放浪(元)騎士、世界を救う!?

風無シオン

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第20-5項 月が……綺麗ですね

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 漆黒の空に浮かぶ下弦の月。
 ひんやりとした空気が辺りを包む。
 穏やかな表情で空を見上げるロクスティ。反対に顔を強ばらせるゼクスとミーナ。
「こんな良い夜はそうそうありませんよ。どうですかお二人とも。ご一緒に――」
「そんなこと話をしたくて俺たちがここに来たとでも?」
ゼクスは右手を剣の柄に伸ばした。
「おやおや。そう焦らないでください。私はあなたたちに提案があるのですよ」
「提案?」
 軽蔑したような口調で苛立ちを隠せないでいた。
 ロクスティはニヤリと片方の口角を上げた。
「そう、提案です。私はこれから呪符の取引を行わない。あなたたちはそれが目的でしょう? ……その代わり、それ相応の金額をいただきたいのです」
「…………」
 物言いたげな表情を浮かべる。二人は何も言わない。
 彼は右、左とゆっくり周囲を歩き始める。
「どうして? と、聞きたそうな顔をしているので教えて差し上げましょう。金ですよ、金。あなたたちも知っているでしょう、闇ギルトのこと。
奴らはいい資金提供者でした。
この錯乱の呪符もね。最初は資金作りのために売りさばいていましたが、奴らと直接あったとき彼らの目的を知って正直、震えました」
 遠巻きにバサッバサッと羽音が聞こえ始めた。
 二人はいっそう警戒を強める。
「錯乱の呪符を振りまいて、人を操り、支配する。
私は政治には興味ありませんが……人々が無条件に私に従う。
なんとも面白いではありませんか!?」
 ロクスティは悪辣な笑みを浮かべた。
両腕を開き、言い放つと同時に――森の上空にシュレムの姿が闇夜に浮かび上がる。
 一体、二体、三体……と増え続け、いつの間にか三十体ほどになっていた。
 それぞれの体格は様々で筋肉質の個体もあれば子供のような小さな個体もいた。
(こいつらは――!)
 その数と容姿――ゼクスの知り得る知識でかつてこの村の住人だったことが予想できた。
 強く柄を握りしめる。鞘から刀身を覗かせようとするが、ためらってしまう。
「ミーナさん。あなたのお父さんと同じ道をたどるといい」
「――――ッ!!――」
 同じ道……彼は父のことを何か知っているのか? ミーナの脳裏によぎる可能性。
 予想外の人物が出てきたミーナは、目を見開き口を開け驚愕した。鋭い目つきで
「ロクスティーーッ!! とうさんの事知ってるのかッ!?」
 怒号がミーナの小さな身体から放たれた。
 不敵に笑みを浮かべたロクスティ。
 右手を前にかざし――シュレムの大群が襲いかかる。
 剣を抜き盾を出現させるゼクス。一度相対したことがあるとはいえ、さすがは魔神族。そうそう攻撃をゆるしてはくれない。
 さらには全身の体皮は鋼鉄のように硬く、生半可な業物では傷をつけることさえ出来ない。
 互いをかばい合うように人間らしい動きがゼクスの予想を確信へと変えていった。
 踵を返し森の奥へと歩き出すロクスティ。
「待てッ!」
 行く手を阻むようにシュレムが壁になる。肩ごしにミーナを一瞥するとゆっくり歩を進め、闇へと消えた。
「待て、ロクスティ! 喋ってもらうぞ! とうさんの事!!」
 全速力でシュレムの壁に突っ込んだ。
「ミーナ待てっ」
 平静さを失った彼女を一人にしてはいけないとゼクスも後を追う。
 壁を前にして、口笛を鳴らす。魔装馬が二体。嘶き、ミーナを導くように道を開く。
装着していた甲冑が外れると闇夜の中に浮かぶ暗闇の渦が出現した。その渦に2頭は引きずり込まれた。
 二体のシュレムがミーナを追う――
 ――渦の中から現れた巨大な牙。二つの頭にそいつらは体を引きちぎられた。
 少しずつ月夜に照らされる姿。
――双頭の魔獣――
 獰猛な牙。巨大な双眸。深黒の毛並みは光さえも吸収してしまうような底知れぬ深さ。
 ―――グルルァアァァァ!!
 咆哮でシュレムは吹き飛ばされ、貧弱な個体はそれだけで内側から破裂したのだ。
 ゼクスはその光景に背筋が凍りついた。
 もし、自分がミーナを追いかけていなければ自分もあんなふうになってしまっていたのかもしれない。
 小さな背を見失わないようにゼクスは森の中を駆けた。
 

ロクスティを追いかけていると、ゼクスが見つけたという神殿へとたどり着いていた。
その入口で待っていたように佇んでいた。
ミーナは銃口を向ける。
「父さんのことをお前は知っているのか? なぜ。なぜ父さんは死ななくちゃいけなかったんだ!?」
「さて、なんのことやら。私が知っているとでも?」
「しらばっくれるな!」
ロクスティは見下げ、ミーナと視線を交わす。
するとゼクスが息を切らして追いついてくる。ロクスティは「ついてこい」と短く声をかけると、神殿の奥へと入っていく。
地下へ続く先も見えない長い階段。
ミーナとゼクスは彼の後を追う。
そして、開けた最新部にたどり着くと――
「サラマンダー……」
 巨体を横たわらせ静かに眠りにつくサラマンダーの姿があった。
 その目の前で貼り付けたように笑みをこぼすロクスティ。
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