廻って異世界

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村造りシミュレーション

第76話 やぶ蛇の原因

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 お兄にも困ったものですの。


「ごめんね。
 もみちゃん。
 情けないところを……」

 ダンジョンの袋小路で見付けた琥珀は、酷い顔になっていたですの。
 あまりにも暗い顔に、抱きしめてやれば嗚咽を繰り返しながら、私に謝り続ける琥珀を見ているとお兄への怒りが沸きますの。

「良いですの。
 もう少し泣いていても……」

 本当に腹が立ちますの!
 琥珀は雛菊の嫌がらせを受けた被害者ですの!
 何で、雛菊の肩を持つですの!

 琥珀の泣き声だけを聞きながら、ひたすら晴彦への怒りを募らせる紅葉だった。




「ハルくんは、やっぱり私のこと嫌いなんだろうね。
 そりゃ嫌いな被害者と大事な加害者なら、加害者の方を擁護するよ……」

 涙が冷えて、冷たい水になった頃。
 琥珀が、やっと嗚咽以外の声を発しましたの。

「……否定は出来ないですの」
「……もみちゃんは優しいね。
 ハルくんが好きなのに、こんな所で大騒ぎした私を責めないんだ……」

 ……自分に正直に返しただけですの。
 けれども、

「責める気はないですの。
 けど、どうしてあんなことをしたですの?
 お兄をお兄と認めていなかったからですの?」
「少し変な話をして良い?」
「この流れではあり得ないですの。
 それは他人には、分からないだけのですの」

 恥も醜態もなく、大泣きしたばかりの人間が、それを見せた相手に変な話を出来るものか!
 ……なのですの。

「優しいな。もみちゃんは……」

 涙を脱ぐって、近くの壁に座り込む琥珀。
 私が隣へ座るのが合図となった。

「ここに来る前にさ。
 親友と話していたことがあるんだけどね?
 私達は、大災害の前も後ろも知っちゃってるでしょ?
 だからさ、昔は独身でいることも結婚することも、同列の選択肢だったこと……。
 今じゃ、結婚なんて宝くじを当てるよりも難しいこと。
 ……知っちゃってるんだ」
「そんなこと……」

 大袈裟だと思うですの。
 そこまで絶望的な男女比ではないですの。
 けど、

「あるんだよ?
 結婚しようと思ったらね?
 まず、男性に出会わなければならないの……。
 安全のために厳重に隔離されて、所在を隠されている独身男性にね?
 その後、その男性の好みを調べて、親愛を勝ち取って、初めて結婚できるんだよ?
 もちろん、競合する女性を蹴落として……」
「……」

 ……例えば、雛菊のような探査能力でも、あれば可能ですの。
 加えて、あれは人の記憶の捏造くらいは余裕ですの。
 けれど、

「その時、競合する女性って、その男性の身近にいた人だよね?
 圧倒的なアドバンテージを持っている女性を、蹴落とす方法って何があるの?
 広大な砂漠で、掌サイズの宝石箱を見付けたと思ったら、開けるのには同じような強運と、自分以上の実力を兼ね備えた相手に勝つ……」
「……」

 琥珀は少し魔法が使えるだけの女の子ですの……。

「……実際ね?
 今の日本の死因No.1って、自死なんだよ?
 数瞬前まで元気だった人が、不意にパタンって、自分の日記帳を閉じるの。
 それくらい、皆絶望しながら生きてる。
 ……浅葱ちゃん。
 今の首相ね?
 彼女が頑張ってるから、もしかしたらって、無理矢理希望を言い聞かせてる人も多いね」

 ……控えめに言って、ディストピアですの。
 これ、大災害前を知ってるから、余計辛いですの。

「そんな……。
 そんな中でさ……。
 こんな所で、従弟の男の子に出会って……。
 勝手に運命感じてたの……」
「……まあ、ダンジョンに男性がいるって、レアなケースですの。
 しょうがない気もしますの……」

 ここは防御施設。
 保護対象のはずの男がいるのがおかしいですの。
 それに……。
 本人は気付いていないようですの。
 ジュエルズと言う特別視される環境に、身を置きすぎたことを……。

「しかも、すごく格好良くなってて、最初は気付かなかったけど、確かに子供の頃の面影はあったし……」

 ……やっぱり雛菊が悪いですの。
 乙女が運命を感じてる所に、あんな悪質な捏造記憶!
 お兄に抗議するですの!

「……なのに、向こうは私のことなんて放置で、雛菊さんばかり。
 そのうち、話し掛けてくるかな? 
 照れ臭いのかな? って、ずっと待ってる内に地上へ出る寸前でしょ?
 ここを出ると、縁が切れると思って、焦ってあんなことを……」
「分かるですの!
 お兄の対応は酷すぎですの!
 仮にも血縁相手に、その他1みたいな対応が信じられないですの!」

 どんどんお兄への失望が増していくですの!
 何で家族を大事にしないですの!
 ……あ。
 琥珀は……。
 琥珀は未来の私?
 私のアイデンティティーとも言える群れの連帯や秩序は……。
 お兄にとっては、大した価値でないですの。
 きっといつかは道が別たれて……。
 けれど、お兄は……。

「……ふざけるな!
 ……ですの!
 こんな茶番はこっちから願い下げ、です、の!」
「もみちゃん!?」

 目の前に巨大な狐が見えたですの!
 九尾の大狐が!
 そっちがその気なら……!

 バリッ!
 世界が割れる。

 バリバリッ!
 幻影の九尾の狐が、憐れみを向けてくる。
 ……誰のせいだ!

 バリバリバリッ!
 呆れた顔に変わる九尾の狐。

「もみちゃん? もみじ! 目から血が!」

 ……泣くなですの!
 もう少しだけ待つですの……。

 バリンッ!
 割れたですの!
 驚愕する九尾の狐に噛み付き、怯ませる。
 もうお前要らねぇですの!
 晴彦も要らねぇですの!

「……。
 ……琥珀、指を出すですの」
「え?
 ……こう?」

 目の前に差し出された指を噛み、血を啜る。
 既に私と琥珀は、身体を重ねた間柄。
 更に血の契約を交わせば、幾ら雛菊と言えど……。

「……ざまあですの!
 やってやったですの!」
「もみちゃん?」

 不安そうな顔はやめろですの!
 絶対に私は琥珀の味方。
 そう決めたですの!

「琥珀。
 私とずっと一緒にいるですの……。
 私は琥珀の辛い時も苦しい時も、もちろん嬉しい時も。
 ずっと隣にいてやるですの。
 晴彦も雛菊も放っておいて、私と一緒に生きるですの」
「もみちゃん。
 それじゃあ、まるで結婚式だよ?」

 あんな自己中達とは縁を切るですの。
 そんな暇があったら、琥珀と睦合っている方がずっと価値ある行いですの。

「男がいない世の中ですの。
 女同士で結婚して何が悪いですの?」
「……そっか。
 私の運命の相手は……」

 泣き笑いのような琥珀へ、反逆の声を掛ける。
 女ばかりのディストピアで、男を無視することの何が悪いですの。

「それで答……」

 琥珀に同意を求めようとした口は、彼女の唇に塞がれた。
 ……幸せですの。

「……。
 不束者ですが、よろしくお願いいたします」

 ズキッ!
 
 愛する人の最高の笑顔に、何故か一瞬心が悲鳴を上げた気がしたですの。
 けれど、きっと気のせいですの。
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