廻って異世界

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地上での生活

第97話 浜名優歌の困惑

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「ミコトさん!
 晴彦くんに何をしたんですか?!」

 ……ついでに私にも。
 妙に、眞緒と晴彦くんのキスシーンが頭から離れない。
 眞緒と代わりたいとすら、思ってしまっている。

「あら?
 優歌ちゃんには、効果がなかったようよ?」

 隣室では、クスクスと笑う掌に乗るサイズの小さな狐と、

「少し薄かったかもしれないわね?
 手持ちが少なかったし……」

 普通に会話しているミコトがいた。

「……その狐は?」

 予想は付いている。
 しかし、受け入れたくない優歌は、念のため確認をした。

「私よ? 雛菊。
 スマホじゃまどろっこしいから、ハルのお守りを触媒に、分身を用意したの」
「……やっぱり。
 良いんですか?
 向こうの部屋がすごいことになってますけど?」

 止める気なら、とっくに動いているだろうから、その気はないのだろうが……。

「さすが、サニーって感じよね?
 ハルに効果的な媚薬をあんな短時間で、調合できるんだから……」
「媚薬なんて大袈裟なものじゃないわ。
 魔素吸収効率を上げる薬と興奮剤、数種類のサプリの混ぜ物よ。
 お香の方には、度数の高いお酒に食人花の蜜を混ぜてたものを用意したけど。
 これは異性への性欲って言うよりも、周囲のヒト型のモノが異常に魅力的に見えるだけ」

 肩を竦めるミコトだが、優歌の方は冷や汗が止まらない。
 隣から聞こえてくるサバトのような声。
 脱出が遅れれば、あの中に自分も巻き込まれていたわけだから……。

「けど、良かったの?
 今、あそこにいる娘達が、サニーのところで満足に動かせる人員の全てでしょ?
 全員妊娠とか笑えないわよ?
 私らと違って、人は妊娠中の活動が結構制限されるわよ?」
「大丈夫よ。
 今回孕むのは、シャイ子とスタ子だけだから……。
 そういえば、眞緒は良かったの?
 本人が辞退してたから、弄っていないけど?」

 小狐、雛菊の問い掛けに名指しで答えるミコト。
 ついでとばかりに、眞緒のことを訊ねている様子に、

「あの?
 まるで、計画的なもののように聞こえるんですけど?」

 頭が痛いとばかりの顔で、ツッコミを入れる優歌。
 人外達の会話には、まるでサラブレッドの種付けのような平淡さを感じてならないのだが、

「そうよ?
 ただでさえ大江百鬼は、滅亡の危機にあるの。
 うちの連中は、遺伝子的に魔素適性が低い子供ばかり。
 普通の男が相手だと、女の子しか増えない可能性が高いのよ?
 是が非でも晴彦の子供は確保する。
 出来れば男の子をね?」
「サニーにとって、大江の里の人間はそれだけ思い入れがあると言うことよ。
 人間にもいるでしょ?
 愛犬や愛猫の子供を、何代も維持しようとする人。
 それと同じような感覚なのよ」 

 ミコトの言葉を引き継ぐ雛菊。
 その言葉は、思い当たる節もあった。
 それこそ、眞緒が以前愚痴っていたことがあったのだ。
 掛かり付けの獣医に、ペットのお見合い相手を探していると話す飼い主がいると。
 長命種で人を庇護する存在がいるなら、その飼い主のようになっても不思議ではないのかもしれない。

「優歌ちゃんだって、気持ちは分かるでしょ?
 父親と弟のために、形振り構っていられない状況だものね?」
「……やっぱり調べたんですね?」

 同類扱いされたことに立腹し、それを誤魔化すためにプライバシー侵害を建前として、小狐を睨み付ける。 

「もちろん。
 それでね?
 助言があるけど。
 ……聞く?」
「止めといた方が良いよ?
 タマちゃんのこの聞き方は、絶対に禄でも忠告だから……」

 特に痛痒もない雛菊は、半笑いのように唇の端を上げて、優歌に訊ねるが、ミコトがそれを遮るように忠告する。

「失礼ね?
 私これでも平和主義なのよ?」
「自分と晴彦の周りだけのね?
 そのために周囲に被害が出ても、欠片ほどの罪悪感もないでしょ?」

 心外だと怒る雛菊だが、ミコトは手を緩めることはない。
 共に友人だと公言するが、彼女らの友人は結局、利害が一致すれば共闘することもある知り合いのレベルである。

「……まあ良いわ。
 どうせ、そのうち気付くでしょうから……。
 今聞くか、将来気付くかの違いでしかないわ」

 不毛な議論だとばかりに、ミコトの指摘を切り捨てた雛菊が、優歌への言葉を続ける。
 しかし、

「相当聞かせたいようね?
 今訊ねられることが、都合が良いと言うことかしら?」

 ミコトはそれを許さない。
 雛菊の利益が、ミコトの利益に繋がる保証がないのだ。
 ある意味当然の反応だろう。

「……どうとでも?
 本当に聞かせたいなら、サニーの前では喋らないわ。
 そう思わない?」
「……」

 雛菊の言葉に黙考する優歌。
 確かに、今の状況自体が偶然の産物と言える。
 この2人は優歌も向こうの惨劇に巻き込まれると、考えていたはずなのだ。
 ならば、

「……教えてください」

 真剣な眼で、雛菊を睨んで答える優歌に、呆れたと言わんばかりに、頭を押さえるミコト。

「良いのね?」
「……はい」

 最後通牒に頷く優歌。
 対する狐は穏やかな笑顔のままに、

「あなたは、魔素と相性が良くない。
 サニーの所の娘達とさほど変わらないレベル。
 まあ、これまで魔素が少ない世界だったから、それが普通とも言えるけどね?
 そして、魔素との相性は遺伝する。
 将来、子供が欲しいなら、ハルと懇ろになることをオススメするわ」
「……」

 と、告げる。
 勿体ぶった割りに、真っ当で普通の忠告。
 ……続きがあるとばかりに、身構え続ける優歌だが、狐がそれ以上を語る素振りがない。

「……それだけですか?」
「そうよ?
 結構重要なことでしょ?
 あえて付け加えるなら、ハル以外との間に出来た子供だと、将来困窮するわ。
 今後、ダンジョンへ潜る人間が増えてくるけど、ダンジョンの中は地上よりも魔素濃度が高いもの。
 適性が低い人間は、入るだけでも消耗するわ」

 ついでと称して、晴彦以外との婚姻についても言及するが、

「……そうなんですね」
「……」

 響かない優歌の様子に、目を見開いて、愕然とする雛菊だが、

「コホンッ!
 分かったなら良いわ。
 どう?
 後悔したでしょ?
 何も知らないまま、今回の騒動に巻き込まれていた方が幸せだったと。
 今後、優歌ちゃんはハルのことを、利益のために必要とする相手として、見ることになるわ!」
「……まあ、将来子供は欲しいと思いますし、晴彦くんのことは、嫌いじゃないですけど?」

 咳を1つして軌道修正した雛菊。
 それに気付かない優歌は困惑するだけで、いまいち響かない。

「ダンジョンへの言及?
 優歌の家族はひょっとして?」

 1人呟くミコトの言葉。
 これが優歌に届いていれば、違う未来もあったかもしれないが……。
 それはあくまでも、もしかしたらの話。
 優歌は、

「そうそう、優歌ちゃん?
 少し良いかしら?」
「はい?
 ……あれ?」

 雛菊と向き合ったと思ったら、そのまま崩れ落ち、……眠り始めた。

「これでハルが起きた時に、変なことを口走ることには、ならないでしょ?
 この部屋のベッドにでも寝かせておいて?」
「……助かるわ。
 あの話だけど、優歌の家族は……」

 催眠術で寝かされたらしい優歌を、担ぎ上げつつも、雛菊へ話題を振るミコト。

「父親と弟がダンジョン内へ連れ拐われてるわ。
 どうなったかは、予想できるでしょ?」
「……そうね。
 ここなら物理的に、遠いから直ぐに仇のダンジョンへは向かえないわね?
 そして、数日の間に冷静になれば、優歌が考えそうなことは……」

 雛菊が濁した言葉だが、ミコトには正確に伝わっている。
 同時に雛菊の狙いも、

「形振り構わず、ハルへ協力を願い出たんじゃないかしら?
 そのためのヒントは、結構な頻度で出していたし、その時は協力してくれるでしょ?」
「この子のこと、気に入ってるのね?
 自暴自棄にならないように、タイミングを見計らうなんて意外だわ」

 ハルと懇ろになるだろう。
 そのタイミングで排卵誘発を行えば、妊娠によりダンジョンへの突撃は無理になる。
 だが、雛菊がそこまで肩入れしたのが、ミコトには意外だった。

「中々良い子なのよ」
「……そう」

 クスクスと笑う雛菊の宿った狐。
 それは、雛菊に取って都合の良い子なのか、或いは晴彦の精神安定に良い子なのか、としばらく考えることになるミコトであった。
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