廻って異世界

フォウ

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地上での生活

第120話 気が付くと……

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 ピッピッピッ! とありきたりな電子音で、目が覚めた。

「酷いな。これ……」

 そして、惨状に驚く俺。
 両手首に残る破れた布は、長袖シャツの残骸。
 代わりに、俺にくっついているのは、一糸まとわぬ雛菊。
 ……満足そうに寝息を立てている。
 雛菊を起こさぬように、電子音を止めようと発信源を探す。
 上半身を動かして見渡すと、ベッドサイドの青い布、もとい俺のジーンズが発生源だと判明。

「スマホが鳴ってるのか……。
 って! 酷いなこれ!」

 スマホが入っているであろう、ポケットを漁ろうとしたら、ジーンズが開きになってた。
 鋭利な刃物で切り裂かれて、まるで修繕不能な残骸だ。
 スマホらしい膨らみを探っていると、横から伸びてきた巨大なナメクジが、青い残骸から器用にスマホを取り出して、電子音を止める。
 ……ナメクジじゃないな。
 粘液をまとった尻尾だわ。

「ウグッ!」

 何かに思い至ると、同時に下半身に血が集まるような感覚を覚える。

『ほぉら、気持ち良いでしょ?』

 と脳内に響くのは、昨日聞いた甘い囁きの声。
 同時に思い出した、もさもさの尻尾で、責められた感覚のせいだろう……。

「シャ、シャワーを浴びよう!」

 雛菊を引き剥がして、バスルームへ向かうことにした。
 幸いなことに、先程スマホを止めるために身動ぎしたせいか、少しばかり拘束も緩い。
 腕を外し、身を捻って抜け出す。

 そして、雛菊を起こさないように、忍び足でバスルームへ……。
 邪魔なかつて衣服だった残骸は、近くのテーブルへ。

 出来るだけ音を立てないように、両手を沿えてゆっくり扉を閉める。
 カチリッと、鍵を掛けて安堵。
 そして、降り注ぐ熱いシャワーを浴びて、やっと一息。
 
「あそこにいると、第2ラウンドが始まりかねない。
 まさかホテルのスウィートで、寝ているライオンの檻から脱出する気分を味わう羽目になるなんて……」
「あらあら、ライオンなんて心外だわ。
 もう少しお勉強が必要みたいね?」

 頭からシャワーを浴びながら、呟く一言に被せられる声。
 バスルームの扉は間違いなく閉めてきた。
 鍵も掛けたし、いくらシャワーの音が響いていると言っても、扉を開ける音は気付くはず。
 ドクドクと音を立てる心音。
 何故かホラーゲームが始まったみたいな感じである。

「どうやって此処へ……」
「知らなかった?
 人間の鍵って、私達には通用しないのよ?」

 俺が絞り出した声を、自分への問い掛けと考えたらしい雛菊。
 あっさりと、絶望的な答えを返してくれた。
 続けて、

「無防備に寝ている私がいるのに、手を出してこない悪い子にはお仕置きが必要よ?」

 等と酷いことを言う雛菊。
 どうやら狸寝入りだったらしい。

「そこは紳士的な対応を誉めて欲しいんだけど?」

 もちろん、良識的な対応を主張したが、

「据え膳食わぬは、って知ってる?」

 昔の諺を理由にされた。
 そんな言葉は、
 
「聞いたことがある気もするけど……。
 時代錯誤も甚だしいと思うよ?」

 と返す。
 あれは確か、男の恥とか武士の恥とかの派生があったはずで、つまり江戸時代の諺だろ?
 とにかく、今時じゃない。
 そう思って返したが、

「ハル君、私をお婆ちゃん扱いするのね!
 酷いわ!」

 雛菊がむくれたような顔で、そっぽを向く。

「無茶苦茶だよ……」

 子供染みた行為に、疲れたような声しか出てこない俺だった。
 しかし、

「無茶も通せば道理が引っ込むって、言うわよね?
 そういうことだから……」
「え?」
「覚悟しなさいな?」

 そういうと、いつの間にか溜められていた湯船に背中からダイブする雛菊。
 もちろん、がっしり掴んでいる俺も巻き込まれるわけであり……。
 そのまま温かい湯船に浸かることになる。
 そのまま、器用に身体を捻った雛菊は俺の上に腰掛けて、こちらを見詰めている状態。

「さあ、第2ラウンドを始めましょう?」

 妖艶な流し目で、俺の唇を塞ぐ雛菊。
 これ、下手すると死ぬんじゃないか?
 と、危惧が頭を過るが、それでも良いかと身を委ねようとする俺。

 ……毒され始めている気がするけど。
 多分、大丈夫……。
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