【完結】二人はさよならを知らない

シラハセ カヤ

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結婚式当日。

式場のロビーには、親族や友人たちが集まり、
賑やかだった。

彰は、親族席の隅で
スーツのネクタイを軽く引っ張りながら、
落ち着かない気持ちを抑え込んでいた。

沙耶子の晴れ姿を見れば、
すべてに決着がつく───そう思っていたのに、
胸の奥は妙な空虚感で満たされている。

「彰くん、久しぶりやなぁ」

突然声をかけられ、顔を上げると、
久しぶりに会う遠い親戚がにこやかに近づいてきた。

「ああ、お久しぶりです」

軽く会釈を返すと、隣に立ち
前方の新郎新婦の席を見ながら呟いた。

「沙耶子ちゃん、綺麗やったなぁ、
 洋介くんも、しっかりしとるし、ええ旦那さんや」

「……そうですね」
彰は小さく頷く。

彼はどこか感慨深げに続けた。

「それにしても、最初見た時びっくりしたわ、
 洋介くん、彰くんに似とるやんか」

「え……?」

思わず聞き返すと、笑いながら言う。

「沙耶子ちゃんのばあちゃんも言うとったで、
 最初に洋介くん見た時、
 『なんや彰みたいやなぁ』ってな」

「……はあ」

彰は曖昧に返事をしながら、
遠く新郎新婦の控え室を見つめた。

───やっぱり似ている、のか。

黒髪で、穏やかな目元。
背格好も、そう変わらない。

「人は、無意識に似た人を
 選ぶもんなんかもしれんなぁ」

その言葉が、やけに胸に刺さる。

「そろそろ始まるわな、席戻らなな」

その時、会場の奥からスタッフの声が聞こえた。

みんな祝福ムードでいっぱいの中、
自分だけが空っぽな気がした。
父親の気持ちとはまた違ったそれを振り払うように
目を閉じて、軽く息を吸う。

鼻腔には、
様々な香りが入り混じった匂いが広がった。

───ああ、もう一本、
煙草吸ってくればよかったな。


会場が一斉に静まり返り、
やがて扉がゆっくりと開く。

新郎の洋介が、緊張した面持ちで立っていた。

そして、その隣に───
純白のウェディングドレスに包まれた沙耶子がいた。

ヴェール越しでもわかる、柔らかい微笑み。

彰の知っている沙耶子よりも、
ずっと大人びて見えた。

「……」

何かを言葉にしようとしても、喉が詰まる。

ずっと守ってきた。

子どもの頃から、妹のように、
時には実の娘のように、沙耶子を見守ってきた。

けれど、もう彼女は
自分の手の届かない場所へ行ってしまう。

いや───
それを望んでいたのは、自分だったはずだ。

ふいに、沙耶子の目がこちらを向いた。

ほんの一瞬。
けれど、その一瞬が永遠のように感じられた。

沙耶子の唇が、わずかに動いた。
「……ありがとう」

声にはならなかったが、
確かにそう言ったように見えた。

彰は、静かに目を伏せた。

新郎新婦が祭壇へと歩を進める中、
会場は祝福の拍手に包まれる。

───これで、よかったんや。

そう、何度も自分に言い聞かせながら、
彰は静かに手を叩いた。




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