私の隣には

Asuka

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晩鐘

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万物万象の運命さだめであり、逃れられぬ摂理。それはわかっているつもりだった。しかし、悲しいかな人間という生き物はとかく別れに弱い。脆く、その心を揺るがしてしまう。晩鐘の音を、唐突に宣告された時、彼らは深い絶望に陥る。

その時、きっと貴方はいてくれるよね?


きっと、いてくれるよね?














私、西野珠子は都内の私立大学の二回生だ。都内の大学の中ではかなりレベルの高い私立大学であり受験勉強でもかなり苛まれたものだ。 そのおかげで、今の楽しい大学生活があるわけだが、何よりも大きな支えとなったのは両親の支えのおかげだろう。

生まれてからずっと、私の意思を尊重してくれた彼ら。ある日、有名なピアニストのコンサートを観に行って感動し、それに憧れた時に彼らは迷わずピアノのレッスンをさせてくれた。レッスンの送り迎えや、月謝代のやりくり、果てには個人用のピアノすら買ってもらえた。彼らの献身的なサポートのおかげで私は中学生の時に有名なピアノのコンクールで優勝することができた。その時の記念写真とメダルは私の自宅マンションの一角に大切に飾ってある。

高校進学後は夢だった教員になるために大学受験を控えていたため、ピアノのコンクールには出ずに、趣味の範疇でピアノを弾いていた。進路先のことについても両親は穏やかに容認してくれた。
しかし、私は高校二年生の冬に、付き合っていた彼氏に別れを告げられた。彼の両親の転勤によりどうしても関係を続けられないという理由だ。彼は泣きながら私に事実を伝え、私の元を去っていった。両親とも何度か会っており、仲が円満だったこともあって私が受けたショックは大きかった。それが原因で一時期不登校になり、両親にも攻撃的になってしまった。今思えば申し訳ないことをしたと冷静に考えられるが、その当時の私にとっては深刻で、まさに生きる意味すら問われるほどのことだったのだろう。

そんな時も、両親は私を見捨てなかった。今私がまともな人間として生きているのはこの時両親がきちんと私と向き合ってくれたからだろう。
優しかった父が、この時は私を本気で説教してくれた。

「失くしたものを追いかけるな。今あるものはなんだ?」

彼の一声は今でも私の胸に残っている。私が失くした彼のことばかりを思っていたがために、私を心配してくれていた友人、教師たちを蔑ろにしていたことを、彼は叱ってくれたのだ。
そして、母は私の心情を理解しながらも強く生きるように言った。これから先、失うことの方が多くなる。しかし、それでも前を見て生きること。それが大切なのだ、と。

そのおかげで、私は少しずつ立ち直ることができた。久しぶりに通った高校では、心配のあまり、私の友人たちが泣いて出迎えてきてくれた。担任は、授業の遅れを取り戻すために必死に教科担当の教師たちに補習を組むよう頼んだそうだ。周りの支えのおかげで私は三年生になる頃にはみんなとの遅れもなく、受験学年を迎えることができた。

「失ったものを見るのではなく、今あるものに感謝しろ。」

父の言ったことは、間違いではなかった。私にはまだ、支えてくれる仲間がいた。そう思えた日々だった。


高校三年生になった私の毎日は、受験勉強で死に物狂いだったというのがふさわしいだろう。私の第一志望はは、今通っている都内の私立高校だったのだが、その当時の私の学力では模試でB判定を取れるかどうかだった。合格率は半分ほどというわけだ。成績表を見るたびに、私は焦りを覚えながら必死に勉強した。
夜はほぼ徹夜して勉強をしたが、その時母は、コーヒーを淹れたり、軽い夜食を作ってくれたりと、私の受験勉強を全力でサポートしてくれた。
父は成績で落ち込む私に

「目の前のことにとらわれるな。今お前は確実に努力している。その事実に誇りを持って決して諦めるな。」

と、諭してくれた。こうして考えると、父は私に背中で語る人なのだと思う。彼は決して多くを語らない。ただ、時々諭してくれる言葉は私の心に残るものばかりだ。

両親のサポートのおかげで、私の成績は二学期から徐々に伸び、受験前にはA判定に乗ることができた。その好調が続き、私は晴れて合格したのだ。私立大学への合格だったので金銭的な面で両親に苦労をかけてしまうと、
私は申し訳なく思ったが、私の夢のために、そして何より私の誉れを尊んで、入学を認めてくれた。

私の人生は、本当に両親に支えられたものだと思う。そんな毎日があったからこそ、今私は夢のために勉強できている。一人暮らしをして、家事を全てしてみれば、母がいかに大変かを思い知らされるし、バイトをしながら生活費を稼いでいると、父がどれほど私のために頑張っていたかがよくわかった。

そんな両親への感謝を込め、一年ほど前から彼らのために私はあることをしている。生活費を最小限に抑えてバイト代を貯めている。実は今年の夏、彼らは結婚して二十五年目の結婚記念日を迎えるのだ。そのために彼らに、夫婦水入らずの最高の旅行をプレゼントするために、バイトのシフトを増やしてお金を貯めているのだ。今までずっと支えてくれた彼らのためなら、苦ではなかった。むしろ仕事にも精が出たものだ。
そして、今年の春の母の誕生日にそのお金を渡した。母は泣いて私に感謝してくれた。父は私はこないのか、と聞いたが私は夫婦水入らずであって欲しかったため断った。

「最高の娘を持った。」

と、彼は感謝を露わにした。私からすれば当然のことをしたまでだ。二人が楽しんでくれるならそれでよかった。


四日前、彼らは結婚二十五周年の旅行へ出かけた。父が好きなドイツへの旅行だ。彼らはめいいっぱい楽しんでくると告げて飛行機に乗った。きっと良い旅行になる、と私は思いながらその飛行機を見送った。










そして、今日彼らは帰ってきて私に旅行のことを話してくれる、はずだった。
突如として晩鐘は鳴り響いた。私の元にかかってきた電話がそれだ。



そこで伝えられたのは、飛行機事故による両親の死だった。
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