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しおりを挟む布団に入ったはずなのに、
一向に眠れる気がしなかった。
明日、沙耶子は結婚する。
それはもう、決まったことだった。
ここにいるのは、明日、
人生を共にする男を連れてきた「姪」だ。
……そう、思わなければならない。
しかし、そう思うには、あまりに難しすぎた。
階下には沙耶子がいる。
今は、あの男と一緒に眠っているのだろう。
───ちゃんと眠れているのか?
彰は、深く息を吐いた。
何を考えているのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、心の奥に沈殿しているこのざわつきは、
なんなのか。
大きく息を吸い込んで、吐き出し、仰向けになった。
沙耶子が結婚することは、前々からわかっていた。
彼氏がいることも、いずれは結婚するつもりで
いることも、知っていた。
わかっていたのに───
どうして、今更こんなに落ち着かないのか。
天井を見つめながら、ふと思う。
沙耶子は、最後の夜に、
自分の部屋ではなく、客間を選んだ。
あいつの性格を考えれば、
その理由は簡単に推測できる。
「……逃げたんか」
小さく、誰にも聞こえないように呟いた。
いや───逃げたのは、どちらなのだろうか。
どちらにせよ、もう関係のない話だった。
彰は無理やり目を閉じた。
明日になれば、すべてが終わる。
それでいい。
それでいいはずだった。
寝返りを打っても、まったく眠気は訪れなかった。
時計を見ると、
まだ夜中の二時を少し回ったところだ。
「あーーったく」
このまま布団の中でじっとしていても、
余計なことを考えてしまうだけだろう。
彰はそっと布団をめくり、
音を立てないように立ち上がった。
ゆっくりと襖を開け、廊下に出る。
家の中は静まり返っていた。
客間の前を通る時、一瞬だけ足が止まる。
この中に、沙耶子がいる。
───いや、「沙耶子たち」か。
考えた途端、また心がざわつく。
余計なことを考えるな、と自分に言い聞かせ、
足早に縁側へ向かった。
外に出ると、夜の空気がひんやりと肌に触れた。
シャツ一枚では少し寒いくらいだったが、
その冷たさが今の自分にはちょうどよかった。
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
深く吸い込んで、静かに煙を吐き出した。
暗闇の中、火の先端だけが小さく光る。
「……はーーあ…」
ため息混じりに煙を吐き出しながら、空を見上げた。
月が雲の切れ間から顔をのぞかせている。
静寂の中で、一人きり。
それなのに、胸の内はまるで嵐のように乱れていた。
自分は、いったい何を期待していたのか。
沙耶子が結婚することは、最初からわかっていた。
それなのに、どうしてこんなにも
複雑な気持ちになるのか。
「……笑えるな」
自嘲気味に呟いた。
沙耶子が「彰」と名前を呼んだ時の声を思い出す。
あの夜、熱を帯びた指先。
抱き寄せた時の、細い体の感触。
それを思い出している自分が、
何よりも情けなかった。
煙草を吸い終わり、地面に落として
サンダルで火を消す。
もう一度、深く息を吐いた。
───こんなことをしていても、何も変わらない。
明日になれば、すべてが終わる。
いや、終わらせなければならない。
彰は、静かに踵を返して、
足元に転がる吸い殻を一瞥し、家の中へ戻った。
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