廻って異世界

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地上での生活

第77話 新しい拠点

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 大災害により、その寿命を終えたとある学校。
 いわゆるスポーツ強豪校で、外界から隔離するために山を切り開いた立地は、運搬能力の下がった社会では、膨大なコストが掛かる。
 加えて、生徒の多くは魔素適正の低い男子ばかりだったのだ。
 生徒が激減しては、運営頓挫もしょうがないだろう。

 そんな廃墟となるはずだった場所は、ある目的に合致する物件だった。
 端的に言うなら、迷宮へ挑む人間を育成する学校だ。

 法人が払い下げた敷地及び校舎は、そのまま学校として利用され、使用予定のないグランドには、コテージのような独立寮が建設される。

「……この学校に、来年4月の第2期生として入学をしていただきたい、と思っております」

 そう言って頭を下げるのは、内閣府総理秘書官の1人で、鈴木さんと言う方。
 秘書と言っても、マネージャーと言うよりは、官僚そのもので、総理大臣の実務作業などを補佐する人である。
 ……ぶっちゃけお偉いさんなわけで、本来なら俺なんて顔見知りになることもない相手だ。
 そんな人に頭を下られている。
 と言うのに、

「……まあ中々の施設みたいね?
 検討してあげるわ」

 上質なソファーにふんぞり返る雛菊。
 相変わらず、堂々としたものである。
 まあ、下手すると複数の国を相手に、1人で戦争できるようなヤツだ。
 人間の、それも1国の総理秘書官に下げる頭は持っていないのだろう。

「ご検討ですか……」
「ええ。
 色々と懸念がある以上、確約できないわ」

 落胆の声を出す鈴木さんだが、雛菊のそれは拒否と言うよりも、注文を付けるものだろうな……。
 だから、

「出来るだけ、ご要望にはお応えする準備がありますが……」

 そんなことを言えばろくなことにならないのに……。

「そうね……。
 まず、私達に国籍を準備して貰おうかしら?
 ついでにハルの偽造国籍も」

 案の定、学校入学の勧誘で戸籍偽造の要請を受ける羽目になっている。
 ほら、雛菊の得意顔に、目の前の鈴木秘書官も困惑で固まってる。

「……あの、既に準備できてますよ?」
「あら……」

 意を決したような表情で、紡がれた言葉に、間抜けな顔になる雛菊。

「……学校へ入学するのに、戸籍なしでは不可能なので」

 ああ、秘書官さんの困惑は、当たり前のことを要求されたことで起きたのか……。

「よくそんなあっさりと偽造できたわね?」
「厳密には偽造ではありませんよ。
 現行状況では、迷宮内に入った人間は、国として認定死亡扱いにしていますので、晴彦さんは無戸籍状態になっていました。
 なので、家庭裁判所へ申し立てを行い、就籍届を提出するだけです。
 ……まあ、その申し立て成立が一般人には中々難しいのですが、国のバックアップがある状況ですので」

 正規の手続きが行われているのかな?
 正直、よく分からない。

「現在の晴彦さんは死亡したと推定されている'能義晴彦'の停止中の戸籍と、正式に就籍中の'美尾晴彦'の戸籍を保持しています」
「戸籍が2つあるんですか?
 それって犯罪じゃ……」

 たまに議員のスキャンダルで、やっていたような気がするんだ。

「いえ、問題ありませんよ。
 一時的に戸籍が複数ある状態は珍しくありません。
 問題となるのは日本と外国の国籍を重複している場合です。
 晴彦さんの戸籍は、どちらも日本国籍に属しますので、問題はありません。
 雛菊さん達については、就籍届のみですね」
「……ふーん。
 じゃあ、次よ!
 私とハルの婚姻関係を、事前に周知しておくこと!」

 つまらなそうにしつつ、次の要求に移る雛菊。
 学生結婚を周知って、学校のイメージを悪くするんじゃ……。

「願ってもない話です。
 むしろこちらからお願いしたいと思っておりました」
「え?
 そんなことして大丈夫なんですか?」

 逆にあっさりで驚くことになった。
 聞き返した俺に、

「別段問題はありませんよ。
 まず、お二人とも結婚可能年齢の18歳として、戸籍を準備しましたので、後は未成年後見人の許可があれば、結婚出来る状況ですね。
 お二人の未成年後見人は、山崎首相自らがなされますので、山崎首相の許可があれば結婚できるわけですが、既に許可済みとなっていますので、お二人の結婚に、後ろめたい事情は一切ありません」

 冷静に説明してくれる鈴木さん。
 まさか、総理大臣が血縁もない相手を後見してくれるなんて……。

「それは、そのうち挨拶に行かないとダメね?」

 さすがの雛菊も恩義を感じて……、

「被後見人とその後見人が挨拶を交わすなんて当然だものね?
 そこで、偶々経済情勢を話しても世間話だし……」

 いなかった。
 自然に交渉が出来ると喜んでいるだけだった。

「後は、そうね……」

 ……悔しそうな顔。
 さてはこいつ、難癖付けて入学を撤回させたかったな。

「……入学する生徒の情報は分かるのかしら?
 男女比とか、どういう人が多いのかとか」

 挙げ句、生徒の質問をし始めたよ。
 そんな質問をしてどうするんだ?
 ……あれ?

「何故、そのような情報を?」

 鈴木さんの嫌そうな顔?
 何故、そんな情報を訊かれることを嫌がる?
 雛菊が訊いたのも不思議な……。

「そうね?
 婚姻関係を公表することに、メリットがあるのっておかしいでしょ?」
「……無用な混乱を避けられるので、それが理由ではおかしいでしょうか?」

 ……雛菊の疑問はおかしくない。
 秘書官さんの回答も。
 しかし、鈴木さんの態度がおかしい。

「……そうね。
 おかしくないかもしれないわ。
 じゃあ、訊かないことにするわね?」
「……え?」

 何故、撤回する?
 違和感がすごいのに、雛菊も鈴木さんも。

「……俺が訊きたいんだけど?」

 だから、俺が問う。
 ……当然だよな?

「……部署が異なるので、正確な数は把握できていませんが、今年入学予定の1期生は100名ほどの入学が、予定されています。
 そのうち、男性は15人ほどです」
「……そうなんですか。
 まあ、男女比を考えると、そんなものなんですかね?」

 ……普通だった。
 男15人なら、女は85人。
 現代日本の男女比が1対8くらいだから、平均に近い数字だ。
 ……ダメだ。
 俺の頭じゃ、雛菊達の意図を読み取れない。

「……そうね。
 私的には思ったより、男性が少ないと思ったけどね?」

 雛菊が私見を述べるが、俺へのヒントと言う訳じゃなさそう。
 どうにも、鈴木さんと雛菊で利害が一致したような気配がある。

「近々で、山崎さんへの顔合わせを調整して貰えるかしら?
 こっちからお宅へ赴く要領で問題ないわ」
「……もちろんです」

 俺の困惑は、完全無視で話を進める雛菊。
 鈴木さんは、一応こちらへ視線を投げてくれてるけど、雛菊への話を優先している。
 ……まあ良いんだけどね。
 雛菊の方が、俺よりも頭が回るし、秘雛菊が俺を裏切ることはないのだから……。
 裏切ることは、絶対にないのだから……。

「……それと本題の話。
 入学については了解と伝えてくれるかしら?」
「……よろしいので?」

 すごくこっちをガン見してくるけど、雛菊が納得しているなら、否定はない。
 そんな俺を見て、何故か眉を潜めている雛菊が、チラリと見えた……?
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