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何も、残らない
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両親が死んだ。よりにもやって私の計画した旅行の帰りだ。飛行機は途中で燃料事故を起こし乗客乗員の半分が死んだらしい。私は両親死んだその事故のことをあまり覚えていない、いや思い出したくないと言う方が正しいか。自分が良かれと思って二人にプレゼントしたことが、よりにもよって二人の死で帰ってきた。
私は、大切に思ってきた両親を、自らの手で殺したのだ。その虚無感と罪悪感、絶望は私を潰すのに十分だった。
葬儀で、やっと私は現実を見た。本当に両親は死んだのだと言うこと。夢でもなく、幻想でもなく、本当に両親は死んだのだ。どこかで二人は生きていると希望を持っていた、私は一瞬で絶望に引き戻された。そんな夢物語など、存在していなかった。そして、人目もはばからず泣き通した。今までの思い出、感謝、謝意、全てが込み上げてくる。まだ言えなかったこと、言いたかったこと、してあげたかったことが雨のように降り注いでくるがそれらば全て叶わないと言う現実が余計に私の涙を誘った。
「ごめんね…二人とも…」
そう言うことしかできなかった。そんな無力な自分が許せなかった。
葬儀が終わって日々が経ったが、それでも私は立ち上がれなかった。大学に行く気も起きず、ずっと家にいた。事故による両親の保険金が下りたことを淡々と説明してくる、何も知らない悪魔どもに会って以来、他人とも会っていない。あいつらを殴り飛ばしてからは誰にも触れていなかった。大学の友人や、高校までの友人が、LINEを入れていたが、全て無視している。最後の連絡は、二人がドイツに飛んでから、一つもしていない。
私に残ったのは、虚無と絶望だけだった。それ以外は、何も残ってはいない。生に疲れたとでも言おうか。もうどうでもよくなった。
「失ったものを数えるな。今あるものを大切にするんだ。」
遠い日の父の言葉がよぎる。
できないよ。そんなこと。だって貴方を失ったんだもの。
「これから、もっと大きなものを失うわ。それでも強く生きるのよ。貴方は、優しく、強い子なんだがら。」
そんなことできないよ。貴方たちより大きなものは私にはないのだもの。貴方たちを失ってしまっては、もう何もないのだもの。私は優しくも、強くもない。弱く醜いものでしかない。
私を導いてくれた両親の言葉でさえ、私にとっては苦になった。私のために様々な苦労を惜しまなかった彼ら、それに答えることすらできないまま私は両親を失った。そんな彼らの言葉は今の私には残酷すぎる。
貴方たちを失った私は、前を向いて生きることなんてできない。
私の中である思いが芽生えた。私のせいで彼らが死んだ。ならば、彼らの元へと私も向かおうと。もう、生きていても意味はないならいっそここで死んでしまおうと。そう考えるようになった。
そんなことをしても両親は喜ばない?そんなことを彼らは望まない?
黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!
そんなこと、何も知らず、なんの虚無もなく私を見ているものたちの戯言だ!何も失わずにすんでいるお前たちの都合の良い綺麗事だろうが!失ってみろ!絶望を見てみろ!お前たちの綺麗事なんて塵にすら劣る!ふざけるな!
綺麗事をまくし立てる人間を見ていると、私の中には煮えたぎる憎悪すら込み上げてしまう。もう私は手遅れなのかもしれない。母さん、やっぱり私は優しくなんかない。罪のない人間に対して、こんなにも憎悪を燃やすような人間なのだから。
私の決断は早かった。今、私は自宅マンションの屋上にいる。ここは高い。ここなら私も死ぬことができるだろう。もう、疲れた。彼らのいない世界なんて、私には受け入れられない。私にとって今の世界は、綺麗事を並べ立てる憎悪の対象ですらない。ならば、私はこの世界から消えてしまおう。
その一歩を踏み出そうとした。後ずさりしていては、決断できなくなる。私はもう決めたのだ。早いほうがいい。
そして蹴り出す。さようなら。もう、何者にも縛られなくていい。待っていてください。二人とも。
ここが、天国なのだろうか?温かい。何かに抱き抱えられているような、優しい世界なのだろうか?両親はどこにいるのだろうか?開けた世界を見ると、
そこはさっきと変わらぬ景色。私が死を決意した世界となんら変わらないものが広がっていた。そして、私は何かに抱きしめられていたのだ。
「怪我はないですか?どうして飛び降りようだなんて…!」
私を抱き寄せていたのは細身の青年だった。銀髪に、どこか紅い瞳をした、儚げな青年だった。
私は、大切に思ってきた両親を、自らの手で殺したのだ。その虚無感と罪悪感、絶望は私を潰すのに十分だった。
葬儀で、やっと私は現実を見た。本当に両親は死んだのだと言うこと。夢でもなく、幻想でもなく、本当に両親は死んだのだ。どこかで二人は生きていると希望を持っていた、私は一瞬で絶望に引き戻された。そんな夢物語など、存在していなかった。そして、人目もはばからず泣き通した。今までの思い出、感謝、謝意、全てが込み上げてくる。まだ言えなかったこと、言いたかったこと、してあげたかったことが雨のように降り注いでくるがそれらば全て叶わないと言う現実が余計に私の涙を誘った。
「ごめんね…二人とも…」
そう言うことしかできなかった。そんな無力な自分が許せなかった。
葬儀が終わって日々が経ったが、それでも私は立ち上がれなかった。大学に行く気も起きず、ずっと家にいた。事故による両親の保険金が下りたことを淡々と説明してくる、何も知らない悪魔どもに会って以来、他人とも会っていない。あいつらを殴り飛ばしてからは誰にも触れていなかった。大学の友人や、高校までの友人が、LINEを入れていたが、全て無視している。最後の連絡は、二人がドイツに飛んでから、一つもしていない。
私に残ったのは、虚無と絶望だけだった。それ以外は、何も残ってはいない。生に疲れたとでも言おうか。もうどうでもよくなった。
「失ったものを数えるな。今あるものを大切にするんだ。」
遠い日の父の言葉がよぎる。
できないよ。そんなこと。だって貴方を失ったんだもの。
「これから、もっと大きなものを失うわ。それでも強く生きるのよ。貴方は、優しく、強い子なんだがら。」
そんなことできないよ。貴方たちより大きなものは私にはないのだもの。貴方たちを失ってしまっては、もう何もないのだもの。私は優しくも、強くもない。弱く醜いものでしかない。
私を導いてくれた両親の言葉でさえ、私にとっては苦になった。私のために様々な苦労を惜しまなかった彼ら、それに答えることすらできないまま私は両親を失った。そんな彼らの言葉は今の私には残酷すぎる。
貴方たちを失った私は、前を向いて生きることなんてできない。
私の中である思いが芽生えた。私のせいで彼らが死んだ。ならば、彼らの元へと私も向かおうと。もう、生きていても意味はないならいっそここで死んでしまおうと。そう考えるようになった。
そんなことをしても両親は喜ばない?そんなことを彼らは望まない?
黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!
そんなこと、何も知らず、なんの虚無もなく私を見ているものたちの戯言だ!何も失わずにすんでいるお前たちの都合の良い綺麗事だろうが!失ってみろ!絶望を見てみろ!お前たちの綺麗事なんて塵にすら劣る!ふざけるな!
綺麗事をまくし立てる人間を見ていると、私の中には煮えたぎる憎悪すら込み上げてしまう。もう私は手遅れなのかもしれない。母さん、やっぱり私は優しくなんかない。罪のない人間に対して、こんなにも憎悪を燃やすような人間なのだから。
私の決断は早かった。今、私は自宅マンションの屋上にいる。ここは高い。ここなら私も死ぬことができるだろう。もう、疲れた。彼らのいない世界なんて、私には受け入れられない。私にとって今の世界は、綺麗事を並べ立てる憎悪の対象ですらない。ならば、私はこの世界から消えてしまおう。
その一歩を踏み出そうとした。後ずさりしていては、決断できなくなる。私はもう決めたのだ。早いほうがいい。
そして蹴り出す。さようなら。もう、何者にも縛られなくていい。待っていてください。二人とも。
ここが、天国なのだろうか?温かい。何かに抱き抱えられているような、優しい世界なのだろうか?両親はどこにいるのだろうか?開けた世界を見ると、
そこはさっきと変わらぬ景色。私が死を決意した世界となんら変わらないものが広がっていた。そして、私は何かに抱きしめられていたのだ。
「怪我はないですか?どうして飛び降りようだなんて…!」
私を抱き寄せていたのは細身の青年だった。銀髪に、どこか紅い瞳をした、儚げな青年だった。
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