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第24-5項 紅の記憶
しおりを挟むそれから、シエラは迷いの森に潜むゴブリン族の集落を単騎で攻め落とした。
下級魔族に遅れをとるハズもない。
同じく森に潜むコボルト、オーク族と配下に加え森一帯を支配下においたのはすぐのことだった。
命令は二つ。キャラバンを襲え、遺跡を守れ。
だが、人間はなるべく傷つけるな。
配下たちは着々与えられた任務をこなしていった。
キャラバンの積荷はディネールに届くことがなくなった。そして積荷のその後を支持されておらず、魔物たちの餌となっていた。
魔物たちは力を蓄え、次第に勢力を増していった。
それもシエラの配下に入ってから。
いつしか彼女は森の支配者として君臨していた。
遺跡に毎日のように献上品が供えられるようになっていた。奪った果実や食材、武具の類。ありとあらゆるものが。
毎日、実りの少ない果実を歩き回って集め、ささやかながら幸せな日々を送っていた事を思い出す。
物理的に満たされても、心は満たされない。
ふと、ディネールで良くしてくれていたラルフに思いを馳せた。
物資が届かなくなったことで、生活が苦しくなってしまっているのではないだろうか?
でも、彼の性格だとそんなこともお構いなく、誰かの助けになってあげようとするのだろう。
だからと言ってもう、後戻りはできない。
娘の為に。
「グッ……」
シエラは痛みに耐えていた。
魔力を送っているのだろう、定期的に痛みが襲ってくる。しかしそれは最初と比べると耐えられないものではなかった。
だが、魔力を送っているときにとてつもない脱力感に苛まれていた。半刻ほど動けなくなってしまうのだ。
静かに眠るサラの姿を見るたびに、やりきれない思いで一杯になる。
「それが娘さんですか? なんとも愛らしい……」
ぼうっとしていたこともあったが、ここまで人の気配に気がつかなかった。
「初めまして、私はロクスティを申します。アーデル様から監視役を仰せつかったものです」
薄笑いを浮かべた表情よりも、首元にぶら下げていたものに目を奪われた。サラの龍石だ。
覆うように装飾が施され、ペンダントにしていることもあって大きなルビーのようにも見えた。
「ああ、これですか? アーデル様からお預かりしているものでしてね。あなた達龍族を操れる代物だと、お聞きしてます。その顔を見ると……あながち間違ってはなさそうですね」
憎悪に満ちたシエラ。
『違う』
心の中でつぶやく。
『それはサラの……娘の魂だ』
だが、それをいうと彼は利用してくるだろう。勘違いをしているのなら好都合。
寝首を掻いてやる。
その日を境にロクスティは頻繁に遺跡に足を運ぶようになった。
たまにヌルを引き連れて来たり、アーデルとともに監査をするように。
彼は王になったつもりかシエラを召使いのようにこき使い始める。
自室を作らせ、奪った物資をふんだんに使い、我欲を満たしていた。
それに飽きると、配下のゴブリンを人形のように扱い、殺し合いをさせてしまいには彼自身が殺戮を楽しんでいた。
そんな日々に耐えられたのはサラの存在があったからだ。生きていなかったら、ロクスティは今頃魚の餌になっていたことだろう。
そしてもう一つ分かったことがあった。
ロクスティは来るときに一人だ。
バレーナ村までは護衛をつけているのだが、森に入るときはいつも一人。自分の森だと過信をしているからなのだろう。
なら、そこを狙えばいい。
だが問題点がある。それはヌルの存在だった。感知することすらできない存在をどう警戒すればいい。
それもほぼ同じスケジュールで来ることが判明していた。
なら、いない日を狙えばいい。
ルートもほぼ固定。そこにトラップを仕掛け、殺す。
そして死体から龍石を回収する。
氷塊を解く方法にアテはある。
うかうかしていると被害がどんどんと大きくなるだろう。
そしてロクスティの目を盗んで着々と準備を始めた。
あえてシエラは普段通りの生活をした。
定刻。ロクスティが来るであろう時間に姿を見せない。半刻すぎてもやはり来ない。
(うまくいった)
シエラはそう思った瞬間、何かに引っかかった。
上手くいき過ぎている。
自分の行動をみすみす許して龍石を取り戻させるチャンスを与えているだけのようにしか思えなくなったシエラは急いで遺跡の外に出た。
「シエラさん、わざわざお迎えですか?」
入り口の前に立っていたロクスティ。
「なん……で……」
彼自身なんの能力を持たない商人なのは充分確認済みだ。
だが、波の冒険者なら1パーティ壊滅させることのできるトラップだったのに……。
そこで異変に気付く。
森に異変がない。
仕掛けたトラップは魔法陣を用いたもので、センサーに引っかかった者を中心に辺り一帯を焼き尽くすものだ。
しかし、どこを見ても煙一つすらない。
動揺するシエラを前にその問いの答えを、ロクスティは口にした。
「簡単ですよ。トラップなど、どこに何を仕掛けてあるか知っていればなんてことはない……それを伝える内通者がいれば」
そこまで言われてシエラはハッと気付く。
すでに監視されていた。
ロクスティとともに来ていたのは、ロクスティをいつも護衛しているように見せかけていただけ。
実際にはシエラをずっと監視していたのだ。
正解だ、と言わんばかりにシエラの影から這いずり出て来るヌル。
「クソォっ!!」
シエラは大剣を出現させ、ロクスティに突進する。
——ガィンッ——
ヌルがどこからか取り出した漆黒の長剣で受け止めた。
同時にシエラは息を大きく吸い、閃光のブレスを放つが、手を前に突き出し見えない壁に阻まれて散る。
視界を奪った瞬間、シエラはロクスティの背後に回っていた。
腕を伸ばし、爪で引き裂こうとする——のだが
「ひっ」
ロクスティは腰が抜ける。尻もちをついたすぐ頭上の空気を裂かれた。
そしてヌルがシエラを背後から取り押さえた。
コロリと転がり落ちる龍石。シエラは後少しのところで取り逃がしてしまった。
「これを取り戻そうとしたのか——残念だったな。後少しのところで」
装飾が取れ、元の姿となった龍石を拾い上げる。
ブレスが葉に当たり、燃え始める森。
「まったく、余計なことをしてくれたものだ……」
燃え始める森を眺めるロクスティ。
シエラがポケットに何かをいれたのに気がつくヌル。
ニヤリ、とフードの下から覗く唇を緩めて、見て見なかったことにした。
途端、シエラの意識がだんだんと遠のいていく。
脱力感もあるところ、呪符の影響か。
『待ってて、サラ。すぐ助けに行くから……』
シエラの意識が途切れると同時にゼクスも目の前が真っ白になっていく。
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