さんに怒られちゃったっスね、バルガスさん。ついでにそのジョッキを渡すっス」
塔のように積み上げられた食器を絶妙なバランスで両手に持つウエイトレス、キャミィはバルガスに尻尾で指示をした。
彼女の頭には、猫のような耳が生えている。『獣人』と呼ばれる種族だ。
「ケッ、客をこき使うなっての」
ブツブツ言いながら支持されたジョッキを渋々渡すバルカス。
「ま、いいや。……どうだ、あんたら。今日は俺の奢りってことで?」
バルガスはテーブルの上に立ち店内の客全員にそう告げると、歓声があがる。
「ってことでいいすかね、リリィ姉さん」
赤くなった顔をニンマリとご機嫌な様子でカウンターの店主に告げる。
「はあ、勝手にしなさい」
カウンターに片肘をついて傍観するリリィ。
「んぁ……」
喧騒にカウンターでつっぷして寝ていたゼクスは目が覚めた。
「あら、起こしちゃったかしら」
リリィはさりげなく水の入ったグラスを差し出す。
「ああ、ありがとうございます。それで、この騒ぎはなんスか?」
ゼクスは水を一気に飲み干した。
「あそこのバカが今日は奢るってはしゃいでね。それで」
リリィの視線を辿り、ゼクスもその先を見る。
バルガスは気分が良さそうに樽ジョッキを煽っていた。
「へぇ、あいつ見かけによらず金持ちなんだな」
「そんなはずはないんだけどね」
リリィはため息交じりに呟く。
確かに身なりはいっぱしの傭兵といったところだ。他の連中と比べると少し装備はいい……のだが所々くたびれてとても金が有り余っているようには見えない。
リリィの言葉に怪訝な顔をする。
「……あいつの奢りってなら俺もそれにあやからせてもらうかな。
ただほんとに金持ってんのか?
リリィさんも、あいつが金持ってなかったらかなりの損失になるだろ。大丈夫なんスか?」
「大丈夫よ。嘘だったらそれ相応のことをしてもらうわ。
あいつの素性は知ってるし、言った手前しっかりとやってもらうから」
にっこりと笑うその顔はとても美しい。が、なにか恐ろしいものでも内に秘めているかと思わせるものがあった。
店主というよりかは悪徳の金貸しのようなセリフだ。
ゼクスは苦笑する。
背後からガシャンッと大きな音があがる。
同時に店内は水を打ったように静まりかえった。
全身甲冑をまとった騎士がバルガスの顔を覗き込むような姿勢で、テーブルに手をついていた。
どうやら騎士がわざと皿を落としたようだ。
「はあ、厄介ごとだわ。……ため息が止まらないわね」
「片付けが大変っスね。面倒ごとは好きじゃないっス」
「……キャミィ。顔と言ってることがあってないわよ」
キャミィは鼻息を荒くし、祭りが始まるかのような表情で目を輝かせていた。
気分よく飲んでいたバルガスは、テーブルにジョッキを叩きつけ立ち上がる。
一触即発といったムードだ。
他の客たちもその様子を傍目から見つめている。
「やるのなら外でやってほしいわね」
「見物料とるっスか? それとも賭けっスか?」
自分の店なのに、呑気なことを言っている二人。
「おいおい、店主だろ。止めなくていいのか?」
客であるゼクスの方がまだ緊張感がある。
「なら、あなた止めてきなさいよ」
そういわれたゼクスは向き合っている二人に視線を移す。
「何が……気にくわないんだ?」
バルガスは褐色のぶっとい腕を組んで兵士に向き合う。
平静を装ってはいるが、顔がヒクついてる。
いつ爆発するかわからないぞ。
「お前らみたいなのが同じ空間にいるだけで酒がまずくなる。それにうるせえんだよ。ちったあ静かにしろや」
「騎士様よお、別に酒の席なんだから少しくらい多めに見てくれたっていいんじゃねえか?」
対照的に騎士とあろうものが、バルガスを煽り立てて乱闘上等で食ってかかっていた。
(騎士…………か。まあわからないだろう)
店主もこの有様だ。しぶしぶゼクスはカウンターから降り、二人の元へ向かう。
「はいはい、そこまで。
俺もゆっくり酒が飲みたい。
このおっさんが奢ってくれるんってならそれに越したことはないじゃねえか。
みんなで飲もうぜ、な?」
ゼクスは二人の間に割って入る。なだめながら入ってきた見ず知らずの男に機嫌よくは迎えてくれない。
「なんだあんた」
バルガスは見下ろすようにゼクスを見つめる。
ゼクスも人間にしては身長はある方だが、巨体のバルガスと並ぶとゼクスは子供のようにみえる。
「俺はあんたと同じ酒好きの傭兵だよ」
友好的な態度をバルガスに向けた。
その横顔を騎士はじっと見つめ――
「お前、どっかで……」
――どこかであったような感覚に陥る。
ボサボサの髪。長い間切っていない前髪でかくれた眠たそうな眼。細身の身体には筋肉というものが見て取れない。線の薄い青年。
「あっ、こいつ騎士団長の――」
取り巻きの騎士兵がゼクスを指さす。
「ああ、思い出した。3年前忽然と姿を消した騎士団長の息子ゼクスか」
ゼクスは深くため息を吐く。
(知ってやがったか……)「騎士学校のとき、ろくに成績を残せていないのに、卒業後親のコネで中隊長になって、ばっくれた奴がなんでここに」
「今はそれ、関係ないだろ」
騎士の言葉にカチンときたゼクスは眉を寄せ、口調が強くなる。
「だいたいお前らなんだよ。住民と街を守るのが騎士だろ、一般人に喧嘩ふっかけてどうすんだよ」
「なにぃ……」
騎士兵の額に青筋が浮かび上がる。
「てめえ、言わせておけば——」
ゼクスは一瞬の隙をついて騎士の顎を拳で撃ち抜いた。
脳を大きく揺さぶられ昏倒し、そのまま前のめりで倒れる騎士。
「うわぁ……やりやがった」
背後でバルガスが呟き頭を手のひらでおさえた。
取り巻きたちの騎士はどよめく。
「てめえ、まだなにもしてないのに」
「『まだ』ってことはする前提だったってことじゃねえか。正当防衛だ」
その行動にワッと店内は盛り上がる。これから余興がはじまる。そんな興奮に包まれた。
「ゼクスさんよぉ、リリィ姉さんの手前、穏便に済ませようとしたのにやってくれちまったな……」
呆れ半分でため息をつく。
「やるなら外でやってくれないかしら。迷惑よ」
熱狂に包まれた店内に鈴の音がなったような、そんな声。騒音の中でも違った波長を持つ音、それが鮮明に聞こえるように。
いつのまにか懐に立っていたフードの人影。この人物が声を放ったのだろう。
深々と被ったフードからは顔が見えないが、声からして女……。チラリと見えた口元は整った容姿であることがうかがえた。
「喧嘩なら外でやりなさい。リリィさんやほかのお客さんに迷惑がかかるわ」
彼女がそう促す。
ふっかけてきた騎士の一人が舌打ちをして外に出ていくと、ゼクスと彼女もぞろぞろと店の外にでる。
「余興は終わりだ、とりあえず、みんな飲んでてくれ」
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