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地上での生活
第106話 お刺身定食
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「わざわざ、松下の辺りを切り開こうだなんて、酔狂だね?
この辺も結構空き家だらけだってのにさ」
そう言って笑うのは、どっさりと刺身が乗った皿を、テーブル中央に置く割烹着の年配女性。
「大所帯なので、ご迷惑をお掛けするわけにいかないんですよ」
「そうかい?
賑やかになって良いと思うけどね?」
普段の下っ端口調と異なり、丁寧に返すシャイ子さんへ、大所帯でも歓迎だと笑ってくれる店主さん。
その言葉に周囲を見渡すが、昼をだいぶ過ぎた時間とは思えないほど、ごった返している。
「他のテーブルにいるのは、客じゃないんよ。
此処で生活してる連中だよ」
「この食堂で?」
見た感じは老いも若いも引っ括めて、十数人はいそうだが。
「此処は、元々旅館でね?
観光客激減で、廃業した際に譲り受けて、近所の人間達、皆で共同生活してるのさ」
「……共同生活ですか?」
「大災害からこっち、こんな田舎じゃ、金があっても大して役に立たないんだよ。
そうなると、助け合って生きてくしかないだろ?
漁に出るやつと家事をするやつ。
そして、街まで買い出しに行くやつ
分業して、なんとか遣り繰りしてんのさ」
なるほど、此処は二見松下から更に南下した鳥羽水族館の近所。
津や四日市まで、高速を飛ばしても1時間は掛かる。
燃料費もバカにならないだろう。
だから、個々で生活するんじゃなくて、共同生活でリソースを確保しているのか……。
「そうなると、この昼食代は……」
「ああ、お金で良いよ。
さすがにガソリンや機械は造れないからね。
そういうのを買うために保管しておくからさ」
円で支払うのを躊躇いそうになったが、問題はないと言われて助かった。
現状、俺達から提供できるものはないから……。
助かったけど……。
……ヤバいな。
何がヤバいって、日本の田舎で日本円が外貨のようになっている点。
此処は三重県鳥羽市じゃない。
仮称鳥羽王国と言う独立国家に等しい。
今は日本への帰属意識があるけど、世代が交代すれば、その内、本当に独立国家みたいになるぞ?
「折角の新鮮なお刺身よ?
いただきましょう?」
戦慄している俺を、余所に刺身を食べ始めたミコト。
彼女が事態の厄介さに気付いていないとも思えない。
「……良いのか?」
小声で訊ねてみると、
「私達にどうこうできる問題じゃないでしょ?
お互いの領分を尊重するのが一番よ?」
あっさりと返される。
そんな態度で大丈夫だろうかと心配したが、
「お嬢ちゃん、小さいのにしっかりしてるね。
その通りだよ。
私らはこの街で長年生きてきた女達だ。
互いに気心が知れてるからね。
この近所に暮らすなら、私らのルールに従ってもらうことになるけど、お前さん達は違うんだってことだろう?」
「そうよ。
だから、お互いに別コミュニティーの交易相手として、やっていくつもり」
カラカラと笑う女将さんに、ミコトもにっこり微笑んで返す。
つまり、
「お互いに、相手を従属させる気はないと確認した……、ってことで良い?」
「そうよ。
無駄に争う気はないもの」
俺なりの解釈を確認すると、正解だと返された。
そして、
「助かるよ。
あのバカどもにも、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」
と言う意味深な言葉を呟く女将さん。
普通に捉えるなら、この鳥羽周辺には、俺達とこの食堂の人々の他に、コミュニティーが存在すると言うことになる。
「やっぱりいるのね?」
「まあね。
都会から疎開してきた連中。
もちろん、元々この辺出身だった者や、積極的にこちらのやり方を受け入れる人もいるけどね……。
お金を出すから、食料や労働力を提供しろって連中がいるよ」
ミコトの確認にため息をつく女将さん。
……起こるべくして起こる問題かもしれない。
お金を持って疎開してきた連中にとって、お金の価値は絶対なのだろう。
ましてや、物価の高い都会で生活していたのであれば、所持していた現金も多いはずだし。
だが、孤立気味のコミュニティーでは、お金の価値は絶対じゃない。
極端な話、使用できる場所がなければ、お金はただの紙や金属に過ぎないのだ。
そして、この鳥羽では辛うじて状況を維持しているだけで、お金の価値は駄々下がりしている。
「……もうすぐトラブルが起きるわね。
さっさと食べるわよ」
「そんな漫画やゲームじゃあるまいし……。
襲撃なんて……」
早く食べろとせっつき出すミコトに、呆れる俺。
確かに、俺も一瞬絡まれる想像をした。
ほら、ゲームとかだと主人公の行動に、イベントが連動するからさ。
けど、現実がそんなわけ……。
「何を言ってるのよ。
話題の連中は、間違いなく此処を監視しているわよ?
そこへミニバンでやってきた人間。
どう考えても襲撃があるわ」
「え?」
「私達が、女将さん達に協力すれば、女将さんの勢力の頭数が増えるのよ?
逆に、相手側に協力すれば、向こうの戦力が増す。
ならば、相手側は引き抜き工作をしに来るのは必定と言うこと」
漫画やゲームじゃなかった。
現実的な思考の結果、襲撃があると言う推察に行き着いていたわけだ。
今の状況、人の数がそのまま力になりかねない。
「だから、早めにここを離れるの。
運が良ければ、私達が第3勢力となり状況がむしろ安定するわ」
三国志みたいな話だな。
規模はすごく小さいけど……。
「そんなシビアにならんでも大丈夫だよ?
連中は、金しかない。
元々、私らに手も足も出ないのだから、変な心配しなくてもここを襲うはずはないさ」
ミコトの説明を笑い飛ばす女将さん。
まあ、日頃から肉体労働を行っているだろう漁師や海女、農家の方もみえるだろうから、身体能力は女将さん達が上だろう。
魔法の熟度の問題もあるかもしれないが、今の所対応できているようだ。
けれども、
「それなら良いのだけど……」
口では安心した風を装っているが、視線で早く食べろとせっついているミコト。
ミコトなりに考えがあるのだろうから、それに従うことにする。
……うん。白身の刺身ばかりだけど、かなり旨い。
いざこざ、関係なく箸が進むのも事実だった。
この辺も結構空き家だらけだってのにさ」
そう言って笑うのは、どっさりと刺身が乗った皿を、テーブル中央に置く割烹着の年配女性。
「大所帯なので、ご迷惑をお掛けするわけにいかないんですよ」
「そうかい?
賑やかになって良いと思うけどね?」
普段の下っ端口調と異なり、丁寧に返すシャイ子さんへ、大所帯でも歓迎だと笑ってくれる店主さん。
その言葉に周囲を見渡すが、昼をだいぶ過ぎた時間とは思えないほど、ごった返している。
「他のテーブルにいるのは、客じゃないんよ。
此処で生活してる連中だよ」
「この食堂で?」
見た感じは老いも若いも引っ括めて、十数人はいそうだが。
「此処は、元々旅館でね?
観光客激減で、廃業した際に譲り受けて、近所の人間達、皆で共同生活してるのさ」
「……共同生活ですか?」
「大災害からこっち、こんな田舎じゃ、金があっても大して役に立たないんだよ。
そうなると、助け合って生きてくしかないだろ?
漁に出るやつと家事をするやつ。
そして、街まで買い出しに行くやつ
分業して、なんとか遣り繰りしてんのさ」
なるほど、此処は二見松下から更に南下した鳥羽水族館の近所。
津や四日市まで、高速を飛ばしても1時間は掛かる。
燃料費もバカにならないだろう。
だから、個々で生活するんじゃなくて、共同生活でリソースを確保しているのか……。
「そうなると、この昼食代は……」
「ああ、お金で良いよ。
さすがにガソリンや機械は造れないからね。
そういうのを買うために保管しておくからさ」
円で支払うのを躊躇いそうになったが、問題はないと言われて助かった。
現状、俺達から提供できるものはないから……。
助かったけど……。
……ヤバいな。
何がヤバいって、日本の田舎で日本円が外貨のようになっている点。
此処は三重県鳥羽市じゃない。
仮称鳥羽王国と言う独立国家に等しい。
今は日本への帰属意識があるけど、世代が交代すれば、その内、本当に独立国家みたいになるぞ?
「折角の新鮮なお刺身よ?
いただきましょう?」
戦慄している俺を、余所に刺身を食べ始めたミコト。
彼女が事態の厄介さに気付いていないとも思えない。
「……良いのか?」
小声で訊ねてみると、
「私達にどうこうできる問題じゃないでしょ?
お互いの領分を尊重するのが一番よ?」
あっさりと返される。
そんな態度で大丈夫だろうかと心配したが、
「お嬢ちゃん、小さいのにしっかりしてるね。
その通りだよ。
私らはこの街で長年生きてきた女達だ。
互いに気心が知れてるからね。
この近所に暮らすなら、私らのルールに従ってもらうことになるけど、お前さん達は違うんだってことだろう?」
「そうよ。
だから、お互いに別コミュニティーの交易相手として、やっていくつもり」
カラカラと笑う女将さんに、ミコトもにっこり微笑んで返す。
つまり、
「お互いに、相手を従属させる気はないと確認した……、ってことで良い?」
「そうよ。
無駄に争う気はないもの」
俺なりの解釈を確認すると、正解だと返された。
そして、
「助かるよ。
あのバカどもにも、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」
と言う意味深な言葉を呟く女将さん。
普通に捉えるなら、この鳥羽周辺には、俺達とこの食堂の人々の他に、コミュニティーが存在すると言うことになる。
「やっぱりいるのね?」
「まあね。
都会から疎開してきた連中。
もちろん、元々この辺出身だった者や、積極的にこちらのやり方を受け入れる人もいるけどね……。
お金を出すから、食料や労働力を提供しろって連中がいるよ」
ミコトの確認にため息をつく女将さん。
……起こるべくして起こる問題かもしれない。
お金を持って疎開してきた連中にとって、お金の価値は絶対なのだろう。
ましてや、物価の高い都会で生活していたのであれば、所持していた現金も多いはずだし。
だが、孤立気味のコミュニティーでは、お金の価値は絶対じゃない。
極端な話、使用できる場所がなければ、お金はただの紙や金属に過ぎないのだ。
そして、この鳥羽では辛うじて状況を維持しているだけで、お金の価値は駄々下がりしている。
「……もうすぐトラブルが起きるわね。
さっさと食べるわよ」
「そんな漫画やゲームじゃあるまいし……。
襲撃なんて……」
早く食べろとせっつき出すミコトに、呆れる俺。
確かに、俺も一瞬絡まれる想像をした。
ほら、ゲームとかだと主人公の行動に、イベントが連動するからさ。
けど、現実がそんなわけ……。
「何を言ってるのよ。
話題の連中は、間違いなく此処を監視しているわよ?
そこへミニバンでやってきた人間。
どう考えても襲撃があるわ」
「え?」
「私達が、女将さん達に協力すれば、女将さんの勢力の頭数が増えるのよ?
逆に、相手側に協力すれば、向こうの戦力が増す。
ならば、相手側は引き抜き工作をしに来るのは必定と言うこと」
漫画やゲームじゃなかった。
現実的な思考の結果、襲撃があると言う推察に行き着いていたわけだ。
今の状況、人の数がそのまま力になりかねない。
「だから、早めにここを離れるの。
運が良ければ、私達が第3勢力となり状況がむしろ安定するわ」
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規模はすごく小さいけど……。
「そんなシビアにならんでも大丈夫だよ?
連中は、金しかない。
元々、私らに手も足も出ないのだから、変な心配しなくてもここを襲うはずはないさ」
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まあ、日頃から肉体労働を行っているだろう漁師や海女、農家の方もみえるだろうから、身体能力は女将さん達が上だろう。
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けれども、
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